めにゅーぎゃらりぃ│本家☆化の町の場『花裘狐草紙』│

本家☆化の町の場『花裘狐草紙』

ほんけ☆ばけのちょうのば『はなころもきつねのそうし』
Koorintei Hyousen 2007
up 2007.06.13
Kanagaki Robun /Ichimousai Yoshitora 1862

■登場おばけ名前表

おおかねやたぬきち(大金屋多奴吉)
せんきのきんたろう(疝気の金太郎)
けなみのしろぞう(毛並の白蔵)
つみまるきつね(積丸狐)

化の町鞘当の場』と同様に、歌舞伎の『鞘当』をもとに吉原の「仲の町」を「ばけの町」ともじりかえて使っている先行作、仮名垣魯文の『花裘狐草紙』から該当の場面をピックアップしました。本家の、化の町の場です。

本家☆化の町の場『花裘狐草紙』

○作者曰
これより白蔵[しろぞう]多奴吉[たぬきち]
化の町にて鞘当[さやあて]の出遭ひの一段
掛け合いぜりふを芝居がかりに綴れるは
御見物の御愛嬌
左様に御覧くださりませう

√行き暮れて。木下蔭[このしたかげ]を宿とせば。
花や今宵のあるじとは。色ある里にゆめ結ぶ。
浮かれ男[おのこ]の言の葉や。
有情無情[うじょうむじょう]と異なれど。
変はらぬ恋のみちしばや。
人の姿に化けの町。通ひきつねやたぬ吉が。
今宵も例の玉垣が。もとへ行き来の桜どき。
こなたは毛並の白蔵が。いつもそそりの伊達姿。
闇をも照らすあんどうの。火影にそれと夜目遠目。
たがひに胸にいちもつの。
ありげに見ゆる詞端[ことのはし]
両人[ふたり]ひとしく立ち止まり。

多「遠からんものは腹の鼓の音にも聞け近くば夜の殿ぶりや
  目立つ狸のはんかつでたち稲妻ならぬ稲叢[いなむら]
  くぐり廓[くるわ]の大門を入ればたちまち分福茶釜かちかち山に這い回り
白「那須[なす]の玉藻[たまも]の九尾[きゅうび]らが
  生へたる毛並みのこん回は馬骨[ばこつ]に美女と早替り
  穴より通ふ化の町しろい毛並みのその中へうろつく狸の獅咬面[しかみづら]
多「われを知らずや土舟[つちぶね]のはじまり見たか腹つづみふかれてひとり狸寝も
白「もてるつもりの厚革[あつかわ]にまぎらかそうよ古だぬき降りにぞ降りし玉垣に
多「降られ牡丹や紅葉なべ
白「ぶたや獣の山くじら
多「化けて狐や
ふたり「ふるだぬき

狐と狸 鞘当の場面

白「刀のこじりを捕らへし獣なんと召さるる
多「これやこなたへ御免なれ身はこの里へ通ひ詰め当世たぬき大尽と
  人を化かして闇の夜に投げるつぶての八ッ当たり
  化け揃ふたる化の町この妖怪をよけずして何んで身共[みども]が尻尾を踏んだ
  獣の鞘当て挨拶さっせへ
白「そりゃこんこんより申すこと大道ひろき廓内[くるわうち]わがもの顔の化けの皮
  もしや噂のそこもとは
多「いまこの里に隠れなき狸魁[たぬきがしら]の大々尽[だいだいじん]
  白狐珠[びゃっこのたま]より金玉の網にかからば即座に寂滅[じゃくめつ]
白「大金持ちをかさに着て無法無体の行き違ひ避けて通すも恋の道
多「そこをそのまま通さぬが面黒[おもくろ]狸の立衆[たてしゅ]の意地づく
  なましかけたる白蔵と見た眼は違はぬこの出入り
白「さう言ふ獣は大金屋[おおかねや]
多「多奴吉さまとしら化けの毛並みは雪のしろぎつね
白「折りよくここで
ふたり「あったよなァ

(仮名垣魯文『花裘狐草紙』二編――より)