製作 ; (1952) |
監督 ; 田中重雄 |
脚本 ; 倉谷勇 |
音楽 ; 斎藤一郎 |
出演 ; 岡譲二、久慈あさみ、見明凡太郎、瀧花久子、菅原謙二、船越英二、森雅之 |
横溝正史「女王蜂」の映画化。B級作ながら意外と良い俳優を揃えている。 伊豆の下田から海上27里あまり、月琴島と呼ばれる島があった。 北条氏に追われた豪族大道寺家が住みつき、江戸時代には密貿易の中継点として栄えたという。 20年前の昭和7年、二人の大学生、日下部達哉(船越英二)と速水欣造(森雅之)が大道寺鉄馬(見明凡太郎)の客となった。 宴会では娘、琴絵(久慈あさみ)の異国情緒豊かな舞いでもてなされる。 散歩に出た達哉と欣造を、老婆が琴絵の色香に惑わされると命を落とすと脅された。 ある日、植物採集をしていた達哉がマムシに噛まれたところを琴絵が助けた。以来二人は恋仲になる。 夏休みが終わり、達哉は愛情の印としてメダルを残し帰っていった。 10月半ば、達哉は琴絵から相談したいことがあるので是非来てほしいとの手紙を受け取った。 祭りで賑わう月琴島に戻る達哉。島には旅芸人の一座も来ている。琴絵は妊娠しており、結婚を望んでいた。 翌日、達哉が密室となった部屋で月琴で殴り殺され、傍らに琴絵が倒れているのが見つかった。 意識を取り戻した琴絵は記憶を失っていた。 鉄馬は琴絵に真実を隠す。彼は日下部の死体を崖から捨て、事故を装って事件を隠蔽(いんぺい)した。 1ヵ月後、鉄馬は速水を訪問し、私生児は体面が悪いので琴絵と結婚してほしいと頼み込む。 速水は、それを受けた。琴絵は女の子を出産したが、産後の肥立ちが悪く2ヵ月後に死んでしまう。 子供は智子(久慈あさみ二役)と名づけられ成人した。 智子の婚約者、沢村光一(菅原謙二)が東京の大道寺家を訪ねる。智子は結婚の報告をかねて月琴島に行くと言い出す。 それから沢村の元に月琴島行きをやめさせようとする脅迫状が届き始めた。沢村は先輩の探偵、金田一耕助(岡譲二)に相談する。 島に渡った智子と沢村を親戚筋の九十九龍馬が迎えた。祖母、槙は卒中で寝込んでいる。 子供の頃から大道寺家に仕え達哉の始末にも関わった伊庭良平は、琴絵と結婚する気でいた。 良平は智子に琴絵が実は日下部の後を追って投身自殺していたことを教える。智子は激しいショックを受けた。 智子は大道寺家の秘書、神尾秀子(荒川さつき)と良平を問いただす。 良平は智子を洞窟へと連れて行き、襲いかかった。逃げ出す智子に良平は松葉杖を投げつけて気絶させる。 そこに大道寺家の下男、東作が通りかかったので智子は難を逃れた。 酔っ払って荒れる良平。彼は秀子が止めるのも聞かず、智子に20年前のことを話そうとする。 そこに現われた槙がナイフを良平の胸に投げる。良平は日下部を殺したのは琴絵だと告げて意識を失う。 警官が呼ばれ20年前の事件について調査が始められることになった。 自分が人殺しの娘と知った智子は取り乱し、思い余って崖から身を投げようとする。書置きを読んだ沢村が駆けつけて智子を取り押さえた。 「君のお母さんは犯人じゃない」東作は金田一耕助の変装だった。 真犯人は琴絵がメダルを取りに部屋を出た隙に忍び込んで達哉を殺したのだという。その時、銃声が轟き金田一は崖を落下してしまう。 島を訪れていた旅の一座の三朝が夜道で殺された。葬式に昔衣装を担当していたという千木良兼吉がやってくる。 三朝が殺された砂浜には「さ」という文字が残っていたという。 一同を集め、 そこに島の駐在がやって来た。兼吉が20年前の犯人の顔を覚えているというので首実検をするというのだ。 兼吉が入ってきたとき、銃声が響いた。しかし、撃たれたのは人形だった。 襖を開けて兼吉が入ってくる。彼は偽物で、本物の兼吉が呼ばれる。 兼吉が示したのは欣造だった。欣造は20年前の祭りのとき坂本と名乗って旅の一座に潜り込んで島に渡っていたのだ。 偽の兼吉は生きていた金田一耕助だった。 欣造は恋に狂って達哉を殺し、そのうえ善人を装って大道寺家の富を手にしようとしたのだ。彼は琴絵に瓜二つな智子にも邪悪な恋心を抱いていた。 智子に銃を突きつけて人質にする欣造。歩み出た秀子が射殺される。 錯乱した欣造には智子と琴絵の区別がつかなくなってた。そこに沢村が飛びついて智子を助ける。 駐在が欣造を撃つ。よろけながら逃げようとした欣造は突然現われた犬に噛みつかれる。彼は崖の下に姿を消した。 東京へと戻る船上には幸せそうな智子と沢村そして金田一耕助の姿があった。 「悪魔の手毬唄」とは違い、ある程度原作のストーリーをなぞって作られている。 長編小説を90分強にまとめ、しかも20年前の事件を時系列通りに冒頭から丁寧に描いているため、メインとなる現代の事件はかなり駆け足となっている。 金田一がダブルスーツの中年紳士として登場するのは仕方がないとしても、変装の名人という設定は伝奇ミステリ版多羅尾伴内みたいてちょっとヘン。 元役者はともかく、下働きの老人なんていつどうやってなりすましたのやら。崖から落ちてどう助かったのかも説明ないし。 クライマックスも銃を持ち出して派手に見せようとしているため、謎ときの要素は希薄になっている。突然出てくる犬は、ダリオ・アルジェントみたいで笑えた。 本作で金田一耕助を演じた岡譲二は、なぜか横溝正史の映画化作品に縁があり、「蝶々殺人事件」の映画化「蝶々失踪事件」、片岡千恵蔵が金田一を演じた「悪魔が来たりて笛を吹く」、河津清三郎が金田一を演じた「幽霊男」にも出演している。 この中で特に見てみたいのは「蝶々失踪事件」。原作のトリックは映像化不可能というか実行不可能のように思える。あれをどう映像化しているのかいないのか、すごく興味がある。 |