anomaの粋酒酔音
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呑むバイアグラ、カツアバ(カトゥアバ) 酒というのは酔うためにだけあるのではないようです。
少なくとも世界の一部の国では「健康」のためにも呑むようです。
特に漢方思想の強い中国では
「強精補酒(チャンチンプーチュウ)」
と呼ばれる強精酒まであります。
日本にも蝮酒やハブ酒はありますから、誰しも考えることは同じ。
とりあえずのスタミナよりも普段の健康という向きには
「葯味酒(ヤオウェイチュウ)」でしょうか。
甘草やハマナス、紫蘇といった薬効のある草花を漬け込んだ
混成酒ですが、まあ【養命酒】ですね。
これはヨーロッパのリキュールの系譜にも連なります。
今でこそ好みで呑みますが、
もともとは修道院などで薬効を求めて造られたもの。
【シャルトリューズ・ヴェール(緑)】なんて130種以上の薬草ブレンド。
効かないわけがない。
とはいえあの【アブサン】もそうだといわれると、
処方箋を間違えると毒にもなりかねません。
ところで南米にも面白い酒がたくさんあります。
龍舌蘭を原料にした蒸留酒テキーラはよく知られていますし、
プルケ酒という醸造酒もあります。
パイナップルやププニャという椰子の実から造る酒。
もちろん新大陸原産のトウモロコシ、キャッサバも原料として重要ですが、
なぜかジャガイモは表に出てきません。
食べる方が先だったのかもしれません。
加えて熱帯雨林のアマゾンからアンデスの高地まで広大な大陸。
滋養強壮から幻覚作用まで多様な薬草、
薬木が、茸が目白押し。
ところがなぜかそれを使った酒が見あたりません。
わざわざ酒に漬け込まなくても、
手近で間に合うということなのでしょうか。
そんななか異彩を放つのがアマゾン先住民族トゥピ族の
媚薬系強精木の酒【カツアバ(カトゥアバ)】です。
この木は疲労回復薬としても使われる
コカ(コカイン)の仲間で、
インポテンツの治療だけでなく、神経強壮剤として用いられていると、
ちゃんとした学術書にもあります。
種類によっては葉も興奮剤として使われるそうですから、
良いこと尽くめ。
近所の公園にも1本欲しいところです。
もちろん、滋養強壮のためで、
加工してよからぬことをたくらんでいるわけではありません。
効くのはカツアビンと呼ばれるアルカロイドで、これが神経系を刺激し、
性機能を強化すると考えられているそうです。
ミナス州では「60までの子は彼自身の子、
それを超えるとカツアバの子」という言い伝えもあるそうです。
服用すると最初に体感するのはエロチックな夢で、その後性欲が増加。
神経系統に作用し『特に』男性生殖器能不全に有効。
おまけに悪性副作用がないなんて実に夢のような薬木。
そのエッセンスを込めた酒というのですから、まさに呑むバイアグラ。
いかにも効きそうな褐色の液体。ねっとり、とろーりとした舌触りに、甘い香り。
良薬は口にも甘いのです。
(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)
筆者:星川京児
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