食道癌

 食道癌は症状が出にくく非常に予後の悪い疾患です。食道はのど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ約25cm、太さ2~3cm、厚さ4mmの臓器です。大部分が胸部にあり、一部(約5cm)は首にあり一部(約2cm)は腹部にあります。食道癌は組織学的には扁平上皮癌といわれるもので全体の93%以上を占めます。腺癌は少ないのです。しかしアメリカでは最近扁平上皮癌の割合が低下し現在では約半数を食道胃接合部近傍の腺癌が占めるとされています。これは禁煙による発癌発症予防効果が扁平上皮癌で高いためといわれています。つまり食道癌の発症リスクは喫煙と飲酒が大きな要素を占めており、次いで熱いものを食べる、辛いものを食べる、焦げたものを食べるなどが挙げられます。初期は全く症状がなく少し進行すると食道違和感などの不定愁訴に近いものしか症状がなく、またリンパ節転移が多いこと、食道は他の消化管と違い漿膜を有していないため比較的周囲に浸潤しやすいことなどから進行が早く発見が遅れやすいのです。食道癌と診断された人はその時点で74%に嚥下困難があり、14%の人に嚥下痛があります。57%で体重減少がみられBMIで10%以上の体重減少では予後不良です。また呼吸困難、咳嗽、嗄声(声がかれる)、背部痛などでは病変は進行していることが考えられます。食道造影(バリウム検査)で比較的簡単に癌による食道の狭窄を描出できますがこの検査では早期癌の診断は困難です。内視鏡検査を行いますが症状が出てから発見する場合はやはり進行癌が多いようです。ルゴールという色素を撒くと癌細胞は正常細胞と違って染色されず白く浮き出ますので癌の存在を的確に知ることができます。繰り返しますが食道癌は消化管の中では予後はきわめて不良です。これはリンパ節転移が多いこと、漿膜がないため比較的周囲に浸潤しやすいこと、そして周囲の臓器が心臓、大血管、気管など手術困難な場所であることが関与しています。食道癌の5年生存率(5年後に何人が生存しているか)は1970年代では4%でしたが現在では14%ほどです。これは胃内視鏡検査が発達したためと思われます。早期のものなら助かりますが、手術をして癌を摘出すると症状が軽減する期間は長くなりますが、完治することはないようです。なぜなら手術をする前にほとんどが転移していることが多いからです。当院でも何人かの食道癌患者を発見していますが、いまでも元気にされている方は毎年のように胃カメラをされていて症状もなく偶然に見つかった人たちです。やはり症状が出てからでは進行していると考えるのがよいようです。(私が1年に1度の内視鏡検査を勧めるのには理由があるのです!)
 食道癌は症状が出にくく非常に予後の悪い疾患で胃内視鏡検査でないと早期発見は難しいことを前回述べました。CT(コンピューター断層撮影)は食道とその周囲の臓器との関係を調べる優れた方法です。食道の周りには気管、気管支、肺、大動脈、心臓などの重要臓器がありこれに浸潤しているかどうか、リンパ節転移があるかどうかをみるのに有用です。MRIも同様の所見が得られますがCTに比べて特に優れているというものでもありません。食道癌の進行度は深達度、リンパ節転移があるかどうか、他の臓器への転移で決められます。0期は癌が粘膜内にとどまっており、リンパ節、他の臓器、胸膜、腹膜に癌が認められないものでいわゆる早期癌と呼ばれるものです。Ⅰ期は癌が粘膜内にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜、腹膜に癌が認められないものです。Ⅱ期は癌が筋層を超えて食道の壁の外にわずかに癌が出ていると判断された時、あるいは食道の癌病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみに癌があると判断された時、そして臓器や胸膜、腹膜に癌が認められない状態です。Ⅲ期は癌が食道の外に明らかに出ていると判断されたとき、食道壁に沿っているリンパ節かあるいは食道の癌から少し離れたリンパ節に癌があると判断され他の臓器か胸膜、腹膜に癌が認められない状態です。Ⅳ期は癌が食道周囲の臓器に及んでいるか、癌から遠く離れたリンパ節に癌があると判断されたとき、あるいは他の臓器や胸膜、腹膜に癌が認められた場合です。
 上図は食道癌の病期とその後の生存率の関係を示したものですが、0期、Ⅰ期の比較的早期の癌に比べてそれ以上に進んだ癌では明らかに手術成績が不良でありⅢ期以上になると5年生存率は3割を切ってしまいます。手術以外の治療法としては内視鏡による治療(内視鏡的粘膜切除術(EMR、ESD))と放射線治療がありますが前者は粘膜内にとどまる早期の癌に対して行われ進行癌には適用されません。放射線療法がどの病期の癌にも用いられますが、放射線と抗ガン剤を用いる化学療法の併用療法が有効とされています。上の写真は内視鏡的に電気メスで粘膜切除を行っているところ(ESD)ですが、これはあくまでも早期癌でしか行えないものです。
 やはりいかにして早期に癌を見つけるかが大切です。したがって症状がなくても検査が必要なのです。