◆ 渓流での釣りから・・・

        圧巻!HORINAI沢の自然T・・・入渓、雪しろ岩魚を求めて

岩魚や山女を狙った釣り、いわゆる渓流釣りにのめり込んでいた頃のことです。ひょんなことから隣町で会社を経営するSUZUKIさんを紹介してもらいました。この方、渓流釣りにかけてはプロ中のプロと近辺でも名高い方です。渓流素人のわたくしにもそのウワサは耳におよんでおりました。SUZUKIさんは実に気さくな方で、知り合ったその日に「じゃあ、天皇誕生日(この頃はまだ4月29日がその祝日でした)の朝3時に卸売市場で落ち合って行きましょう」ということになりました。

当日の車中、SUZUKIさんは「今日時間あるんだベ?オレ、今日は子どもの運動会でほんとは午前中だけのつもりだったけど行くのやめた。HORINAI沢で一日釣ろう!」、わたくし「はあ、オレはいいスけど・・。いいんスカ?子どもさん・・」、SUZUKIさん「いいって、いいって、行こう!HORINAI沢は県内でも有数の渓流だしね」。

早朝4時30分、HORINAI沢に入渓であります。

途中、同時に入渓した釣り人2人との話し合いで、わたくしたちは1.5Kmほど上流の三角岩から釣り始めることになりました。「よし、ここから始めよう」というSUZUKIさん、わたくしの仕掛けを見て「それじゃあダメだ、竿貸してみて・・」とおもむろにわたくしの仕掛けを直し、釣り方を伝授してくださいました。自分の腕前もまんざらではないと思ってたためちょっと心が傷つきましたが説明を聞いてすっかり納得。

「先にやってていいよ!」というSUZUKIさんの声で第一投目・・ククッ・・ウソッ、魚信!?

【 仕掛け 】 ⇒ ダイワカーボンロッド(名前忘れた!)5.3m。道糸ナイロン糸1.5号一ヒロ強で穂先から40cm程のところにトンボ。イワナ鈎9号。エサはドンガラの虫。


        圧巻!HORINAI沢の自然U・・・一本の細い雑木に命を託して

第一投目・・ククッ・・ウソッ、魚信!?・・いや、ウソではありません、夢でもありません。確かにわたくしの愛竿の先に良型のサカナがいるようです。他のサカナを散らしてはいけないので、素早く引き上げます。姿を現したのは、まだサビがとれない真っ黒な27cm超級のイワナです。「SUZUKIさん、一発だ!」。悠然と仕掛けを作っていたSUZUKIさんはニッコリ笑って「よーし、いけるな今日は!ここのイワナはみんな居つきなんだ。だから、大切に釣らないとナ。あんまりいないかもしれないが20cm以下級はリリースな」。

沢登りしながら釣り続けて2、3時間ほど、HORINAI沢はその表情を次々に変え、周囲は切り立った岩肌でどんどん厳しくなって行きます。ここまでの釣果はわたくしが2、3尾、SUZUKIさんが5、6尾ほどです。流れが左側に大きく曲がるところでSUZUKIさんが「ここは巻くのも無理だし、この岩づたいに進むしかない。ちょうどロッククライミングの連中のハーケンが打ってあるから、これに指を入れてつかまりながらいこう。オレが言うとおりにして慎重にな!落ちたらこの激流で一発(・・死?)だからね」。見上げると確かに岩肌に直径3cmほどのハーケンが打ってあります。一旦竿をたたみ、ザックに入れて沢登りの開始です。SUZUKIさんが「まず、このハーケンに左手の指を入れてから、ここに右足をかけて・・」といった具合に解説してくれながら、それに習って進みます。と、SUZUKIさんが「あれ、ここハーケンが無いなあ。仕方ない、ここの柴(雑木の小枝)につかまって来て。大丈夫折れないから、ほら!」。えー、まじッスすかあ?。恐る恐る手をかけ、全体重を細い柴に託します。これが折れたり、抜けたりしたら3mほど下の激流にあっという間に飲み込まれるでしょう。南無三!

「いやあ、ここもきついなあ。よし山から橋の代わりになるような倒木かなにか探してこよう!」。・・唖然。


        圧巻!HORINAI沢の自然V・・・激釣13時間、足の指が・・

釣り進むうちに雪しろ水を含んだHORINAI沢はますます激しさを増していきます。わたくしが手前の岸、SUZUKIさんが向こう岸ということで釣っていたのですが、なかなか向こう岸に好ポイントが見つからなくなり、わたくしの後をSUZUKIさんが釣り探ってくるといった感じになりました。最初は「ワルイなあ・・」などと思っていたのですが、わたくしが釣り終えたポイントでSUZUKIさんはナント好調に釣り上げている様子です。あれぇーおっかしいなあ?

もう入渓してから7時間ほど経っています。「もうちょっとで沢が二つに分かれるよ。一本がMANDAノ沢でもう一本がASAHI沢だ。MANDAノ沢は渓流釣りをしている人の中でも入ったことのある人はそんなにいない秘渓だ。でもMANDAノ沢で釣るには泊まりがけでなきゃムリだから入り口だけ見て、左のASAHI沢に入ろう!」とSUZUKIさん。わたくし「(ややゼイゼイしながら)ハ、ハイッ!」。

やがてSUZUKIさんの言ったとおり沢はまっすぐの沢(MANDAノ沢)に左側から同じくらいの幅で合流してくるASAHI沢が見えてきました。めったに来れないからということでまずMANDAノ沢の入り口付近まで行って引き返し、ASAHI沢に入りました。本流のHORINAI沢とはまた違って少し緩やかで優しそうな渓相です。30分ほど歩き、少し遅い昼食をとることにしました。SUZUKIさんが野営道具でお湯を沸かします。もちろんASAHI沢の水を沸かしているのです。重いからここに釣った魚を置いていこう−ということで黒サビの凛々しい居つきイワナを魚篭から取り出し腹を裂き、ナイロン袋に入れて沢の端に埋めるように保管しました。数はSUZUKIさんが24、5尾、わたくしが10尾ほどです。いずれも尺をわずかに下回る良型です。「お湯も沸いたし、さあ、飯だ!」。SUZUKIさんは自分が釣ったIWANAをナイフで真ん中からドンッと真っ二つにしてお湯の中に入れ、インスタントの味噌ラーメンを作ってくれました。

フウ、フウいいながらラーメンすすり、おにぎりをほおばりながらSUZUKIさん「オレはあんまり人と一緒に釣りに来ないんだ。だから今日は特別。ほかの人は一人じゃ危ないと言うけど、オレは数人で行くとかえって無理をして危険だと思っている。キミも釣りは一人で歩いてみるといい。ただし、怖くなったらそこで必ず帰ること。ここが大切なんだ。周りに誰も笑う人なんていないんだから、必ず怖いって思ったら帰ることだ。その先はまた今度くればいい。そうすればそのとき帰った場所までは2度目の道のりになるだろう。それから50mなら50mそのときまた挑戦すればいいのさ」。

昼食をとり、ASAHI沢の釣りを再開しました。2時間ほど釣り登ったところで沢の表情は一変しゴツゴツした岩だらけの渓相となりました。わたくしが2、3尾追加した頃、突然SUZUKIさんが「マズイ、帰るよ!雨が落ちてきた!」。SUZUKIさんの話しだとこれだけ深い渓流では天気がすぐに変わってしまう、特に雨には最も注意が必要だとのことです。大急ぎで竿をたたみ、帰路につきました。途中、あの昼食をとった場所でイワナを魚篭に入れ行こうとすると、SUZUKIさんが「あれ、これ見て!熊が通ったらしい」と指差しています。「ええっ?」SUZUKIさんの指す先を見ると、枯れた3mほどの木の肌が真新しく剥ぎ取られ、ぎざぎざになっています。「俺たちが行ってすぐだな、こりゃ・・。まあいい、帰ろう!」

なにが「まあいい」のかはわかりませんでしたが、雲行きもいよいよ怪しくなり、二人は沢を再び降り始めました。途中、雨となり二人ともびしょぬれです。そしてやっとの思いで最後の沢を横断する地点までたどりつきました。驚いたことに、出発したときは足首あたりまでしかなかった水位が、降雨のせいで膝あたりまでになっています。転倒しないようSUZUKIさんと手をつなぎ横断。時計を見ると午後5時半くらいを指しています。入渓してから13時間近い時間が経っています。無事に帰ったことの安堵の気持ちと厳しい釣りをし終えた充実感に浸りながら釣り長靴を脱ごうとすると、中がグチャグチャという感じでなかなか脱げません。やっとの思いで釣り長靴を脱いでビックリ!白い靴下は真っ赤、その靴下を脱ぐとわたくしの足の爪のほとんど全部がはがれてしまっていたのでありました。釣果:SUZUKIさん30尾(マナー限度)、わたくし12尾。


