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トレーニング計画の作成方法
皆さんはトレーニング計画を立てるときには、どのような考え方を基準にしてメニューを作成していますか? 陸上競技のトレーニング理論や方法は多種多様にありますが、「どの理論を参考にして、どのように計画を立てたらよいのかわからない」という声をよく聞きます。ましてや、それが専門的な指導者がいないクラブにおいては深刻な問題であると思います。 指導者が選手に対してトレーニングメニューを作成することは、医師が患者に対して薬の処方箋を出すようなものです。薬にはそれぞれ効用がありますが、患者の症状に適した薬を処方しないと十分な治療効果は得られません。同様に、どんなに優れたトレーニング計画であっても、それを実行する選手に合ったものでないと、記録の向上には結びつきません。「あの選手がやっているから」ということで、有名選手のトレーニングを真似して行っている選手をよく見かけますが、何が目的のトレーニングなのか、どのレベルの選手に合ったトレーニングなのか、そのトレーニングがはたして自分に適したものなのか、をよく見極めて行わなくてはなりません。 そういうことがわからないで、「ただ人真似をしていてもだめ」ということです。 以下に記述してあるのは、トレーニング計画を作成する上で基本となるものです。これらを踏まえて、自分に適したトレーニング計画を作成してみてください。 なお、具体例として、年間トレーニング計画表・月別トレーニング計画表・トレーニングアイテム・トレーニング負荷指標等がありますので、トレーニング計画を作成するときの参考にしてください。 |
合理的なトレーニング計画を作成するときに忘れてはならないことは、トレーニングの原則を守ることです。この、トレーニングの原則を無視した計画や内容は、トレーニングの効果が期待できないだけでなく、故障や障害を引き起こす原因になります。 |
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1.自覚性の原則 | 体力トレーニングの目標・手段・効果などを十分意識してトレーニングを行う。 |
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2.全面性の原則 | 体力の各要素をバランスよく全面的に発達させる。 |
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3.個別性の原則 | 個人差を考え、各個人の身体的・精神的特徴を考慮してトレーニングを行う。 |
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4.漸進性の原則 | 体力の向上にともなって、トレーニングの運動負荷を徐々に強くしていく。 |
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5.継続・反復性の原則 | 適切な刺激を繰り返し与えるとともに、規則的に継続してトレーニングを行う。 |
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6.超回復の原則 | 体力を向上させるためには、トレーニングの負荷が通常行っている負荷よりも少し大きなものでなければならない。 トレーニングをすることによって疲労状態になり一旦体力は低下するが、疲労から回復した後は、トレーニングを始める前よりも能力はアップしている。 |
トレーニング計画を作成する手順として、まず最初に具体的な目標(記録)を定めます。そして、その目標を達成するための期間を設定します。計画期間が長いほど、将来を見据えたより大きな目標設定ができ、全体の中での位置づけがわかりやすくなります。例えば、バルセロナオリンピックや世界陸上東京大会で400mファイナりストになった高野進選手は、ソウルオリンピック以後の4年間を一つの大きなトレーニングサイクルとしてとらえ、最終的な目標を達成するために、各年ごとに重点的に強化するテーマを決めてトレーニング計画を作成しました。 一般的に高校の指導者は、新入生を迎えると高校3年間(実質2年半)を見据えて計画を立てます。それに沿って、一年ごとの年間計画を作成し、さらに細かなスケジュールを立てていきます。この1シーズン単位の期間のことをマクロサイクルといいます。一つのマクロサイクルは、さらに細分化されたいくつかのミクロサイクルから構成されます。 |
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トレーニング計画 > 年間計画 > 期のトレーニング > 週のトレーニング > 1日のトレーニング | ||||||||
1.マクロサイクル | ||||||||
陸上競技におけるマクロサイクルは、移行期・一般鍛錬期・専門鍛錬期・試合準備期・試合期から構成されます。1年の競技会シーズンが終了した時点で新しいサイクルが始まります。日本では競技会シーズンが春と秋の2回ありますから、秋のシーズンが終了した時点で新たなサイクルになり、春のシーズンから秋までの間に再び鍛錬期が設定されます。 各トレーニング期の設定期間の長さは、対象となる選手のレベルや目標としている競技会の設定によって異なります。 |
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マクロサイクルの具体例は、 年間トレーニング計画表 を参照してください。 | ||||||||
移 行 期 | トラックシーズンが終了して冬季トレーニングに移行していく期間です。 今年一年を振り返り、次のシーズンに向けて目標を立てます。 心も体もリフレッシュして冬季トレーニングを始める準備をします。故障をしている人はこの時期にしっかり治しておくことが大切です。 このトレーニング期は、総合的な体力づくりを行うとともに、シーズン中にはなかなかできない技術の改良に重点を置きます。 |
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一般鍛錬期 | 本格的なトレーニングの始まりです。 最大筋力・テンポ持続力・一般持久力の向上に努めます。 このトレーニング期は、スピードよりも負荷の大きなトレーニングに重点を置きます。 |
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専門鍛錬期 | 走トレーニングのスピードが年間を通して底の状態から上がります。筋力負荷は重いものから軽いものへと移行していき、筋スピードを上げるトレーニングを導入していきます。 気温が低い条件下でのトレーニングなので、故障の防止には細心の注意を払う必要があります。 2月には室内競技会が行われますが、、これに出場する目的は、冬季トレーニングの進行状況をチェックし、レース感覚を取り戻すことです。 |
