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anomaの粋酒酔音

(9)

幻の酒サフラン酒

 酒の原料は果物か穀類というのは常識。

なかには牛乳や蜂蜜というものもあるけど、まあそれは例外。

そんななかで最も珍しいと云われているのが、

花を発酵させて造る酒【モフア酒】

インドのサンタル族が造る蒸留酒だけど、

もともと花弁を食べる花だけに発酵、蒸留してもおかしくないのでしょう。

詳しくは拙著『粋酒酔音』を読んでください。



 でももう一つ、インドで不思議な酒を呑んだことがあります。

 もう20年近く前のことだけど

「フェスティヴァル・オブ・インディア」

という国営のお祭りのために、調査とオーディションを兼ねてインドへ。

ケーララでは椰子酒のターディ。

デリーではインド産のビールやウィスキー。



でもタール沙漠で出会ったサフラン酒ほど印象に残ったものはありません。

 現地では【アーシャ】と呼ばれるサフランの蒸留酒ですが、

普通、サフランというと思い出すパエーリアやブイヤベースに使うのは

花の雌しべで、花弁の方は通常鑑賞するだけ。

1gの乾燥雌しべを採るのに300の花がいるというから

ずいぶん値の張る香辛料。

もっとも、酒の方は花全体に蜂蜜を加えて発酵させるので

そんなに高いものではないはず。

とはいえ、敬虔なヒンドゥーやイスラームの多い西北インド。

いくら美味くてもおおっぴらに特産品として売れるものでもない。

加えて、現在では造られていないというから

まさに「幻の酒」というに相応しいもの。




 実は、実際に呑む前から、この酒のことは気になっていました。

川又一英という紀行作家がこの酒について書いていたことを

覚えていたのです。

ねっとりとやわらかいという記載が気になって、

何時かはと、心に期していた酒だったのですね。


 ちなみに、私がそれを呑んだのはタール沙漠真っ只中のブルンダ村

そこにラージャスタンの放浪芸の研究所を持つ

K・コタリ氏から頂いたのがこれ。

ランガやマンガニヤールという放浪芸集団の選り抜きを

オーディションするという濃い時間後の無礼講。

加えて百年ぶりという大干魃の9月の夜。当然空気は澄んでいる。

で、星降る沙漠の大宴会。

日本組、インド組に加えて『本職の』芸能集団がざっと30組。

これで盛り上がらないわけはない。

ということで酒も一瞬のうちに終了。

まさにあれは、蒸発としか云いようのないスピードでした。

ということで味はほとんど覚えていません。

が、不味くなかったことは確か。不味い方が印象には残るのです。



それ以来、サフラン酒というと、

黄色っぽい水色や独特の香りよりも、

タール沙漠の乾燥した空気と、

翌朝飲んだ酔い覚ましのしょっぱさが脳裏に。



干魃は井戸水も塩で侵すのです。

そして何より、音楽の凄さ。

砂塵を貫く太鼓と喉。官能を極めた絃と管。

気分はほとんどアラビアンナイト。

もとい、ここラージャ(王)スタン(国)では、

やはりマハラジャの気分というべきでしょう。



(このコラムで紹介したお酒は、運が良ければANOMAで、飲むことができます。)

筆者:星川京児

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