『日本に来て1年』


催 玲


 日本に来てもう一年という時間が経ちました。生れて二十一年間、一度も
父母のそばを離れたことのない私が、二十歳になった年に一人旅に出かけま
した。それも長い時間を覚悟して海を越えた日本という国ヘ。      
 日本留学は、日本語を専攻している私達中国の大学生たちの夢です。日本
語をマスターするための一番近い道でもあるし、発展途上国から先進国への
憧れでもあります。中国では、国家から派遣されたとか、外国に親戚がいる
かなどと言う理由がない限り、出国するということは本当に難しいことなの
です。もちろん出国の目的が留学であっても。中国で何故出国を制限してい
 るか私には分かりません。先進国の人々はお金さえあればどこへも行けます。
でも発展途上国の人々は自由に行けません。もちろん国家で自由に行けるよ
うにしても、経済的な問題で自分のお金で出国する人はごく小数だと思いま
 す。私の家は金持ちではありません。今回の日本留学は完全に「縁」でした。

  家族の期待と、友達の羨望の中で、私は留学の道に登りました。新しい環
境と、見知らぬ人ばかりの中で、一人暮しも始まりました。朝ご飯を作って
くれる人はいません。冬の夜中に帰って来てもストーブを焚いて部屋を暖め
 てくれる人はいません。ホームシックで泣いても聞いてくれる人はいません。
でも、初めてほんとうの意味でも寂しさ、悲しさ、辛さが分かりました。そ
して父母の愛がどんなに偉大であることか、働くということがどんなに大変
なことかも分かるようになりました。日本に来て一年、この一年間を振り返
 ってみる今日、こういう全てに感謝していることに自分自身も驚いています。
心の幸せを体験してこそ人の心の痛みを理解できるのでは。       

  中国の大学に、私の籍はもうありません。私の日本留学は国家から認めて
もらえなかった。後二年在籍すれば卒業できたのに、中国の大学を中途半端
にしてしまいました。でも大学での勉強を無駄だとは思ってません。この二
年間の勉強がなければ日本に来てまず言葉で苦労したと思います。大学の二
年間の勉強のおかげで、言葉でそんなに不自由は感じなかったし、苦労もし
ませんでした。大学での二年間は楽しい思い出ばかり。よい思い出として残
ってることを何より嬉しく思い、感謝しています。           
 来年、日本の大学を受験するつもりです。パスできるかどうか、バスでき
てもついてゆけるか、不安がないのではありません。でもやってみなければ
分かりません。今は、目標に向かい、それに取り組むことで充実を感じてい
る日々であります                          
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