        転落!あわや串刺しに・・・それでもワラビ採りする懲りない釣り人

わたくしの職場からわずか12、3分ほど車で行ったところにKATASIRI沢という小さな渓があります。解禁間もない頃はまだまだ雪深く、その頃だと車を降りて1時間以上はカンジキをはいて歩かなければなりませんし、6月にもなると藪こぎもできないほど雑木に覆われてしまうため、わたくしとしては4月の初めから5月中旬頃までを釣期としている場所であります。釣れる魚はイワナです。ヤマメは棲んでいないようです。放流などしていないためか魚影はさほど濃くありませんが、上流に進むほど型が良くなるのが特徴です。

あの時の釣行も4月の終わり頃だったと思います。どんよりとした曇り空でしたが先行者もおらず、釣果も良型4尾とまあまあで独り魚信を楽しんでおりました。この渓の特徴は幅こそ狭いものの釣り上るほどにごろごろとした岩場となり、段差もけっこうきついのであります。しかしその日、なんとなく気分も乗っていたわたくしは、いつも引き返す場所よりもう少し上流へと足を伸ばしてみることにしたのであります。確かに、上流に行くほど険しい岩肌の渓となっていくのですがイワナのいそうなポイントはありません。そろそろ引き返そうかな・・と思ったとき、段差が2m強の所から沢水が白い水泡を散らしながら激しく落ち込み、その両側に渦流をつくる絶好の場所です。さっそく奮発して買ったブドウ虫をつけかえ、仕掛けを慎重に流すとフッと目印が不規則に動きました。すかさず合わせると確かな手ごたえです。27、8cmの良型イワナをこのポイントで2尾追加。思えばこれが良くなかったのかもしれません。

すっかり気を良くしたわたくしは、さらに居つきイワナを釣り上げるため次なる場所に向かおうとこの2m強の段差を登ることにしました。そこで、左手の大きな岩の上に左足を掛けて力を入れ膝を伸ばし自分の身体をその岩の上に押し上げ、次に右足を引き寄せようとした瞬間、岩に付着していたわずかな部分の水こけがはがれ、さすがのフェルト底の胴長もツルリッ・・やばい!落ちると瞬時に判断したわたくし(その頃はまだ30歳前半、地元バスケットボールクラブを引退したばかりの時分で身のこなしには自信がありました)は、右足を強く蹴って山側の土の上に身体を倒そうとしました・・が、無念!その目的の土の山肌に届かず1m50cmほど下に背中から転落・・の予定が途中でドン!!

・・大きな岩の上で足を滑らし背中から落ちたわたくしは、直径40〜50cmほどの枯れ木にちょうど背中から串刺しにされるような体勢(この枯れ木が杭のように尖っていたらホントに串刺しでありました)でドン!と落ち、一時そのまま停止したのでありました。息がつまり、目の前も暗くなったような気さえしました。力をふりしぼり身体を反転させて枯れ木から降りたわたくしは深呼吸をしてみました。・・少し背中が痛みますが息はできます。骨に異常はないようです。少し落ち着いてくると今度は恐怖心がわたしくしを襲いました。そうです、怖くなったわたくしは沢づたいには帰らず、そのまま山を駆け登りました。この上に確か林道があることを知っていたからです。15分ぐらい登るとめざす林道に着きました。この林道はけっこう幅があり、山菜取りの軽トラックなど何台も走っています。助かった〜。

しばし、安堵しつつ放心状態のわたくしはふと自分の足元にワラビが群生しているのを発見、30分ほどワラビ採りをして帰ったのでありました。もちろん、この懲りないわたくしがこの日の転落事故を家族に報告するといったことなど決してなかったことは言うまでもありません。それどころか、釣った良型イワナの塩焼きと新鮮なワラビを食卓に並べ「やっぱり釣りはいい!」などと言ってみたりしたのでありました。


        空に魚がバタバタと・・・テンカラ師匠のハプニング

職場から10分もかからない山間のSAINOKAMI集落、この近くを流れるMARUKO川は渓流魚、特にヤマメの釣り場なのでありました。エサ釣りから疑似餌を使ったテンカラ釣りやフライフィッシングをしていたころの話しです。いくら山の麓とはいえ、こんな民家の立ち並ぶ集落の近くに用心深いヤマメが棲んでいるのかナ・・などと思う場所なのでありますが、けっこうこれがいい釣り場でありまして。6月の夕刻、ちょうど6時半頃になると、川が狭まり急流となるあたりの岩の付近のあちら、こちらでボチャン、ボチャンという音が聞こえます。そう、夏虫の羽化に合わせて始まるヤマメのイブニングライズです。

その日わたくしは、この集落に居を構える職場の先輩とテンカラ釣りをしておりました。見よう見まねのフライフィッシングやテンカラ釣りを始めたばかりの頃で、俊敏なヤマメの動きに合わせることができずボウズの状態でした。先輩は使い慣れたテンカラ竿と愛用の毛バリで良型ヤマメを2、3尾あげています。そして7時半頃、もうあたりは真っ暗でライズも終わり、わたくしは帰り支度を始めていました。先輩はまだヤマメが毛バリに飛びつく音に合わせて粘っています。いくらなんでもヤマメに音だけで合わせるのはムリだよなあーなどと思っていると・・。

「来た!!」、エッ?、続いて「わあ!!」、バシッ、ババンッ・・。わたくし「せ、先輩、どうしたんすか?!」。先輩はせき込んで「ビ、ビックリしたあ!。今、竿先にクンッと来たんで合わせたら、魚がバタバタと空に飛んでよお!」、わたくし「はあー?」、先輩「ミチ糸の分だけ飛んでったら、今度はオレの方に向かって来たのよお!」、わたくし「な、なんすか?」、先輩「ビックリして竿を振り回して飛び回る魚を地面にたたきつけたら・・糸が切れて飛んで行っちまったんだ」、わたくし「・・・・」、先輩「コウモリが毛バリに食いついたらしい」。

な、なるほど、そんなこともあるんだ・・となぜか感心。

【 仕掛け 】 ⇒ メーカーなどわからないフライフィッシングセット(1万円で購入)での釣り。


        ボーズなし!初春のMIZU沢・・山菜採りの女性と出会う

渓流が解禁となる3月20日、わたくしが近場で絶対の自信をもって臨む釣り場が霊峰MAHIRU岳を源とするMISU沢でした。魚止めまで約600mほどのあまり深い沢ではありませんが、ここでボーズということはまずありませんでした。その日も、ちょうどホンナやシドケ、アエッコといった春の山菜採りが真っ盛りの5月初旬、天気のいい日。わたくしは愛竿を片手に、エサはサシドリを持ってこのMIZU沢に入渓しました。中間に堰堤があってそこを巻くと渓相がまったく異なる、見た目にも楽しい釣り場です。

自信があると自然にサカナもついてくるのか、小ぶりながら数があがります。堰堤にたどり着くまでに5、6尾のイワナを釣り上げました。ここで、一服(当時はタバコを吸っておりました)。それから堰堤を登り、次のポイントへと向かいました。ここでもまたイワナ4、5尾を追加しました。通いつめているせいもあって、思ったところにサカナがいます・・そして、サカナ止め。実にすばらしいポイントなのでありますが、不思議とここでサカナが釣れたためしがありません。その5mほど手前では釣れるのですが、ほんとうに不思議です。ここで納竿とし、釣ったサカナを少し水洗いし、魚篭に山草を敷いて帰り支度をします。帰る前にこの沢の水で顔を洗うと気持ちがまたしゃきっとするのがいいです。

帰り道、山菜採りの女性を見かけました。30mほども離れていたせいでよく顔は拝見できませんでした30歳半ばのようです。チラッと目が合い、お互いに会釈を交わしました。ちょっといい気分。次に50歳後半のおじさんに出会いました。おじさん「釣りかあ。釣れたガ?」、わたくし「まあまあです」、おじさん「この沢はやっぱり熊が多いナ。そこで熊のフンを見た」。エッ!?そうか、もうすっかり冬眠から目覚めた頃だよなあ。おじさんと別れたあと・・あの女の人、大丈夫かなあ?などと要らぬ心配をしながらMIZU沢を後にしたのでありました。


        郡境い、ANI渓谷の大イワナ・・振り向くとカモシカ

渓流釣りを始めて2年ほどした頃、郡境いのANI町の渓谷へ義兄に連れられて釣行しました。ANI町は山間にある小さな町で、マタギの里として有名なところです。ここの大イワナは釣り人の間で頻繁に話題にのぼるほどの人気で、いつかは行ってみたいと思っていたのでした。義兄の家、つまりカミさんの実家に泊まり(当初は午前3時出発の予定が、飲みすぎて・・)朝の4時に釣り場へと向かいました。義兄の「ちょうど1時間10分で到着する」との言葉どおり、5時10分に釣り場に着きました。この頃はまだ、15尺のグラスの渓流竿に雑貨屋で売っている特長という、今から思うとなんとも粗末ないでたちでありました。

