書評:森樹三郎 著
『中国思想史』を読む


角瀬 やよい

 中国の思想について以前から知りたいと思っていた。「中国の思想といえ
ば共産主義、そういうことに興味があるの」などと言われたこともある。い
や、そうではない。私は、中国社会の決定的要因となるものの考え方や、中
国の人々の行動様式の基本といったようなことに感心がある。      
 全く同じ状況下で日本人と中国人の感じる感じ方が大きく異なる場合があ
る。皆思いあたることもお有りかと思う。               
 本書は、中国にあこがれた人がただそうした感情を書いたという本ではな
く、もっと思想の根幹の部分、すなわち認識論とか哲学史等をふまえて、世
界中の様々なものの考え方とも比較研究した上で、中国について書かれてい
る。                                
 さて、あなたは中国思想の中の何に関心をお持ちでしょう。      
 仏教の「空」、老荘の「無」、道教の「気」でしょうか?       
 本書で注目すべきは、その発祥の地インドと、それが伝えられた中国とで
は、仏教理解が全く違っていることだ。インド人にとって輸廻転生は、この
上もなく恐ろしい事実であり、この悪循環からいかにして脱出するか、その
「解脱」こそが救いだった。                     
 一方、もともと儒教の国で暮らしていた中国人にとって、人生は一回限り
で、死の訪れとともに、一切は永遠の闇の中に消え去り、生前の不幸を償う
べき道は閉ざされている。                      
 この儒教の人生観が持ついわば欠陥を、インドから来た仏教が補ったわけ
 である。すなわち、道徳的善行と人々の幸福が全く結びつかない儒教に対し、
仏教がもたらした輸廻説、三世報応の説は中国人にとって大変魅力あるもの
だったわけである。                         
 今まっとうに暮らしていれば、来世は幸福に・・・。         
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