ボウエンキョウガホシイ症候群 2
毎年夏に、新潟県の胎内では、“胎内星祭り”という星空を楽しむイベントが開催されています。
04年、久しぶりに胎内星祭りへ出かけました。会場では各光学機器メーカーのブース設置され、自慢の機種が並べられ、物欲が刺激されます。
胎内星祭りからしばらくの間は、「そろそろ、新しい望遠鏡が欲しいなぁ」と漠然とした感覚で、各天体望遠鏡メーカーや販売店のwebサイトを閲覧していたのですが、そのうち・・・「もし新しい望遠鏡を購入するのであれば、所有している望遠鏡と同じような性能を持つ望遠鏡では意味がないし・・・。知り合いとかぶってもつまらない・・・。」などと考えるようになり、しだいにボウエンキョウガホシイ症候群の兆候が…。
私が所有している天体望遠鏡は、ニュートン式反射望遠鏡の“R200SS”と、ガセグレン式反射望遠鏡の“SPACE-10”という2種類の望遠鏡です。R200SSは、F4という明るさが武器で、散光星雲のような淡い光の天体が得意な望遠鏡です。800mm強の短い鏡筒が体にフィットして、ファインダーを覗きながらブンブン振り回せるので、普段の天体観望の主役として活躍しています。一方SPACE-10は、太陽や月を観る望遠鏡として使い分けをしています。って事は・・・そうか、この2機の穴を補うための望遠鏡にすれば良いのか。
私が所有している望遠鏡の欠点・・・中でも主役のR200SSで最も気になっているのは、鏡筒内の気流が安定するまで時間がかかることです。鏡筒内が常に外気に触れるため、鏡筒内と外気に温度差が生じると、鏡筒内に気流が発生して天体の見え味が悪くなってしまいます。これはニュートン式反射望遠鏡の構造上、仕方がないことなのですが、鏡筒を外気に馴染ませている時間に、天候が怪しくなってきて星を見ない内に撤収・・・なんて経験が何度かありました。
あとは、少しばかり鏡筒が大きいこと…車に積むと、リヤシートを占拠してしまいます。この欠点はSPACE-10でも補えるのですが、SPACE-10は星雲等の淡い天体を観るのには不向きな性能です。
「そうなると、やはり主役の欠点を埋めるには「買うしかないのかな?」などと考えている内に、次第に本気モードで考えるようになり、次第にボウエンキョウガホシイ症候群は進行していきました・・・。
欠点を補うための望遠鏡には、どんな望遠鏡が良いのか?。この時ふと思いついたのが、屈折望遠鏡です。屈折望遠鏡は、対物レンズで天体の光を集める望遠鏡です。レンズで鏡筒内が密封されるので、鏡筒を外気に馴染ませる必要もありません(厳密にいうと必要なのですが)。それに、屈折望遠鏡を持っていないし、一般的に天体望遠鏡=屈折望遠鏡の格好だしね。などと、どうでも良い理屈を並べつつ、望遠鏡の種類は屈折望遠鏡に決めました。
しかし、屈折望遠鏡にも欠点があります。最大の欠点は高価な事です。さらに高性能な望遠鏡になると、特殊なレンズを使うようになるので、さらに高値になります。
となると、あとは財布の中身との交渉・・・というより、予算内でどの望遠鏡に決めるか?です。望遠鏡は基本的に『口径が大きいほど性能が良い』ので、可能な限り口径が大きい望遠鏡を選びたいのですが、今回は、数字では表現されない性能(例えば、見え味。どれだけシャープな星の像を得られるか。等々)にこだわってみることにしました。
こうなってくると、ボウエンキョウガホシイ症候群はどんどん進行していきます。望遠鏡関連の掲示板webサイトで情報収集していたところ、そこに登場したのが“タカハシ・ブランド”。高橋製作所が製作する超・高性能な天体望遠鏡は、天文マニアも納得するほどの高性能と高品質で、世界中の天文ファンの憧れブランドとも言われているほどです。
実は私もタカハシ・ブランドに密かに憧れていた一人でしたが、タカハシ・ブランドは高嶺の花・・・。しかし、胎内イベントで西村君が見せてくれた“FS-128”の針で刺したような見事な星像が忘れられずにいたこともあり、思い切ってタカハシ・ブランドに決めました。
予算内で購入できるのは、タカハシ・ブランドは“FS-78”という望遠鏡に決まってしまったので、FS-78が掲載されている望遠鏡販売店へ見積もり依頼のメールを送信したのですが・・・。