平日の4月後半、有給休暇をとっての釣りであったためか、どうやら先行者はいないようです。義兄と2人並んで渓への降り口に向かっていると、義兄がふと立ち止まり「おーと、カモか!」・・。わたくしは、何気なく空を見上げ「どこ?」。義兄が「ここ・・」と指さすわずか50センチほど先にカモシカが草わらからヌッと顔を出してわたくしたちを見つめています。わたくし「わー、ビックリしたー!」と声に出してはみたものの、この状況をよく考えてみるとこんな山奥・・カモシカがいるのが当然であり、わたくしたち人間がここにいる方がおかしいのかもしれないなあ・・などと思ったりもしたのでありました。

結局、この日は2人で10尾ほどの釣果でありましたが、期待どおりの8寸から泣き尺級の大イワナを魚篭に入れ、帰宅後また2人で塩焼きにしたイワナをつつきながら、あのカモシカの話しなどして酒を酌み交わしたのでありました。


        SINKURA沢に魚影は見えず・・熊の棲みかとは露知らず

前にも書きましたとおり、わたくしの家から十数分のところはもう奥羽山脈で小さな渓流沢が数本あり、平日の短い時間でもそれなりの釣りができるところです。その何本かの渓流沢の中で、YUDA沢に合流するSINKURA沢は町外にあまり知られてはいませんが、地元では厳しく深い渓流として有名です。ただ、この沢は数十年前に心無い者によって焼かれた(薬採り)ことがあると伝えられているところであります。

ある年の7月の初め、地元にいて入ったことがない沢があるというのも癪だということで、早朝にこのSINKURA沢に釣行してみました。古の紀行家菅江真澄翁がしたためた「月の出羽路」では時雨沢として紹介されているこの沢は、大きな堰堤を巻いて行くところから入渓の一歩が始まります。小雨まじりで無風・・わたくしにとっては絶好の渓流釣り日和でありました。なぜならこんな日にはいつも好釣果を得ていたのです。きっと釣れる・・そんな確信めいたものがわたくしにはありました。堰堤を巻いて再び沢に降りてみると思ったよりも狭い渓流でした。それほど切り立った様子でもなく、少し拍子抜けしました。しかし、やや藪こぎ気味に進むとどんどん渓相が変わっていきました。ごつごつした巨大な岩がごろごろ横たわっているような、そんな沢でした。ですから歩き始めて30分くらい経つといたるところに好ポイントが散在しており、胸をわくわくさせながらそこに仕掛けを投入してみました・・がなんの反応もありません。それからさらに1時間ほど釣り登っても愛竿は少しも弧を描くことがありませんでした。それどころか、ますます様相を変え、厳しさを増していくSINKURA沢がなんだかそら恐ろしくさえ思えてきたのでした。静かで険しい・・経験したことのない沢でした

結局、ボウズで帰路に着き、最初に巻いた堰堤を見つけたときには本当にほっとしました。これは後で知ったのですが、SINKURA沢はその厳しい渓相もさることながら、あの堰堤を越えたすぐそこから多くの月の輪熊が生息しているということなのでありました。地元のマタギの曰く「よく、熊サ遭わねかったなあ!」。


        クロ森峠を越えてYASUKE沢の大イワナに出会う その@・・行きはよいよい、残雪を踏みしめながら

渓流の、しかもイワナ釣りに夢中になっていた頃はずいぶんいろんな沢を探して歩きました。あんまり遠征とかはしなかったのですが、県南部の小さな渓流を地図を頼りに探して小まめに釣り歩いていたものです。地図であたりをつけ、誰も入渓している様子がない小さな沢の数少ないポイントにそっと仕掛けを差し込むとブルッと手応え・・至福の一瞬がそこにありました。

そんな名も知れぬ渓流の中でもYASUKE沢は、わたくしが探し当てた(・・とは言ってもわたくしが知らなかっただけで、けっこう有名な沢だということをずいぶん後で知りました)沢の中でも特筆すべき渓流であり、すばらしいイワナが釣れたものです。春となり、いよいよ渓流解禁。わたくしは去年自分が見つけたYASUKE沢への釣行へと真っ先に出かけました。本来YASUKE沢には隣市を通って行くのですが、それだと1時間以上もかかってしまいます。しかし、R町の東、クロ森峠を越えれば40分ぐらいで到着です。わたくしは迷わずクロ森峠をめざしました。ところが・・陽春の中快適に車を走らせるわたくしは、峠を越えたところで思わずストップ!!

えっー!うっそー!!・・なんと、そこには30mほどの残雪が!


        クロ森峠を越えてYASUKE沢の大イワナに出会う そのA・・息も絶え絶え、帰りは過換気症候群!?

なんということでしょう・・せっかくの大物イワナを狙いに車を走らせていたのに。もうとっくに雪なんて消えていると思っていたのですが、やっぱり奥羽山脈をあまくは見ていけないということでしょうか。クロ森峠の裏側は、南や西向きの斜面とは大違いです。そう、まだまだ厚い雪に覆われていますし、道路にだってところどころに数十メートルほどの積雪が点在しているではありませんか。う〜ん・・参った!やっぱり少々遠くてもY市から来るべきだったかあ。後悔しても、もうあとの祭りです。ここから後戻りして隣市を目指していたら2時間以上もかかってしまう、どうしよう・・。そのとき、心の中の釣りの悪魔がつぶやきました。・・歩いてきゃいいんじゃないか?そんなに遠くないんじゃなかったけ?トランクに確かカンジキも入ってたんじゃないか?絶対釣れるって今日!! よっしゃあ!行くぞお!!・・てなわけで、ナニをとち狂ったか、わたくしはそこに車を駐車し、カンジキを履き、ザックに愛竿"春渓"、腰に魚篭を下げ、残雪の上をすべるように、そして真っ直ぐに目指すYASUKE沢へと向かったのであります。

その日の釣果はまさに大漁でありました。イワナバリの8号ではまったく小さく、尺上クラスを数匹釣り落としたものの尺前後の良型イワナを7、8尾魚篭に納めたのでありました。時計を見るともう午後の3時近くになっています。帰らなきゃ!どれくらいで着くかな?来る時は残雪の上を真っ直ぐに来たから・・それでも40分くらいは歩いたよなあ・・いや、もっとかなあ?小さな不安が帰路に着く足を1歩進めるごとに大きくなっていきます。そして予感は見事に的中。そりゃあそうです。沢に向かうときは残雪の上を一直線に、いわば転げ落ちるように向かったのですが、帰りは行きの足跡をそのままなぞって登ってくるなど不可能なことなのでした。しかも、その残雪も陽の光に緩みざくざくととしていて足をとられます。結局、息も絶え絶えに車まで3時間ほどもかかってやっと到着!またその寸前には生まれて初めて大きな雪崩も目撃するというおまけ付きで。ハアハア、ゼイゼイ、ハアハア、ゼイゼイ・・。思わず四つん這いになり「た、助かったぁ・・」。ハアハア、ゼイゼイ、ハアハア、ゼイゼイ・・。

車のエンジンをかけ、およそ30分後にR町の東端の集落に着いた頃もあの3時間におよぶ雪山登りを思い出し、「危なかったなあ・・まだ心臓がドキドキしてるよお」などと思っていると、なんか手足がしびれてきました。ええっ、なに?なんか顔もしびれてきた・・なに??ウソ!!結局これは極度の疲労と興奮からくる、その名も「過換気症候群」なのでありました。かくなるわたくし、バスケットボールの競技選手として長くプレーしてきて、過換気症候群を1、2度経験済みなのでありましたので、急きょ車を止め、リクライニングを倒し、たまたま持っていたスーパーの袋を口にあてスーハー、スーハー・・。オレってつくづくバカ?


