『中国を旅して』


林 正康

 国慶節の休みに青海省を旅した。泊まった青海省の湖畔のパオは寒くて、持
っていた衣類を全部着て寝た。翌朝、孫さんのバックからねずみが飛び出して
逃げていった。青海湖を包むように広がる草原の中に、チベット族の婦人が一
人ポツンと座ってヤクや羊の番をしていた。毎日がそうして過ぎていく生活を
想像した。                              

 国家専家局の招待で行った河北省の唐山。ここは1976年に起こった唐山
大地震で有名になったところだ。当時、中国は文化大革命中でその被害の全容
は公表されなかったが、死傷者あわせて40万人の大惨事だった。この年は中
国にとって大変な事が続けざまに起こった。一月の周恩来の死去とそれに関連
して三月に起こった第一次天安門事件、九月の毛沢東の死去、十月の江青ほか
四人組の逮捕と、まさに激動の一年だった。唐山は今、陶磁器と石炭の町とし
て立派に蘇っていた。渤海湾に面したリゾート地の北載河にも専家局の招きで
行った。政府機関の保養所や高級幹部の別荘が立ち並ぶ避暑地で、砂浜の海水
浴場が広がっている。万里の長城の東の端にある山海関もこの近くにある。山
海関に行く途中六人の死刑囚が二人ずつ三台のトラックに乗せられて街中を引
き回されているのを目撃した。                     

 中国は長い歴史を持つ国である。その文化は日本文化の原型となっている。
西安に行ったとき、唐の三代皇帝高宗の孫にあたる永泰公主の墓を訪ねた。築
山の下に横穴(羨道)がゆるい傾斜で地下へのび奥室の手前には唐美人の壁画が
色彩も褪せないで残っていた。高松塚古墳の壁面を思い起こさせた。    
 大同の雲岡石窟や洛陽の竜門石窟を見る時、古代の中国文化が日本の仏教文
化に与えた影響を改めて認識させられる。中国を旅すると、心の奥になにかし
ら懐かしさを覚えるのは私一人だろか。                 


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