◆ 海での釣りから・・・

        日中のクロダイを始めた頃・・・グラス竿が悪いのかい?

クロダイは、海に通い始めて(海を始めたきっかけ、磯の上物へ至るまでの経緯はまた後にします)1年後くらいだったと思います。週休2日制などまだなかったころでありました。土曜日の朝遅く?に通称"火力"のテトラブロックの上で釣っておりました。テトラでの日中のミャク釣りは、それまで防波堤の夜釣り一筋だったわくしにとってとても新鮮なものでした。なにより夜釣りに比べて疲れないし、防波堤の内とはいえ蒼い海を見ながら釣れるのですから!

その日も土曜日半日の有給休暇をとり、先週捕まえていたUNOSAKI海岸のカニをふんどしを避けてチョン掛けし、誘い、誘いしながらあのガッ、ガッ、ガッ、グンッ!という魚信を待っておりました。・・・とはいえ、未熟!待望の魚信が2度もあったのですが、2度ともテトラに入られ痛恨のバラシ。しかも両隣の釣り人からは「そこ、ポイントいいから釣れるんだけどねエ」、「あわせのときの竿の角度がちょっと上過ぎるかもナア」などと言われる始末。ふう〜。血気盛んな頃でありますからイライラも頂点に達しそうになっておりました。

そのとき、周囲から「あらっ、来た来た、ダメだな!」「片付けるか!」・・・といった声が聞こえました。思ったとおり空のずうっと遠くに瞬間的かつ断続的に光るもの、稲妻が見えます。しかもけっこう早い感じで近づいてきます。みんな竿を片付けはじめました。もちろんわたくしも竿をたたもうとしたそのとき、あの隣の釣り人が「あれ、アンタはまだ釣っててもいいべエ。だって、それグラスだべエ?(ニヤリ)」・・・グラス竿で釣っているモンは、雷がきても竿をたたんじゃいけないのかい!!!釣りは竿じゃあないだろう!!・・・とはいえ、その後小遣いを節約しながらカーボンロッドを1本、2本・・・と集めていったわたくしも信念がないといえばまるでない。

【 仕掛け 】 ⇒ 竿は5.3mのグラスの磯竿2号・・・これも確かに重い!!2.5号の道糸に1.2号のハリス1ヒロ、チヌ鈎3号で結び目にガン玉3B〜4B。親指の爪程度のカニえさ。


        海釣りとの出会い・・・これがサカナ偏に喜ぶと書くキスでありますか!

奥羽山脈の麓に暮らすわたくしの釣りは、どうしても川や渓流、湖沼といったところを舞台にしたものでした。しかし、いつの日からかわたくしの海へのあこがれが日に日に強まっていったことはごく自然のものであったと思っています。わたくしの町から最も近い海といえば日本海、約1時間半ほど車で行くところにあります。そんなに遠い距離ではありません。そこで近くの書店から(いつも新しい釣りを始めるときは決まって購入し、あとで不要だったと思う)入門書を買い求めてまいりました。どれどれ・・・。

どうやら"海釣り"とひとまとめに言ってはいるものの釣る場所によって磯釣り、防波堤釣り、投げ釣り、船からのタテ釣り等さまざまであり、また、つり方も浮き釣り、フカセ釣り、ミャク釣り、さびき釣りなどあります。さあてどれにしようかなあ。仕掛けの簡単さ、道具を揃えるための経費の手軽さ、そしてせっかくの初海釣りですからボウズになる確率が最も低そうなもの、つまりなんとか形を見ることができそうなものとして、「港岸壁のさびき釣り」と「砂浜からの投げ釣り(サーフキャスティング)」の二つを候補に絞って検討した結果、港での釣りはコンクリートに囲まれたイメージがあり海っぽくないという先入観から、砂浜からの投げ釣り、対象魚はキスと狙いを定めました。

当時は釣具、釣りえさの安売り大型店も近くになく、さっそく行きつけの隣町のSATO釣具店で4.5mの投げ竿(ほんとは5.3mが欲しかったのですが予算の都合上あきらめました)とダイワかどっかのスピニングリールをたぶん12,000円くらいで購入、仕掛けは現地調達としました。

さて、海です。砂浜です。

夏もいよいよ本格化しそうな7月の中旬、DETOHAMA海岸の手前の砂浜が初のキャクティングの場所でありました。波は0.5mほどで風は海からのそよ風、絶好の釣り日和です。入門書に書いてあったとおり波うち際の最も海側に入れる部分がかけ上がりの近い好ポイントと決め、竿掛けを砂に固定し、仕掛けをこしらえました。いよいよ第一投目です。約80mから100mほどの地点をめざし、少し助走を加え思いっきりロッドを振りました。・・・やや右側にスライスしたもののまあまあのキャスティングができました。ここで慌てて巻き上げてはいけません。しっかりジェットてんびんが着床するのを待って静かにリールを回します。

ここで、ハッと気がついたことがありました。つまり・・・キスてどんなサカナだっけ??。逆三角形で天ぷら化したキスは知っていますが、生きているまんまのキスは見たことがありません。入門書にも写真が載っていませんでした。・・・とそのとき心持ち竿先がぷるる・・・魚信?、軽く合わせました。しばらくして波うち際に青緑の海草を巻きつけたジェットてんびんが現れ、それから伸びた仕掛けに何かピチピチ動いている砂まみれの小さなサカナが2尾。すぐに本命とわかりました。

海釣り初挑戦、しかも第一投目からの本命GET!サカナ偏に喜ぶ・・・これが"鱚"かとしばらくうっとりとながめているわたくしがそこにおりました。平成元年頃であったでしょうか。わたくしの海での釣りはそれからさまざまにかたちを変えていくのでありますが、この日の快感が忘れられず、わたくしにとって砂浜での鱚(キス)釣りは年に1度の年中行事でもあり、海釣りの初心に帰るときにもなっているのであります。

【 仕掛け 】 ⇒ 竿は4.5mのグラスの投げ竿・・・これまた非常に重い!!。4号の道糸に22号のジェットてんびん。市販のキス4本鈎仕掛けでエサは青イソメ。


        なぜ釣れないのかOGA磯のクロダイ・・・渡し船のオヤジもあきれ果てる連続ボーズ

磯の上物釣りも、対馬海流の水温が低くなる東北の海ともなればその魚種も少なく、個体の大きさもそんなではなくなります。ですからおのずと対象となるサカナといえば、低い水温にも強いクロダイが大の本命となっていました。最大級で50cmほどのクロダイを求め、多くの釣り人がOGA磯に通っておりました。この頃のわたくしが30歳前後ですからもう14、5年も前、初めて釣具屋に借金をして買い求めたダイワの磯竿1.5号(これも名前を忘れた!そしてなぜかこの思い出の磯竿はHAWAIのある女性の元にあるのですが、この話しはまた後にします・・)を手にKAMO湾の名礁に黒銀色のクロダイを釣り上げんと毎週末に出かけておりました。

しかし、川や渓流、湖沼ではそれなりの釣果を手にしてきたわたくしの竿に、何カ月通ってもクロダイは振り向いてくれません。春磯も早くに始めてもう7月も中旬、乗込みからのシーズンももう終わりです。セミの声すら聞こえる季節となりました。

「おう、また懲りずにきたかい!!早く船サ乗れ!」・・もうすっかり顔なじみとなった磯渡し船、OTAKE丸のオヤジもわたくしを見ると半ば感心したような?呆れ顔でこう言います。クソーッ、今日こそは釣ってやる!・・と毎回意気込んではみるもののやっぱりクロダイは釣れません。「おい、クロダイだけがサカナじゃねえベ。アジやらサヨリやらなんでも釣って持って帰れ。せっかく毎週100km以上も運転して来てるんだからヨー」とオヤジ。嫌だ!こうなりゃ意地でもクロダイを釣る。釣れるまで通ってやるー!・・ここから10年以上、わたくしの年間50日以上にもおよぶOGA磯通いが始まったのでありました。

【 仕掛け 】 ⇒ 竿は5.3m、ダイワのカーボン製磯竿1.5号。2.5号の道糸に1.2号のハリス2ヒロ。鈎はグレアブミ8号金。3Bのどんぐりウキに水中ウキ仕掛け。エサはオキアミ。


        泣き尺良型ウミタナゴ5枚・・・新婚夫婦で医者通い

カミさんと一緒になって間もない頃でしたから、28歳頃のことでしょうか。カミさんの休みにあわせ有給休暇をとってOGA磯は地磯の名礁SIOSE崎へウミタナゴを釣りに出かけました。6月・・空はどんよりしていましたが、風もなく少し汗ばむような天気でありました。まだ新婚気分?もあまり抜けない頃でしたから、カミさんはGパンにシャツとスニーカー、わたくしもGパンに薄いトレーナーと素足にスニーカーといった格好。途中、オキアミのまき餌とつけ餌を兼ねたキロブロック一つを購入し、かる〜く遊んでいこうといった心積もりでの釣行であったのですが・・。

車を駐車場となっている場所に置き、二人で仲睦ましく?岬の突端へと向かいました。そこではすでに中年の釣り人が3人入座済み。仕方なく手前の入り江で竿を出すことにしました。もとより釣果を期待しているわけでもなかったのですからポイントはどこでもいいやと思っての竿出しでした。しかし、釣りのみならずなんでもそうなのですが無手勝流で臨んだときは意外な結果が出るものです。10〜20分後、少ないオキアミを細かくつぶし、パラパラと撒きながら二人で竿をおろしていると、カミさんの朱色の玉浮子がすうっと海面下に入りました。「合わせて!!」というわたくしの声にカミさんが三間の太いグラスのヘラ竿を立てると、穂先がぐうっと水面に弧を描きながら半月に引き込まれました。「ええっ、どうすればいいのヨー?!」とまだうら若き頃のカミさん。「竿を立てて!無理をしないでガマンしてたら大丈夫だヨ」と余裕を装うわたくし。やがて、薄紅色の魚体が水面に横たわりました。25cmを超えるかなりの大物のウミタナゴです。わたくし「(すげぇー!)」。・・そしてこのあと、同じような良型のウミタナゴを4匹追加、計5匹を1時間半ほどで釣り上げることができたのでありました。しかし、このとき結婚間もない我々の身体に恐ろしいことが起こっていたことなど、釣りの最中はまったく気づかずにいた二人でありました。

実は、この日は冒頭に書いたとおりの無風、しかも高湿度・・そうです、このようなときにOGA磯で最も恐ろしい無数の"ブヨ"の攻撃を二人は受け続けていたのでした。ところが、思わぬ釣果にOGAブヨの襲来に気づかなかった(いや、夢中で気にしなかった、といった方が正しいカモ・・)のです。釣りの後、自分たちの身に起きた事の重大さに気がついたわたくしたちは、途中でムヒSを買い求め、手足にすり込みながら帰ったのですがあとの祭り。特に足に50箇所以上も刺され、翌日の早々に、皮膚科へ夫婦で通院することになったわけであります。・・なお、この"ブヨ"は十数年後、わたくしのHAWAIの釣友が来日した際にも数匹が襲いかかり被害をもたらしたのでありました。

名礁OGA磯、"ブヨ"には十分な注意が必要ですよ、みなさん!!

【 仕掛け 】 ⇒ 竿は三間、グラスの軟調ヘラ竿。2号くらいの道糸にハリス付きのウミタナゴ鈎(号数は不明)。道糸の途中にセルロイドの玉浮子をウキゴムで固定。浮子下はひと一ヒロ強。エサはオキアミ。


        海も川と一緒、本流も支流もよどみもある・・・師匠のことばに目からウロコが

それぞれの釣りに師匠がいるのですが、最も長期間夢中になっていた磯の上物釣りの師匠はわたくしよりも3歳年下のSAGAさんであります。このSAGAさん、乗り合いバスの運転手で内陸の山奥(失礼!)に居を構えているのでありますが、OGA磯では知る人ぞ知る・・といった方で、特にクロダイ、マダイ、メジナ釣りでは抜群のセンスを発揮されている方です。各種大会でも好成績を収めているのですが、おごらずマイペースの釣りを続けており、わたくしの釣りに対する考え方に少なからず影響を与えているのであります。

さて、その頃(12年ほど前?)のわたくしは、クロダイを追い求めても、追い求めても釣り上げることができず苦悩の日々を過ごしておりました。そんなときOGA磯はKAMO湾のSAKURA島で偶然SAGAさん(面識はなかったのですが、一緒の釣友が「あの人スゴイよ」と教えてくれたのであります)を見かけたのでありました。初冬・・寒クロシーズンが本格化した12月頃だったでしょうか。北西からの季節風が強く沖磯は限られ、SAKURA島の南岸は釣り人でスゴイ混雑です。わたくしもここに渡してもらったものの釣り場など見当たりません。見るとSAGAさんもキョロキョロとポイントを探しているようです。少しして、やや波が上がりそうな場所にひょいと入り支度を始めました。わたくしは、もうあきらめ半分でとても釣れそうにない場所で竿をおろし、おにぎりなどほお張りながら眺めていると・・ウソー!な、なんとSAGAさん、釣り始めてから40分ぐらいで竿を絞らせ、立て続けに4尾を釣り上げたのです。唖然。