        格好だけ?この釣りは無理・・フライフィッシング、ヤマメを背後に叩きつける

自分ひとりで、自分にあった釣りを静かに楽しむ・・なんてことはやはり理想論でありまして、かつてその格好よさに短期間凝った釣りにフライフィッシングがあります。その頃行きつけのSATO釣具店でロッド、リール、ライン、リーダーそしてフライが数個ついたセットを9千円で購入し、職場から10分くらいの渓流で連日のトレーニング。ところが、いくら練習してもどうしてもサカナが釣れません。いったいどうなってんだあ?!ロッドの操作はけっこう上手くなったように思えますし、フライにサカナはライズしてきます。しかし、どうしてもタイミングがつかめないのであります。まあ擬音で現しますと・・"バシャ"、"ピシッ"、"バシャ"、"ピシッ"・・といった具合です。う〜ん、なにが原因なんだよお。釣りキチ三平くんはあんなにも簡単に釣り上げているじゃないか・・。

いろいろな本も読んで見ましたが、これといって自分の釣り方が間違っているようにも思いません。強いて言えば、タイミングが遅いようであります。書き物によると、サカナがバシャと食いついてこれを吐き出すまでにイワナで0.5秒、ヤマメだと0.2秒とのこと。よってサカナが食いついたのを確認してからでは遅く、偏光レンズなどで水中を注視し、魚影が見えたとほぼ同時にあわせるとフッキングするらしいのであります。しかし、5千円ほどの偏光グラスをして水中をいくら注意深く見つめていてもその魚影など一度も目にしたことはなく、相変わらずバシャ、ピシッの連続です。ある日、何度も同じ場所で食いついてくるサカナがいたとき、思い切ってその場所に来たとき魚影も何も関係なくビシッとあわせてみたところ、クンッという手応えとともに15cmほどのヤマメがわたくしのフライに引っかかり、水中から勢いよく飛び出たかと思うと、今度はきれいな放物線を描いてわたくしの背後にビシャーン!!振り向くと哀れヤマメは失神したのかゆっくり水面を流れていきます。

あ〜あ、この釣りはオレには無理だ〜!!


        つい口を滑らせたばっかりに・・好釣り場馬転ばしの堰堤

わたくしの職場から10分ほどのところに"馬転ばしの堰堤"というイワナの好釣り場があって、毎日、職場の勤務時間が終了すると一目散にここに通っていた時期がありました。ここはOMON川に注ぐMARUK川の上流部にあたり、車から降り、胴長を着けて山間部特有の不規則な形をした水田の珪畔をたどって100mほど行くとこの堰堤に到着です。付近は柳の木や雑草に覆われており、外見からは堰堤の存在はわかりません。数多く釣れるわけではありませんが、堰堤から落ち込む水が水底を掘り、渦流線が認められる堰堤の両脇に仕掛けを乗せると決まって2、3尾の良型イワナを魚篭に入れることできるのでした。

この頃、職場で渓流釣りをしているのはわたくしを含めて2人。ですからそのポイントは、もう一人の釣り人の耳に入らない限り安心なのでした。そこで、同じ職場で働くONOさんに「いやあ、あそこの堰堤はいい釣り場でねえ。この前なんか尺もののイワナが上がったりして…キャハハハ」。するとONOさん「おお!そこはオレもよく知っているが、へえ…イワナが釣れるのかい?」、わたくし「(ちょっと、嫌な予感がしながらも)ええ、まあ。…でも、いつもってわけじゃあないんですがね。釣り方もけっこうアレだし…(少しけん制)」。そして、数日後の朝、ONOさんがわたくしのところにやってきて「いやあ、やっぱりあそこ、釣れたぜい!」、わたくし「ええっ?」、ONOさん「昨日の日曜日の朝、ドンガラの虫を持って馬転ばしの堰堤に行って竿を出してみたのよ」、続けて「最初は鯉バリの8号でやってたんだがさっぱり釣れない。あきらめて帰ろうかと思ったら…」、わたくし「…思ったら?」、ONOさん「ふと見ると、近くの柳の枝に見慣れない細地で大き目の釣りバリがあってよお。あれっ、イワナってこれで釣るんじゃないのか!ってひらめいて、やってみたら…」、わたくしは力なく「はあ…(それってオレが引っ掛けて切らしたイワナバリだよなあ)」、ONOさん「なんと、尺もの3尾よお!ガハハハ…!!」。依頼、ONOさんは連日早朝にこのポイントで釣りをしてから職場に来ることを日課にし、夕方に釣るわたくしの釣果は激減したのでありました。嗚呼!今は河川改修され、この好釣り場も10年以上前になくなってしまっております。


        V字堰堤の底からの必死の脱出・・コンクリートに爪を立てながらの数十分

奥羽山脈の麓、車を山並みに向かって10分も走らせれば山脈の中への入り口に着くようなところがわたくしの住んでいる町です。なんとか他の釣り人が入渓しないような好ポイントが近くにないものかと考えていた頃・・・あそこはどうかな?ということでNANAD川の上流へ行ってみました。町の東端NANAD集落を過ぎるともう舗装が途切れる砂利道です。がたがたと横揺れする車が脱輪しないように慎重に運転します。「確かあそこに堰堤があったよなあ。あの100mほど下流でいつか岩魚を釣ったことがあるし、けっこう穴場かもしれないぞ・・・」という自分の釣り勘を信じての釣行です。

残雪も消え、山の木々にも若い木の芽が膨らんでいます。山中へと向かう林道の左側に細めの沢が見え始めました。ちょうど車が交差できるように林道を広くしているところがあり、ここに駐車しました。「どれどれ、確かこのあたりに堰堤が・・・あった!おおっ、けっこういいなあ」。車を降りてのぞき込んでみると、一気に流れ込むのを少し抑えながら溢れる沢水を4、5mほど下に落としている堰堤がかぶさる木々の間から見えました。特に堰堤を越えて沢水が落ち込み白く泡立っているところの両脇には、釣り本にも載っているような理想的な渦流が確認できます。いるかもしれない!という確信にも似た予感に少しどきどきして釣り支度です。こういうときの釣り人は本当に気ぜわしく、まるで誰かと競争でもしているようです。じゃあ、行ってみるか・・・渓流竿をザックに入れ、林道から静かに、慎重に堰堤に降りていきました。堰堤にたどり着き回りを見渡してみると、残念ながら上流側へも、下流側へも斜度がキツ過ぎてとても行き着くことができないような状態です。ダメか〜。

ところがここであきらめず、とにかく竿を出してみなければ気がすまないのがわたくしの釣りバカの虫なのであります。「よしっ、この堰堤のコンクリートに沿って降りていって、堰堤の上に乗っかって釣ってみよう」という今から思えば安易というか、浅はかというか・・・変形V字型の堰堤の底に降りてみたのでありました。しかし、苦労の甲斐もなく、上流側も、下流側も何の魚信もありません。「ありゃあ〜、ダメかあ〜。まっ、いいや。こんなチャレンジも釣りのうちさ。さて帰ろう!」と竿をたたみ、もと来た堰堤のコンクリートに沿って帰ろうとすると・・・「わあっ、こんなキツイコンクリートの坂をどうやって上るんだよおー!!!」。もう、この情景はわかっていただけると思います。急斜度のV字堰堤の底に降りたのはいいのですが、帰ることが極めて困難な状態にあるのであります。短い助走を付けて駆け上がろうとしてもどうしてもズズ〜ッと滑り落ちてしまいます。熟慮に熟慮を重ねたうえで、まず、竿や仕掛けの入ったザックを下ろして堰堤の上に放り投げ、続いてお気に入りの胴長を脱いでこれも堰堤の上に・・・。そこから平らなコンクリートのわずかな凸凹を見つけ、そこに爪を立てながら堰堤の上を目指したのでありまして・・・。何度も何度も失敗を繰り返した何十分後、なんとか堰堤の底から脱出!!はあ〜、やばかったよなあ!!!


        YUD沢上流の釣行を途中断念・・ダム湖に沈むカミさんの生家

わたくしの暮らすR町の東側に奥羽山脈があり、山の合間を縫うように何本もの渓流が支流をともなって本流に注いでいます。その中で、YUD沢は町営の温泉場からさらに1kmほど入ったところにあるY砂防ダムに落ちている渓流であります。流れの幅も狭く、蛇行しており決してよい釣りポイントもないためか、ほとんど釣り人が入らない・・そんな場所であります。放流などもしていませんが、昔から棲んでいるイワナの1匹や2匹くらいいるだろうと思い、Y砂防ダムの高い堰堤を登ってみました。沢を進むとともに渓相が変わっていき、左側が切り立った岩壁になっていきます。しかし、やはり釣りのポイントとしては若干見劣りします。昔からのイワナが1匹でも釣れたら幸運だよなあ…と思いながら、ちょっとした場所に丁寧に仕掛けを投じていきましたが魚信はありません。しばらく歩くと今度は両側が険しい岩壁となってきました。渓流は一度大きく右に曲がり、今度は左に曲がり始めました。

わたくしの足が止まりました。そこはもうゴルジュになっており、深い雑木が覆いかぶさってきており、まるでトンネルの中を潜っていかなければならないような場所です。"怖い!"直感的にそう思いました。岩壁の上の雑木の中で、何かが自分を見つめているような気がします。"やめよう!"YUD沢上流への釣行はこれで終了することにしました。渓流のみならず、単独釣行の多いわたくしの釣りルールの一つに"怖くなったら潔く帰ること"というのがあります。久しぶりの釣り断念です。 結局、YUD沢でイワナのすがたを見ることはできませんでした。渓流が落ち込む最後の堰堤にたどり着くと、キラキラとしたYダムの湖面が見えます。実はこのダムの底には10数戸の集落と小学校の分校が沈んでいます。そのうちの1軒がわたくしのカミさんの生家です。狩猟、山菜取り、炭焼きなどで生活を営んできた小さな集落です。先祖は平家の落ち武者と伝えられています。その話しが本当なら、ウチの娘や息子にもサムライの血が流れているわけです。

数日後、今では里に下りて生活している義父に会ったので「YUD沢に行ったけど、怖くなって帰ってきた。あそこ、熊とかいないよな?」と尋ねると、義父「ああ、大丈夫だ、今は1匹しかいねえ」とぼそぼそ。


        妻ノ神のMARUK川・・イワナ、ヤマメのイブニングライズに感動!

