anomaの粋酒酔音
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即墨老酒は古代中国の黒ビール 先だって中国を代表するのは白酒というようなことを言いましたが、
もう一つ大事な酒がありました。
あの紹興酒を筆頭に中国南部でよく呑まれる酒です。
透明なスピリッツ系を白酒というから、醸造酒のことを黄酒というのでしょうか。
聞くところによると「フランスワイン、純米吟醸酒と並ぶ世界三大美酒」だそうですが、
白酒好きに言わせればあれは「台所の酒」。
呑むんじゃなくて料理の味付け用だと。
まあ北京で聞いたことですが。
黄酒を熟成させたものが老酒。
こっちの方が日本人には通りがいいかもしれません。
なかでも有名なのが浙江省紹興で生まれた【紹興酒】。
煙草もそうですが、人気が出てくると偽物が横行するのはこの国の宿命。
で、政府が2000年に、江南地方の餅米と麦麹、
そして紹興を流れる鑒湖の水でできたものだけを
紹興酒と決めてしまいました。
それだけ各地で黄酒が造られているということなのでしょう。
ちなみに、紹興酒は糖度や度数によって4種類に分けられます。
地元紹興ではお茶代わりとも言われ、現地で最も呑まれているのが【元紅酒】。
15〜16度、糖度0,5%以下。
紅色の瓶に詰められていたことからこう呼ばれています。
【加飯酒】は元紅酒よりも1割餅米が多くて17〜18度、
糖度2%。花や動物などを彫った瓶に詰められていたために
花彫酒ともいわれますが、女の子が産まれた時に瓶に入れ、
婚礼時に開けるという【女児紅】もそうです。
文革で開けられなかった女児紅をテーマにした映画もありました。
なぜか英語タイトルが[RED
WINE]。
これじゃ判らない。
日本に入っているのはもっぱらこのタイプです。
次いで熟成させた元紅酒を仕込み水として使う【善醸酒】。
度数は若干低めですが糖度は8%。なぜか上海人が好きだそうです。
そして紹興酒の酒粕焼酎を仕込み水に使う贅沢な酒が【香雪酒】。
糖度はなんと20%。ほとんど甘めのリキュールですね。
面白いのは新しい酒の方が濃厚で、
陳年という長期熟成の方がサラッとしていること。
80年代半ば、ロケハンで中国の蘭州を旅した時、
立ち寄った食堂で呑んだ黄酒はすごい表面張力でした。
茶碗一杯3角くらいだったかなあ。
地元の爺さん達はそれ一杯で一日粘るそうです。
ちなみに当時の田舎の中国料理は、本当に塩辛いだけ。
まあ御飯は進みますけど。
この黄酒には江南以外に北方(山東から華北一帯)と
南方(福建)型があります。
今日はその北方系黄酒の代表、山東省の【即墨老酒】。
原料の黍を焦げ付いたような色になるまで
炒めた麦麹を加えて発酵、濾過、熟成。
この味をなんと説明しましょうか。
黒ビールにも似た苦みと独特の酸味、甘みetc,……。
名前からしてひょっとしたら墨はこんな味?と思わせるもの。
とても紹興酒のお仲間とは想像できません。
紀元前11世紀に遡れるというこの黍酒。
北京料理の故郷ともいわれる山東料理と並んで、
漢民族の味覚の原型があるのではないか、
など壮大な気分になれる酒でもあるのです。
(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)
筆者:星川京児
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