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翌日、見積もりの依頼先から続々と返信のメールが届きました。返信メールは、『FS-78鏡筒は現在、生産中止のため、メーカーとも在庫が払底なため、現在入手困難です。代替として、同社のSKY-90はいかがでしょうか?。』という内容ばかりでした。
「げ!生産中止―?マジ?。聞いてないよ〜、だってサイトに掲載されているじゃないかよ!!・・・。」
と落胆すると同時に、ボウエンキョウガホシイ症候群は一気に覚めてしまいました。“SKY-90”という望遠鏡も悪くはないのですが、予算的に厳しい金額になるのでNGです。
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ボウエンキョウガホシイ症候群を患ってからの数ヶ月・・・これまで費やした時間を返して欲しくなるほどの気持ちでいた明くる日、他社から遅れて一通の見積もり依頼の返信メールが届きました。どうせ他社と同じ内容のゴミメールだろうと思いつつ、開いてみると…
『タカハシのFS-78鏡筒は現在、生産中止となりまして、メーカー、弊社とも在庫が払底いたしまして、現在、入手することが困難な状況となっております。
・・・「あ、やっぱりゴミメールね…」と削除しようとしたら、続きが・・・
メーカーになんとかならないか相談いたしましたところ、修理対応用の部品在庫でなんとか新品を一台、製作できますが、という連絡を頂きました。(これから製作いたしますので、多少、納期が かかる見込みでございます。)
つきましては、最後の1台をなんとかお回しできる状態でございますがいかがいたしましょうか?。』
という、驚愕の内容に、すっかり覚めきっていたボウエンキョウガホシイ症候群が、一気に盛り返してきました。返事はもちろん「ぜひ、『最後の一台』の製作をお願いします。」でした。
それから、1週間ほどして、待望の最後のFS-78が届きました。
飛びついて、段ボールをはぎ取りたくなるほど感激したのですが、一息ついて手を洗い、一礼してから荷をほどきました。
鏡筒を手にした瞬間に伝わってきた冷たさが、胎内イベントで目にしたシャープな星像を約束してくれているような感じがしました。
ちなみに、最後の一台となるFS-78の製造番号は【04088】でした。
一刻も早くFS-78を星空に向けたいのですが、その夜はあいにくの空模様…。その後も暫く天候に恵まれず、やきもきする夜が続きました。
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FS-78の到着から1週間ほど経ったころ、ついに待ちに待った星空が広がり、絶好のファーストライト日和ならぬ星和?です。
はやる気持ちを抑えながら、いつも以上に慎重にFS-78を赤道儀にセットします。ファーストライトの対象は、M45・プレアデス星団(すばる)に決めていたので、早速ファインダーの中心にM45を導入します。そして、アイピースをのぞき込み、ゆっくりと合焦ハンドルを回してピントを合わせていきます。そして、ピントがあった瞬間、
「おぉー!====\(゚∀゚)/=====!!!!」
思わず声が出ました。視野いっぱいに広がるM45のシャープな星像!。見慣れているはずのM45が、凄く新鮮に感じられました。
続いて導入した“h-x二重星団”は、視野の中が細い針であけた穴のような星像だらけで圧巻でした。ぎょしゃ座の散開星団群も素晴らしい星像で、散開星団を観るのにもってこいの望遠鏡で、同行した知人と、交互に歓喜を連発していました。
…でも、アンドロメダ大星雲やオリオン大星雲など天体像は、R200SSのほうが上手でした。やはり主役だけのことはあります。
今回、2度目の発病となったボウエンキョウガホシイ症候群は、某天体望遠鏡ショップの多大なるご配慮により、
“最後のFS-78を入手”
という奇跡的なワクチンの投与により治癒することができました。おかげで、ボウエンキョウガホシイ症候群に対する免疫機能も向上しました。
しかし、この免疫も永久的に作用するという保証はないので、ボウエンキョウガホシイ症候群が完治したわけではありません。天文ファンである限り、年々免疫作用が低下する可能性があります。
次にボウエンキョウガホシイ症候群が発病するのは何時の日か?。
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