私の見た中国(二)
『中国人の給料は、はたして安いのだろうか』



東出 隆司


 中国に関するご質問で、幾つかどうも上手く答えれない問題がある。それ
に対し私は数通りの解答を用意しておいて、その中から相手に合わせて答え
ることにしてるが別にいい加減に答えているわけではなく、どれも正しいの
だが、どれもどうもしっくりとしない。                
 いつも上手く答えれない問題。幾つかあるが、例えばそのうちの一つに、
「中国の人の給科はどの位でしょうか」というのがある。        
 これが困る、まず相手の質問の趣旨を推し量りかねる。単純に平均的収入
をお尋ねなら「大体六百元といったところでしょうか。概ね最近のレートで
計算すると、一元が日本円で約十三円ですから大体八千円程となります」で
いいはずだが、「そんなに安いんですか?」と怪げんそう、そらきたぞ、と
思う。そう言われると思って実際より少し多めに言っておいたのに、驚かせ
てしまったらしい。                         
 「そんなんで暮らせるんですか」という。              

  「中国はほとんどの家庭が夫婦二人共仕事を持ってますから当然収入は倍
になりますし物価もここ数年値上がりがひどいようですがまだまだ高くない
ですから」と答えると、ここいらから話しは急に具体的なものになり、「中
国で何とかは(例えば住宅費は)幾ら」といった方向へ進みこのあと私は、
中国の制度そのものの特殊性から初まって、教育・医療・福祉・住宅問題果
ては日常の食生活から経済開放政策まで説明するはめになる。思うにどうも
私は中国の人の給料は額面こそ高くないものの皆さんが考えるほどは低くな
いということを言いたいらしい。                   

  前置きが長くなったがいつも上手く答えれないのを、これを機会に少し整
理しておこうと考えたわけである。                  
 大連にいる友人の王さんは、政府のある出先機関に勤めている。まだ四十
には届かないと思うが下の給料明細表は彼のもの(日本では使わない中国独
特の漢字ばかりが出てきますのでこのホームページでは割愛しました)。少
し古いので(一九九二年五月のもの)今はもう少し上だろうが凡そというこ
とで話しを進めさせてもらう。下の表では紙面の関係で二段になってるが実
際は一本で細長い。これは日本も同じ。中国では給料のことを工資という。
以前は薪水といっていた。英語のサラリーの語源が塩にあるというから薪水
のほうがよくできているように思えるのだが工資(ゴンズー)が一般となり
明細表を工資条と言っている。見て分かるように色んな手当てが付く。  
 以下は王さんと私の給料をめぐっての会話。私は王さんを中国式に親しみ
を込め「小王(シャオワン)」と呼び小王は私のことを中国読みでドンツゥ
ーと。                               

  「小王給料日はいつ」                       
 「毎月五日。大体毎月同じ額」                   
 「小王の給料見ると税金引かれてませんよね」            
 「ああ、中国それ無いね日本で何と言いますか」           
 「所得税と言って収入に応じて必ず引かれるよ」           
 「ドンツゥーは毎月何にそんなにお金使うの」            
 「何かなあ〜いつもたりないくらい」                
 「小王はどうお」                         
 「そうね、ぜいたくしないなら大丈夫かな」             
 「小王の家のテレビねあれ日本製でしょう」             
 「あれはね画王。王だからね無理して買ったの」           
 「高いでしょう」                         
 「高いよ、月給一年分位するよ」                  
 「すごいじゃない。現金で」                    
 「中国はね何でも現金、少しずつ貯めて」              
 「じゃあ欲しいものが高かったら大変じゃない」           
 「でも皆買ってる、最近はクーラーとか。ドンツゥー家のテレビは」  
 「うちのは小王のとこより古いし小さいんだ」            

  「日本では物を買うと税金かかるって本当」             
 「消責税っていう。日本では税金が色々あるし負担が大きい」     
 「たとえば?」                          
 「家を買ったとするでしょう。そうすると」             
 「消費税」                            
 「もちろんかかるけどその他に取得税とか」             
 「でも一回払えばすむでしょ」                   
 「いやいやその他に上地と建物に対する税金が一月いくらとあってずっと
  払い続ける」                          
 「自分の物なのに」                        
 「そう買った後もずっと。小王の家賃は毎月幾ら」          
 「あれは安いよ電気・ガス代よりやすい」              
 「でも退職したらどうなるの」                   
  「退職してもそのまま住んでていいよ。二階の呂さんは三年前退職したの」
 「何歳で定年」                          
 「普通六十歳」                          
 「退職したら年金生活でしょ」                   
 「年金は以前の給与の百分之七十五貰える」             
 「日本は年金分を給料から引かれるか自分で払うの」         
 「中国でほ退休金といって死ぬまで毎月でるし安心ね。百分之百貰える人
  もいる」                            

  「食べる物はどお値上がりしてる」                 
 「最近は高いよなんでも」                     
 「でも安いじゃない果物なんか」                  
 「それはドンツゥーは日本と比べるから」              
 「でも以前より品物なんかも良いわけでしょ」            
 「確かに物は豊かになった。」                   
 「着る物なんかで言うと小王の今日着てるその服ねそれ幾らくらい」  
 「千元位だったと思うよもっと安いのもあるけど」          
 「そういうのが理解できないのよどうして給料の何ヵ月分もする服が買え
  るの」                             
 「若い女の子はもっとすごいよ」                  
 「そうそう大連の女の子はオシャレね」               
 「若い子の着てる服は給料の何倍もするし何枚も持ってる」      
 「そうね店にぶら下がってる服も高いのがたくさんあるもの」     
 「安いのもあるよでも皆高いのを買いたがる」            
 「でも買えるからでしょう」                    
 「不思議ですね」                         

  「給料は毎年上がるわけ」                     
 「いや中国はねそういうやり方じゃないの」             
 「日本では大体春に賃上げといってその年により率は違うけど上がるの」
 「日本は何でも春ですね、中国では工資を調整するから調資といいます」
 「日本の給料は額面こそ高いもののそれから又保険をかけたり大変」  
 「高いですか」                          
 「高いしたくさんあるから」                    
 「どんな」                            
 「建物に火災保険、車に自動車保険、生命保倹も入ってる」      
 「毎月払う」                           
 「そう、結局中国ではそういう心配というか不安はないわけでしょ」  
 「今中国では子供にお金かかります」                
 「それは日本も同じで教育費の負担が大きい」            
 「ドンツゥーは中国人の給料どう思う」               
 「高いとは思わないけど普通日本人が額面だけ聞いて安いと驚くけどそう
  いう感じはない小王は」                     
 「いつも日本人の給料聞いて驚くよ羨ましい」            
 「いや中国の方が楽だって仕事も楽だし」              
 「仕事は確かに楽ねだから皆安くともメイバンファー」        

 この後二人の話はまだまだ続く。結論など無い。思えば他の国の給料は中
国に限らず難しい問題かも知れない。                   

隗報の目次へ戻る