マツバウンランの重金属蓄積性について
[研究の背景]
私たちの研究室では,昨年から重金属蓄積性植物についての研究に取り組み始めました。
我々を取り巻く環境は水も土壌も大気もさまざまな物質によって汚染されています。
汚染された環境を修復する方法は多種多様ですが,植物の力によって土壌の中の汚染物質を
吸収したり,分解したりする技術はphyto-remediationと呼ばれています。
人間が汚した環境を植物に修復してもらうというのは何とも虫のいい話ですが,
広い範囲に薄く汚染されたような状況には適しています。高濃度に汚染された狭い範囲
(例えば工場の跡地など)なら,汚染された土を取り去って,汚染されていない土を入れるという方法で
対処できますが,取り去った汚染土はどこかに投棄されるとしたら解決にはなりません。
排水のような液体と比べて土壌は取り扱いが困難です。
そこで,普通の植物なら高濃度の重金属のために枯れてしまうような土壌でも生育して,
なおかつ重金属を土壌から吸い取ってくれる植物があれば,それを植えて汚染物質を除いて
もらおうという訳です。
いくつかの問題点もあります。
・ 植物の生長に時間がかかるので,急速には修復できない。
・ 植物が生長できる気温,日照,降水量などの条件が必要なので,寒冷地や砂漠地方では困難。
・ そのような特殊能力のある植物は小柄なものが多い(バイオマスが小さい)。
・ 根の届く範囲の土壌しか修復できない(定期的に土壌を掘り返して上下反転させる必要あり)。
などです。以上のような問題点を抱えているにせよ,コスト面では低く抑えられるので,欧米では以前から取り組んでいるようです。
刈り取った植物は特性の焼却施設で焼却し,その灰を塩酸などの酸に溶かして,濃縮すれば,金属も回収できます。
そのときに生成する熱はエネルギー源として利用できます。
[マツバウンランとの出会い]
兵庫県には小規模なものも含めると金属鉱山の跡地が80以上も存在します。いずれも現在は稼動していませんが,
周辺の土壌は重金属濃度が高いところもあり,そのような場所を中心に植物を分析してきました。
シシガシラというシダは鉛を乾燥体で8000ppmも含むことが分かりました。これは環境技術学会の
「環境技術」34巻(2005年4月号)で報告しました。また,スズシロソウというアブラナ科の植物は
亜鉛を28000ppmも蓄積していることも認めました。これは現在卒業研究の学生が取り組んでいます。
共同研究している環境人間学部の大学院生の和田君も昨年から重金属蓄積性植物の探索に取り組み,各地の植物を分析してきました。
その結果,銅を高濃度に含む植物としてマツバウンランを見つけました。でも,どこの河川敷にも咲いている
セイヨウカラシナと違ってマツバウンランを見つけることが大変でした。花が咲いている時期に集中的に探し回らないと
見つけにくいですね。マツバウンランに関する情報源として,「マツバウンラン愛好会」はとてもありがたい存在でした。
どのような場所に咲いているのか,探し出すヒントにもなりました。あちらこちら探し回ったあげく,
本学のキャンパス内に咲いているのを見つけたときには和田君とともに笑ってしまいました。
[実験と結果の概要]
分析した結果,マツバウンランが銅を乾燥体で3500ppmも含んでいたことが分かりました。
マツバウンランの種を和田君が採取していたので,これを殺菌してから寒天培地に無菌播種しました。
ここから発芽・成長したマツバウンランをクリーンベンチの中で分割し,今度は植物ホルモン様物質を入れた
寒天培地に移植しました。こうすると「カルス」と呼ばれる細胞の塊状態で成長していきます。
ある程度カルスが成長したら,分割して銅濃度の異なるいくつかの寒天培地に移植しました。
そうすると,銅イオンの濃度によって成長の著しいカルスやあまり成長しないカルスが見られました。
培地中の銅イオン濃度が10 mg/lの場合でもカルスは枯れずに成長しましたが,成長率は低い結果となりました。
カルス中の銅濃度を分析した結果,乾燥体で7000ppm程度の銅が認められました。
一方,カルスの成長率が良好だったのは銅イオン濃度が0.5 mg/lや1 mg/lの場合で,11週後にはカルスの重量が
移植(置床)時の12倍〜24倍となっていました。
以上のことから,マツバウンランの細胞には銅イオンに対する耐性が備わっているようです。
今後の課題として,銅イオンを取り込むために何を分泌しているのか,どこに銅を保持しているのかなどを調べる必要があります。
土壌中の銅濃度も分析しましたが,土壌中の銅濃度が高いところではマツバウンラン中の銅濃度は低く,
逆に低いところでは高かったことを考えると,単なる受動的な吸収でもないような気がします。
土壌のpHや土質,共存物質など多くの要素が関連していると思われるので,一つ一つ調べる必要があります。
それから,銅を含んだボルドー液という農薬が散布されている果樹園で咲いているマツバウンランがあれば分析してみたいですね。
[まとめ]
今回はカルスの状態での検討でしたが,植物体としての銅イオンの吸収性についても調べる必要がありますし,
サンプル数をもっと多くする必要もあります。
今回の環境化学討論会においてマツバウンランの銅蓄積性を紹介したので,
マツバウンランを研究対象に取り上げるグループが出てくればマツバウンランも「可憐な帰化植物」から
「環境修復能力のある花」ということで脚光を浴びるでしょうか?
景観園芸と土壌修復の両面からこのきれいな花を取り上げてもいいのでは?と考えたりします。
今回の調査で見つけたマツバウンランの群生場所は来年の花期に再訪し,継続調査する予定です。