やァ、みんな。
わしがキマイラことば研究所の所長、トーマス三田村じゃ。
「キマイラことば」とは、ある事を言わんとするとき、
人々が無意識に似たような言葉を繋げて創り上げてしまう哀しき化け物ことばの事じゃ。
ここではそのようなキマイラたちの保護ならびに研究活動を行っておる。
さあ、めくるめくキマイラワールドへレッツゴーじゃ。
やっほー、みんな。
ぼくは好奇心と飽くなき探求心の化身ヘンリー三木谷だよ。
みんなと一緒にキマイラことばの勉強をするよ。
マジよろしくね。
キマイラナンバー001
「話題殺到」
トーマス:ラジオの通販番組を聴いていて保護したキマイラじゃ。
おそらくは『話題沸騰』と『問い合わせ殺到』が合成されて生まれたものじゃろうな。
ヘンリー:話題の内容の魅力と話題という概念そのものの魅力、果たして自分の求めているのが
どっちだったのか判断の付かなくなっている現代人の、深層心理が見事に表れているね。
トーマス:本来は話題に人が殺到するものじゃが、この場合は話題の方から殺到して来るのじゃ。
向かいのタニグチさんの不倫疑惑、2日で10キロ痩せるふしぎな葉っぱ、
右隣のハラさんの旦那のヅラ疑惑、7日で300万稼げるヒミツのアルバイト、
左隣のフジさんの旦那のホモ疑惑、豆腐屋の跡取り息子の駆け落ちその後、
家庭事情、企業秘密、触れられたくない過去、国家機密……。
これら全てが我々の元へ怒涛の勢いで飛び込んでくるのじゃ。
ヘンリー:身の毛が、よだつね。
トーマス:身の毛が、よだつのう。
ヘンリー:でもそれは、情報社会と呼ばれる現代の側面をある意味で正確に言い当てているね。
僕たちは常日頃、新聞やネットを通じて話題に殺到されて生きている。
この言葉が、そんな不安から来る叫びとして口にされたものならば、これは深い話だね。
トーマス:ああ、はいはい、そおじゃのう。
キマイラナンバー002
「油断してたのにい」
トーマス:ニキビ薬のCMを聞いていたら女優さんが言うんじゃよ。
「ニキビ出ちゃったあ。このごろ出なかったから油断してたのに」
ヘンリー:これは微妙な問題だよね。
トーマス:どのように言葉が混ざってるか分かるかな、ヘンリー君。
ヘンリー:うん。これは『安心してたのに』的なニュアンスで『油断』という言葉を使おうとしたんだね。
トーマス:そのようじゃな。言やあこの期に及んで言葉づかいに関して油断しとる訳じゃよ。
ヘンリー:緩みっぱなしな訳だね。そもそも油断してるのは手前の落ち度だろうと強く言いたいよ。
トーマス:強く言うと良かろう。せえの、
ヘンリー:手前の落ち度だろう!