ちょうど6月の始めの頃だったように思います。"イブニングライズ"という言葉を知ってはいたものの、それが果たしてどんなものなのか知らなかったのでありますが、職場で昼食をとりながら渓流釣りの話しをしていると山沿いのMARUK川の上流に住んでいるSUSUGさんが「いやあ、夕方になるとウチの前の川でものすごい数のサカナがバチャバチャ騒ぐったら、騒ぐったら。IKE、1回釣りに来てみれ!」とのお誘いです。「へえ〜、そんなに凄いんですか〜?」とわたくし。「凄いんですか〜だとお!?オメエ、信用してねえだろう?とにかく来てみれって!」…というわけで、その日の仕事を終え、家に帰り釣り支度をしていると「なに、これから釣り?どこ行くの?」というカミさんからのお咎めの言葉です。わたくし「いや、ちょっと妻の神のMARUK川に行ってくる。夕方、サカナが騒いで凄いってSUSUGさんが言うから。すぐ帰ってくるよ!」と言い残し、一目散に東の奥羽山脈に車を走らせました。釣り場ではもうSUSUGさんがテンカラ竿を振っています。「どうッスカ?サカナ、跳ねます?」と尋ねると、「まだまだこれからよお。誰にも言うな!ちょうど6時40分頃にあそこの街灯が点くんだよ。それからいいところ20分から30分間がその"なんとかライズ"の始まりよお」とSUSUGさん。

じゃあ、まだ40、50分くらいありますねえ。オレも釣りながら待ってようっと」と格好ばかりのフライロッドを準備しました。「おおっ、ま〜だそんな釣れもしねえハイカラな釣りをやってるんだ?」、「なに言ってんスカ?!もう少し練習すればバカスカってヤツですよ!」…てなやり取りをしているうちに、辺りが薄暗くなってきました。と、腕時計を見てSUSUGさん「IKE、そろそろだぞ。見てれ!」と耳打ちです。とりあえずはどんなものかと2人とも岸に上がって様子を見ていると…。あっちでバシャ、こっちでバシャ…本当にサカナが跳ねる音がし出しました。そして、予告の6時40分…おおっ、街灯が点いた!数分後…バチャ、バチャ、バチャバチャバチャ!!「わあっ、ス、スゲエ!こりゃ本物だ!」…そうです、SUSUGさんの言ったとおり、流れのあちら、こちらでサカナ(おそらく、イワナとヤマメ)が水面を叩いている音がするのです。よくよく観察してみると、水面から1mくらいの厚さで霧?か水蒸気?のようなものがかぶさっているようにぼんやり見えるのは、なんと無数の虫(カゲロウ?)なのであります。つまり、この羽化した虫を狙ってサカナが興奮してバチャバチャ騒いでいるようなのでありました。わたくしも・・・そしてSUSUGさんもしばしこの自然界の様子に呆然と立ち尽くしておりました。・・・と、SUSUGさん「あっ、おい!釣らねば!」、わたくしも「そ、そうすね!」と慌ててフライロッドを手にそろりそろりと流れの中に足を入れ、上流に向かってキャスティング・・・白いフライがわたくしの方に近づいてくる速さに合わせてラインをまきとっていくと、いきなりわたくしの足元で大きなサカナがバシャン!・・わあっ!!驚いてこけそうになったわたくしを見て、SUSUGさん大笑い。


        堰堤奥の巨大イワナを釣り損じる・・MAHIR川に注ぐ小渓

5月…奥羽山脈に向かうMINEK林道に入り、10分ほども車で行くと左手にMAHIR川の上流が見えはじめ、やがて林道はこれと並行に走ることとなり、やがてこのMAHIR川に清冽な山水を注ぐ小さな沢を見ることができます。ここがこの日の釣り場です。なかなか魚影も濃く、約1時間程度の釣行で3、4尾の良型イワナが揃うことからそのころとても気に入っているポイントなのでありました。 ここを知ったのは、2年ほど前の夏でありました。職場の先輩と一緒にMAHIR川にカジカを突きに来たとき(そのときは、まったくカジカの姿を見つけることができず、2人ともボウズだったような気がします…)、もしかしたらサカナがいそうだなあ〜と思ったのですが、その頃はブッシュがひどく仕掛けを落とせそうになかったのであきらめたのでした。そして翌年の春、およそ70mから80mくらいの小さな場所でありましたが、その間にけっこういい渓相のポイントが数カ所あり、仕掛けを落としてみると目印がフッ〜、そこでピシッ、手元にググッーという良型の手応えが何度かあり、思いがけず好釣果へとつながったのでありました。「へえ〜、こんなすぐ近くで釣り人が入っていない場所なんて未だあるんだなあ…」と心の中でニヤニヤ

なかでも最後にたどり着く高さが4mほどの堰堤はサカナ止めになっているらしく、1週間ほどおいて行ってみるといつも2、3尾のイワナを釣り上げることができたものでした。いつか、同級生のUMEKクンと別の大場所に釣行し、芳しい釣果を得ることができなかったことからこの場所に立ち寄ったことがありました。「きょうはホント冴えなかっな〜」、「でも、先行者がいたんだから…あれ以上入ってもなんともならんだろ」、「ンだよな〜」てな会話をしながらこの堰堤を左右から攻めてみました。「…ここもあんまり良くねえんじゃねえ?」と同級生、「う〜ん、…いつもはもうちょっといいんだが…水が少ないもんなあ今日は…」とぶつぶつ言いながらふとみると…「あら?今まで気がつかなかったけど…堰堤の下、壊れて奥が深くなってる…ふ〜ん、どれどれ…」と仕掛けをとられてもいい!くらいの気持ちで思い切って堰堤の奥を攻めてみると…手応えなし…ダメだ!…あらっ、今度は根がかりかよお…ピシッ、ピシッ!グワ〜ン!バシャ、バシャ!「うわー、いた!いた!!で、でけえ!!!」、根がかりだとばかり思っていた仕掛けの先にはナント1尺をはるかに超えている未だ錆びのとれていない黒い巨大イワナが付いているではありませんか!?愛竿が大きな弧を描いています。「玉網なんてねえぜ!どうする?思い切って引っこ抜くか?!」と同級生、「ムリ、ムリ!!でかすぎる!足元に引き寄せて手づかみにしてみるから、て、手伝ってくれー!」、同級生「お、おう!」…とそのときです。身体のほとんどを出してくねくねとわたくしが立つチャラ瀬に入ってきた漆黒?の巨大イワナが全身全霊を込めてバアシャン!!…プツン!2人「わあ〜!」。

無念、わたくしの渓流釣りの中でおそらく最大であったろう巨大イワナは、10号のイワナハリをくわえたまま、0.8号のハリスをいとも簡単にぶち切ってチャラ瀬を這い、元の堰堤の更に奥へと帰っていきました。もちろんその後何度そのポイントを狙ってもあの主かもしれなかった巨大イワナの姿をついぞ見ることはありませんでした。


        KATAZ沢であわや雷様のお怒りに・・雷雲に気づかずイワナ釣り

カーボンロッドを持っていて一番怖いのは、高圧電線に触れることや落雷ではないでしょうか。自宅から10分ほど東方に車を走らせると小さいながらもとても型のよいイワナが釣れるKATAZR沢に到着します。この渓に放流はないものの、自然繁殖しているのか毎年春早い時期にはまだサビのとれない黒い良型のイワナが竿を絞ってくれるのがなんとも言い難い心地よさを与えてくれます。

この日も、仕掛けをポイントに入れ探してみると25cm級前後の強面の地元イワナを3尾ほど釣り上げ、気分を良くしたわたくしはさらに上流をめざしたのでありました。4月も終わりというのに周囲には残雪と言うには多すぎるほどの雪渓・・「ことしは特に大雪だったからなあ」とひとり呟きながら小さく過流線ができているところに仕掛けをおろし、流れに沿わしてみるとまたしてもぴちぴちと魚体をくねらしながらサビ付きイワナをゲットであります。「ここで4尾も釣れるなんて・・大漁、大漁!」とほくそえみながらさらに上流に向って歩き出すと・・ポツリ、ポツリ。「あれ、雨かあ〜。いつの間にか空が真っ黒だもんな。でも小雨のときって釣果に出会うんだよな。よし!」と勝手な理屈をつけてわたくしはもうイワナ釣りに夢中です。そのときです・・チカッ・・んっ?・・気のせいか!?・・チカッ・・あれっ?なんか偏光グラスの横でチカッと光を感じたような・・うわっ!!

