胆嚢に発生する悪性腫瘍で、わが国での発生頻度は5万人に1人程度です。好発年齢は60-70歳台で、男女比は1:2と女性に多く見られます。胆嚢癌は症状が出にくいため早期発見が困難で、発見時には根治手術不可能となっていることもしばしばです。診断には腹部の超音波検査やCT検査が有用です。胆嚢内の辺縁不整な腫瘤や胆嚢壁の肥厚として描出されます。また胆石の手術をしたところ偶然、胆嚢に癌を認める場合もあり、進行度によっては追加開腹手術が必要となる場合があります。悪性腫瘍の中では治療困難な腫瘍のひとつと考えられています。胆嚢がんと関連ある病気のひとつとして胆石症があります。胆嚢がんの50-60%に胆石の合併を認め、また胆石症の2~3%に胆嚢がんを認めますが胆石が胆嚢がんの直接の原因にはならないと考えられています。早期胆嚢がんは通常無症状ですが、胆石症や胆嚢炎を合併する場合には右季肋部、心窩部の疼痛や、黄疸など胆石症、胆嚢炎による症状を呈することがあります。進行胆嚢がんでは腹痛や右肩への放散痛、食欲不振、全身倦怠感、体重減少、黄疸、嘔吐などの症状が見られることがあります。
胆嚢癌は胆嚢内腔の上皮より発生します。初期の癌は胆嚢内腔に沿って平坦に発育することが多いですが、胆嚢内腔にポリープ状に突出し超音波検査などで発見されることもあります。癌はやがて胆嚢壁に浸潤し、リンパ管や神経に沿って転移を起こします。さらに増大した癌が胆管を閉塞すると黄疸や胆管炎を起こし、この時点で初めて自覚症状が出現します。癌は肝臓、十二指腸、結腸など周辺臓器を巻き込むとともに、肝臓、リンパ節、腹膜などに転移し、やがて個体を死に至らしめます。
検査としては以下のものがあります。
超音波検査;胆嚢の観察には最も適した検査法です。癌は胆嚢壁の異常な肥厚として描出されます。ドップラー法で内部に血流が見られることもあります。また、直径が1cmを超える胆嚢ポリープは癌を疑われます。
CT;癌は造影効果を有する胆嚢壁の肥厚として描出されます。また肝動脈など周辺臓器への浸潤や、リンパ節転移、肝転移、遠隔転移の診断にも有用です。
MRI;造影剤を用いずに胆管・胆嚢内腔を描出することが可能であり(MRCP)、隆起型の胆嚢癌の診断に有用です。
内視鏡的逆行性胆道造影(endoscopic retrograde cholangiography; ERC); 消化管内視鏡を用いて乳頭部からチューブを挿入し、造影剤を注入して胆管を描出する検査ですが、一般に入院で行われる検査です。
胆汁細胞診;ERCの際に採取した胆汁を顕微鏡下に観察し、癌細胞があるかどうか調べます。
生検;生検針などを用いて病変の組織を採取し、顕微鏡下に観察するものですが、技術的困難があり通常行われることはまれです。典型的な胆嚢癌の組織は腺癌です。
胆嚢がんでは70%、胆管がんでは67%の人が外科的治療を受けており、がんに侵されている部分を手術によってすべて取り除く治癒切除術が標準治療となります。
治癒切除の方法は胆嚢や胆管だけを切除するものから、膵臓の一部と十二指腸の切除、肝臓の切除などの組み合わせがあります。しかし、なかにはいくら広い範囲を取り除いても再発する場合もあります。治癒切除ができない場合でも、黄疸を取り除いたり、腫瘍の圧迫による腸管の閉塞を解除するために手術を行う場合もあります(姑息的(こそくてき)手術)。単純胆嚢摘出術は胆嚢のみを切除する術式で、リンパ節転移のない早期胆嚢癌に行われます。現在ではそのほとんどが腹腔鏡下に行われるようになりました。拡大胆嚢摘出術は胆嚢近傍の肝実質(肝床部)も胆嚢と一緒に切除する術式で、肝床切除術ともいわれます。胆嚢癌は肝床部に浸潤しやすいことから、肉眼で見えない癌の取り残しを防ぐ意味合いがあり、同時に所属リンパ節郭清も行わます。進行胆嚢癌に対する手術術式としては比較的ポピュラーですが、解剖学的区分を無視した肝切除に異論もあります。肝S4a5切除術は胆嚢に加え、肝臓の一部(S4a,
S5)を解剖学的区分に沿って切除する術式です。胆嚢から肝へ流入する静脈はまずこの領域へ入ることから、初期の肝転移はこの領域に発生するという理論に基づいていて、微小転移が含まれる可能性が高い領域を系統的に切除することにより肝転移再発を抑制し、生存率を向上させることが狙いですが、拡大胆嚢摘出術に対する優位性は明らかではありません。肝拡大右葉切除は胆嚢、肝外胆管に加え、肝臓の右側半分強(体積比では約7割)を切除する術式で、癌の浸潤が肝右葉の主要な動脈やグリソン鞘に及ぶ場合に行われます。その他の系統的肝切除として癌の浸潤範囲により、肝中央二区域切除術、肝右三区域切除術などが行われます。肝膵頭十二指腸切除術は上述した各種術式に膵頭十二指腸切除を加えるもので、癌が膵臓や十二指腸に浸潤している場合に検討されます。また進行胆嚢癌に対し、膵頭周囲リンパ節の完全郭清を目的に行われることもあります。肝と膵を同時に切除するという非常に侵襲の大きい術式であり、リスクを上回るメリットがあるかどうか特に慎重に検討されなければなりません。
胆嚢がんで切除をした場合の5年生存率は42%ですが、切除できなかった場合の5年生存率は2%です。手術ができない場合は、化学療法や放射線療法、温熱療法などを行います。化学療法として、胆嚢がんや胆管がんに対して、いくつかの抗がん薬が組み合わせて使われますが、標準的な治療法はありません。副作用として、食欲低下、吐き気、貧血、白血球減少、脱毛などが現れる場合があります。放射線療法には、放射線を体の外から照射する体外照射法と、胆管内からがんとそのまわりだけを照射する胆管腔内照射法があります。胆道がんの放射線療法は、あまり効果が期待できないといわれていますが、がんが縮小したり、胆管の閉塞が改善されることもあります。
近年、がんで狭くなった場所に網状の金属製のチューブ(ステント)を入れて胆管腔内照射法を併用すると、生存率が延びるといわれています。副作用は、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振などです。
初診時に肝臓や肺などに転移を有する進行がんと診断された場合は手術適応とはなりません。また胆のうがん(胆嚢癌)は腹膜播種をきたしやすいがんですが腹膜播種は画像検査等では見つからないことも少なくなく、手術を試みて回復した時点で腹膜播種が見つかり手術が中止されるということもあります。