『中国と紙幣の歴史』


鈴木 拓也
 小生は収集癖があるようで、切手、コイン紙幣等を集めています。特に紙
幣には表・裏の図柄や“すかし”偽造防止法、紙質、発効当時の経済、社会
情勢等が面白いので世界の紙弊を収集しています。今回は中国の紙幣につい
て紹介させていただきます。                     
 中国の後漢時代、紀元百五年頃、麻屑や木の皮等を石臼でひいて、水に溶
かして、すの子で抄いて用紙を作ったといわれています。この紙は中国の有
力な輸出商品であり、この技術は最高の秘密とされたため世界中には伝播し
なかった。紙と印刷技術が中国で早くから発達したので、紙幣の出現も中国
が最初で世界最初の紙幣は北宋時代九九七年頃に蜀の国、現在の四川省・成
都で、発行されている。当時は鉄銭が使われていましたが、鉄銭の価値が低
く買物をするためには重く、多くのコインを持ち運ぶのが大変でこの不便を
解消するため豪商たちが発行元となって“交子”という一種の私札を発行し
たのが紙幣の始まりです。                      

 イタリア人・マルコポーロは「東方見聞録」の中で一二六○年に発行され
た紙幣が自由に流通している当時の様子を驚きをもって紹介しています。 
(ヨーロッパでは当時コインのみ流通していた。)           
 又一三七五年(洪武八年)に発行された「大明通行宝鈔」とよばれる紙幣
は縦三三八ミリ横二二○ミリ、のキングサイズで世界の紙幣発行の歴史上で
一番大きなお札です。用紙の材料は桑の皮の繊維で作られていて、図柄は銅
貸一束十個(一個百文で十個で一貫)、下の方には偽造処罰文言が印刷され
ており、文面は「大明通行宝鈔興銅銭通行、使用偽造者斬、告捕者銀式百五
拾両、依給犯人財産」となっており厳しい処罰であった。        

 近代の紙幣の状況を見ますと、代表的な紙幣は中国銀行券と中央銀行券で
すが中国は広大な面積を持つ国なので国家的な紙幣は地方の偶々まで流通出
来ず一九○○年〜一九四七年に地方の公的銀行、私的銀行又は地方銀行等々
多くの銀行や金融機関で発券されており、その数は一九一ヶ所もありお札の
発行枚数も膨大な数になり改めて中国の広さを再認識させられました。  
 一方図柄を見ますと、人物(孫子、孔子、関羽、袁世凱、皇帝等)SL、
ジャンク、長城、寺院、農民、動物(羊、ラクダ、馬)龍、等々バラェティ
に富んでおります。印刷もアメリカに発注したものもありABNC(アメリ
カ・バンク・オブ・ノートカンパニー)の印刷券も見られます。     
 一九四九年現在の中国が生れる前年より中国人民銀行が新たに紙幣を発行
し全土に流通が始まりお札の全国統一が達成されました。現在使われている
紙幣は一九八○年より発行され拾円より少額の図柄は代表的な小数民族の男
女の肖像を使用している。これは世界各国の紙幣の中でも類を見ない珍しく
興味深いお札です。                         

 最近話題になっている香港の中国への返還に先がけて中国銀行が一九九四
 年香港で二○円〜二○○○円の四種類の紙幣が発行ざれ現在流通しています。
 蛇足ですが中国のある地方では死者が冥土で生活に困らない様に多くのお
札を持たせる風習があります。本物のお札ではもったいないので、葬儀用に
あの世で使う「冥土のお札(Hell Bank Note)」が販売され
ている。葬式にはこれを買ってきて、できるだけ多く棺桶の中に詰め込むの
です。これを中国では「紙銭」といいます。              
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