原題 ; THE FIVE PENNIES(1959)
 監督 ; メルヴィル・シェイプルソン
 脚本 ; ジャック・ローズ、メルヴィル・シェイブルソン
 音楽 ; リース・スティーブンス
 出演 ; ダニー・ケイ、バーバラ・ベル・ゲデス、ルイ・アームストロング
「ウェストサイド物語」以降の世代なのでオールドタイプのミュージカルは得意分野ではないのだけれど、本作と「雨に唄えば」「オズの魔法使い」は大好き。どれも名作と思うのだが本作だけDVD化されていない。
音楽映画としても家族愛を描いた作品としても申し分のない見事な出来栄え。
本人役を演じるルイ・アームストロングの助演ぶりと演奏も大いに楽しめる作品。
それまでほとんどが即興演奏だったジャズに編曲を取り入れたのがレッド・ニコルズだったとか、内容的にも興味深いものがある。
1924年、ユタ州出身のコルネット奏者レッド・ニコルズ(ダニー・ケイ)はニューヨークのジャズ・バンドに雇われる。
レッドはコーラス歌手ボビー・メレディス(バーバラ・ベル・ゲデス)やギタリストのトニー(ハリー・ガーディーノ)らとのダブル・デートの際、闇酒に酔った勢いでルイ・アームストロングのステージに飛び入り参加、親交を持つようになる。
レッドはボビーと結婚、デキシーランド・ジャズを演奏するためにバンドを脱退してラジオ番組のバイトで食いつなぐ。
このバイトではクリスマス・ソングもロシア民謡も途中からジャズ演奏を始めてしまうなどユーモラスな見せ場になっている。
やがてジミー・ドーシー、グレン・ミラーらを従えて自らのバンドファイブ・ペニーズを立ち上げてデキシーランド・ジャズ初めてのレコード化にも成功、大人気となる。
長女のドロシーが生まれて演奏旅行をやめようとするが、ボビーの希望でツアーを続行。
ツアー・バスの中でドロシーの子守唄として演奏される「ラグタイムの子守唄」もなかなかの名曲。
レッドは成長したドロシー(スーザン・ゴードン)を連れて真夜中にルイ・アームストロングのステージに行き三人で共演、ルイと掛け合いで「聖者の行進」を歌ったりもする。
これを知ったボビーはドロシーの環境を心配するが、上り坂のレッドはドロシーを寄宿学校に入れてツアーを続ける。
クリスマスも両親に会えないドロシーが雨の公園で傘もささず一人遊んでいると、やって来たのはボビーだけだった。
ドロシーは小児麻痺と脳炎を併発、意識不明となって隔離病棟に入院してしまう。
飛行機で駆けつけたレッドは、ドロシーが助かったら音楽を捨てて一緒に暮らすと誓う。
ようやく意識を取り戻したドロシーだが、「ママだけそばに居て」と言う。
ショックを受けたレッドはコルネットを川に捨て、バンドを解散。
ドロシーは医者に一生歩けないと宣告される。
レッドはロスに家を買い造船工場で働き始め、ドロシーのリハビリに心血を注ぐ。
やがて14歳になったドロシー(チューズデイ・ウェルド)。子供の頃の記憶は薄れ、現在トップ・クラスのジャズ・ミュージシャンが父の門下だったことも思い出せない。
ドロシーの誕生パーティーで久々にコルネットを手にするが、腕はすっかり落ちていた。
ボビーは、かっての仲間たちに声をかけてレッドのカムバックを計画するが本人は乗り気でない。
父が音楽を捨てた理由を思い出したドロシーの説得もあって、レッドはカムバックを決意。
不安を抱えながらステージに立つレッドだったが、そこにルイを始めとする昔の仲間が応援に駆けつけた。
しかもドロシーは杖も補助金具もなしで歩けるようになっていた。
ボビーの歌でドロシーと踊るレッド。
レッドは高らかにコルネットを演奏するのだった。
余談その一=この映画でトランペット・ソロを担当しているのはレッド・ニコルズ本人。同年には日本未公開のミュージカルに本人役で出演している。なおこの映画、ストーリーはおおむね事実に即しているが、レッド・ニコルズ本人は控えめな性格でユーモラスなキャラクターはダニー・ケイに合わせた創作とのこと。
余談そのニ=ボビー役のバーバラ・ベル・ゲデスは本作の前年ヒッチコックの「めまい」でジェームズ・スチュアートに思いを寄せる画家の役を演じていた。本作ではコメディエンヌとしての素質を見せているが、その後あまり活躍せず、テレビ・シリーズ「ダラス」へのレギュラー出演が目立つくらいである。もともと舞台中心に活動する女優だったらしい。
余談その三=幼い頃のドロシーで名子役振りを発揮しているスーザン・ゴードンは、なんと「巨人獣」「マッド・ボンバー」などで知られるミスターBIGことバート・I・ゴードンの娘。映画デビュー作も父の監督作品「生きていた人形」。シャーリー・テンプルに似ていると当時話題になったらしいのだが、残念なことに子役時代のみしか活動していない。
5つの銅貨