そこで思いきって引きつった笑顔をつくりSAGAさんに近づき話しかけると、SAGAさんは気軽に応じてくれました。そこで、わたくしには本命がなかなか来てくれないことをまるで人生相談みたいに話してみると・・「川とか渓流では釣れるんスカ(笑)」。わたくし「ええ、けっこう釣れる方だと思ってます」。SAGAさん「じゃあ、釣れるッスベエ!?」。わたくし「はあ?」。SAGAさん「同じッスよ。海も川も同じッスよう。海にも本流や支流やよどみとかあるっスベエ。川のポイントがわかるんだったら、海のポイントもわかるはずだッスよお!ハハ・・」。・・目からウロコが半分だけとれたように思いました。

【 仕掛け 】 ⇒ ロッドはがま磯XOの0.8号5.0m。ミチ糸はSofeel2.5号(半透明黄色)。ハリスSuger1.2号2ヒロ。浮子はとくしま3Bに中原水中浮子大。ハリスにガン玉B1個。ハリはグレアブミ(金)8号。マキエはオキアミ3Kgにチヌパワーと押し麦少々。ツケエはマキエ用のブロックから。


        わあー、なんかが下で引っ張ってる!!・・・ミャク釣りで初のクロダイ

OGA磯に通う前、クロダイを釣るには堤防の夜釣りが一番・・と言われてしばらく通っていた時期がありました。はじめはAKIT港の北防波堤や火力のテトラあたりでやっていたのですが釣れない!そんな辛いトンネルの時期、職場で唯一クロダイ釣りを趣味としていたSS先輩に連れられてHUNAGA港の備蓄堤に行ったときのことであります。そのころこの備蓄堤は工事中で立ち入り禁止の場所であったのですが、夜の8時、監視人が帰ったあと幅60cmくらいの堤防の下駄(はかま?)の部分をアルミの脚立を肩に50、60mほど歩き、ここに脚立を立てて堤防に登り突端のポイントに向かったのであります。ここに来るのはこれで3回目くらいです。両型のクロカラやメバルなどは釣れるのですが本命が来ない。魚がいないのかと思うと・・SS先輩にはちゃんと来る。わたくし思わず・・腕かあ。

その日は7月も中旬、暑い日で潮風が肌に心地いいです。さっそく仕掛けをこしらえいざ1投目、2投目・・と本命のクロダイを狙いましたが魚信はありません。それどころか根がかり連発で、ついには電気ウキまで流してしまう始末です。わたくしがその旨SS先輩に話しますと、「オレも電気浮子は一つしか持ってきてないんだ。ミャク釣りしてみれば!?」。ミャク釣り??。「ハリスを1ヒロとって、ハリスの40cmくらい上に3Bのガン玉を2個くらいつけて静かに歩くくらいの速さで引いていけばいいだけだよ。昔はみんなそうやって釣ってたからやってみろ」というお言葉です。もとより仕掛けをなくしたのですから、そのミャク釣りとやらをやるしかありません。

言われたとおりの仕掛けを作り、ガン玉が底をコツコツ当るような感覚で釣り始めました。動かない浮子を何時間も見ているより、歩いている分だけなんとなく気がまぎれるのがけっこういいです。まあ、考えてみると遠くは攻めれないけど、堤防の際やケーソンの継ぎ目をていねいに探れるよなあーなどと思っていた瞬間、持っていたロッドが急に奪い取られるような感覚で下に引っ張られます。わあーなんだこりゃあ!!。錯乱寸前のわたくしは「SSさーん、たいへんだ!お願いしまあす! 何かが下で引っ張っていまーす!」。「よしっ、釣れたか?今行く!」と力強いお言葉で玉網を持って駆けつけてくれました。SS先輩「おおー、クロダイだ!」。 しかし当のわたくしはというと、ロッドを両手でつかみ、下で引っ張る何者かの力にしゃがんで耐えているだけです。と、そのときロッドを引っ張る力がふっと消えました。クロダイがSS先輩の玉網に納まった瞬間でした。そう・・これがわたくしの初物クロダイなのであります。

【 仕掛け 】 ⇒ ロッドはダイワの磯竿1.5号5.3m(名前は忘れた!この竿、今はハワイにあります)。ミチ糸は2.5号(黄色)。ハリス1.5号1ヒロ。チヌバリ2号の上40cmほどにガン玉3Bを2個。ツケエは青イソメ。


        釣りは人柄を変えてしまう!?・・・晩夏のハゼ釣りで一変

「ちょうど夏お祭りの頃のMUKAI浜でけっこうハゼが釣れるんだ。ちょっと遊ぶだけなんだが、まあ暇つぶしにはちょうどいいヨ」と教えてくれたのは、職場の上司のNISさんです。「子どもたちも就職したし、家内を連れて弁当持って行くのもいいもんだ。ただ、稀に手のひらのカレイやチンチンも釣れるからオモシロイ。むきになって釣るだけが釣りじゃないベエ。わたしなんか午後4時頃までも釣ったらもう十分!」という言葉にわたくしも共鳴、「そうですよね、やっぱ気持ちにゆとりを持って釣らないと・・趣味ですからネエ」。・・そうだ、NISさんの言うとおりだ。最近、自分でも少々むきにになって釣果ばかり気にしてるようだ。イカン、イカン。釣りは趣味だし、ストレス解消するためのものだった。よしっ、今度の休みにMUKAI浜に行ってみよう。

・・というわけで、弁当を持ち、青イソメを300円分買ってMUKAI浜へ行きました。どのへんがポイントかわかりませんが、今日は釣り始めの頃の初心に帰っての釣りですから、あまり迷わず車を駐車したところあたりで竿をおろすことにしました。「夕べ釣りの入門本で見た感じではこんな感じかなあ。まっ、いいだろう。やってみよう・・てな感じで第1投。静かに朱色のセルロイド浮子が右から左へ流れていきます。ピコ、ピコ・・早くも魚信です。どんな釣りでも初魚信はときめきにも似たうれしさが込み上げてきます。それから数投目、ピコ、ピコ、ピコン・・という魚信にあわせるとキュロキュロという手応えがあり、めでたく5cm級のハゼが釣れてきました。ハハハ・・釣れた、釣れた!見回すとわたくしの右側の30m程度離れたところに1人釣り人がいます。左側の釣り人は50mくらいも離れたところです。みんなのんびりしています。空はどんよりしているけど、風も適当に吹いていて気持ちいいや。

20尾ほども釣った頃、時計の針はもう6時近くを指しています。マズイ、マズイ、また夢中になってしまった。さて、そろそろ帰ろう・・と周りに目をやると右側の釣り人はまだまだ止める気がないみたいです。ずいぶん入れ込んでるなあ、と表敬訪問にうかがい「どんな具合ですか?」と尋ねると、「あれっ、NISさん!!」、「おう、キミも来てたのかぁ?」、続けて「どうだった、釣れたか?」、わたくし「え、ええ、まあ、まあです」、NISさん「そうかあ、まあオレはこんな感じだあ」とクーラーボックスを開けて見せてくれました。わたくし「えっ、うそ、すげえ!」・・NISさんのクーラーボックスの中には、数十尾のハゼに加え、手のひらほどのから揚げにちょうどいいカレイが3尾、チンチンも3尾・・。そこにポツリ、ポツリと雨が落ちてきました。NISさん「おっ、雨だ!雨合羽を持ってきてよかった!」。わたくし「まだやるんスか!?」、NISさんはナニを言っているんだキミは?という顔をあらわにして「ああ、今日は条件がいいからな、もう少しやるべエ。キミはもう止めたの?」、「は、はい・・」というわたくしの困惑した返事をまるで聞いていないかのようにNISさんは素早く雨合羽をはおり、キラキラと眼を輝かせ再び釣りを始めました。「キミ、ここはいいポイントだから、今度来たらここに入ってみろ!」という声を背中で聞き、わたくしは帰路に着いたのでありました。

釣りは悪魔の趣味ってなんかに書いてあったなあ・・いつもは温厚なNISさんだって竿を持つとあんなふうに変わってしまうんだから。でも、やっぱり釣りは結果だよなあ。他人より釣れないとつまんねや!!

【 仕掛け 】 ⇒ 3間のグラスのヘラ竿。ハゼバリ(何号だったか忘れました・・)。ミチイト中間にタチを少し切るようにセルロイドの玉ウキ。ハリスとミチイトのつなぎ目に3Bくらいのガン玉を1個。ツケエは青イソメ。


        今も忘れないあの水平線の空・・・1日か2日後に大地震が

OGA磯の中でも、KAM磯はわたくしのホームグラウンドともいってもいいほど親しんでいる磯です。水深が他の磯よりも深く、そのタナを見つけ出すにはまさに自分の持っている釣技を駆使しながら懸命に本命を探っていかなければ決して型を見ることができないといっていいほどの磯なのでありました。しかし、そんな数時間にも及ぶ努力が実り、クロダイにしても、マダイにしても、メジナにしてもその日の本命を玉網に納めた日の充実感といったら、筆舌に尽くしがたいものがあるといっても過言ではありません。

さて、あの日・・平成5年の初夏でした。クロダイの時期も過ぎつつあり、わたくしはメジナ狙いでKAMの北磯にいたような気がします。おそらく、SAKURAか、MISAGOあるいはDAIKOKU島だったでしょうか。午後4時頃の帰りの渡船はほぼ満杯でありました。それなりの釣果を得ての渡船の揺れはなんとも気持ちがいいものです。しかし、何気なく空を仰いでわたくしはビックリして身体を起こしました。そこには、初夏のさわやかな夕暮れ空はなく、なんとも言いようのない放射線状の・・そう、ちょうど戦時中の日本軍の軍旗のようとでも言うか、それも青みがかったというか、薄紫というかそんな直線の雲が遠く水平線の向こうからまっすぐにわたくしたちのいるKAM磯まで伸びてきているのです。あんな直線の雲なんて定規でも使わないと引けるものではありません。渡船のおよそ15人くらいの釣り客も口々に異様な空を指差しながら「なに、これ??」、「気持ちわりいなあ!」。

それから、1日か2日後です。北海道の奥尻島を中心に津波をともなう大地震がありました。記憶に新しい北海道南西沖地震です。また、その数日後わたくしたちが見たあの放射線状の空が、地震雲として写真付きで地元新聞に紹介されていたのでありました。


        真夏のメジナ釣り・・・素潜りにはご注意!

10年ほど前のOGA磯も、クロダイの釣果が落ちる真夏にはさすがに釣り人が少なくなるのでした。しかし、磯の上物にとりつかれていたわたくしは懲りもせず毎週、毎週愛竿を手に片道2時間半の道程を車を走らせていたのでした。それも、温暖化のせいかかつては対象魚になっていなかったメジナの良型が釣れるようになっていたからなのでありました(ただし、今ではメジナはOGA磯で立派な対象魚になっております)。

他のシーズンには釣り人しかしないOGA磯も夏ともなれば海水浴客で賑わいます。砂浜では物足りない人たちはわたくしたちが通う磯釣り場にも素潜りに来ておりました。素潜りに来るのはいいのですが、中には釣り人が一生懸命にマキエをし猛襲を続けるエサトリ群をかいくぐって本命を狙っているその足元にまで泳いでくる素潜りダイバーがいるのには誰もが閉口したものです。そんな頃の8月、わたくしも30センチオーバーのメジナを求めてKOWARE島で釣りをしておりました。それまでうんざりするくらいに寄っていたタナビラやスズメダイの大群が急に姿を隠しました。すわっ、本命が来たか!?と思いきや・・どうやら素潜りの海水浴客です。気分を害し、「くっそうー、なんて非常識なヤツだ」と思ったわたくしは、気づかない振りをしてひしゃくにマキエを一杯に盛り、その釣り人めがけてエイッ、エイッ・・ああ、いい気分。・・と、その素潜り人が息継ぎをするために浮いてきました。あれ?・・どうも浮いてくるその人の色がおかしくないかナ?

なんと、その素潜りのお方の背中には竜や獅子の模様が鮮やかに・・しかも、サザエでも採っているのか右手には光るナイフです。わたくし「・・やば!」。ブファーと水面に顔を出したその方、わたくしに気がつき一声、「あっ、わるい!釣れる?」、わたくし「えっ、い、いや、どうも!」。そして再び泳いでいったその方の光る背中を見送りながらわたくし「はあー、ビックリしたぁ!

