脳出血

頭蓋内の出血は総称して一般的に脳出血または脳溢血と呼ばれ、脳出血は脳内への出血と脳周囲への出血に分類されます。以前は、脳卒中といえば脳出血というぐらい、脳卒中の中ではいちばん患者数が多かったのですが、現在では脳梗塞の方が多くなっています。しかし死亡率が低下した反面、半身不全(片麻痺)や言語障害(失語症)などの重篤な後遺症を残してリハビリテーションや介助が必要となる率が高いという大きな問題があります。脳出血には大きく分けて脳内出血とクモ膜下出血があります。この2つの病気は全く異なる病気ですので、分けて記述します。
 脳内出血は動脈硬化などが原因で脳の血管が切れて、脳の中に血の塊(血腫)を作るものです。脳の深部に行く血管(穿通枝)に動脈硬化性の変性が起こり、もろくなった血管が切れて出血すると考えられています。大脳深部の「基底核」「視床」と呼ばれる部分に起こる場合が80%です。それ以外に小脳や脳幹に起こることもあります。血腫は短時間に増大し、ひとまず出血は止まります。しかし、血腫が大きくなればなるほど、脳組織を破壊して脳の働きを奪います。特に、基底核と視床の間の狭い範囲に手足を動かす重要な神経線維(錐体路)や感覚神経の繊維が走っていますので、血腫によってこの錐体路や感覚路が圧迫されたり、破壊されたりすると半身の麻痺(半身不随)や半身の感覚障害が起こります。血腫が大きくなると脳がむくむ脳浮腫により頭蓋骨の中の圧力が高くなって脳へのダメージがさらに大きくり脳ヘルニアを起こして、最悪の場合は死亡してしまいます。脳内出血は以前は非常に死亡率の高い病気でした。脳出血が起こる脳の場所は、高血圧が原因の場合は脳の深い部分です。高血圧以外の原因の場合は、脳の表面の部分に起こることが多いです。高血圧により起こる脳出血を高血圧性脳出血といいます。高血圧により起こる脳出血の割合は、脳出血全体の 70%を占めます最近は高血圧の早期治療が広まり、また脳内出血を起こしても専門医での治療がすぐ受けられるようになったため、死亡率は減りました。動脈硬化は、高血圧が続けば続くほど悪化していきます。また、細動脈と呼ばれる全身の最も細い動脈に発生しやすいです。高齢になるごとに進行しやすくなるので、中高年の方に多く見られます。高血圧により脳の動脈が動脈硬化になると、さらに高い血圧がもろくなった動脈に圧力を加えて破裂させてしまい、脳出血になってしまいます。
 脳出血の前兆・前触れは、はっきりとした症状として現れることがなく、突然発症することが多いです。まれにですが、一過性脳虚血発作(TIA)と同じ症状が脳出血の前兆・前触れとして現れることがあります。また、「頭がズキズキする」、「目がみえにくくなる」、などの症状を感じることもありますが、ほとんどの場合は、前兆がなく突然発症するのが脳出血です。発作は日中活動時に多く、頭痛や嘔吐を伴います。片麻痺(かたまひ)などの脳障害の徴候は急速に(多くは数時間以内)悪化し、当初、意識障害がなくても時間が経過するうちに意識障害が出現し、急速に昏睡になることもあります。出血の部位により症状は異なりますが、片麻痺、半側感覚障害、言語障害、小脳性運動失調、四肢麻痺、けいれんなどが出現します。出血部位では、被殻出血が最も多く(約50%)、次いで視床出血(20~30%)、小脳出血、橋出血、皮質下出血の順となります。 
 高血圧性脳出血は高血圧と動脈硬化が起こる年齢、つまり50歳台から増えてきます。動脈硬化により脳の細い血管に変化が起こりそこから出血するものと考えられています。高血圧性脳出血の起こる場所はほぼ決まっています。大脳の中の方にある被殻に出血するものが最も多く全体の60%を占めます。次に多いのが視床出血で15%、小脳出血が10%、脳幹部の橋の出血が5-10%です。その他に大脳半球の表面に近い部分に出血する脳葉出血がありますが、これはAVMや脳動脈瘤の破裂、その他の血管奇形を伴うことが多く、また老人のアミロイド血管障害という病気のときもあり、高血圧性とは一概にいえません。脳動静脈奇形(AVM)は一種の血管の奇形です。普通動脈から毛細血管となり、そこで、酸素や栄養を組織に与え変わりに不要な老廃物を血液に取り込んで、静脈となり、心臓へ戻ります。AVMは動脈が異常な血管の塊を通って直接静脈と繋がっています。AVMは普通は無症状ですが、けいれんを起こして分かる例があります。このAVMが出血すると脳内出血やくも膜下出血を起こします。AVMの出血は若い人に多く、20-40歳台で発症しますから、若い人の脳出血とくに脳葉出血はAVMを疑います。
