●高層ビルの安全性
〜「高層ビルが大丈夫」=「高層ビルの中の人が安全」ではない〜
(注意)タワーマンションの上層階に住んでいる人は読まない方がよいかと思います。
WTCの上層階で勤務している人も・・・ |
2008年に防災科学技術研究所の兵庫耐震工学研究センターで一つの実験が行われました。
E-ディフェンスという、実物大の建物に兵庫県南部地震クラスの地震の揺れを三次元的に与え、
その揺れや損傷被害、崩壊の過程を観測することができる施設を用いた実験です。
実験内容は、
高層ビルの30階相当部分を模した実物大模型に、南海地震において想定される地震動を与え、
そのときのオフィスの様子を見るというものです。
→ 詳しい実験の概要は
コチラ
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実験の結果はまさに衝撃的で、
人(マネキン)や棚が倒れた後、コピー機がそこらじゅうにぶつかり、壁に穴を開け、
部屋の中を縦横無尽に破壊し尽くします。
人は「机の下に隠れる」なんて生やさしいものではなく、
ものすごい勢いで揺れている床の上を、ただ為す術もなく転がっているだけです。
→ 実験の様子(動画)は
コチラ
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もしものすごい勢いのコピー機が直撃したら人間はひとたまりもないでしょうし、
窓ガラスもいくら強化ガラスとはいえ、粉々になってしまうでしょう。
WTCのフロアは全面ガラス張りなので、もし窓ガラスが割れたら・・・
人間が振り落とされないことをただただ祈るばかりです。
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このような揺れは、阪神淡路大地震のような「直下型地震」ではなく、東南海・南海地震のような
「プレート境界型地震」の際に発生する「長周期地震動」というゆっくりとした大きな揺れに、
高層ビルが「共振」したために起こる現象です。
長周期地震動による共振現象については、
日本では2004年の中越地震の際、震源から200kmはなれた六本木ヒルズのエレベーターが損傷し緊急停止するなどにより、
近年高層建築物に与える影響・被害について注目が高まっています。
共振は、高層ビルの持つ固有周期(おおよそ高さに比例)と地震動が持つ周期が一致することにより、
揺れ幅が大きくなる現象で、
WTCの持つ固有周期は約5秒と、東南海・南海地震で主に想定される
長周期地震動の周期とぴったり一致しています。
つまり、実験にあるような信じられない揺れは、WTCや高層マンションで起こりうる「現実」なのです。
もし、あなたが高層ビルでこのような揺れに遭遇して、幸運にも無傷でいられたなら、
あなたは次に救助と避難の判断を迫られることになるでしょう。
建物自体に崩壊の危険性がある、もしくは火事が起こっている場合には、
非常階段で避難する必要がありますが(もちろんエレベーターは使えない)、
火事の時の避難と違って、避難する人の中にはケガをした人も少なからずいるはずです・・・
・・・あなたは棚の下敷きになった人を見捨てて避難できますか?
また、あなたのケガの程度がひどければ避難することすらできません。
また建物が大丈夫という確信を持つのであれば、建物内にとどまるという選択肢もありかと思います。
余震に備えて、なるべく窓に面していない、物の少ない部屋がよいかと思います。
(ただし、外の状況は窓に面していた方が把握できます)
いずれにせよ、パニックにならない、引き起こさないように冷静に注意して行動する必要があり、
瞬時の判断力が正に生死を分けるでしょう。
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こんな事実を知ったうえで、高層ビルマンションを積極的に買おうとする人はなかなかいないと思いますし、
高層オフィスも需要が無くなってしまいます。
そこらあたりを踏まえてかどうかはわかりませんが、最近の大部分の報道においては、
「高層ビルが大丈夫」ということと「高層ビルの中の人が安全」ということが意図的に混同されているとすら感じてしまいます。
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現時点ではWTCが今後も市庁舎のままか、府庁舎になるのかは判りませんが、
(現在、大阪市のインフラ部局はほぼ全てWTCに入居しています)
どちらにせよ、災害時に重要な機能を果たすべき庁舎が高層ビルでは、
災害時に市民や府民にツケが回ってくるのは確実です。
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(2011.4.1追記)
恐れていたことが早くも起こってきています。
2011.3.11の東日本大震災により、WTC(現 府咲洲庁舎)に大きな被害が出ました。
エレベーターの停止・閉じこめ(復旧に5時間)、スプリンクラー作動で水浸し、
壁のひび割れ、パネルの落下 等々。
「大阪府内唯一の被災地」になってしまうようでは、イザというときに防災拠点機能を
発揮できないのは火を見るより明らかです。
(参考)
大阪府咲洲庁舎 被害1億円 (3/26)
咲洲庁舎長周期地震動対策で予算案に23億 (3/11)(←地震当日にでたタイムリーなニュースです)
(前編に
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