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大阪南港WTCで携帯電話が「圏外」なワケ

WTCコスモタワー(大阪府咲洲庁舎)は、大阪ベイエリアにある西日本一高い(高さ256m)高層ビルです。
(関空の対岸にあるりんくうゲートタワーも同じ高さ)

このWTC、不思議なことに高層階のオフィスフロアでは、携帯電話がほとんど入りません。
アンテナ表示も3本からいきなり圏外になったりと、非常に不安定な状況で、仮に3本立っていたとしても着信・発信できず、着信しても途中でいきなり通話が切れます。携帯メールも全然入らず、1階に降りたときにまとめて入るといった状況。

地下街でも携帯が入る昨今、携帯が入らないということは、仕事に支障をきたしたりはしないのでしょうか?
実際、WTC内では「携帯/スマホで番号を確認しながら公衆電話をかけている人」をよく見かけます。
「インテリジェントビル」には似つかわしくない光景です。

なぜWTCでは携帯電話が実質「圏外」なのでしょうか?
ちょっと調べてみました。





●携帯電話の仕組み

携帯電話は、発信時に「基地局」といわれる地上のアンテナに電波を送ります。
基地局は送られてきた電波をキャッチし、通話相手先につなげます。
相手先が携帯電話の場合には、相手に一番近い基地局から携帯電話に逆に電波を送るわけです。

つまり、このシステムが成り立つためには、
基地局は『自分の受け持ちエリア内にいる携帯電話が誰と誰のものか』、携帯電話は『今の場所から一番近い基地局がどこか』という情報を常に把握しておく必要があります。


●WTCはどの基地局?

携帯電話は現在地から一番近い基地局がどこかを、各基地局が発信する電波の強さを比較して判断しています。
移動しながら携帯を使っているような場合、「一番近い」基地局が途中で変わりますが、
そのような場合も、隣の基地局同士で連絡を取り、通話を切断することなく、使用する基地局を切り替えます。

1つの基地局は、半径約3〜5kmをカバーしています。
ただし1つの基地局で使用できる回線数には上限があるため、都心部では、電波の出力を下げ、設置間隔を狭くすることにより多くの回線数に対応できるようにしています。

では、WTCはどの基地局のエリアに属しているのでしょうか?
WTCで携帯が入らないのは、WTCに一番近い基地局が故障しているからなのでしょうか?

ソフトバンクの携帯には、現在地の住所を表示する機能(「位置情報」)が付いている機種がありますが、これは、「現在地」=「現在一番強い電波を受けている基地局の位置」というものです。
この機能を使って、どの基地局の電波を拾っているかを調べてみました。
(ちなみにWTCの本当の所在地は、大阪市住之江区南港北1丁目です)

大阪市住之江区南港中
大阪市港区築港
大阪市大正区南恩加島
大阪市此花区梅町
堺市築港新町
堺市北条町
堺市大美野
岸和田市上野町東
岸和田市下松町
岸和田市土生町
泉佐野市高松東
泉佐野市鶴原
高石市取石
西宮市羽衣町
西宮市浜甲子園
神戸市灘区岩屋北町
神戸市灘区記田町
神戸市中央区港島中町
神戸市須磨区古川町
神戸市垂水区城が山
神戸市垂水区塩屋町



あのー、WTCって一応大阪市内なんですけど・・・


どうやらここら辺にWTCが携帯圏外である理由がありそうです。





●「電波のカス」を受信
WTCは、さすが高層ビルだけあって見通しが良いので、神戸や泉佐野まで見渡すことができます。
つまり神戸や泉佐野から電波が届く条件はそろっていると言えます。

しかし携帯から発信される電波は基地局が発信する電波と比べ微弱なので、神戸や泉佐野の基地局の電波をWTC内の携帯が拾うことができても、WTC内の携帯から発信された電波を神戸や泉佐野の基地局が拾うのは100%不可能です。そんなところの基地局の電波を拾ってアンテナは3本立っていても、着信・発信は当然できません。

逆に言うと、WTC内の携帯電話がつながるのは「大阪市住之江区南港中」の基地局とつながっている時だけなのです。

それにしてもなぜ「一番近い」基地局である南港の電波を受信できないのでしょうか?

一般に基地局の電波は、少し高い位置から、斜め下を向けて発信されています。
これは、基地局同士の電波の干渉を抑えるためでもありますが、「上に向かって発信しても(そこにはユーザーが居ないので)意味がない」からです。

また、基地局アンテナも、斜め下から届く電波を一番効率よくキャッチできるよう設計されています。

つまり、
WTC高層階に直接電波が届く基地局は無いし、WTCから発信された電波をまともに拾ってくれる基地局も無い
ということです。

あえていうなら、WTCから基地局の距離が遠くなればなるほど、基地局に対してWTC高層階の角度は「上向き」から「水平」に近くなるので、電波が「直接」届く可能性は大きくなります。(ただし、距離が遠くなるので携帯受信には使えない意味のない電波となります)

つまり、先ほどの実験結果は「正しい」結果なのです。

以上の話をまとめると、WTCに届く基地局の電波は、

近い所の基地局の電波は、何かに反射して飛んできた電波を拾ったもの、遠い所の基地局の電波は、直接届いた微少な電波を拾ったもの、

であり、いずれにせよ「電波のカス」しかWTC高層階には届かないので、残念ながら携帯が実質圏外なのは当たり前のことなのです。

また、WTC内では携帯の充電池が異常に速く消耗しますが、これは、あちこちの基地局から「電波のカス」が出ているので、どの基地局が「一番近い」基地局か判断がつかず、その結果、いろんな基地局と接続を試みて失敗する、という作業を延々と繰り返すからかと思います。


●ではどうすれば良いのか?
携帯が入らない原因が基地局とWTCの位置関係にある以上、携帯をいくら新機種に買い換えても問題の解決にはなりません。
ビル内に基地局を設置し、各フロアごとにキャリア(Docomo、SoftBank 、au)別の室内アンテナを設置することが必要です。

WTCについては、最上部の展望台・レストランがあるフロアは携帯が入る(=ビル内基地局は設置されている?)みたいなので、室内アンテナの増設だけで対応できるかと思います。
また、受信の妨げにしかならない「電波のカス」を遮断するために、窓ガラス等を電波を完全に遮断するタイプに取り替える必要があるかも知れません。
しかし、これらは通常ビルオーナーの負担で設置しなければならないため、今のWTCの経営状況や、テナント(8割が大阪市役所とその外郭団体)の状況を考えると設置は望み薄であると言わざるを得ません。


『携帯が圏外である』
些細なことなのかもしれませんが、こういった些細なことに対する配慮のなさが民間企業に敬遠される本当の理由なのかも知れません。

と言ってたら大阪府の庁舎になってしまいました。なんだかなぁ。

あ、言い忘れましたがPHSも当然圏外です。






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