『上海の友誼商店にて』


松島 正勝
    
 昨年久し振りに中国旅行を思い立ち、旅行社に団体申し入れをしたが人員
が集まらず結局家内と二人の旅行になってしまった。          
  上海空港で現地のガイドさんの出迎えを受け、真直ぐ連れて行かれたのは、
何と友誼商店であった。お土産は帰国直前に買い求める積もりだったので、
(店員が傍に付きっ切りなのには閉口したが)買い求める意志もなくただあ
ちこち見回していた。たまたま日本円で二万七千円の正札がはってある石に
刻んだ猿の置物に目をとめたところ、主任まで出てきて「最高の品で格安」
と云いながら購入をすすめる。そろそろここを切り上げてよそへ行きたい思
いでガイドの方を見ても素知らぬ顔で他の店員とおしゃべりしている始末。
  こちらがウンとも云わないので値引きが始まる。二万五千円、二万三千円、
二万円、一万七千円、更に、原価を割ったといいつつ一万五千円、とうとう
一万三千円で買わされてしまった。以前の友誼商店では、こんなこと先ずな
かったのにと思うと「おとうさん、なかなか買物上手ね」など店員におだて
られて買った品物も「安物買いの銭失い」の気持の方が先に立ち、お買い得
の気分がすっかり薄れてしまった。                  
 上海は現在、設備投資の真っ盛りで外資獲得が至上命令であると理解はで
きるが、以前来たときの上海はまだおおらかで、我々を楽しませてくれた。
 ゆとりがあったと思う。                      
 これが二度目に訪問した時の上海の印象である。           
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