なんと空を見上げるとさすが山間であります。黒い雲がずいぶん下まで垂れてきており、しかもそれはなんと雷雲のようなのです。「やばい!!」とっさにわたくしは渓の中に身を隠し、大慌てでカーボンロッドをたたみました。途中仕掛けが近くの枝に引っかかりましたがそんなことはもうお構いなしです。そこは渓のなかでも流れが弱く、しかも大きな木の葉が幾重にもかぶさっていてなんとか雷様に発見されることはなさそうです。ほっとひと息ついた後「・・それにしてもなあ」と偏光グラスをとるとピカッ!!と鋭い閃光が走りました。そしてよく聞いてみるとバリバリッという激しい雷の音も伴っています。どうやら、わたくしは釣りに夢中になるあまり、そして偏光グラスと渓流の音に遮られ、雷がすぐ傍で鳴っているのに気づかないでいたのでありました。「ふう〜、危ねえ・・この近さだとカーボンロッドを持つ手にもピリピリとした感触があったに違いないんだが・・それほど夢中になっていたということか・・」。ピカッ!バリバリバリ!!「うわあ、怖え〜!!」思わず身をすくめ、両手で頭を抱えます

ものの30分も経ったでしょうか。ポツリ、ポツリと降っていた雨粒が見てわかるほど大粒になりはじめ、そのあとザアーというスコールのような降雨・・「よしっ、今だ!」大雨は雷が遠ざかったときに多いと経験的に知っていた自分の知識に誤りがないことを心に祈りながら猛ダッシュで数百メートル離れたところに駐車してある車へ一目散に逃げ帰ったことは言うまでもありません。自然ってまあ怖いもんですよねえ。とはいえ、その夜味噌田楽にして食したイワナは、また格別に美味しかったのでありまして・・。


        ウキ釣り仕掛けのヤマメ釣り・・いつか釣果は年間100匹を超える

職場から10分足らずのところに非常に手軽に楽しめる、特にヤマメが多い釣り場があることは何度か拙文にしたためてきたところであります。そのなかでも絶好ポイントの真向かいに食料品や雑貨を扱う小さなお店やさんがあり、その釣り場の主とも呼べる方が店主YAMKさんという方でありました。

このYAMKさん、風貌は作曲家の小林亜星さんが昔演じた「寺内貫太郎」によく似た方で、実に気さくな人でありました。最初は渓流釣りなどしていなかったはずなのですが、家の真向かいに多くの釣り人を目にして「よしっ、ちょっと自分もやってみるか!」とでも思ったのでしょう、いつかゴム長靴を履き、渓流岸に立つようになりました。職場の釣り仲間の間でも「おい、YAMKさん、釣りを始めたぜ」、「おお、オレも見かけた。けど、なんだあの釣り方?!」、「ハハハ・・、ホントな。あんな釣り方で釣れんのかなあ〜」といった噂話しが立ちはじめました。

確かに釣り方は渓流釣りといった感じではありませんでした。渓流釣りと言えば、ミチ糸の間に羽やセルロイドの目印を付けてのみゃく釣りがエサ釣りでは一般的であろうと思うのですが、YAMKさんの釣り方といえば、ナント、ウキ釣りなのでありました。しかも、地元でよく子どもたちが小川のマブナ釣りで使う1個20円くらいの朱色と黄色の玉ウキを流して釣っていたのであります。最初は「すぐ飽きるべえ?」といった仲間内の話しであったのですが、そこを通るたびに竿を下ろしているYAMKさんの姿・・。

ある日のこと、YAMAKさんの姿を見つけたわたくしは、車を止めて近づき、「YAMKさん!」、「・・」、「YAMKさん!!」、「お、おう!」。「その仕掛けで、釣れるんスか?」というわたくしの問いにYAMKさん「うん、最初はウキがぐい〜んと引っ張られるだけどさっぱり釣れなかったんだが、今はなんとか合わせのタイミングがわかってきてな・・」、言葉をさえぎってわたくし「へえ、釣れんだ!」、YAMKさん「ああ!」と言ってニヤリ。それから2、3年後、YAMKさんはウキ釣りに加えてみゃく釣りもマスターし、独自の釣り方で年間にヤマメやイワナを、100尾をはるかに超えるくらい釣り上げる釣り師になってしまったわけでありまして・・。

このYAMKさんが亡くなって、もう10年近くにもなるでしょうか。エサ釣りをしている釣り人にかまわず流れを横切る毛ばりの釣り人に向って怒鳴ってやったと大笑いしていたYAMKさんの顔が今でも目に浮かびます。


        渓流釣りにはひとりで行くもんだ・・イワナ名人の師匠の言葉

イワナ釣りの名人とも呼ばれた渓流釣りの師匠は、わたくしに「渓流にはひとりで釣行することだ」と教えてくれました。たかが釣りではありますが、ちょっとの油断や不運によって時には生命さえも危険にさらされることも珍しくないのもまた釣りであります。中でも渓流釣りは、転落事故によって骨折などの重症を負ったり、転倒が原因でほんの膝上ほどの深さの流れでも溺死することがあるのですから「渓流釣りは単独釣行」と言うこの師匠の言葉を最初聞いたときは正直「えっ?」と思ったものです。

師曰く「その理由はこうだ。渓流釣りで釣果に恵まれるということは、その日あるいはその月、いやその年、いやいやもしかしたらその渓流に糸を垂らすのは自分が最初かもしれない。極端な話し、そういったときだってあるだろう。わくわくするよなあ。そんでもってそこに釣り仲間と2人で入渓したとする。そこは以前からイワナがいるんじゃないかとウワサになっていた谷だ。なんとか1尾でも・・と思いながら2人で探っていくと、突然、あんたの手にくんっという手応えがあって竿が曲がる。釣り上げてみると尺近い居つきのイワナだ。と、相方も来たッ!という声とともに竿をしならせて尺上をゲットした。2人とも顔を見合わせ、満面の笑顔でガッツポーズよ、なあ!」、わたくし「…(ナニが言いたいんじゃい?)」、続けて師匠「そこで当然、2人はそのまま釣り上る。釣果は順調で2人とも滅多にお目にかかれない良型を5、6尾も腰魚籠に入れている。

そこでふと気がつくともう昼近くになっている。見上げると雲行きもなんかあやしい。IKEさん、あんたはもうそろそろ納竿の時間だと思った。そこへ脇の支流に入っていた釣り仲間があんたを呼んだ。"IKEさん、イワナ止めがあるから来てみろ!"。その声に誘われて行ってみるとゴルジュが鉄砲水を吹き出している。そしてその鉄砲水が手前に絶好のポイントを作り出しているんだ。息を殺してエサを入れると尺上のイワナが2人で3、4本も釣れた。しばらくして魚信も止まり、2人はそこに腰を下ろした。時計を見るともう午後1時を過ぎている。入渓してから9時間経っている計算だ。予定では午前10時頃には帰路に着く予定だった。

もうそろそろ・・とIKEさんが言い出そうとすると、あんたより10歳も若い相方が"IKEさん、ここ、巻けるんじゃないか?"、あんたは心の中で"エエッ?!"と思いながらもそのゴルジュを見上げると、たしかにあまり遠巻きしなくても上れそうだった。そんなあんたの視線を見透かすように若い相方は"ちょ、ちょっとだけ行ってみましょうよ、上の様子を見るだけ!それで帰りましょう!"という誘惑だ。少し躊躇したが、確かに上の様子は気になるもんだから、IKEさん、あんたもその気になっちまった。相方はもう巻きにかかっている。慌ててあんたもそれに続いた。そしてもうちょっとで巻きの頂点にさしかかろうとしたとき・・あんたの掴んでいた岩のとんがりがポロリと欠けた。・・そう、あんたは滝つぼに真ッさかさまにドボ〜ン!そのとき肩と後頭部付近をかなり強く打ち、気が遠くなった。それでもなんとか岸に上がろうともがいてみたが、間もなく胴長にガボガボと冷たい沢水が入りはじめ、ついにはまったく身動きがとれなくなった。なんとか助かろうと必死で陸地を手で探ったが、もう息が続かなくなった。数秒後、今度は冷たい沢水が肺に流れ込んでくるのを感じた。不思議と苦しくなかったが意識はどんどん遠くなっていった。現実の出来事のように思われなかった。そうして、あんたは別の世界へと旅立っちまうってわけだ。どうだ?」。

わたくし、キョトンとしてとギョッとしてを同時に表情に浮かべながら「ど、どうだ?って、な、なんスか?」、師匠は少し呆れたような表情を浮かべながら「だからよお〜。IKEさんあんた1人だったら、4時に谷に入って午後の1時過ぎまで釣ってたか?それでもってそのゴルジュを巻こうなんて考えたか?ってことだよ」。わたくし「・・」。

