anomaの粋酒酔音
(6)
キル・ビルならぬキル・デヴィル、元祖鬼殺しラム
ラムという酒はサトウキビさえあればどこでも出来る酒です。
生まれは17世紀、西インド諸島のバルバドス。
スペイン人が持ち込んだサトウキビを原料に
イギリス人が造った蒸留酒です。
そのプランテーションで働く黒人労働者を
購入する対価がラムだったという、
笑えない歴史を持つ酒ですが、
造り易さもあって瞬く間に世界に広まっていきました。
デボンシャー方言で興奮を意味するRumbalionが語源。
呑んで騒ぐバルバドス人を観てラムと付けたそうですが、
一説によると踊りのルンバとも関係があるといういかにもの命名です。
文献によると、キル・デヴィル(鬼殺し)という
別名もありますが、
このへんは世界中どこも同じですね。
また、トラファルガー海戦で死亡した提督の遺体を
ラムの樽に漬けて運んだことから
「ネルソンの血」との別名もあります。
ところがこの防腐剤代わりのラム、イギリスに着いた時は、
ほとんど呑み干されていたとか。
いったいどんな味だったのでしょうか。
というより、遺体の方はどうなっていたのかが気になります。
いずれにせよ、イギリス海軍とは密接な関係があります。
二日酔いになりにくい?のと安いので、
18世紀に軍の支給品となったのはよいのですが、
あまりに呑み過ぎて作業に支障を来すこともあったそうです。
それでラムを1/2の水で割ったものを一日2回に分けて
支給することになりました。
その命を下したのがエドワード・ヴァーノン提督。
彼のコートの絹と毛の混紡=グラム地にあやかり、
この水割りはグロッグと呼ばれるのです。
なのに、後世泥酔状態をグロッキーと言われるようになるとは、
本人も思わなかったでしょう。
その造り易さが反映してか、世界各地に国産ラムがあります。
色合いでホワイト、ゴールド、ダークがあるのはご存知でしょうが、
もう一つは味わいで分類します。
連続式蒸留機で砂糖を絞った後の糖蜜を原料にするライト。
これは【ハバナ・クラブ】など旧スペイン系諸国に多く、
単式で樽熟させるヘヴィーはジャマイカなどイギリス系。
ミディアムはその中間というか、双方をブレンドしたり、
単式の原料を連続式で造ったりと様々ですが、
このタイプはハイチなどフランス系でみられます。
またカリブ海で蒸留した原酒をイギリスで熟成させた
【マイヤーズ】のようなものも。
なかには絞りたてジュースを原料にした「アグリコール」表示の
マルチニーク・ラムまで、多様性においてもトップかも。
さて変わり種としてはやはりアジア。
といってもサトウキビの原産地は東南アジアだから
これも一種の先祖帰りでしょうか。
筆頭はインドの【オールド・モンク】。
ミャンマーの【マンダレー・ラム】
珍しいものではブータンの【ブータン・ラム】と実に多彩。
日本にも最近開発の進んだ奄美ものから
【小笠原ラム】なんて珍品も。
でも珍しさでは、スハルト時代に表舞台から追われた
中部ジャワの【ラム】。
名前もなければ決まったボトルすらありません。
でも味わいはなかなか。
これを呑むと。ちょっとした禁酒法時代を味わえるかも。
(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)
筆者:星川京児
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