脳出血は一般に頭痛と嘔吐で発症します。その他の症状は出血が起こった部位によって違います。ここでは急性期の症状を書きます。
 被殻出血(水色の部分:最も多いタイプの出血。少量の出血の場合麻痺なども出ないため気づかれないこともある)では出血と反対側の手足が麻痺し、感覚も障害されます。被殻のみの小さな出血では本来麻痺は起こりません。殆どの場合被殻から少し外側にある内包へ出血し、その部分の障害で運動麻痺と感覚障害がでます。出血が大きいと、顔と両目が出血した側(手足の麻痺が左なら右側)へ向いて自分では治せない状態になり、意識障害が進んできます。右利きの人は言葉を理解してしゃべる機能が左の脳にありますから、左の脳出血が起こると、利き手の右手の麻痺だけでなく言語障害(失語)が起こり、言葉がしゃべれなくなることがあります。
 視床出血(黄色の部分:これも多く、感覚中枢に起こる出血なのであとで半身のしびれなどの後遺症を残すことが多い)では運動麻痺も起こりますが、感覚障害が強く出ます。慢性期になって出血と反対側の手や足が非常に痛くなる場合があります。これは視床痛といい、鎮痛薬が効きません。この場合定位脳手術といって特殊な手術を行う場合があります。それ以外に視床出血では左右の目の位置がおかしくなります、寄り目になったり、両目が下に向いて動かなくなったりします。左側の視床出血では言葉もしゃべれなくなることがあります。高齢者に多い病気で、寝たきりの原因となり、痴呆にもなり易い病気です。皮質下出血(緑色の部分)は比較的まれですが、単純な高血圧性でなく何か原因となる病気が隠れていることも多いです。
 小脳出血は突発する頭痛、嘔吐、めまいが起こり、立ち上がるとふらふらして歩けません。小脳出血のめまいは非常に強いもので、ずっと続きます。最初のうちは意識障害はありませんが徐々に意識障害が起こり、呼吸状態が悪くなってきます。小脳出血の場合は早いうちに手術すると改善しますから、呼吸障害がひどくならないうちに手術することが必要です。
 橋出血では重症例が多く出血の最初から意識障害、呼吸障害、四肢麻痺(両手足が動かなくなる)が起こります。目も固定し、上下にずれたりして見るからに異常です。また瞳孔(黒目の真中)が非常に小さくなります。瞳孔の大きさは脳の病気の時には非常に重要で、意識障害で、瞳孔が5mm以上に開き、光を入れても縮まない場合は 危篤状態です。橋出血は以前はすべて重症と考えられていましたが、症状が軽いものでCTやMRIでみると小さな橋出血が見つかる場合が増えてきました。
 脳出血は突然起こり、頭痛もひどく、症状も強いですから殆どの場合救急車で病院に運ばれてきます。診断は症状から比較的容易ですが、最終的にはCTが有用です。MRIは急性期には専門家が見ないと脳出血か脳梗塞が 判定しづらいことがあります。脳出血の重症度は意識レベル、CT上の血腫の広がり、血腫の量で判定します。意識レベルは重症例ではどんなに刺激をしても目を開けない状態となり、昏睡状態となります。
 脳内出血は突然起こり、約半数の患者はひどい頭痛が始まります。筋力低下、麻痺、しびれ、失語、視力障害、錯乱などの神経学的症状が現れて着実に悪化していきます。出血範囲が拡大すると、症状も悪化します。吐き気、嘔吐、けいれん発作、意識消失などが多くみられ、これらは数秒から数分以内に起こります。脳内出血の診断は症状と診察結果に基づいて行われます。しかし、脳卒中が疑われるときには、脳出血と脳梗塞を見分けるためにCT検査やMRI検査を実施するのが通常です。またCTやMRIの画像から、脳組織の損傷範囲や、脳の他の領域で圧が上昇していないかどうかもわかります。脊椎穿刺は、ほとんど行われません。脳出血の患者のように、頭蓋内の圧力が上昇しているところへ脊椎穿刺を行うと、生命の危険がある脳ヘルニア(ヘルニア:脳の圧迫を参照)を起こすことがあるためです。
 当然ですが重症になればなるほど結果も悪くなります。家や職場で脳出血で人が倒れたらともかく呼吸の確保が大切です。ネクタイや首の周りをゆるくして、お腹のベルトも緩めます。脳出血では嘔吐することが多いので、嘔吐物が喉に詰まって窒息する場合や、肺の中に入って誤嚥性肺炎をおこします。これを予防するためには身体を横に向けます。そして口の中に詰まっているものを取り除きます。以前は脳卒中の人は動かしてはいけないといわれていましたが、現在はともかくすぐに病院へ運ぶことを考えて下さい。