続けて師匠「ほかの釣りと違って、渓流釣りは・・まあ、オレが思う渓流釣りは数釣りや大きさを競う釣りじゃあない。自分と自然との対話を楽しみたいがための釣りなんだ。だから体力的に疲れを感じたり、ちょっとでもその先に釣り歩くのに怖さを感じたら、誰もあんたの体力のなさに呆れたり、その臆病さを笑ったりしないから、迷わず帰ってくればいい・・渓流釣りは、そんな釣りであるべきなんだ。サカナは釣れなくても無事に帰れて初めてそこでその日の渓流釣りは終わるんだ。楽しかったって言えると思うんだよ」と言いながらホッと息を吐き、そして最後に「だから、オレは渓流釣りには1人で行くべきだって思うのさ。自分のペースで釣るためにね。それに・・第一、1人だとポイントも秘密にできるし、釣果は独り占めできるしさ!なあ?!ハハハ・・」、わたくし「え〜と、まっ、結局最後はそこですか?」、師匠、大笑いしながら「まあな!」


        発破かけるぞう!・・早々に退散、食卓にヤマメは乗らず

イワナよりもヤマメの方が食ったら美味い!とみんなは言うのですが、わたくしにはどっちもどっちのように思えます。まあ、簡単に言うとどちらもそんなに美味いわけではないような気がしまして・・。それでも、けっこういけるのがまずはサカナ焼き機でこんがり焼きます。塩はふりません。その後、味噌にみりんを混ぜたものをサカナに塗って再度焦げ目ができるように焼いたものが一番美味いような気がします。いわゆる田楽とでも言うんですかね。

基本的にわたくしは釣って持ち帰ったサカナは食べることにしています。食べないときにはリリースです。ですからイワナやヤマメは当然わたくしや家族のお腹に入ることになるわけであります。ヤブこぎが苦手なわたくしが渓流に入るのは山草が育つ前、雑木に葉の生い茂る前の春時分がほとんどであります。その後はと言うと40歳代前半までは磯釣り三昧でありましたが、その後はヘラブナ釣りが主流になっています。

それでも、無性に渓流魚を食したくなったときは少し幅の大きな場所に釣行します。いつぞやはKAWAGT川という自宅から15分弱のところにある渓流に入りました。初めての場所で勝手がわからなかったのですが、あまり言いポイントが見つかりません。山道に沿っての右側の流れですから、車を走らせながらポイントを探しました。5分ほどもそうやって走ったでしょうか。時間はもう午前9時を回った頃であったかもしれません。なんとなく大きな岩が見え始め、渦流線を描くポイントが見つかりました。早速車を止めて、胴長を履き、魚籠を腰に愛竿を持ってそろり、そろりと釣り場に降りていきました。あまり水深はなく、流れも急ではありませんが、なんとなくヤマメが居そうな雰囲気です。ポイントと思われるところ5箇所ほども探ったでしょうか。突然・・。

プワア〜ン、プワア〜ン!!という大きなクラクション。ビックリして山道を見上げると大きく黒っぽいダンプトラックがわたくしの車の後ろに止まって、作業員らしき強面の運転手が運転席から顔を出しています。・・と、「お〜い!上がれ、上がれ!!釣れねえって!!」、わたくし、ダンプの運ちゃんを見上げて「はあ〜?!」、運ちゃん「おめえ、そこの立て看板見なかったのかあ?!」、続けて「すぐそこで発破かけっからよお〜、釣れるもんじゃねえって!なにより、ここは危ねえから立ち入り禁止だあ!!」、わたくし「ええ!ハッパあ〜?!は、は〜い!」。 慌てて車に戻り、ぎりぎりの幅寄せをしてダンプトラックを通らせ、わたくしは50m以上もバックで戻り、なんとかUターンして帰路に。ふと横を見ると2mほどの「工事中 危険 立ち入り禁止」と書いた立て看板がありました。「ふう〜、全然気づかなかったなあ〜」と独り言を言いながら早々に退散。結局この日の食卓にヤマメの姿は無かったわけでありまして・・。


        早春!雪渓の良型イワナ・・言葉も下品に夢中で獲り込む

基本的に釣りのなかでも好きなのは渓流釣りであります。なんといっても独り自然に身を置きながら自分のペースで釣ることができますし、数にこだわらず、1尾のイワナやヤマメの姿を見ることができれば・・いや、仮にボウズでもそれで満足・・この渓流釣りの風情がなんとも言えない充実感を与えてくれます。

解禁直後、まだ雪深いANI町の渓谷に独りで入りました。車から降り、足にはカンジキを履いて慎重に、慎重に急な斜面を降りていきます。距離にして40mか、50mほどもあるのではないでしょうか。万一、足を滑らせたり雪が崩れて転落したら怪我の1つや2つじゃ済まないことは明らかです。

なんとか渓に降り、手早く支度して釣り始めると・・居た!まずは堰堤の渦流線からほんの少しはなれたところでシーズン初の泣き尺の早春ならではの、黒くさび付いた良型イワナが姿を現しました。う〜ん、腰魚籠に入れ覗いてみると思わず唸ってしまうような精悍な顔つきです。

8号じゃダメだ!と直感し、9号にハリの号数を上げポイントを探りながら釣り上がって行きました。いつもは堰堤のすぐ脇を巻いていくのですが、この雪渓ではマブが大きくて登ろうとしても雪が崩れてどうにもなりません。そこでいったん下流に戻り、雪が比較的少ない場所から四つん這いで斜面に入り、そこから大きく堰堤を巻くしかありません。重労働です。あと2つあるはずの堰堤も同じように這い上がらなきゃ・・などと思っていながらふと右手を見ると細い支流があります。「あれ、こんなところに支流なんてあったっけ?そうか・・雪が消えて、草木が茂るとこんな小さな支流は隠れてしまうんだ」そう心の中でつぶやいて静かに支流の奥へと歩いていきました。すると・・。

30mほども歩いたところに直径1.5mほどの泉のような水たまりがありました。上流からは沢水がちょろちょろとその水面に流れ落ち弱い水紋をつくっています。辺りの雪景色とあいまって、まるで矢口高雄さんが描いたような美しい情景です。身を潜めながらそろそろと仕掛けを投入すると・・ク、クッという手応え・・来た!その手応えと竿の曲がりが良型であることを知らせてくれます。数秒後、漆黒のイワナが身を躍らせながら姿を見せました。いつもはそのまま竿をたたみながら手元に寄せるのですが、ふとバレそうな気がして一気に引っこ抜き、雪面に上げてしまおうと試みました。すると案の定、途中でハリがはずれ、イワナは流れに近い斜面でばたばたと身をよじってなんとか逃れよう暴れています。

「わあー、やべえ!コイツメ、落ちたら承知しねえぞ!くそー、こんにゃろ、こんにゃろ!このバカ、おとなしくしやがれ!ええーい、うおりゃ・・」と慌てふためき、竿を放り投げ、あらん限りの下品な言葉を発し、なりふりかまわずイワナを捕まえようとするわたくし・・。必死の格闘の末、イワナを雪の中に押し込むようにして両手で掴み、腰の魚籠に納めたところで大きく息を吐き、天を仰ぎながら「やったあー!」。結局この日は、良型をちょうど10尾。腰の魚籠が重くて斜面を登るのに難儀するほどの大漁という思い出深い大満足の1日となったわけでありまして・・。

やっぱ、いくら恰好つけても本命を釣ること!しかも他人より多く、大きいやつを!・・でなきゃ、釣りは面白くねえぜい!!・・というわけで、このときの郡境での早春の釣行を思い出してみますと、書き出しの数行・・「数にこだわらず、1尾のイワナやヤマメの姿を見ることができれば・・いや、仮にボウズでもそれで満足・・この渓流釣りの風情がなんとも言えない充実感を与えてくれます」はなかったことにしていただきたいと・・。


        釣りの趣よりもまず釣果!?・・思わず魚籠を抑えて知らぬ顔

KATAZ沢が注ぐ同名のKATAZ沼は江戸時代の書物にも記されているほどで、大切な農業用水の溜池として今もその役割を果たしております。その溜池から水が流れ落ちるところに絶好の岩魚ポイントがあるわけでありまして・・。 これは地元の人でもあんまり知られていないところであります。わたくしも職場のFUKA係長という方から「おいIKE、お前さん、渓流釣りをやるんだっけな」、わたくし「は、はい」、係長「岩魚の釣り場なんだが、良いところを教えてやるよ。実はな・・」てなあんばいに、たまたま情報を得て釣りにまいりました。ちなみにその係長も魚釣りはやるのですが、もっぱらマブナやコイ釣り専門だったので、普通なら洩らさないポイントをわたくしに教えてくれたというわけなのです。