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯FXマークU、5.3m、0.8号。ミチイトSOFEEL2.5号、透明イエロー。ハリス、SUGER1.5号1ヒロ半。ハリ、グレアブミ金7号。ウキ、江頭0.5号。マキエ、オキアミ9kgにグレパワー半袋、ツケエサはマキエの中から身持ちのしっかりしたものを選ぶ。


        名礁DAISANKYO磯のマダイ・・・綺麗な衣装、眼にはキラキラのアイシャドー

7月の初旬になるとクロダイに混じってマダイが釣れ始めます。5月、6月の乗込みクロダイもOKなのですが、少々エサトリが多く出てきてもメジナやマダイの良型も期待できる初夏がわたくしは好きです。この頃のわたくしは、釣り場に着くとまずクロダイ狙いで竿1本半から2本くらいのところを探ります。マキエを重ねるうちブルーの魚体がエサトリの下でひるがえっているのが見えると約2ヒロとっていたハリスをはずし足元に置き、新しい1ヒロ半弱のハリスに替え対象魚をメジナに変更します。更に潮の流れが速いところを見つけると遠投し、深場で磯の女王マダイを狙うというわけです。

その日はOGA磯はKAMO漁港から渡し船OTAKE丸で南磯の名礁DAISANKYO磯へ釣友と渡りました。この磯は地磯の比較的大きな釣り場ですが、水深があって大物、数釣りも期待できる人気磯です。沖から見ると、岩礁が3本に分かれて沖に延びています。一番のポイントは向かって左側の北向きの磯で、船着場となっているところです。わたくしは、ある時期から一番船での渡礁を止め、磯への到着は朝6時から7時頃という不精釣り師でありますから好ポイントなど空いているわけもありません。しかし、この日のわたくしのめざすポイントは向かって左側の磯ではなく真ん中の細い磯です。釣友は右側の磯に入りました。狙いはクロダイというよりメジナを狙いながらクロダイ・・そんな感じでありました。

いよいよマキエをまき始めると・・思ったよりエサトリが少なく、しかも南側に向かって釣座をとると潮はまっすぐ左側磯に向かってぶつかり、反転流を生んでいるという状態です。沖目を向く当然左から右への潮流です。はじめは沖目を向いていましたが、エサトリのアジが少しじゃまです。そこで思い切って左側磯を向き、やや深めを狙っての釣りを試みてみると・・信頼する江頭浮子が20mほど行った反転流との合流あたりでシュウーと海中に吸い込まれていきます。合わせると・・良い手応えです!!愛竿を半円にし海面に上がってきたサカナは30センチ級のアイシャドウも綺麗なマダイでありました。それからは入れ食い!・・とまではいかないものの、40センチ超級を筆頭に30センチ以上のマダイを7枚という豊漁でありました。

・・たまにはこんなこともなきゃネエ!!

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO、5.0m、0.8号。ミチイトバリバス製の(忘れた!)2.5号、透明グリーン。ハリス、SUGER1.2号2ヒロ。ハリ、くわせグレ5号。ウキ、江頭0.5号。マキエ、オキアミ7kgにオカラダンゴ1袋、ツケエサはマキエの中から。


        NEBUT島のメジナに学ぶ・・・潮読みと仕掛けの良否がなんとなく

前に海にも本流があり、支流がある等々のわたくしにとって画期的な、眼からウロコの助言をいただいたSAGAさんと初めて行った沖磯がTOGAの名礁NEBUT島でありました。もう7月も終盤を迎えた暑い夏の頃でした。通常は7月初旬でクロダイ釣りはひとまず釣期を終え、あとは9月終盤から10月頃からの秋クロシーズンまでOGA磯はひと休みというのが常識?なのですが、このSAGAさんは1年中OGA磯で釣り歩いているとのこと。それもまた新鮮な話しだったので、足手まといかもしれませんが、よかったら・・とお付き合いをお願いし、この日の釣行となったわけであります。まさに、クロダイを狙えど、狙えどボーズ、ボーズの連続だった頃であります。

まず、最初に釣具屋で購入したマキエの量にビックリしました。わたくしの常識の中では5、6キロのオキアミブロックにチヌパワーを少々というマキエの量で6時間ほどの釣行・・であったのが、このSAGAさん、ツケエもあわせて9キロを購入したのであります。しかも、4、5時間の釣行を想定してであります。「やっぱり、この時期はエサトリとの勝負ッスからねえ、これくらいはないとー」と平然。つられてわたくしもツケエを入れて7キロを購入したわけであります。

「今日の狙いはクロダイじゃないっスヨ」、わたくし「ええっ?はあ・・」、SAGAさん「クロも来るかもしれないけど、メジナ狙いッス。知ってます?メジナ」。わたくしも釣り腕はよくありませんが、メジナぐらい知ってます。「ええ、知ってます。あの中指くらいのヤツでしょう?」、するとSACAさん、呆れたように「そんな小さなヤツじゃないス。大きいやつだと手のひらよりひと回りもあるヤツが釣れるはずなんス」・・ええっ、ホント?SAGAさん「とにかくやりましょう!好きな仕掛けをセットしてください。クロダイ釣りと同じ仕掛けでいいスから」。というわけで、初めてのメジナ狙いの磯釣りが始まりました。

仕掛けをおろして40分ほども経ったでしょうか、20mほど離れていたSAGAさんが「オーイ、ホラ!」と叫んでいます。見ると、ナント足の裏弱ほどの深緑黒いきれいな楕円形のサカナを釣り上げ、ミチイトを持って私の方にかざしています。おおぉー!!。SAGAさんが「ここにポイントが出来たから、ここでやってみるといいス。ウキ下は竿3分の2くらいでいいス。潮は右から左に流れてあの辺で少ーしよどむんで、そこで魚信があるはずです。リズムよくマキエをしないとポイントがぼけるんで・・まあ、やってみてください。オレはあっちでやるから!」。見ると、SAGAさんはわたくしと話しをしている間中、少量のマキエを打ち続けています。

よし、こんな機会めったにないことだから、やってみるか!そう心の中でつぶやきながら教えられたとおりに仕掛けを流してみました。3、4投目ほどすると、仕掛けがポイントに来るとすうっとシモリます。魚信でした。それからは飽きることなくメジナ釣りを楽しみ、10尾弱の良型メジナを玉網に納めました。そのうえ、あれほど釣れなかったクロダイまで2尾もGETするという好釣果となったのであります。このときSAGAさんから指導していただいた竿操作、エサトリ対策を考えたマキエの方法、ポイントのつかみ方と作り方は、以後のわたくしの磯釣りに大きく影響を及ぼしたものであり、そこそこ磯での釣果を得ることができるようになったきっかけとして、決して忘れ得ない釣行となったのであります。

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯FX、5.4m、0.8号。ミチイト、ソフィール(透明イエロー)2.5号。ハリス、SUGER0.8号1ヒロ半。ハリ、グレアブミ8号、。ウキ、とくしまこつぶ3Bに中原水中ウキ大。マキエ、オキアミ7kgに押し麦。ツケエ、オキアミ。


        師曰く・・釣りは、釣れない時こそ忙しいはず・・・水中ウキ仕掛けとの決別

クロダイ釣りを始めた頃のことであります。わたくしは、その日もボウズでOGA磯におりました。12月・・雪が舞い落ちる冬の頃であります。「IKE、あの人知ってる?SAGAさんっていってね、この間の東北名人戦で2位になった人だよ!」と一緒にいったわたくしの兄貴分兼教育係?のような存在のKAGAYさんが話しかけてきました。そうです、この人が後にわたくしの磯釣りの師匠となっていただいた、そのSAGAさんであります。わたくし「うん、知ってる。この間、SAKUR島で少し話をしたヨ」。KAGAYさん「どんな釣り方だった?」。わたくし「さあ、特に変わったことは・・」。

しかし、KAGAYさん、ごめんなさい!!そのとき・・つまりSAGAさんと初めて話しをしたときに、わたくしは驚くべき仕掛けを見てしまったのでありました。それは、当時、磯の上物釣りでは常識のように考えられていた水中ウキ仕掛けではなく、代わりに0.3号の中通しオモリを着けていたことであります。また、驚いたことにコマセにはオキアミ、押し麦になんとマッシュポテトを入れているではありませんか。わたくし「・・いつも、そんな仕掛けにそんなコマセなんスカ??」。SAGAさん「仕掛けはそうスね、安いし、水中ウキは値段も高くって!水中ウキも使わなきゃいけないときは使いますよ。でも、今日は使うような海じゃないし・・。コマセは、まあ、なんとなく膨らむし、遠投もききそうなんでやってみただけです。まあ、これも安いしネ(笑)」。わたくし「・・」。

その翌年からSAGAさんとはちょくちょく一緒に釣行させてもらうようになったのですが、わたくしは、このときのことをよくSAGAさんに"驚いた"ことを話しました。そのたびにSAGAさんは「そうスかあ・・、そんなにたいしたことじゃあないと思うけど・・」と言って笑います。ただ、このことに関していつかこんなことを教えてくれたのが、今のわたくしのあらゆる釣りに共通して心がけるきっかけになっています。それは、「・・思うんスが、自分は釣りをしてて釣れないときが釣りの一番忙しい時間なんス。どうやって釣ったらいいか考えて、考えて、そして考えたことを次々にやってみないと気がすまないんスよ」、続けて「よく、ハリスとか縮れていたり、長すぎたり、短すぎたり、ハリが大きすぎたり、コマセの重さが違っていたり・・いろんな理由で釣れないんじゃないかって頭に思い浮かぶことってないスか?自分はすごくあるんスよ。そんなときIKEさんはどうします。いつ時合いが来るかわからない・・時間がもったいないから、そのまま釣り続ける人って意外に多いんですよ、自分から見ると。でも、自分はそういうふうに考えられなくて・・。そういう気になることがあるのに、そのままの状態で釣っている時間の方がもったいないと思うんスよ」。

まさに確立された釣り理論。この話しを聞いた後、わたくしは躊躇なく水中ウキをはずすことにしたのでありました。

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO、5.0m、0.8号。ミチイト2.5号。ハリスSUGER1.2号1ヒロ半強。ハリ、くわせグレ5号、。ウキ、とくしま3Bに中通しオモリ0.5号。マキエ、オキアミ7kgに押し麦、チヌパワー。ツケエ、オキアミ。


        胸を躍らせ三陸海岸へ向かうと・・・エエッー、親潮にサカナは?

クロダイ釣りを始めて間もない頃のことであります。わたくしは寝ても覚めても磯釣り・・中でもあのいぶし銀のクロダイを釣り上げることしか頭になく、毎週のようにOGA磯に通っていたわけであります。ある日のことです。わたくしの職場には"課"という組織があり、年1回、この"課"単位で親善を目的とした一泊旅行をするというのが恒例となっておりました。その行き先を何処にしようか?という幹事さんの問いにいろんな意見が出されましたが、頃合を見てわたくし「いやあ、たまには県外へ出て・・そう、三陸海岸なんかどうっスカネエ!?」。中には「ちょっと、遠くねえ?」、「かえって疲れんベエ」などいった声も聞かれましたが、強硬派の幹事であるKEKOさんが「あっ、それいい!みなさん、今年は三陸海岸ということで!」。即決。

実はこのわたくしの提案には下心がありました。それはもちろんリアス式海岸の代表格である三陸海岸に愛竿を持って行き、1〜2時間でもいいから磯の上物釣りをしようということであります。そうでなければ、片道車で4時間近くもかかる三陸海岸なんて・・なのでありまして。この考えに乗ってきたのが弟子のTOBさんとONODRさんという上司たち。さて、その日がやってきました。今どきの自家用車は中もゆったりとしており、7〜8人乗りの車もみんな持っているわけですが、当時はセダンが主流・・やはり車の片道4時間はとってもキツイものがありました。特にわたくしは提案者ということもあって自分の車を提供し運転手です。それでも、職場の先輩、後輩たちといろんな話しをしながらの旅程は楽しく、実際の時間をずうっと縮めてくれたことを憶えています。

さて、とうとう三陸の海が見えてきました。宿に着く早々部屋割りされた客室に荷物をどさっと置き、TOBさんとONODRさんの3人で釣具屋探しです。さすが三陸海岸のまち、釣具屋はすぐに見つかりました。3人「こんちわー!」、釣具屋の店主らしき中年のオヤジ殿「あいよー!」、わたくしたち「いやあ、4時間ほどかけてここに慰安旅行で来たんだけど、せっかくだから明日の朝どっか近くで釣ろうかなあと思ってねえ」、店主殿「ほお〜。・・で、どっから来たの?」、わたくし「AK県、4時間もかかったよお」、店主殿「おおっ!そっちはいいねえ!オレもクロダイ釣りが好きでよお。月に2、3回はOGA磯に行くんだぜい!」、わたくし「へえ、そうすか!」、(短い時の流れの後・・)わたくし「ええ?!、な、なんで、こっちで・・こんな素晴らしい磯があるのにわざわざOGA磯まで・・???」、店主殿「そりゃあ、アンタこっちは寒流の親潮だあ。タイとかメジナとか暖流のサカナを釣るにゃあ仙台の方まで行かなきゃなんねえし、そんなにいい磯もないしねえ」、わたくしたち「・・」、店主殿「・・あれえ?も、もしかしてアンタ等それを知らずに〜?」、続けて「あはは・・まあ、しょうがねえ。アイナメでも狙ってみるんだな。・・アッ、明日は荒れるから磯じゃあダメだよ。そこの小さな漁港な。がんばんな!」。そのあと店主殿から多すぎる1,000円の青イソメとアイナメ仕掛けを3セット買い求め、うなだれて宿へ帰りその日の懇親会・・周囲の冷やかし笑いの渦の中にもまれ、もまれたわたくしたち3人でありました。もちらん翌朝、根性で竿を出したのでありましたがものすごい強風と横なぐりの雨・・逃げるように宿に帰り、みんなにボウズの報告をしたのでありました。


