理論物理学者の書いたガロアの伝記

   「ガロアの生涯−神々の愛でし人」
         (L.インフェルト著 市井三郎訳、1969、日本評論社)

 大学を卒業し研究開発者として歩き始めた頃に買った本。多分当時の上司から薦められたのだろう。さっと読んだが記憶に残っていないので再度読んでみた。
 数学者で革命家エヴァリスト・ガロアの、1824年(13歳)ルイ・ル・グラン中学校時代から1832年(21歳)女性問題での決闘により死亡するまでの9年間の伝記を残された数少ない記録をもとに再現したもの。この時代に、独学に近い形で、数学の体論や群論の先見的な研究を行い、ニールス・アーベルによる「五次以上の方程式には一般的な代数的解の公式がない」という定理(アーベル-ルフィニの定理)の証明を大幅に簡略化するなどの業績を上げた。当時の数学界の最高権威コーシーをはじめとする大御所にも簡単には理解出来ない内容であり、彼の業績が認識されるようになるには死後50年近くを要したようだ。この原因は、一つにはガロアの頭のよさからくる説明不足が当時の数学者に付いていけなくさせたことだろう。著者は、数学者の伝記に終わらせること無く、当時のフランス社会(フランス革命、ナポレオンの帝政のあと、王政復古派と共和派の闘いの最中)の状況をガロアの人生を複雑に絡ませてドキュメンタリータッチで扱っている。
 読み直して初めて気がついたのだが、著者L.インフェルトは米国プリンストン高等研究所でアインシュタインと統一場理論の共同研究を行ってきていた理論物理学者。ガロアに関する歴史的資料は少ないといいつつも、物理学の研究の合間(?)に多数の資料を探し・読み下した上で伝記を書いているようだ。最後の章では、各章に関係する文献の紹介しているが、序文では「この伝記も創作的である」としている。気になっていた日本人の科学者の伝記に面白いものが見られない原因の一因を見つけたような気がした。
 最後にガロアは入学試験に失敗したり留年したりしているが、フランスでは、留年は良いことではないが、習熟していないのに進級したらまた理解できないことが積み重なるだけなので、一学年やり直したほうが良い、という考え方が定着しているようだ。失敗しても再チャレンジの許される社会とはこんところにも芽がある。

目次へ 「本を読んで」目次へ  トップへ 「遊民 旅の途中」トップへ