教えていただいたとおりに県道沿いに車を止め、そのポイントに辿り着きました。う〜ん、確かに条件はそろっている・・けどなあ、これって渓流釣りの趣からはかなり離れているよなあ〜というのが第一印象であります。まあ、なんといいましてもまず溜池からの放水路はがっしりとしたコンクリートの三面舗装で、しかもそのポイントからわたくしが立っているところまでは高さにして三メートル・・いやそれ以上あるでしょう。そんな立ち位置からまるで防波堤のへち釣りのような感じで竿を伸ばして釣ることになるのですからわたくしの困惑もまんざら常人よりもズレているわけではないと思います。

でもせっかく来たのですから準備をして挑戦です。4.5mの渓流竿を少しずつポイントへ近づけ、途中からは落ち込む水にエサを合わせてやって探ってみると・・ぐぐっ。すぐに渓流釣りでは珍しい手元まで感じるような引き込みがありました。それにアワセをくれてやり竿を立てながら取り込むと、なんと八寸は裕にあろうかという良型の岩魚が釣れてきました。「はあ、こりゃあ係長の言ったとおりだ。型もずいぶんいいや」などと独り言を言いながら再びエサを入れてやるとまたしても渓流釣りではあまりないようなクイッとした感触が。今度も岩魚の良型です。結局、このあと中型の岩魚を二尾追加して納竿となりました。

サカナを腰の魚籠にしっかりと納め、帰り支度をしているとふいに「おい、IKEちゃん、IKEちゃんじゃないか!」、驚いて顔を上げるといつもにか向こう岸に職場でも釣り好きで通っている同僚で、もちろん渓流釣りも大好きな男が立っています。「なに、こんなところでどうやって釣ってんの?釣れた?」、それに答えてわたくし思わず「あ、いやっ、一応来てみたけどこんな高いところだとは思わなくってさ・・だ、だめよ、全然釣りにならないよ!む、む、無駄足だったわあ」、続けて「んでもって、KOYANGさん、なんでここにオレがいることわかったの?」と尋ねてみると、「なに言ってんだい、道端におまえさんの車がありゃあ、このへんで釣っているに決まってると思ってな」。

そのとき、腰に括りつけてある魚籠のなかで岩魚がバタバタ・・わたくしは思わず左手で魚籠を抑えて心の中で「しっ、静かにしろよ!」。なんとかはぐらかしながらの会話が続き、やがて同僚のKOYANGさんが「じゃあな!」と立ち去りました。ふう・・まあ釣りの趣ってヤツも大切だけど、釣果ももちろん大切だからなあ〜。こんな美味しいポイント、そうそう他人に教えられねえよ


        ある住職の釣り・・彼岸のうちは忙しいから

職場から車で10分くらいのところにMARUK川という渓流魚のポイントがあります。釣れるのはヤマメが多く、ニジマスやイワナもいます。奥羽山脈の麓とはいえ集落の中を通る川の上流なので時間がないとき、ちょっとでも竿を出したいと思うときにはうってつけの釣場なのであります。ただ以前、民家の裏にある好釣場とラジオで紹介されたものですから、土日は釣り人が決まって数人いるようになりました・・チョット迷惑デシタ。

ある年の春。けっこう人が入っているようなので、サカナを見るのは難しいかなと思いつつも、今日は集落の寄り合いもあることから渓流竿を手にエサ釣りをしておりました。案の定、ふっという魅力的な目印の動きはありません。退屈になってきました。集中力が途切れたら渓流釣りはモノになりません。「たたもうかなあ〜」と思いながら左を見るといつの間にか頭に毛糸の帽子を被った釣り人がいます。自分より上流にいるわたくしの姿を見ているはずなのに下流で探るなんて変わった人だなあと思いながらも近づいて「どうっすか〜」と声をかけると「おう、IKE!」。

釣り人はわたくしの家の近所にあるお寺の住職で高校の先輩でもあります。釣り好きだっていうことは聞いていたもののこの時期??わたくし「MOMさん、渓流もやるんスカ?」、住職「まあな、めったにやらんけど。海の方が好きなんだ、ホントは」、わたくし、若干の冷やかしも含めて「坊さんがサカナを釣っちゃいけないなんてことは言わないけど、このお彼岸のうちっていうのはどんなもんなんスカ?」、住職「おう、彼岸の中日は特にだが、彼岸のうちは仕事が忙しくてな。だからここに来たんだよ」とすらり。

そ、そうすか・・別にお仕事柄というわけじゃあなく、単に忙しいからっていう理由なわけなんですね。了解しました!!。


        危機一髪でなんとか生還?!・・山越えイワナ釣りで車が故障

確かまだ4週5休か6休の頃だったと思います。その日は午後から隣市の川でコイやフナ、ウグイなどを対象魚に職場の釣り大会がありました。参加者は15人前後だったはずですからそこそこ盛り上がる大会でしたが、その頃のわたくしはイワナ釣りに夢中だったため、朝のうちに東山を一つ越したYAS沢で渓流釣りをしてから大会に参加するという計画を立てました。

当日です。少し寝坊したわたくしは「なんやかんやで往復に2時間ほどみておいた方がいいから3時間は釣れるナ。まあ、いいとこだろ」と車で目的地に向かいました。旧国道を抜け右手に長い歴史を誇るY高校の向かいを左折していよいよ山越えとなります。山菜採りを趣味としている人なら誰でも知っているKY林道です。10分くらい走ると簡易舗装が途切れて砂利道・・めざす渓流までここからさらに15分ほどかけて林道を上り切り、あとは下り10分弱という感じです。

思わぬ出来事はこのKY林道を登り始めてから数分後に起こりました。気のせいかなあ・・な、なんか変な感じだなあ・・車を運転していて妙な違和感があります。具体的には、なんとなくアクセルを踏み込んでいるわりに車体が前に進んでいないような気がするのです。なんとなく嫌な予感・・こんなときの胸騒ぎは現実になることが多く不安です。それでもなんとか左手に"男根"のかたちをした石碑?を通り過ぎて頂点を通過、あとは釣り場まで下るだけですから気分的に楽になりました。そして無事、釣り場近くのいつも駐車している道路脇に到着です。

ずいぶん人里から離れた山中・・普通の人だったら車の不調が心配で、わからないながらもボンネットを開けたり、車体の下を覗き込んだりするのでしょうが、わたくしは釣り場に着くと「よし、釣るぞ!!」という気持ちばかりが先んじて、帰りのことなんか帰りに心配すればいいとうっちゃってしまう性格(この性格で何度失敗したことか・・)です。

ここでの勝負は二つある堰堤です。その間にもいい個所があるのですが、今日は午後から釣り会というタイトなスケジュール上、ピン・ポイントで攻めることに決めていました。最初の堰堤では水落ちで掘られたところがほどよい大きさの水溜まりになっていて魚影の濃いところです。まずはここで良型3、4尾をゲット。次にその上の堰堤。ここは最初の堰堤ほどの水溜りもなくあまり数も出ないのですが。まれに尺オーバーが掛かり何度もばらしています。丁寧にさぐりを入れて大物だったらタモも使わずすぐさま向かい岸に抜きあげるのが一番なのですが・・魚信なし。

とか、やりながら時計を見るともう時間です。そそくさと釣り場を後にして車へ戻りました。そこでまた釣り前の不安がムクムク。恐る恐るキーをひねるといつも通りのエンジン音です。ホッとひと息。でも油断は禁物とそろりそろりとギアをセカンドのまま半クラッチで静かにアクセルを踏むとゆっくりと前進しました。でもやっぱりアクセルを踏む深さと進む力強さが異なります。進む力の方が弱いのです。「なんだ、こりゃ・・」とつぶやくながら一度ストップしました。

車にはとんと無頓着なわたくしにもこれはマズイ事態になりつつあることがわかりました。「これで山越えは危険すぎる。少々遠回りになるが一旦国道に出るルートで帰ろう。国道まではほぼ下りだし・・」。後から考えると、この判断が自分自身を救ってくれました。約20分後・・国道まであとわずかです。もう、この頃にはアクセルを最高に踏み込んでも時速10qにも満たない速度しか出なくなりました。それでもなんとか国道に入り停車ランプを点けながら進むこと約100m・・「うわっ、信号か・・しかも赤!」。ここでわたくしの車は力尽きました。アクセルをいくら吹かしても全く前に進みません。しかも国道の交差点で・・。通り過ぎる車のドライバー数10人の冷ややかな視線・・。結局原因は"クラッチ板"という部分の摩耗でした。

幸運にも立ち往生してしまった交差点から先は下りで100mほど前には修理工場らしき看板が見え、必死で押して行ったのを憶えています。これが山道じゃなくて本当にヨカッタ!えっ、その日の釣り大会?出れるわけないじゃないッスカ!


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