        そこが、それが釣りのロマンなんですよ!・・・カミさんの何気ないひと言にこだわって

何も磯釣りの上物釣りに限ったことじゃあないのですが・・。わたくしの場合、クロダイを1尾でも釣り上げた日はいつにも増して誠に清々しく充実した気持ちになります。他の釣りでも型を見たときの達成感は筆舌に尽くしがたいものがあるのですが、クロダイに限って特にこのような気持ちを抱くのは、釣り場のOGA磯まで片道110km以上もの距離を毎週、毎週通っていたせいかもしれませんし、エサ代、渡船代、食事代もバカにならないっていうのも執念を燃やした理由の一つだったのでしょうか?・・いや、やっぱり違います!!そんな理由じゃあありませんでした。磯釣りに通った10数年・・やはりクロダイを手にするまで自分なりに必死の釣技を駆使した結果、ウキが海中に吸い込まれ、ズンッとした重みが竿に乗り、そして格闘の末の数分後・・海の中からぎらっと銀色に輝くクロダイが姿を現し、そして慎重に玉網に収める・・これがなんといっても最高であったのです。OGA磯への釣行が年間50回以上というのが数年間も続きました。

そんなある日のこと、このときも往復235kmの旅程をものともせず無事午後の7時頃帰宅しました。しかも、35cm級のクロダイ1尾に数尾のメジナという釣果でしたから、わたくしとしては大満足の休日であったはずなのであります、が・・。「ただいま!入れ物持ってきてくれる!?」とわたくし。少ししてカミさんがいつもの橙色のボウルを持ってきてくれました。未だ小さかった娘と息子も「ヤッタ、ヤッター!クロダイだー!!」と言って喜んでくれました。わたくしは"充実感"というオーラに包まれながら、最後の締めに「あっ、それからビールもお願い!」。そうです!好釣果で帰った日に限ってのわたくしは、本命をカミさんに渡した後、冷たい缶ビールを玄関先で受け取り、未だオキアミ臭い手のままシュパッ!と栓を抜き、外で立ったまま一気にビールを飲み干すのがまた最高あります。「お〜い、ビールお願いー!いないのか〜?」、するとカミさん「は〜い」と少し気だるそうなテンションの返事。やっと持ってきてくれた缶ビールをややぞんざいにわたくしに突き出したカミさん「ねえ〜、今日スーパーに行ったらさあ、クロダイなんでけっこう安く売ってんだねー」、わたくし「ええっ?」、カミさん「あっ、ごめん!!」、わたくし「あっ、いやっ、お、おいキミねえー」、カミさん「だ、だから、ごめんって!」、わたくし「釣りっていうのはねえ。そんなんじゃあないっていつも言ってるだろう?確かに魚屋で買えばいくらもしないサカナだけど・・、まあ確かに竿だって安いもんじゃあないけどさー。そこがさーロマンというもんなんだよなー。それがね・・」、カミさん「はいはい、わかってますって!!ごめん、ごめん!はい、みんなー今日はクロダイのお刺身だぞおー!」、わたくし「・・(憮然)」。


        まさに嵐の静けさの前夜・・・台風19号の恐怖と生還@

忘れもしません・・それは平成3年の9月27日午後10時頃。わたくしは師匠のSAGAWさんと一緒に名礁OGA磯はKAMO漁港の近くにあるSAKU島ドライブインの駐車場におりました。師匠のワゴン車に同乗させてもらい、翌日早朝から秋クロを狙いに来ていたのであります。駐車場には午後の9時半頃到着したでしょうか。まずはオキアミ9kgを車の外に出し、シートを倒し、翌朝まで仮眠をとるための寝床づくり。これを終えてから、買出ししてきた缶ビールと魚肉ソーセージ、缶詰などを開けてあれやこれやの釣り談義です。この頃のわたくしは、この師匠との出会いをきっかけとして1年間以上にも及ぶ不振から抜け出し、まず磯の上物、クロダイやメジナの釣行でボウズがないという絶好調の時期でありました。何がなんでも毎週磯釣りをしなければ気がすまないというか、落ち着かないというか、仕事も手につかないというか・・そんな頃でありました。それがたとえ台風が直撃するとわかっていても・・。

台風が来ること、それも釣行当日に東北北部を直撃するということはもちろん知っていました。しかし、「大丈夫だって!OGA磯には台風が来ても釣りができるポイントがあって、そのうち3箇所は知ってからよ」という師匠の太鼓判もあっての釣行であり、心の中では「いや〜、もしかしてスゲエ大漁だったりして・・フフフ」などと思わずほくそ笑んでしまったりもしていたのでした。30歳代前半で子どももそれぞれいましたが、なんといっても2人とも生粋の釣りキチであります。この他人を出し抜いての釣り・・しかも職場の喧騒やカミサン、子どもの機嫌とりから離れてのこの粗末な飲み会は、豪華なレストランの食事よりも素敵なものありました。わたくし「ところで、本当に台風って来るんスかねえ〜?だいぶん大きな台風らしいけど。それに、なんかやけに静かだし〜」、師匠「そうだねえ〜」、わたくし「もしかしてコレ・・台風の進路が変わって、太平洋側に抜けていったりしてんじゃないんスかあ〜?」、師匠「・・かなあ!」、わたくし「きっと、そうスよお!間違って沖磯に渡れたりして〜!」、2人「あれ〜、だったら明日は大漁!?キャハ、ハ、ハ、ハ・・!

さて、会話が弾み「あれっ、そろそろ寝なきゃなあ!」という師匠のことばに時計を見るともう午後11時半を回っています。「こんな時間かあ。寝ましょ!寝ましょ!ちょっと、用足しに・・」とわたくしは車外に出てみると、外はまったくの無風。そよとも風は吹かず、ススキ1本も動く気配がありません。ただやけに蒸し暑いような気がするくらいです。路傍で用を足しながら(失礼!)空を見上げて「よっしゃ、明日は頑張ろう!」。再び車中に乗り込み毛布の中へ。師匠と2人窮屈ながらも心地よい眠りに入っていきました。


        公衆便所も、墓石も、山さえも揺れる?!・・・台風19号の恐怖と生還A

ガタ、ガタ、ガタ!!うっ、う〜ん・・なんの音?・・あれっ、なに??く、くるま揺れてない?・・地震?・・えっ??・・気がつくと、何かガタガタッという音ともに、ワゴン車が小刻みに揺れているようです。わたくし「し、師匠!なんか、揺れてない?なに、この音?・・ウソ!」、すると師匠は「あら〜っ、すげえよー・・これ!ヤバッ!!」。その言葉に身体を起こし、車外を見てみると、雨こそ降っていないものの物凄い強風です。しかもその風のせいでワゴン車がガタガタと横揺れしているのがわかります。何時?・・時計を見ると午前3時を少し回ったところです。ガタガタ・・車の横揺れは止まりません。いや、かえって激しくなっていくようです。師匠「やべえなあ、とりあえずあそこの公衆便所の陰に車を移動させて、少しでも風を避けよう」、わたくし「(頷く)・・」。すぐ傍の公衆便所の裏側に移動してまもなく、師匠が「ウソッ!この公衆便所、風で揺れてるうー!!」、続けて「こりゃあすげえー!便所が飛ばされたらたいへんだ。ここは危険だからKAMO漁港の方に降りよう!」。というわけで、今度は駐車場よりも低い漁港へ向かいました。

凄い風です。師匠は漁港手前の道路にワゴン車を止めました。車の左側は山際で、なんとか風をさえぎってくれています。わたくし「参ったスね〜」、師匠「うん、参った!・・うわっ、アレ見れ!!」、師匠が指さす方向を車窓から見てわたくし「うおっ!!」。な、なんと車から見えたその光景は、霊峰とも呼ばれている真山がバチバチ、バチバチ!!と火花を散らしている様子です。まるでこれからゴジラかなんかの怪獣でも出てきそうです。暗くてよくわかりませんが、おそらく山の中の高圧線が強風で損傷しショートしているのでしょう。なんと恐ろしい光景でしょうか・・。山の樹木が風で大きくなびいているというよりは、山全体が裾野から揺れ動いている・・そんな錯覚さえ覚えました。すると師匠が「と、とにかく、まだ時間も早くて動くのは危ないと思う。とりあえず夜が明けるまでここでもう少し仮眠をとろう」・・この師匠、わたくしよりも3つ年下なのでありますが、いたって冷静に状況を判断してくれます。こんなところも釣果につながっているんだろうなあ・・ぶるぶる、今はそんなこと考えている場合じゃなかった!とにかく師匠の言うとおり仮眠をとろう・・と毛布にくるまってはみたものの、恐ろしいほどの風の音、樹木のなびく音に目を閉じてはみたものの眠れるはずもありません。

しばらくしてウトウトしていると、師匠がまた運転席に戻ろうとしているのに気がつきました。わたくし「どうした?」、師匠「いや、だいぶ明るくなってきたんでこの左手の斜面を見てみたら、ほら、木が根元から土を盛り上げるように揺れてるんだ。それにここは墓地らしい。木の根元が盛り上がって墓地が傾いて墓石が落ちてこないとも限らない!倒木も考えられるし!とにかく漁港まで行ってみよう!」、見ると、確かに車を駐車したところは斜面のおかげで風こそ当たらないものの、師匠が言うとおり木々が根元近くから折れんばかりになびき、そのすぐ傍には墓石が散在しています。車が漁港に着いたとき・・わたしくしたちは思わず我が目を疑いました。


        瞬間最大風速50km強の世界・・・台風19号の恐怖と生還B

なぜなら、そこには見慣れたOGA磯の海がなかったのです。漁港の防波堤のよりもはるかに高い猛烈な白濁の波(これが波と言えるかどうかも疑問なほどの)が恐ろしいほどの勢いで荒れ狂っているのです。わたくし「す、すげえ〜!!やべえよ・・そうだ、ラジオ、ラジオをつけてみようや!」、師匠も黙ってうなずきスイッチを入れてみるとすぐに気象情報が耳に入りました。「・・大型で非常に強い台風19号は、現在、AKI県のOGA沖100kmの地点にあって、時速90kmを超える速さで進んでいます・・」、わたくし「うわー、師匠、こ、ここってOGA磯だよなあ・・?」、師匠「あ、ああ・・」、わたくし「た、台風19号てここにいるんじゃん・・」、師匠「そ、そうらしいな・・」。続けてラジオを聴いていると「・・暴風域の瞬間最大風速は50mを超え・・ただ今入りました報告によりますと、県内各地で被害が拡大しており・・数人の死傷者が出ているもようです・・」。わたくし「ど、ど、どうする?」、師匠「とにかく、オレ、便所・・ティシュとってくれる?」、わたくし「あっ、オレも!」と車のドアを開けようとすると、師匠「待った!いいスか、かなり強い風っス!油断したらドアがそのまま飛んで行っちまうスから、慎重に、慎重にっスよ!」、わたくし「お、おおう!」。

う、うわあ〜!!こ、これが風速50mかあ〜、下っ腹に力を入れておかなければふっ飛ばされそうになることはもちろん、なんといっても風に向かうと息が・・息ができません。・・やっとのことで2人とも公衆便所の個室に入ると、今度は扉が閉まりません。しかし、そんなことにかまってはいられません。2人で1個ずつ持ったボックスティッシュを風に持っていかれないよう左足で踏んづけ、パンツを下げてしゃがみました。便所は汲み取りの和式で便器から強い風がひゅうひゅう吹いてきます。なんとか用を足し、お尻を拭いてティッシュを便器に落とそうとしたら、風に乗ってティッシュがまるまったままどこかへヒューっと飛んでいきました。外に出るとまたしても風速50mの暴風です。やっとのことで車に入ると、師匠が「あっ、渡船の親父にウチで獲れた野菜を持ってきたんだった!」、わたくし「ええっ?!どうすんの?」、師匠「・・置いてくるわ!」と言って野菜の入った袋を抱えて渡船宿に向かって行きました。(師匠が歩いて行く途中、その渡船宿の看板がはずれてすっ飛んでいくのを目撃)宿から出てくる師匠の後に続いて渡船の親父が心配そうに顔を出し、車の方を見ました。車の中のわたくしの姿も確認したのでしょう、呆れたような表情をしながら行け、行けと右手を振っています。バタンッ!師匠が帰ってきました。わたくし「親父、なんて言ってた?」、師匠「びっくりして、呆れかえってた・・」、わたくし「・・だよな」、師匠「・・帰ろう!!」、わたくし「うん!」。


        プロのドライバイー、師匠に託した帰路・・・台風19号の恐怖と生還C

しかし、帰り道も大変でした・・。この漁港はかつて陸の孤島とまで言われたほどOGA磯の奥にある集落です。けっこう急な坂道を上って本線の道路に出ると左右どちらからも帰ることが可能です。わたくし「どうする?TOG湾の方(左折)を通っていった方が海から遠ざかるし、いいんじゃねえ?」、すると師匠「いや、かえって何が飛んできてぶつかるか、何が倒れて道路をふさいでいるかわからないからMONZE漁港の方(右折)を通ろう!」、驚いてわたくし「ええっ!それだとまともにこの暴風が吹いてくる海沿いを通ることになるべえ。それに海まで100mもあるDAISANKYOの絶壁の上を・・風にあおられて落ちないか〜?!」、しかし師匠「いいや、風は海から吹いてる。あおられても山側の側溝に落ちるか、山の斜面にぶつかるかだ、行くべ!」。ワゴン車は右に車輪を傾け、帰路につきました。300mほども行くと倒木・・道路をふさいでいます。と、対向車が来ました。どうやら道路か何かのパトロール車のようです。車外にヘルメットを着けた人たちが出てきて、車がやっと通れるくらいまで倒木を寄せてくれました。「なっ、大丈夫だべ?」と師匠、「ええっ?」とわたくし。師匠「あの車がここまで来たってことは、この峠の道路には障害物が無くて、下のMONZE漁港まで大丈夫ってことだ、行こう!」、わたくし「う〜ん、なるほど・・」。