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試合準備期 | 競技会シーズンを迎えるための準備をする期間です。 レースの要素を多く取り入れたトレーニングメニューになります。専門鍛錬期から試合準備期に移行するときに、スピードレベルを急激敵に上げないように注意しましょう。体がスピードレベルの変化に対応するのには時間がかかりますから、徐々に慣らしていくことが大切です。 |
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第1試合期 | スピードトレーニングが中心になります。 全体的なトレーニング量は鍛錬期と比較すると少なくなりますが、トップスピードでのトレーニングによって疲労しやすくなります。 この時期も筋力トレーニングを行いますが、鍛錬期が筋力アップを目的にしているのに対して、試合期は筋力維持が目的となります。 自分が狙う競技会までに、必要なことはすべて行っておく必要があります。その意味では、競技会が最も有効なトレーニングになりますので、ただ記録を狙うのではなく、課題を設定して上手に利用しましょう。 高校生はインターハイを最大の目標にしていますので、個人のインターハイ路線が終わった時点で第1試合期の終了となります。 |
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第2鍛錬期 | 冬季トレーニングで蓄積した筋力や体力も、春の試合期で貯金を使い果たし、レベルが低下しています。ここでは、秋のシーズンが始まるまでに、再度筋力や体力のアップを目的とします。しかし、冬季トレーニングと異なるところは、スピードレベルを保ったままトレーニングをすることです。また、夏の暑さと闘わなければならないので、夏バテ対策も怠らないようにしましょう。 1・2年生でインターハイに出場した選手は、この期間が十分取れないと、秋のシーズンで良い結果は望めません。東京都の競技会日程では、8月下旬に国体予選がありますが、インターハイ終了後から2週程度はしっかり鍛え直してください。 |
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第2試合期 | 気温が下がり夏の暑さから開放されると、好記録が出やすくなります。春のシーズンで不本意な結果に終わった選手は、夏のトレーニングの成果を発揮してください。 トレーニングの内容は、基本的には春のシーズンと同じです。 国体・関東新人に出場する選手は競技会の時期も遅く、低温下でのレースになりますので、体調管理には十分気をつけてください。 |
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2.ミクロサイクル | ||||||||
ミクロサイクルの各期間は、3〜5週が一つのユニットになります。このユニットは、1週間単位でトレーニング強度を変化させたり、テーマを設定します。ミクロサイクルのトレーニングでは「超回復の原則」を用います。まず最初に、ミクロサイクル全体でのトレーニング量と標準となる週(中強度)のトレーニング内容・量を設定し、それを基準に強化週や回復週のトレーニング内容・量を決めていきます。「超回復の原則」では週が進むにつれて段階的にトレーニング強度を上げていき、強化トレーニングの次の週に回復週がくるようにします。サイクルの強度設定は、自分が狙っている競技会から逆算して計画を立てます。 |
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トレーニングの流れ : 標準(中練習) → 強化(強練習) → 回復(弱練習) → 標準 → 強化 → 回復 | ||||||||
標 準 週 | そのトレーニング期間の基準となるトレーニング内容・量を設定します。 |
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強 化 週 | 超回復を用いるために一時的にトレーニング負荷(量)を大きくします。 |
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回 復 週 | 強化週の次には必ず設定するようにします。疲労の回復を重点におきます。 |
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3.週ごとのトレーニング | ||||||||
週ごとのトレーニングでは、体力要素ごとのトレーニング種目の配分と並び順を考えます。 | ||||||||
1.トレーニング日 | 週に5日程度でよいと思います。(3勤1休・2勤1休) | |||||||
2.走トレーニングの設定 | スピードトレーニングは休養明けに設定し、日を追うにつれて長い距離のトレーニングになります。 テンポ走の翌日に、ダッシュ系のトレーニングは入れないほうがよいでしょう。 |
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3.筋力トレーニングの設定 | 筋力トレーニングは部位別に、週3日(ウエイトトレーニングは週2〜3日)程度でよいでしょう。 ハムストリングの補強は、故障の防止の観点から休日の前日に行うようにします。 |
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4.日ごとのトレーニング | ||||||||
1日のトレーニングには、その日のメインテーマ(体力要素による)が設定されます。 また、最大限にトレーニング効果を得るために、トレーニング種目を実行する順番があります。 |
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1.技術系のトレーニング | スプリントドリル・スタートドリル等 | |||||||
2.最大スピード系の走トレーニング | 加速ドリル・スタートダッシュ等 | |||||||
3.スピード持続系の走トレーニング | ディセンディング・ポイント走・テンポ走等 | |||||||
4.筋力トレーニング | プライオメトリック・補強・ウエイトトレーニング等 | |||||||
5.体力・持久力系トレーニング | 球技・サーキットトレーニング・ロングジョッグ等 | |||||||
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