映画化作品「マ・ウ・ス」紹介を機会に「小鼠」シリーズ4作を読み返してみた。 やっぱり面白い。 第1作「小鼠、ニューヨークを侵略」(1955)では冷戦下米ソ2大国による大量殺戮兵器開発競争を、第2作「小鼠、月世界を征服」1962)では同じく米ソの月着陸船開発競争を、第3作「小鼠、ウォール街を撹乱」(1969)では株式投資のマネーゲームを、第4作「小鼠、油田を掘りあてる」(1981)では石油ショック時のエネルギー危機をテーマとしている。 どれも時事性の強い内容になっており、(1969年にアポロ11号が月着陸を果たしたため第4作では第2作の話は無かったことになっている)並みの作品であれば、たちまち色褪せたものになってしまうだろう。 にもかかわらず今でも面白く読めるのは、やはり舞台となるグランド・フェンウィック大公国とその住人たちの魅力ゆえと思う。 産業製品はワインと羊毛のみで現在も半ば中世風のお国柄、自動車はなく大公女も自転車で走り回っている。(第4作ではエネルギー問題をテーマとしていることもあり、実は2台だけあったという設定になっている) 第3作までは国外への電話回線もない。 チャーミングな大公女グロリアナ12世、首相にして稀代の策略家マウントジョーイ伯爵、そしてとんでもない大発明を何気なく完成する愛鳥家のコーキンツ博士。 奇想天外なめぐり合わせが事件をとんでもない方向に進めていくが、政治・経済の動きは意外なほど丁寧にシミュレーションされている。 風刺小説だから皮肉な表現も当然あるのだが、全編を通じて悪人は登場せず寓話的ライト・ファンタジーといっても良い趣きとなっている。 大公国以外の政治家や投資家もユーモラスではあるがその判断は理知的であり冷静、現実を振り返るとなんだか悲しくなってくるほどだ。 今回読み返して一番興味深かったのは第3作だった。 アメリカから援助を取り付けようとする騒動を描いた1、2作へのアンチ・テーゼともいえる内容になっている。 ストーリーを紹介すると、 アメリカに広まった嫌煙ブームの影響でワイン風味のガムが爆発的ヒット。 100万ドルのパテント料が大公国に転がり込む。 マウントジョーイ伯爵は使い道のない大金は国を破滅させると反対するが、議会は金を国民に還元。 結果、インフレを引き起こし、国も国民が電化製品を買い込んだため発電所を建設しなければならず財政赤字に陥る。 公約では税金なしとなるはずが増税になってしまう。 翌年のパテント料は1000万ドル、前年の恐慌に懲りた議会は、金をこっそり処分してしまうことにする。 処分を一任された大公女は「素人が株に手を出せば必ず大損するのよね」と目をつぶってピンを刺した銘柄を購入。 しばらくしてその銘柄が株式蘭から名を消してしまい、倒産と思い込んだ大公女は不要な金を始末する天才と鼻高々。 ところが、その会社はアメリカの投機家によって買収、合併を繰り返し名を変えて巨大コングロマリットと化しており、株価も高騰。 大公国の誰も知らぬうちに、10億ドルの資産を抱え込むハメになってしまう。 欧米で大公女は天才投資家としてその名を轟かせ、「タイムズ」が取材を申し込んでくるが、当の本人は金の無くし方を聞きたがっていると思い込んで... という具合で、金拝思想を皮肉った現在でも通用する内容になっている。 私利私欲に駆られて金のためだけに動いている政治家や官僚はこれを読んで猛省して欲しいと思える清冽な印象を残す作品。 レナード・ウィバーリーは1983年に68才で亡くなっている。 |