あまりスピードを出すとまた違った方向からも車体に風の抵抗を受けるかもしれないと、時速30kmほどのスピードでワゴン車が峠の最も高い地点に達しました。そこで恐る恐る眼下の海を覗いてみると・・あの点在する沖磯は白濁の荒れ狂った海の底に沈んででもいったのでしょうか、1個も見当たりません。「これ、転落したらオレたち絶対助からないし、後で見つかりもしないよなあ・・」と話しかけるわたくしの言葉に答えることもなく師匠は真剣な目でハンドルを操作しています。そうです、今いちばんこの前代未聞の凶暴な台風にわたくしたち2人の命を懸けてワゴン車を走らせているのはこの師匠なのでありました。「・・あっ、すまん!でも師匠が運転のプロでホントよかったよ!」・・そうです、紹介するのを忘れましたが、このわたくしの釣りの師匠は乗合いバスの運転手を本業としている人なのであります

ついにワゴン車は峠を越えました。それでも暴風が止んだりしたわけでもありませんが、ひとつの大きな危険から抜け出したことにホッとひと息です。ワゴン車が走る道路には、消波ブロックを強引に乗り越えようとする波のしぶきがたたきつけるように降ってきます。そして、その道路を走るたびにピチピチ小さな音が聞こえてきます。何かと思いよく観察してみると、その波のしぶきに混じって運ばれてきたカニやフナ虫がたくさん道路を歩いており、それがどうやらワゴン車のタイヤにひき潰されている音のようです。また、道々驚いたことに・・かけようとした公衆電話はすべて不通、前日OGA磯に向かうとき棟上をしていた新築中の家屋は倒壊、ハサに掛けてあった稲の束は跡形もなくどこかに吹き飛ばされ、1個として立っているバス停の看板はありませんでした。ウ〜ンと感心したこともありました。それはこの嵐の中の漁師たちとその家族です。おそらくこの歴史的な台風から船や網などの道具を守ろうとしているのでしょう、老いも若きも、男も女も暴風の中で走り回っています。そのたくましく自然とすっくと対峙する姿には感動すら覚えました。


        ついに到着したものの上司の怒声が・・・台風19号の恐怖と生還D

・・ついにワゴン車は内陸の師匠宅に到着しました。ちゃきちゃきの師匠の奥さんがニコニコしながら家から出てきました。「大丈夫だった〜?釣りなんてできなかったでしょう〜?、まっ、ウチに入って!ラーメンでも作るから!」。・・ご馳走になったそのインスタントラーメンの美味しかったこと!!!スープまですすり、大きなため息をした師弟の2人は顔を見合わせ・・「恐ろしかったよな〜!」と大笑い。・・とそこへ、師匠の奥さんが「IKEさん、ウチから電話よお」、わたくし「ええっ?!・・モシモシ?」、すると電話口でカミさんが「ふう〜、まあ無事でよかったわ!今、職場から電話が入ってね、台風の被害状況を確かめるから10時までみんな集合だって!!!」、わたくし「ええっー?!」、とにかく急いで職場に行け!というカミさんの言葉に従って大急ぎで帰宅したものの、集合時間に1時間も遅れて職場に行くと・・上司が「IKE〜!!遅い〜!!〜んでもって・・ぬあーんだとおー?この前代未聞の台風の最中に、OGAまでサカナ釣りに行っていただとお〜!?!?」。

しかし、わたくしはこのとき気づいていなかったのです。この釣りという底なし沼のような趣味とも言える"釣り"にのめり込むあまり、その後また更に仰天するような出来事に幾たびも体験する結果になることを・・・。


        異国の地ではサヨリも猫のエサ・・・ジョアン先生との初釣行

R中学校に外国語助手としてハワイからやってきた日系3世の女性、ジョアン先生と出会ったのは、もう7、8年も前のことになります。南国からこの雪国に来て辛かったと思いますが、3年間、R町教育委員会から提供された借家に住んでおりました。当時、職場の20歳代から30歳代の女性数人がジョアン先生の人柄の良さにひかれ、週に1回ほど英会話の勉強に自宅へ通っていたらしいのですが、ある日、ジョアン先生から英語を習っている職場の30歳代後半の女性職員がわたくしのところに来て、「ジョアン先生・・ほらっ、R中学校のALT(外国語指導助手)、わかるでしょ?!あのジョアン先生が大の釣り好きでね!」、わたくし「んっ?ああ・・」、女性職員「なにが"ああっ"ですか?」、わたくし「ええっ??」、女性職員「だから〜、そのジョアン先生を釣りに釣れってくれないですか〜?」、わたくし「だ、誰が?」、(呆れたように)女性職員「疲れるなあ・・・、IKE先輩がですよお〜!」、「うえっ!オ、オレ〜?!なんで?」、女性職員「IKE先輩、若いときグアムとかに釣りに行ったりしてるんでしょ?わざわざハワイから来てる、しかも女性が日本の釣りを経験してみたいって言ってるんですよお〜」。

・・そんなやりとりがありまして、ハワイから日本の、しかも雪国に英語を教えに来てくれているというジョアン先生と一緒にOGA磯に釣りに行くことになったのであります。釣行前に少し打ち合わせをしようと、その女性職員に付き合ってもらい、ある夜にジョアン先生の家を訪ねてみました。ジョアン先生は、わたくしより2歳年下の、ふっくらとした日系人らしい女性でした。初対面でしたが、気さくで、日本語も上手く話しやすく、次の週末OGA磯へ釣行する約束をするのにさほどの時間を要しませんでした。

そして約束の日、運悪く海は荒れており、沖磯に渡礁するのがムリだったため仕方なくTUBAK漁港の内湾の消波ブロックへ。仕掛けは磯竿1号に円錐ウキ、エサはオキアミという定番です。ジョアン先生に仕掛けとひと通りの手順を教えると笑顔で「OK、わかりました!」。そして足元も軽やかに消波ブロックを渡り、釣り場へ降りていきました。大丈夫かな?と眺めていると・・これがまたなかなかの腕前です。竿さばきやリールの扱い・・どれをとっても文句のつけようがありません。30分ほども過ぎた頃でしょうか「オウー!!」というジョアン先生の声。わたくし「どうしました?」、するとジョアン先生「残念です。ヒットしたんですがフックがはずれました・・。でも、わかりました!少しベイトにアクションを加えてあげるとヒットするようですね」とにっこり。

へえ〜、やるな〜!と感心。その数分後「ヒュ〜、ヒットしましたよ!ちっちゃいけど!」というジョアン先生。急いでバッカンを手に傍へ行ってみると、15cmくらいの小アジです。「これ、アジですね!」・・なんでも知ってるなあ。ジョアン先生「アジはね、ハワイでもよく釣れるんですよ。釣れるときは30cmくらいのが100匹くらい釣れるんです」、続けて「さあ、IKEさんも釣って、釣って!」。せかされて自分の釣り座に戻り、ジョアン先生の方をチラッと見てみるとまた竿をしならせています。こんどはけっこういいサヨリのようです。「参ったなあ〜。ようし、オレもがんばるか!」と自分に気合いを入れて釣ろうとすると、ジョアン先生「ああ〜、○×■△です〜!」といってサヨリを眺めて苦笑いしています。「どうしたんですか?!」と再び傍に行ってみると、ジョアン先生は顔をしかめて「フンン・・、スティックフィッシュで〜す。捨てましょう!」、わたくし驚いて「ええっ?けっこういい型のサヨリじゃないですか!美味しいですよ!!」、これを聞いてジョアン先生、信じられないといった顔つきで「日本じゃこのサカナを食べるの??ハワイじゃ"スティックフィッシュ"って言って、せいぜい猫のエサにするくらいよ!!」。

・・・これが、初めてのジョアン先生との釣行でありました。

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO、5.0m、0.8号。別作江頭ウキ5B。マキエ、オキアミ3kgにチヌパワー若干。ツケエ、オキアミ。


        KOHAM地磯での良型クロダイ・・・さもありなん、その後はさっぱり

地磯歩きよりも、沖磯での釣りが圧倒的に多いわたくしでありますが、ホームグラウンドとしているOGA磯はKAM磯がとても南西の風弱いことから、時には地磯での釣りとなることもしばしばです。これがけっこう辛い釣りでありまして…。地磯専門の人たちは、ロッドケースや道具入れ、バッカンなど背中に背負い、とてもしっかりとした装備でポイントを釣り歩くのでありますが、我々沖磯組はロッドケースと道具入れを肩にかけ、およそ7kg(夏場は10kg)ほどのオキアミを片手に歩くのですからやっとの思いで釣り場に着いたときにはハアハア、ゼイゼイとしばらくは釣りにならない状態でありまして…。

そんなこともあって、苦しいのはご勘弁を!とばかりに、あまり道程の険しい、遠いポイントには入らないようにしてしまうのが地磯釣りの常であります。でありますから、地磯となったときにはあまり芳しい釣果をえたことがないのでありますが、いつぞやの11月頃、楽そうなポイントはすべてふさがっており、あ〜あ、どっかの漁港にでも入ろうかと車を走らせておりますと、なんとなく道路からすぐ下のところに30mほどの短い防波堤が目に留まり、路傍に車を止めて見てみるとなんとなく荒れた外海から逃れたクロダイがひと休みできそうな感じの場所です。ふ〜ん、と考えた末、ここで竿出しすることに。入ってみると、右手の前方に荒天時に実績のあるOTOK岩が見えます。このKOHAM漁港付近はけっこう人気の釣り場であったことを思い出しました。「けっこういいかもしれないな」と少し期待しながらコマセを撒き、第1投。ウキ下は大体2ヒロ半ほどにセットしました。右から左側の防波堤に向かってウキが流れます。潮の流れというより防波堤にぶつかろうとする波に乗って動いているような感じです。ウキが沈みました…合わせてみると案の定根がかりです。ハリスの鉛を少し上に移動し、ウキ下はそのままで再度流します。今度は根がかりはありません。底にはところどころに海草のかたまりがところどころにあるようです。うまく隙間を縫って仕掛けが流れてくれればなあ…と考えながらの数投目。またしてもウキが押さえつけられるように沈みました。根がかり?いや…でもな、まあ一応…と淡い期待を抱きながら大きく竿をあおってみると…ギュウーンという力のある抵抗感が伝わってきました。サカナです。言い訳がましいようですが、沖磯で釣っていると深さがあるものですからサカナは前方や手前の底に向かって突っ込みますが、2ヒロ程度の地磯では横走りの中で根に入り込もうと抵抗するため、なかなか取り込みまでは厄介です。

10分近くもやりとりし、やっとのことで玉網に収まったとたん…ハリスがプッツン!わあー危なかった!!結局、釣果はこのクロダイ1尾のみでありましたが、計ってみると44cmの良型です。サカナってホントにわからないようなあ〜などとしみじみ思いながらも、大満足の釣行でありました。しかし、そのあといくらこの地磯ポイントに通っても、1尾のクロダイにもお目にかかったことがないのでありまして…。

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO、5.0m、0.8号。別作江頭ウキ1号。マキエ、オキアミに押麦−若干。ツケエ、オキアミ。


        対向車線に進入し、正面衝突・・・嗚呼、冬磯で交通事故@

12月の28日だったように思います。厳しい寒気が一時的に弱まり、天気予報では気温も上昇し3℃から5℃ほどにも上がり、空にも青空が広がり太陽が顔を出すとのことでありました。いやいや、そんな日に竿を出さない釣師ではないだろう!とばかりに、前日職場で年次休暇の請求をしたところ、上司「んっ、明日?!明日は仕事納めで、夕方から職員全体の忘年会だろう・・」とけげんそうな顔。わたくし「頼んます、課長!!最近あんまり調子が良くなくて、仲間に水を空けられていまして・・」、上司「なんだぁ〜、釣りかい?!」、わたくし「ええっ?・・ええ!そうスけど・・頼みますよ〜」、上司「だってキミ、忘年会の会費払ってあるんだろう。ドタキャンでは会費は戻らないって話だぞ〜」、わたくし「3,000円や4,000円の問題じゃありませんよ!」、上司「困ったヤツだなあ〜」・・といったやりとりがあった翌日・・。

天気予報は的中し穏やかな天気・・早朝、目指すは約120km弱先のOGA磯です。もう一度車のトランクの中を確認、免許証と財布の中身も大丈夫です。よしっ、出発!途中、国道に掲げてある温度表示を見ると1度です。天気予報によると今日の気温は5、6度くらいまで上がるとのこと。いつものこの時期の寒クロ釣りでは雪道のためかなり神経質な運転が求められますが、今年は降雪時期が遅く、今日は前日の雨も手伝って路面に雪がありません。この分だと2時間ちょっとでKAM漁港まで到着できそうです。

