原題 ; THE MOUSE THAT ROARED(1959)
 監督 ; ジャック・アーノルド
 脚本 ; ロジャー・マクドゥガル、スタンリー・マン
 音楽 ; エドウィン・アストリー
 出演 ; ピーター・セラーズ、ジーン・セバーグ、デヴィッド・コソフ、レオ・マッカーン
レナード・ウィバーリーによる世界最小国グランド・フェンウィック大公国を舞台にした風刺ユーモア小説「小鼠」シリーズ4部作の一作目「小鼠、ニューヨークを侵略」の映画化。
ピーター・セラーズが女君主グロリアナ12世、首相ルパート伯爵、森林レンジャー・タリー・バスコムの三役を演じたのがポイント。
このためキャラクター設定は大幅に変更され、自信家で機知に富んだタリーは善良だが気弱な青年に、22歳の美しい王女グロリアナ12世はとぼけた老女に、稀代の策士ルパート伯爵は無能な政治家となった。
さらにグロリアナ12世とタリーの恋愛が描けなくなったため、コーキンツ博士の娘としてジーン・セバーグを配役するなどの工夫を凝らしている。
コロンビア映画タイトルの自由の女神が、足元に現れたハツカネズミに驚いて逃げ出してしまうオープニングからして楽しい。
大公女グロリアナ12世(ピーター・セラーズ)の治めるヨーロッパの小国、というか面積40平方キロの世界最小国グランド・フェンウィック大公国唯一の輸出品は最高級のワインだった。
ところがアメリカの業者がニセモノを発売、安い値段と宣伝力で市場を荒されてしまった。
国家存亡の危機に首相であるルパート伯爵(ピーター・セラーズ)はグロリアナにアメリカへの宣戦布告を提案する。
米国はおかしな国で敗戦国に巨額の援助をするから、月曜に開戦して火曜に敗戦すれば金曜には復興支援金がガッポリ貰えるはずだ。
軍の指揮官に選ばれたのは森林レンジャーのタリー・バスコム(ピーター・セラーズ)。
無理やり徴兵された20名が中世式甲冑に身を包み大弓で武装して、マルセイユから漁船でアメリカを目指す。
ワシントンには宣戦布告書が届くが、記者クラブのジョークと思って本気にしない。
ニューヨークではコーキンツ博士の作った新型爆弾に備えて全市が防災訓練に突入、市民は全員が避難していた。
無人のニューヨークに上陸して進軍するフェンウィック軍。タリーは新聞で新型爆弾のことを知る。
セントラル・パークでフェンイック軍を見た危険物処理隊員が、甲冑姿を宇宙人と勘違い。セントラル・パークに1000人の光線銃で武装した火星人が降り立ったとの怪情報が流れる。
ニューヨーク物理研究所に迷い込んだダリイたちは、敗戦処理が有利になるとコーキンツ博士と娘のヘレン(ジーン・セバーグ)を捕虜にして爆弾も持ち去る。
次いでセントラル・パークに火星人調査に来たスニピット将軍一行も捕らえ、勝利宣言を出してしまう。
一方、フェンウィック大公国では敗戦準備に余念がなかった。
コーキンツ博士はヘレンにタリーを誘惑するように命じる。しかし、おくてなタリーは乗ってこない。
勝利国アメリカ軍の歓迎式典に、タリーたちが捕虜を連れ帰ったので一同はビックリ。
とりあえず豪華な食事で歓待するが将軍はあくまでも捕虜の待遇を主張して拒否、一人でブリキ食器の食事を摂る。
かくて全世界がフェンウィックに援助を申し込んできた。新型Q爆弾は世界を破滅させるほどの威力を持っていたのだ。
対処に困ったフェンウィックでは議会が空転、やけになったルパート伯爵と馴れ合い野党党首ベンダー(レオ・マッカーン)は辞任、タリーが首相にされてしまう。
タリーはヘレンが好きになっていた。いきなり彼女に抱きついてキスをする。
ルパート伯爵とベンダーは、とにかくアメリカに爆弾を返してしまおうと将軍に爆弾を持たせて逃がす。
ヘレンはタリーの愛の告白を聞いて迷いながらも、ルパートにだまされて連れ出される。
爆弾とヘレンが連れ去られたことを知って追うタリー。
坂道で車がエンスト、みんなで押してたら爆弾を抱えた将軍だけ乗せて走り出してしまう。車はワラの山に突っ込む。
この騒ぎで爆弾が作動を始めてしまった。みんなで爆弾を放り合い、結局タリーの手に渡る。爆弾は爆発しなかった。
爆弾を取り戻したフェンウィック首相タリーはアメリカにワインの購入と100万ドルを要求するが、アメリカではそんなハシタ金を支払うことは大国のプライドが許さないと10億ドルの支払いを申し出る。
博士と爆弾はフェンウィック大公国に残ることになり、小国による大国の核兵器監視体制が実施されることになった。
タリーもヘレンと結ばれてハッピー・エンド、失脚したルパート伯爵とベンダーはぶどうを踏んでワイン作りにせいを出す。
地下に保管されたQ爆弾は不発弾のようだが、タリー、ヘレン、博士だけの秘密にする。
冷戦下、武器開発競争の続く中で世界最小国が大国を出し抜いてしまう原作の痛快さが生かされており、優れた風刺コメディになっている。
余談その一=ジャック・アーノルド監督は1950年代に「大アマゾンの半漁人」「タランチュラの襲撃」などユニバーサルのモンスター映画でも比較的出来の良いものを手がけてきた監督。
本作でも手堅い演出振りを見せている。1960年代以降はテレビ・シリーズの監督を中心に活動、「ワンダー・ウーマン」「ラブ・ボート」「フォール・ガイ」など多くのシリーズに参加して1992年に亡くなっている。
余談そのニ=野党党首ベンダーを演じているレオ・マッカーンはテレビ史上最高のシリーズ「プリズナーNo6」で最も印象的なNo2を演じた俳優。バイ・プレイヤーとしてビートルズの「HELP四人はアイドル」「オーメン」など数多くの映画に出演したが2002年に亡くなった。
余談その三=「小鼠」シリーズの第二作「「小鼠、月世界を征服」も「ロビントマリアン」「ローマで起こった奇妙な出来事」「新・三銃士」のリチャード・レスター監督によって映画化され日本では「月ロケット・ワイン号」のタイトルでテレビ放映された。監督らしいとぼけたユーモアセンスの光る作品だった。
マ・ウ・ス