cheap the thief 5



 心地いい陽射し、今日は日曜日。

 町の人たちも各々自由な時間を過ごす日。普段より、親子連れが目立つ。



 ふわぁ、と大きな口をあけてあくびをして、背伸びをして。






「オヤジーぃ、今日仕事はー?」
「るっせ…、」


 バァンと勢いよく開け放ったドアが壁にぶつかって、派手な音を立てて棚の商品がいくつか床に落ちた。


「オイ! 売りもんになんなくなったらどうしてくれんだよ、赤毛のチビ!」
「うっせーな、どーせ誰も買わねーだろ? で、今日は依頼はあんのかないのかどっちなんだよ!」



 シオン・アスター。赤毛のチビと罵られた彼の属性は、泥棒である。

 イライラしながらシオンによって落とされた“商品”を拾い上げるスキンヘッドの巨漢は、ベクトル・ヴィクター。この店のオーナー(と言えば聞こえはいいのだが)である。


 シオンはこのベクトルを通して、クライアントから依頼されたものを盗み出す。
 報酬は要相談。料金は一応一律定められているのだが、依頼によってはベクトルの独断で多少色がつく。
 シオンがいただけるのは、その規定料金のたった1パーセント。

 それでも彼が不満も言わずこのスキンヘッドに付き従っているのは、ひとえに恐怖という、それだけの理由だった。



「昨日も言ったが、最近閑古鳥が鳴きっぱなしなんだよ! 文句あんならテメェで仕事探してきやがれ」
「イヤーイヤー。ヒマで結構。そうですか、そうなんですか。ああそりゃ確かにもう少しいい寝床が欲しいけどな。まぁでも俺は、貧乏は貧乏なりに生きていくすべを見つけたんだ」


 ベクトルは一瞬怪訝な顔をした、が、すぐに理解してまたかとため息をつく。


「まったく、いつからこんな不良少年になったんだろうねぇ」
「るっせーな! どこぞのハゲに拾われてから俺はどんな汚いやり方でもしなきゃ食いつなぐことすら不可能なんだよ!」
「ほう、そのどこぞのハゲに拾われてなければ、オマエはあのとき寒さに凍えてあの世に逝ってたんだろうと思うがね」

「( く そ っ た れ … ! )


 何年か前にベクトルに拾われたシオンは、何一つ与えられなかったが、泥棒と言う就職先だけは与えてもらった(押し付けられた)。

 しばらくは空き地で投げ捨てられた新聞をかぶって寒さをしのいで眠ったり、いいときは留守の家を狙って人様のベッドを拝借したりしていたが、誰かが引越しのとき残していった物置のようなものを見つけると、それ以来そこに住み着いている。
 
 徐々に賃金が入ってくるようになると、暖かな毛布をなんとか安値で仕入れたりもしてきた。


 当然、食物に関してはすべて自分のもつ腕でなんとかしのいできた。

 罪の意識に苛まれたのも1日目だけだった。生きるためには仕方がない、そう思うと自然と上達していった(気がする)。




「せめて水の出る家に住みてぇよな」
「住んだらいいだろうが」
「ここのやっしぃ給料じゃ何万年かかんだよ! クソ、家ばっかりは盗むにも…」
「そこのボロアパートは。誰も住んじゃいねーが水くらい出んだろ」
「毎月の家賃が払えましぇーん」
「バレないように勝手に住んどけ! それよりオマエ、イライラするからどっか退け! 愚痴だったらどこぞのアリスに受け止めてもらえ」

「アリス、アリスねぇ…。ウーン。今日はどのアリスにすっかな…」



 シオンは上着のポケットに両手を突っ込んで、壊れかけのドアをまた鳴らして店を出た。
 帰り際に舌打ちが聞こえた気がするが、都合よく聞こえなかったフリをした。











「今日はウマイ飯が食いたいから、あの娘にすっか」



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(2002/12/18)



まるで総集編のような…。
今までの4話はまるで無駄ですな…!!