・・OGA磯に入りました。あと10分くらいで渡船場です。「(そうだ、ちょっとトイレで用を足していこう。ここまで来たらあわててもしょうがない。体調を整えてからの方がいいだろう)」とDAISN橋駐車場の公衆トイレで用を済ませ、再びハンドルを握りました。「(そうだ、シートベルト、シートベルト)」。カシャッ!「(おお、漁港が見えてきた。ここのカーブを右に入りながら左に曲がるとすぐだぞ〜)」・・の瞬間!!わあーっ、道路が凍ってるー!左に曲がれない!!対向車線に入っちまう!わあー対向車がいるうっ!!わああああ〜ダメだあ〜・・(目をつむり、ハンドルに腕を突っ張る)・・あれっ、ぶつからないのカナ?・・と、その瞬間!グワシャーン!!!シートベルトに強い衝撃。 ・・少しして我に返り、車を飛び出すと相手の運転手も「いやあ、参ったなあ〜」と車から出てきました。わたくし「す、すみませ〜ん!大丈夫ですか??」、相手の人「ふう、びっくりした!・・あれっ、あんたR町の人!?」、わたくし「ハ、ハイ!」、相手の人「いつか会議で一緒になったよね。しかし、それにしても参ったなあ・・とりあえず警察を呼ぼうか!」。

痛恨の交通事故でありました。天気予報では気温が5、6度でもOGA磯の日陰は潮風にさらされアイスバーンとなるのをすっかり忘れていました。ハンドルをきりすぎてそのハンドルがロックされたままわたくしの車は対向車線に入り、そのまま対向車線で止まった相手の人(ISIさんという地元KAM集落の人であります・・)の車に正面から衝突したのですから、渡船の親父さんの家を借りての事情聴取でも弁解のしようもなく、ただただ平謝りのわたくしでありました。渡船のカアさんは「とにかく相手がいい人でヨカッタよ。不幸中の幸いだ」と慰めてくれました。


        強風、そのときボンネットが!・・・嗚呼、冬磯で交通事故A

事情聴取も終わり、地元の駐在さんに「この車、ここに置いていった方がいいですよね?」とうなだれながら尋ねると、「いや、動くだろう?動くんだったら明るいうちに帰った方がいい。気をつけてな!他の警察官に止められたら私の名前を言って事情を説明してくれればいいから」、「ハ、ハイ!」。すると、隣で渡船の親父さんが「なんだ、明るいうちに帰ればいいんだったら、午前中釣っていったらいいべえ!」、わたくし「ええーっ?勘弁して!帰るよ・・迷惑かけました・・(ペコリ)」。外に出て前の右半分がぐしゃっとつぶれ、ボンネットが盛り上がり運転席からの視界を3分の1程度もさえぎっている自分の車に乗り込み帰路につきました。ボンネットの盛り上がりのため背筋をピンと伸ばしていなければ前方がよく見えません。すれ違う車、すれ違う車の中の人たちがわたくしの悲惨な車を見て驚いたり、指をさしたり、振り返ったりしているようです。

「参ったなあ・・背中も疲れるし」などと思ったそのときです。右前方からの風が強くなってきたかと思うと盛り上がったボンネットがガタガタ、ガタガタ震えはじめました。な、なんだ?ナニか起こるのか?と思ったその瞬間です。ブアターン!!という大きく激しい音とともにフロントガラスからの視界が突然消えてしまいました。・・そうです、おそらくボンネットを固定していた部品が風の強さに外れてしまい、そのボンネットがものすごい勢いで開いてフロントガラスを直撃したというわけなのです。やばい!とっさにそう思ったわたくしは、静かにそのままブレーキをかけました。頼む〜誰も追突してくれるなよ〜。・・無事、車は止まりました。後続車もわたくしの車をいぶかしげに追い越していっているようです。疲れた身体で車から降り、持っていたロープでボンネットを車体に固定し再び運転席に乗り込んで車を走らせました。・・あれ、なんかさっきまでと違うなあ・・なんだ?・・あっ、そうか!今、ボンネットがフロントガラスに思いっきりぶつかったせいで盛り上がったところが平たくなって前が見やすくなったんだ!


        家族サービスで娘を海水浴に・・・こっそり磯竿を忍ばせて@

娘も保育園の年長組、さすがに父親としては夏休み中の海水浴ぐらいには連れてってあげなきゃいかんだろうという良心が働き、「今度の土曜日、YUMを連れて海水浴にでも行こう!」と提案、かわいい盛りの娘は「ホントに?やったあ!」、一方カミさんは少しフンッ!といった笑みを浮かべ「あらまっ、珍しい!でもパートの方、休み取れるかしら・・・」、「まあ、パートと言ったって、祖母ちゃんの実家の割烹だ。何とかなるだろう!?」、と、カミさんは少しむっとしたように「なによっ!けっこう今忙しいし、私に任せてもらっている仕事だってあるんだから!」、「わかった、わかった!」・・・などといったやりとりがあったあとの土曜日、天気はすこぶる快晴です。

「YUM、ほらそこにあるクーラーボックスを持ってきて!」、「父さん、この水筒も持って行く?」、「ああ、そうだ、そうだ!気をつけてな!」、「うん!」・・・とそこに大きなバスケットを片手に現れたカミさん「あれっ、なによこれっ?!」、「んっ、な、なんだよ?」、「なあ〜んで海水浴に竿とか入っているわけ?!」、「ああ、そ、それは・・・。まあ、いいじゃん!行こう、行こう!」てなやりとりがあって車にYUMとカミさんと祖母ちゃんを乗せて出発です。「で、どこの海水浴場に行くの?」とカミさん、「うん・・・KAM海岸」、「ええっ?あなたなに考えてるの?KAM海岸っていつもあなたが釣りに・・・まっ、いいわ!」、そこにYUM「どうしたの?」、カミさん「な〜んでもないよ、YUM。YUMとお母さんたちは海で遊ぼうねえ」、「うんっ!でもお父さんは?・・・あっ、お父さんは釣りでしょ。おっきいの釣ってね」・・・YUMのけなげな言葉に首をすくめながらカミさんを覗くと横目でじろりとにらまれ、やっぱり今日は止めとくかなあ・・・と思っていると、突然カミさんがアッハハハ!と大笑い。「いいわよ、行ってらっしゃい!あなたもここんところ忙しくて釣りにも行ってなかったしね」、わたくし「やったあ!」

2時間半近くもかかってやっとKAM海岸に到着。近くの砂浜と違って岩浜には海の生き物をいっぱい見つけることができます。「じゃあ、2時間だけ釣ってくるから。場所はほらすぐそこに見える沖磯、KAMKUR島って言うんだ。じゃあ、行ってくる!」・・・てなわけで、いつも世話になっているOTAK丸から渡してもらって2時間だけの超短時間の釣行です。狙いはメジナ、できれば30cmクラスのヤツが一尾でも拾えれば万々歳です。


        緑の巨魚に出会うもその正体は・・・こっそり磯竿を忍ばせてA

・・・ところが、世の中そんなに上手くいくはずがありません。コマセを打てども、打てども寄ってくるのはスズメダイ、タナビラ、クサフグばかりです。やっぱりダメかあ〜と諦めかけたそのときです。南東向きの沖合いにブクブクと泡立つ大きな海面の盛り上がりを発見。「な、なんだあ?ええっ、まさかサカナ・・・んなわけないよなあ・・・でもなあ〜」と半信半疑でコマセを遠投してみました。するとなんとなくその海面の盛り上がりが近づいてきたように見えます。「な、なんだ〜?」といったビクビク感とドキドキ感を抱きながらなおもコマセを撒き続けると確かにその海面の盛り上がりがコマセに誘われるように近づいてきます。

よしっ!と意を決してその海面に仕掛けを投入してみました。ウキ下は竿1本強です。お気に入りの江頭ウキを盛んに操作したり、ウキ下を変えてみても仕掛けに変化はありません。それでもなおわずかずつ海面の盛り上がりは近づいてきます。わたくしは竿を置きました。そして残りわずかなコマセを一生懸命に撒いていると遂に海面の盛り上がりが竿3本ほど先まで近づいてきました。そしてよくよく注意深く見てみると海中に緑と黒のまだら模様が偏向グラス越しにゆらゆらとしている様子がうかがえます。で、でかいっ!興奮している自分自身に落ち着け、落ち着けと言い聞かせ、わたくしは再び竿を手にし、今度は竿1本半、ガン玉1号を追加し、仕掛けを沈ませながら攻めてみました。・・・な、なんだ、こいつ?!1尾?・・・じゃないだろ、でかすぎる。それとも群れ?・・・ベラの大群?とにかく生き物には違いない・・・なんなんだ?あれっ、さっきまでうじゃうじゃいたエサトリたちも磯際から離れなくなったぞ・・・やはり大物?

わたくしの頭の中では目の前で起こっている出来事の答えを見つけようと思考回路がぐるぐるとフル回転、その結果この真夏日の海の真ん中でだらだらと汗をかきながらも鳥肌が立つという、生まれて初めての経験までしたのでありました。と、そのとき・・・海面の大きな盛り上がりが再び進路を変え、今度は岸の方へと移動し始めました。わたくしは仕掛けを遠投し、なんとか魚信を出そうと懸命の竿操作を試み、そしてコマセを撒きました。しかし、海面の盛り上がりは引き返すことなく真っ直ぐに陸地の方向へ移動していきました。呆然とその様子を見守るわたくし・・・。そして最後にビックリ仰天。なんとその海面の盛り上がりは陸地に最接近したかと思うと、突然、がばっと立ち上がったのです。うわあ!なんだありゃあ?!・・・あれれ・・・ひ、人?!そうです、不思議な海面の盛り上がりとは・・・酸素ボンベを背負い、緑と黒のウエットスーツを身にまとったスキューバダイビングを楽しんでいた人の泡だったのでありました。

呆然とその様子を見て立ちすくんでいたわたくしは、ブオー!という音に我に帰りました。振り返るとOTAK丸がもう迎えに来ています。大急ぎで道具を片付け、釣り宿に戻りこの話しをすると船頭の親父もおかみさんも腹を抱えての大笑い。そして最後に親父さん「しかしIKEさんよ、そんな大物を目の前にしてスレ魚信さえ出せねえとは・・・やっぱりオマエさんのタナ取りの腕はまだまだ未熟なんじゃねえか?」とまたしても大笑いされたのでありまして。あ〜あ、やっぱりみんなと海水浴を楽しんでいるんだった・・・深く反省

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯FXマークU5.4m0.8号。シマノBBX600。別作江頭ウキ0.5号。マキエ3kg、オカラダンゴ。ツケエ、オキアミ。


        痛、痛てて・・もう勘弁してくださいよ・・・それどこのポイント?と釣り好きのお医者さん

娘が小学校6年生、息子が年長組みの夏休みのときであります。「娘のYUMも今年が小学校最後の夏休みだしさ〜。いつもの日帰り海水浴と剣道ばっかりの夏休みじゃなくて・・」というカミさんの提案を受けてしばし思案・・。けっこう仕事の方も忙しいしなあ・・でもカミさんの言うことにも一理あるかあ・・「よしっ!じゃあ、今年はみんなで1泊キャンプに出かけるかあ!」、このやりとりを聞いていた息子が「やったー!!」と歓声をあげました。6年生となり少し大人っぽくなった娘もいつになく嬉しそうな様子です。「ねえ、ねえ父さん、それでどこにキャンプしにいくのお?」という息子に向って当然のようにわたくしは「OGA磯!」と宣言。「ちょっと、ちょっと!キャンプって・・釣りキャンプじゃないでしょうね!?」という少し慌て気味に問いかけるカミさんに「まさか!夏休みのキャンプだから海がいいに決まってるだろう!?でも砂浜じゃあ泳ぐだけだから・・OGA磯だったら泳げるし、ヤドカリやらカニやら海の生き物もたくさん見ることができる!OGA磯の鵜の崎海岸が絶対いいよ。市内にも近いしね」とここまで一気にまくし立てたわたくしの迫力と情熱に誰も反論ができずにいるのでありました。 さて、キャンプ当日は朝からすっきりとした青空。義兄から借りてきたワゴン車に幼なじみから借りてきた多種多様のキャンプ用品を詰め込みました。家族そろってキャンプなどしたこともないわたくしとカミさんは、前日、特に自信がないテント張りで戸惑わないよう近くの葬祭場の駐車場で十分練習を済ましての出発です。助手席にはカミさん、後部座席には娘のYUMと友だちのTAGちゃん、そして息子のTAKが乗り込みました。ワイワイ、ガヤガヤ・・みんな楽しそうです。こういったファミリー・レジャーに夢中になる世のお父さん、お母さんたちの気持ちがちょっとだけわかったような気がしました。初日は、予定どおりOGA磯手前の鵜の崎海岸にテントを設け、泳いだり、小魚を捕まえたり、焼肉をしたり、夜には花火を楽しんだり・・。

