anomaの粋酒酔音
(15)
鰹出汁のワイン
1980年代に旅して人なら御存知だと思いますが、
日本を除いてアジア各地にまともなワインはありませんでした。
チャンスがあればということで、地元産のワインには
いろいろ挑戦してきたのですが、ほとんど撃沈。
ウイグルのように葡萄の産地であっても、
呑めるのはワインではなくてアルコール入り葡萄ジュース。
中国もので唯一呑めたのが長城ワイン。
これはフランスとの合弁会社制作とのことで、
まあそれなりの味がしていました。
お隣の韓国はいま空前のワインブームだという話ですが、
これはあくまで日本の漫画「神の雫」のヒットということで、
国産ワインの評価は寡聞にしてあまり耳にしません。
むかし現地で、これが韓国のワインだといって
出されたものはいわゆる山葡萄ワイン。
それも酒精強化ワイン、というと聞こえは良いですが、
これは一種の果実酒の類でしょう。
インドネシアは住民のほとんどがイスラームですから、
もともと酒に関しては期待していませんが、
それでもヒンドゥーのバリにはワイン醸造所があるようです。
とはいえここではトゥアック(椰子酒)やブレム(米ワイン)の方が
有名ですし、それぞれ個性的で旨いのではないか思います。
ジャワなら現地の人に頼んでラム(これは旨い!)という手もあります。
スハルト時代に、イスラーム勢力に妥協したため
醸造所が表舞台から姿を消したとのこと。
スカルノ時代はけっこう大っぴらに呑んでいたみたいですね。
マレーシアに近いスマトラのリアウ州でも
雑貨屋でウィスキーが買えましたが、さて今はどうでしょう。
他にもミャンマーや北朝鮮にもワインがあるようですが、
残念ながら未呑です。
それではということで旧宗主国の輸入物を選んでみると、
これも長い船旅で疲れたのか、どれもよれよれ。
値段だけがインポート価格というのでは、呑む気がなくなります。
そんなかで面白いのがタイとインド。
タイもので呑んだのはカオヤイ(KHAO YAI )ワイン。
特に赤の上級品リザーブのシラーズは傑作。
難というか鰹出汁が効いたような不思議な味わい。
あのシンハ・ビールのオーナーが
カオヤイ国立公園の麓に開いたワイナリーで、
これはもう道楽の域を超えています。
欧州のワイン・コンペでも2年連続受賞していますし、
APEC認定ワインというのも納得。
とはいえ、通常のワインに慣れた舌には
ちょっと刺激が強いかもしれませんが。
他にもあのオリエンタル・ホテルの会長が始めた
シャトード・ルーイなど
幾つか優れたワイナリーがありますから、
これから期待できそうです。
昔から国産に拘ってきたインドにも
ワイン・ブームが訪れているようです。
かつても呑めるワインがありましたが、
近年は多くのワイナリーが開かれ、
世界的に反響を呼んでいるものも出てきました。
驚いたのはスパークリング・ワインが活けること。
むかしその名も「ゴーダマ・ブッダ」
というスパークリングがありましたが、
ワインの指標としては、
かなり高レベルということだけは言えそうです。
そういえばタイもインドも広大な国土を持っています。
葡萄造りに適した場所も日本より多いはず。
現地に行ったら一度は試してみてください。
(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)
筆者:星川京児
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