【5】

見張り台に登ったゾロは、深々と息を吐き出した。
 最初は、からかうつもりで軽いキスをするだけのつもりだった。それが、あんな強引な、洒落で済まされないモノになるとは。自分で自分の行動が信じられない。
 そもそも、何でキスしようと思ったのかが、問題だ。
「んで、んな事にむかついてんだよ、俺は………」
 なんとなく原因に思い当たることがあり、ボソリと呟く。
 ナミとロビンにキスされ、二人を両脇に侍らせて喜んでいたサンジに、もの凄くむかついたのだ。だから、彼にキスをした。
 しかし、何故そんな事にむかついたのか。それがさっぱり分からない。
 再度、息を吐き出す。そして、先程の出来事を脳裏に思い浮かべた。
 驚き、大きな目をまん丸にしていたサンジの顔を。
 その唇の柔らかさを。
 口内の温かさを。
 密着した身体の温かさを。
 その香りを。
 赤くなった唇を。
 上気した頬を。
 自分を睨み付けてくる、微かに潤んだ青い瞳を。
 ズクリと、背筋が震えた。 
 下半身に熱が宿り始める。
 マストに強く後頭部をぶつけ、沸き上がってくる熱を、衝動を誤魔化す。そして、星が瞬く天を仰ぎながら、ボソリと呟いた。
「――――やべぇな」
 何がやばいのかは分からない。だが、何かがやばいと思った。このままでは、何かが変わると。自分の中の、何かが。
 それは悪い事なのかも知れない。変わってはいけない事なのかも知れない。
 だが、今までと同じようには居られない自分が居ることに、気付いてしまった。
「――――どうすっかな」
 呟き、目を閉じる。
 定まらない己の思考を、定めるために。









END






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《20070501》