翌日は、かなり寝不足ながらも子どもたちの元気な姿に「よ〜し、片づけが済んだら水族館に寄ってから帰ろう!!」というわたくしの提案にみんな「やったあ〜!!」。すると静かに傍に寄ってきたカミさんが耳元で「ちょっと、大丈夫?かなり疲れてるっていう顔してるわよ・・」、「ああ、大丈夫だよ。それにみんなあんなに喜んでるし・・」といった言葉に続けて「でさ、頼みがあるんだけど・・」、カミさん「・・なによ?」、わたくし「キミたち水族館を見学し終わるのに小1時間はかかるだろう?」、カミさん「・・で?」、わたくし「・・でさ、そのわずかな時間だけ釣りさせてくれないかなあ〜」、目を丸くしてカミさん「ええっ〜!なに、竿、持ってきてんの?」、わたくし「ああ・・ホント、すぐ隣にいいポイントがあるんだ。きっと釣れないんだろうけど・・なっ、ちょっとだけ!」。懇願するわたくしを哀れに思ったのか「・・で、ホントに1時間でいいの?少し、食堂かどっかで時間つぶししてこようか?」などと殊勝なことを言ってくれるカミさんに「いや、いいよ。けっこう疲れているし・・。ただ竿を降ろせば気が済むだけの話しだし・・」。

ところが釣りとは奥が深く?本当にわからないものであります。みんなを水族館に送り、わたくしは途中のドライブインで買い求めたかなり古い1キロのオキアミに押し麦を少々入れたエサをバッカンに入れて建物のすぐ隣のポイントへ。・・と、仕掛けを投入して20分か30分後、オキアミと仕掛けが同調してスーッと左に流れたと同時に少し誘ってみると円錐ウキがスイーッと海中へ・・結局何ともいえない力強い引きを楽しんだ末に玉網に納まったのは35cmほどのクロダイでありました。 そして翌日・・目が覚めてみると身体が何か自分のモノではないのではないかと思うくらいの疲労感です。「いやあ〜念のために休みをとっといてよかった〜。今日はゆっくりと休もう!」、そこへカミさんがやってきて「あら、起きた?疲れたでしょ?!昨日はクロダイのお刺身を頬張りながら、ビール1本ぐらいでつぶれちゃったもんね!布団まで連れてくるの大変だったんだから・・」。そっかあ〜、OGA磯から帰ってから借りたキャンプ用品やワゴン車を返して、風呂に入って・・バタン、キューだったんだっけ。でも、あのクロダイはラッキーだったよなあ〜・・などと思い出しながら思い身体を起こし、遅い朝食をとった後のこと・・。

・・い、痛、痛・・腹が、腹が痛いー!!!突然、強烈な腹痛に襲われ、ぴくりとも身動きできないほどの状態であります。「お、お〜い!・・あっ、そうかカミさんはパートか・・痛、痛・・」。とても自分では車の運転などできないほどの強烈な腹痛・・近所の知人に電話し、隣市の総合病院に運んでもらい診察室へ。そこへ40歳代前半くらいのお医者さんが診察台のわたくしのお腹を触診しながら「う〜ん、なんか昨夜食べたもので心当たりはありますか?」、苦しみながらも答えてわたくし「ええ・・昨夜はOGA磯で釣ってきたクロダイを刺身にして・・」と話したところで、突然お医者さんの口調が変わり「えっ、OGA磯のクロダイ?あなたが釣ったんですか?」、「え、ええ・・」、お医者さん「どこですか?MONZE磯、KAM磯?」、わたくし「TOG磯ですが・・」、なおもお医者さん「TOG磯ですか・・沖磯、地磯?検潮場の辺りですか?」、腹を押さえながらわたくし「い、いや、水族館の横の・・」、なおも、なおもお医者さん「あの辺り、潮通しがあまりよくないでしょう?」、苦しむわたくし「・・・」、慌ててお医者さん「・・!、あっ、ごめんなさい!!今はそれどころじゃなかったですね(苦笑)。私も好きなものですから・・まっ、疲れでしょう!点滴したら治りますよ」と別室へ。・・もう頼みますよお〜お医者さん!!

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO5.0m0.8号。シマノBBX3000。別作江頭ウキ4B号。マキエ:オキアミ1kgと押し麦。ツケエ:オキアミ。


        初めてOGA磯のクロダイを釣り上げる・・・13時間におよぶ釣行で体力限界、車でドンッ!

まさにピークの頃は年に50日以上もOGA磯に通っておりました。それもこれもクロダイ、マダイ、メジナといった磯の上物釣りに魅せられたことによるわけであります。初めてクロダイと呼べそうな30cmほどの魚体を手にしたときは本当に胸が高鳴ったことを憶えています。場所はMISAG島の根もとで向いに小MISAG島を望みながらの釣りでありました。これだけは逃がしてなるものかと必死でロッドにしがみつき、同行していた釣友のKAGAYさんに玉網ですくってもらった時には、まさにこの釣友が"救いの神"のように輝いて見えたわけでありまして・・。このときはだいたい朝の5時頃に渡礁し、納竿したのは午後6時頃だったでしょう。後で思えば、過酷な・・といった釣行でもなかったのですが、そのときのわたくしは30代前半とはいえおそらく疲労困ぱいの状況であったのでしょうが、なにせ初のOGA磯のクロダイをゲットした嬉しさで、るんるん気分でKAM魚港にもどってきわけであります。

この後、渡し船の親父やカアさんに祝福され、口の悪い釣友には「自殺しにきたクロだな!」とか「大方、海の中で深呼吸したところにちょうどエサが入ってクロがむせたんだろう!?」などとからかわれたことも実に心地よく、家に着いたらなんて言って自慢しよう〜などと考えながら片道115kmという帰路に着いたのありますが・・。

 車は県都を抜けて日本海をあとにし低いながらも山間部に入っていきました。ここを越えると奥羽山脈が見えてきます。しかし、もうあたりは真っ暗です。対向車のヘッドライトが眩しく、気のせいかレーザー光線のようにクラッシュしているようさえ見えます。これが誘いとなって、わたくし「ふわ〜、やっぱり朝3時起きだったからなあ。こんなところで事故っていてもあわないよなあ・・」と思ったところで車を路肩に止めて小休止・・すればよかったのですがそこはOGA磯初釣果の浮かれた気分が車を止めてはくれません。忘れもしません。わたくしの運転するくるまが片側2車線に入り、緩く長い左カーブにさしかかったとき、わたくしのまぶたがフゥッと・・そして頭がふらっと後ろにひかれそうになったと感じたとたん・・ドンッ!!!うわあー、なんだ!?

気がつくとわたくしの車は道路を外れ、山肌に衝突してしまったのでありました。まさに、鼓動がドクドクドクと太鼓のように打っています。そして冷や汗がどおー・・うわあ、ヤバかったあ・・。幸いシートベルトがわたくしを助けてくれ、車もバックするとそれほど難儀せずに道路に戻ってくれました。釣りの危険は釣り場だけにあるんじゃないんだよなあ〜と思い知らされた出来事でありました。(・・にもかかわらず、これから数年後にはもっと大きな・・)

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯FX MARKU 5.4m0.8号。シマノBBX600。とくしま3B。マキエ:オキアミと押し麦、チヌパワー少々。ツケエ:オキアミ。


        釣りは早朝!!でなくても釣れるときは釣れる・・・OGA磯のオヤジさんも苦笑い

クロダイはじめメジナやマダイといった磯の上物釣りは本当に魅力的な釣りであります。事情?があって今でこそ年に2〜3回釣行するかしないかといった寂しい状況なのでありますが、30歳代から40歳代にかけては、名礁OGA磯の沖磯を中心にクロダイを追い続けたものでした。特にホームグラウンドとしていたKAM磯は漁港から南北に分かれて魅力的な岩礁がたくさんあって、週末になると職場にいてもなんとなく高ぶる気持ちを抑えることができないほどであります。

ところがわたくしの弱点は致命的なことに"朝早く起きれない"ことでありまして・・。渡船宿のカアサンにはいつも「朝寝しているような釣り人や漁師などあったものじゃない!」とはっぱをかけられておりました。なにせ春クロや寒クロの最盛期には百人をはるかに超える釣り人・・いや、最先端の装備に身を包んだ若いアングラーたちが午前の3時、4時に渡船場所でがやがや順番を競っているときに、遠く117kmも離れた奥羽山脈の麓にいるわたくしはナントまだ布団の中であります。だいたいわたくしの起きる時間はのっ込みの春は午前5時頃、釣り人の少ない夏は午前6時頃、秋の荒食い時期は午前5時頃、寒クロの冬などは午前7時近くに自宅から出かけるのですから、渡船宿のカアサンが呆れるのもムリはありません。漁港までの所要時間は通常2時間半、降雪期に入ると3時間以上かかりましたし、しかも沖磯から午後4時には上がりましたから正味5時間の勝負です。「無理をせず、OGA磯の海を眺めながら集中して釣るのがオレの釣り」などとうそぶいて全ての釣り人の後から限られたポイントに釣座を設けるわけなのですが、それでもしっかりとカタを見ることができたものであります。

寒クロシーズンも盛りのある日、荒れが続き「今日の渡礁は限られるナ」などと思いながら、午前10時頃に到着。渡船のオヤジさんに「まったく遅いヤツだなあ!まあいいべえ、乗れ!」と言われて向った先は通称SAKURA島。けっこううねりが強いもののそれほどでもないなあ・・と思っていると、オヤジさん「朝はうねりが強くてダメだったが、今は北向きの先端でやれるかもしれない」と有難い助言です。磯に降りてみると北向きの陸側に2人の先客。ちょいと失礼!と断って入座。先端北向きの乾いているところで釣り始めたわけでありまして・・。しばらくの間、足元のさらしにコマセを撒きながら20m程の範囲を1本半ほどのタナを探ってみてもエサトリのアジやタナビラばかり・・。そして昼過ぎ、うねりがさらに収まったのを確認して最先端近くに移動し、今度は北側の沖目に遠投。仕掛けは気持ちよく潮流に乗って40mほど北上しそこで止まっているのが分かります。絶対の信頼を寄せる別作江頭ウキ1号の朱色を視覚で確認することはできませんが、風を気にしながら慎重にがま磯XO0.8号で帆掛け操作をしていると仕掛けの位置が確認できるのです。これで確実にコマセが届いていればかなりいい感じのはずです。何投目かの後、張り気味のミチイトを通じてロッドにわずかな手応え・・バシッ!とあおるように合わせるとロッドが弧を描きました。ヨッシャ!クイ〜ン、クイ〜ンという力強いサカナの走りを感じながら右手にロッドを倒して寄せに入ります。とうとうウキが海面から顔を出しました。と、そこには銀色の鱗を光らせながら中型のクロダイのすがた・・。右手でサカナに空気を吸わせ、落ち着いたところで玉網を左手で伸ばし、そしてキャッチです。BBXをフリーにし、ロッドを股に挟んで玉網を仕舞い込みます。ふう〜、やった!35cmクラスの良型。黒銀の精悍な顔つきで背びれを立てる獲物、まさにこれがOGA磯のクロダイです。

しかし、見惚れてばかりいるわけにはいきません。すかさず追いコマセを打ちながらハリを交換し、同じ場所に仕掛けを投入・・結局、そのポイントでは同型のクロダイ3尾を釣り上げ、しかも上がり際、今度は足元でも1尾を追加という大漁での磯上がりとなりました。結局、その日のSAKURA島の釣果はわたくしの4尾と内湾の1尾の合計5尾という結果のようでした。

港に帰り、渡船のオヤジさんに釣果を報告すると、釣り前とはまた違った感じの呆れた表情で「オマエさんのような不真面目でもそんなに釣れるんじゃ、他の連中が可哀想だなや」と苦笑い。わたくしも「い、いや、いつもじゃないから!」と笑いながら頭をかくと、「あったりめえだ!!」とオヤジさんの一喝!

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO 5.0m 0.8号。シマノBBX3000。江頭スペシャル1号。マキエ:オキアミと押し麦、チヌパワー少々。ツケエ:オキアミ。


        初めてのTOB島遠征・・・他人の朝メシを2人でパクリ!

