『ハルビン雑感』


高谷 亨

1.冬                                
 十一月中旬に昨年より一ケ月ほど遅い初雪が降りました。雪といっても積も
 るのは一〜ニセンチ程度で、北海道とは比べ物にならないくらい少ない量です。
ですから、雪が降るとハルビンの人たちは竹箒で雪を掃いておしまいです。道
路などは圧雪やアイスバーンになってくるとそれぞれの会社や学校ごとに割り
当てられて総出で氷割りの作業があります。これをサボルと罰金なのでみんな
一生懸命にやっていて、私のいる大学にも氷を割るカーンという音と学生たち
の歓声が響き渡ります。その風景はハルビンの冬の風物詩といってもいいので
はないかと思います。                         
 冬の到来と共に市内を流れる松花江が凍りだし、氷祭りの準備が始まりまし
た。今年は夏の水不足の影響で、氷を確保するのが大変みたいですが、それで
も十二月三十一日の開幕に向けて日中でも零下三十度近い中で連日作業が行わ
れています。それにしてもつるつる路面で夏タイヤのまま走っている。ハルビ
ンのドライバーはみんな度胸があるなあと感心してしまいます。      

2.新札                               
 日本でも二千円札が出たようですが、私がハルビンに来てから昨年百元札が
新しくなり、十月には新しく二十元札も出ました。そしてさっそくというか偽
札が待ってましたとばかりに出てきました。               
 中国での買い物も楽しみはいかににせものと本物を見分けるか、またはいか
 によいにせものを買うかということだと私は思っています。私がよく買うのは、
映画のVCD(絵が見れるコンパクトディスク、日本ではDVDが最近出回っ
てますが中国ではもっぱらこのVCDが人気)の海賊版です。日本ではまだ封
切られていない映画が一本、百円前後で買えます。ただし、中身は見てからの
お楽しみ。たいていは映画館での隠し撮りで、観客の笑い声などが見事に入っ
ていたり、隠し撮りの位置が悪くて画面が斜めだったり、撮影者の指の間から
画面を見ることになったり、そして時には何も映っていなかったり・・・。た
まに完璧なのに出会うとそれだけで感激してしまいます。というわけでたまり
にたまったこれらVCDをどうやって日本にもって帰るかが目下の悩みの一つ
です。                                

3.帰国                               
 大学の授業もあと二週間足らずで終了。今月(十二月)の末から一月の中ま
で学期末の試験期間に入ります。そして春節を経て三月には私は帰国します。
あっという間に二年に近い月日が流れていきました。最近授業をしていると、
どうも日本語を日々忘れていってるような気がします。こんな簡単な言葉がど
うして思い出せないんだろうと思うことがよくあります。こんなことで帰国後
の厳しい現実にさらされるまでのあとわずかな時間をせいぜい楽しむしかない
と思う今日この頃です。                        
 中国の大学生は総じてみな真面目でした。授業もとてもやりがいがあり、と
ても楽しいものでした。しかし、今年度から中国は大学生の数を増やし始めた
ので、今後は中国の大学生も今よりは多様化していくと考えられます。中国で
は大学生の結婚は許可されませんが、最近それを強行突破したという記事が新
聞に載っていました。遅刻やさぼりも日常的になりつつあります。でも、どん
なに学生が増えても中国の学生が持っている良い意味でのエリート意識は失わ
ないでほしいもです。                         
     軽軽的我走了  正如我軽軽的来          
                  徐 志摩『再別康楕』より   


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