磯釣りではほとんどOGA磯ばかりを歩いておりますが、2回ほど隣県のTOB島に1泊2日の遠征を試みたことがあります。メジナ、クロダイを本命にそこそこ釣れたのですが、最低でも40cmオーバー、できることなら1尾でもいいから50cmオーバーを!!と意気込んで出かけたものの、2回ともメジナは足の裏、クロダイは泣き尺程度という貧果でありました。

それでも、サンゴ礁も生息するという東北ではそれこそ有名なTOB島の澄んだ沖磯で、いずれも腕に覚えのあるOGA磯をフィールドとした釣り師たちと一緒に目一杯愛竿を振るのは実に気持ちのいいものでありました。加えて、早い潮流と遠いポイント、想像を絶するエサトリに対応するよい練習機会にもなり、2回とも充実した釣りができたことに間違いはありません。夜は夜で、県内有数の釣り師たちと杯を酌み交わし、さまざまな釣技やそのときどきの攻め方などが大公開され、今から思うとその宴会場に学習帳と鉛筆をもってメモすればよかったなどと思うところでありまして・・。

初めてのTOB島の初日はU島本島の傍のCでした。そして次の日は、AR島です。日程の都合上、午前10時が納竿です。渡船から沖磯に移ろうとすると「おい、握りメシ持っていけ!・・あら、でも1人分しかないな・・後で届けらあ!」という船頭の言葉に、1人分の朝食を持って渡礁です。風の関係でTOB島向きでの釣り・・しかしこれが経験したこともないようなもの凄いエサトリの猛攻。師匠のSAGWさんとの釣りでしたが、さすがの師匠も「こりゃあ、すげえな!」。それでもなんとか30cm〜35cmクラスのクロダイをそれぞれ2〜3尾釣り上げたところで、さらにエサトリがきつくなりしばし休憩です。師匠「IKEさん、メシ食おう!」、わたくし「だね、こりゃダメだ」、師匠「もう1人分のメシ、届かないな。仕方ないから半分ずつ食うべ!」と仲良く握りメシを1個ずつ頬張りながら釣りを続け・・そして納竿。

港に着き、2人で「腹へった〜」、「結局、もう1人分来なかったなあ〜」とぼやきながら今回の幹事さんに「朝メシ、1人分しか来なかったスよお〜」と訴えると、幹事さん「えっ、朝メシ?・・頼んでねえよ朝メシなんか!早い引き上げだったからね」続けて「さあ、宿から出て港で朝、昼一緒のメシに行こう!」。

師匠とわたくし、顔を見合わせて「もしかして船頭さん、間違って他人の朝メシをオレたちにくれたんじゃねえ?」、「うん・・たぶん」。しばし、2人で大笑いした後、師匠「まっ、これもラッキーということで!

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO 5.0m 0.8号。シマノBBX3000。江頭スペシャル1号。マキエ:オキアミとおからダンゴ  ツケエ:オキアミ。


        浮かれすぎた代償・・・嬉しさも半減となり穂先がポキリ!

OGA磯にはKOHAM磯、MONZ磯、KAM磯、TOG磯、NYUD磯などいくつかの磯場に分かれています。渡船もその漁場を範囲に希望の沖磯に渡してくれることになります。わたくしはKAM磯が好きで釣行のほとんどはここでの釣りでありました。どの沖磯も魅力的でしたが、どうしても相性の合わない岩礁もあります。しかし、シーズンともなるとそんなことは言ってられません。特にわたくしのように遅出の釣り人は「まあたこんな遅い時間に来やがって!」という渡船のオヤジさんに悪態をつかれながらわたくしが望む沖磯の名前を言う前に「この時間じゃ、○○島の根元しか空いてねえ!」とか言われてそこに運ばれ、「じゃあ、○○時に迎えに来てよ!」と上がりの時間を伝えると「その時間はダメだ!△△時にしろ!」と言われるのが毎度のことでありました。

その日のオヤジさんのご指示は「OAZI島」でありました。どちらかと言えばKOAZI島の方が魚影は濃いのでありますが、この時間、そんなことを言ったらどんなに怒鳴られるかわかりません。「は〜い!」と返事をよくして渡礁です。これまでここでの実績がないことから、どうも釣れるような気がしません。それでもこの日は地元の釣り雑誌にも出ているYAMADサンも一緒に渡礁することとなり、「釣れなくてもいい勉強ができるかもしれないナ」と思いながら北向きに並んで釣り開始です。

「IKEサン、最近けっこういい釣果が続いてるそうじゃありませんか!」とYAMADサン。わたくしは驚いて「ええっ、オレのこと知ってるんですか?」と問い返すと、YAMADサン「R町のIKEサンといったらここじゃけっこう有名じゃないですか!渡船のオヤジさんやカアさんもIKEサン、IKEサンっていつも話題に出ますよ!」。ええっ、ええっ?それって初耳だ!どういう話題なんだ?とかなり動揺したわたくしでありましたが、ここは釣りに集中です。2人の足元からけっこう魅力的なサラシが出ているのでありますが、根がかりが多く、エサトリも元気で本命が来ている気配がありません。3時間ほど経ち、昼食をとりながら「やっぱりここには付いてないのかなあ」とYAMADサン。わたくしもウン、ウンと頷きながらおにぎりを片手に周囲を歩いてみると根元の内湾の約40mほども向こうになんとも魅力的な払い出しがわたくしから見て右から左に延びています。「あそこまでコマセは届かないよなあ〜」と思いながらも大遠投を試みてみることに・・。

しかし、釣り師を名乗るのであれば「直感」は信じてみるものです。大遠投の数投目・・グイッという思い手応えの後、ググッウと引き込む強い引きが愛竿をしならせます。よしっ!と慎重にやりとりをしながら40cm弱の良型クロダイをXOの玉網に納めました。そしてこれからが釣りならではの締めであります。嬉しさを噛み殺し、獲物を玉網に入れたまま竿を片手に磯面を上り「YAMADサン、釣れましたよ!そちらはどうですか?」。と、YAMADサン「うわあ、やっぱ、腕良いですねえ!すごい、すごい!」というお褒めの言葉・・これ、これ、他の釣り人よりも釣果を上げる!これが陰の釣りの醍醐味よ!!とほくそ笑んでいると・・YAMADサン「でも、IKEサン、ロ、ロッドの穂先・・」。見ると愛用しているがま磯マークU0.8号の穂先がトップから5cmほど下でポキッ。どうやら、サカナを玉網に納めた後、開放したはずのベールが中途半端だったために基に戻り、その強い弾性力が行き場のない玉ウキを通じて穂先に集中して穂先を折ってしまったようです。以来、この沖磯で本命の姿を見たことはありません。

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯XO 5.0m 0.8号。シマノBBX3000。江頭スペシャル1号。マキエ:オキアミとおからダンゴ  ツケエ:オキアミ。


        クロ釣りの苦々しい思い出・・・バカヤロ、バラセ!!

わたくしが磯のクロダイに夢中になるもなかなか釣果が上がらなかった頃の話です。当初、師事した方は阿波釣法に信奉しており、中通しの円錐ウキの下に大きめの水中ウキでサカナを浮かせて釣ることにこだわり、ハリがかりしたサカナは1人で玉網に取り込むことと厳しく指導?されておりました。わたくし自身もいろんな釣り雑誌やビデオを通じてこの釣り方に熱中していたわけであります。しかし、エサの作り方やタナまで指摘されるものですから、今から思うとまったく自由がありません。少々、おっくうになりはじめました。

それでも、何度もOGA磯に通い始めると憧れのクロダイに巡り合う機会も訪れはじめました。しかし、どうしても玉網入れが上手くいきません。 ある日、その師匠らとSYOSANK磯に一緒に渡礁したときです。先端で探っていたわたくしにクロダイがかかりました。しかし、どうしても玉網入れが上手くいきません。「すみませ〜ん!手伝ってくれませんかあ〜」といくら叫んでも師匠らは来てくれません。それでも幸運なことにやっとの思いで30cm強を取り込むことができました。そして次の仕掛けを入れてから数投目、またしても円錐ウキがすう〜っと海中へ。あわせると・・これも間違いなくクロダイのひきです。ただ、このときちょうど沖を遊覧船が通ったものですから大きな波が何度も押し寄せ、ただでさえ手こずる玉網入れがまったく上手くいきません。「すみませ〜ん、○○さ〜ん、手伝ってくださ〜い!!お願いしまあ〜す」

と頼んでも無しのつぶてです。このままだとバレると思ったわたくしは玉網を断念、引っこ抜くことにしました。せえ〜の!と引き上げ、磯まであと50cmほどのところでクロダイがポトリ・・。ああっ〜!と思いきや、わたくしの愛しいクロダイはちょうど1mほど下の磯のでっぱりにひっかかってぴちぴちと跳ねています。わたくしは夢中でそこに飛び降り、むんずとサカナを掴んで釣り座に戻ってバッカンに2尾めのクロダイちゃんを入れました。やった〜、こりゃあまだいけるかも知れないと仕掛けを入れようとしたそのとき、師匠らが「入れ食いかあ〜。IKEくん、キミ釣っただろ。今度はおれ達にやらせて」釣座から追い出されました。

そして、それからまもなく・・今度はDAIKOK磯で師匠らと一緒に釣りました。絶好のコンディションです。わたくしは端っこに寄せられましたが、それでも払い出しに乗って仕掛けは沖に・・。足元に打ったコマセも潮目に効いていることは未熟なわたくしにもわかります。案の定、魚信です。例によって玉網になかなかクロダイが納まりません。しかも、釣り場が低く、波が手前にときどき舐めてくるような位置だったのですぐに仕掛けが緩んでしまいます。結局、それから4、5尾のサカナをバラしてしまいました。心底落ち込みながら師匠らの釣り場まで歩き覗いてみると・・なんと互いに玉網ですくい合っているではありませんか!!!呆然と見つめているわたくしに気がついた師匠「おう、IKEくん、どうだい?こういうときはクロを散らしちゃいけないし、足場も悪いからお互いに助け合った方がいいよ」。

無言で釣り場に帰り、再び仕掛けを投入。再びヒット!今度もなかなか玉網に納まらず、思い切って引っこ抜きました。急いで磯竿を置き、サカナを押さえてふと振り向くと、一緒に来た5歳ほど年下の子が自分の玉網を延ばして立っていました。さすがにわたくしを不憫に思ったのでしょうか。 帰りの渡船に乗ったとき、船頭の親父さんが「IKEさんよう、今日はおめえさんでも釣れたろう。何匹上げた?」、わたくしはそろそろと右手の人差し指を上げました。そこで親父さん、やたらとでかい声で「なにっ、たった1匹か?!

それ以来、この人たちと一緒に出かけたことはありませんし、師匠と呼んだり、釣友と思ったこともありません。 いろんな釣りをしてきて数十年になります。悔しい思いはたくさんしましたが、このときのような後味の悪さを感じたことはありません。同時に、誰かと一緒に釣行したとき、こんな思いを他人にさせてはいけないと今でも強く心に刻んでいます。あっ、でもあの人たちを恨んだりしてるわけじゃありませんから誤解なさらずに・・(ウソです・・バカヤロ!バラせ!!!

【 仕掛け 】 ⇒ がま磯マークU 5.4m 0.8号。シマノBBX600。とくしまこつぶ3B+中原水中ウキ大。マキエ:オキアミとチヌスペ少々  ツケエ:オキアミ。


        あこがれと尊敬の釣師は・・・知る人ぞ知る江頭名人!!

はっきり言ってわたくしの釣りを上手と下手に分類するとすれば、まったくもって迷うことなく皆さん「下手」という烙印を押されることでしょう。だいたい当の本人であるわたくし自身、自分の腕前の情けなさにときどき悲しくなるほどなのですから。特に一番好きな磯の上物釣りに関しては貧果、貧果の連続で、釣友との釣行や沖磯に他の釣り人と相乗りしたときなど思い返せど、思い返せどわたくしの方が釣果で勝ったという経験がないと言っても過言ではありません。あまりに毎度のことなので腹が立つどころか、ああ、またか〜と思わず苦笑いしてしまいます。

そんなわけで自分は人より腕が劣っているんだと割り切っているはずなのですが、そこは根っからの釣りバカです。クソッ、上手くなりてえなあ〜という気持ちはしっかりと心の奥に息づいているわけでありまして・・。そんなわたくしが憧れ、尊敬し、(なれるはずはないのですが)こんな釣り師になれたらなあ〜と夢みているのが徳島の知る人ぞ知るアノ「江頭弘則名人」なのです。

江頭名人を知ったのは磯釣り師匠のSAGWさんから見せてもらったVHSビデを通じてです。釣り方は独特で豪快、画像の中で紹介してくれている仕掛けは極めて単純です。有名なスルスル釣りは難しくてできませんが、その他のことはなんとかできそうでした。水中ウキを外し、落としナマリで仕掛けを整えることに一番躊躇しましたが思い切ってやってみました。やってみるといくつか今まで気づかなかったことに気づきました。その結果、釣果が飛躍的に・・そんなドラマには残念ながら全くつながりませんでしたが、それでも自分で釣ってるっていう感覚がわかりはじめました。これは収穫でした。いくら釣れなくても、アレ、ここが上手くいかなかったんじゃあないカナ?ってなことを思うようになったからです。

その後、1999年9月に発行された江頭名人の著書「釣れない原因がわかる・・」はまさにわたくしのことを書いてるんじゃないかと錯覚するような内容でした。今でも常時持ち歩いて時間があるとチョコチョコ目を通しています。結果的に釣果にはつながっていないものの磯釣りが楽しくなったことだけは確かです。

見た目わたくしと同じようなオジサンで、気さくで、ジョークが冴えていて、釣れるサカナをまずは釣る精神を持ち、ムダと思うことはさっさと切り上げ、ムダなことに時間は割かない等々の江頭名人は実にカッコいいのであります。あ、こんなことを書いていたら、また釣りバカの虫が動き出しました。早く週末が来ないかなあ〜!

まさに”夢は大漁!!”であります。

追伸:どちらかの釣り具メーカーさん、なんとかまた江頭ウキを販売してはいただけないものでしょうか?わたくし、絶対買いますから!!


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