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選 者 の 歌 |
桑岡 孝全 |
桜咲きて思うは学卒えて就職せし摂津池田の五十年むかし |
AM六局一局として老残をなぐさむるなき時間帯なる |
餌をあたえないで下さいを餓死させて下さいと読む今日の神経 |
耳孔湿りからだのにおう縄文人を享けたりと知るわが八十年 |
縄文人より十センチ低き身丈をもて大き戦をこえてながらう |
湧 水 原 (42) 伊藤 千恵子 選 |
奥嶋 和子 〈無錫の町へ〉 |
見下せる雲の峰々白くして機は無錫への青き空飛ぶ |
陳さんは胸張り三番まで唄う無錫旅情を日本語のまま |
旗の元に兵馬の石像数多立つ三国志の世思わしめつつ |
古の形の舟に二十分太湖を巡る風に吹かれて |
町中の郵便ポストは緑色中国柚便と記すトラックも |
ルームキー用いて動くエレベーター五つ星ホテルの不便な規則 |
金田 一夫 〈七十年回顧〉 |
望楼に監視に立ちて青空に小さく光るB29を見き |
寒き風に大火起こりて出動す現場交替にずぶ濡れとなり |
警防団企業消防の訓練に巡回指導日々に増えにき |
佐藤 千惠子 〈雀よおいで〉 |
慰みに一茶をまねて餌をまきぬ雀よおいできたりて遊べ |
声高に雀ら鳴きて先発の一羽が塀より庭におりたつ |
裏庭の日向の土に雀群るわが立つけはいにいっせいに飛ぶ |
歳旦を訪れくるる雀たちお米にみかん奮発をせり |
群雀去りゆきてのち一羽のみ食べ残しの餌ゆっくりと食む |
わが庭に遊びし雀この冬は何処にありや声すらきかず |
白杉 みすき 〈身体障害者と共に〉 |
障害者の自立支援に携わり恙無く汝の三十余年 |
一つ事こころに決めて一年を勤めし教職を汝は辞しにき |
平穏なる暮らしをねがう母われの思いは汝に通わざりき |
たまさかに作業所をわが訪ねゆく彼らの好むおやつを持ちて |
式典に言語不自由の井上君訥々とねっこの歩みを語る |
春名 久子 〈亡き夫を〉 |
こんなにも若かったのか旅先での夫との写真笑顔の二枚 |
ふるさとを恋いにし夫のみ骨だき栗のいがまろぶ山道のぼる |
幾度か夫ときたりし篆刻展今日ひとりあり混みあう中に |
とき長く夫勤しみし篆刻の書籍印材いまだたもてり |
ときおりに夫ときたりし茶房にて店を閉ざすと貼紙の見ゆ |
診察を夫とならびて待ちし日よいまその椅子に一人すわりぬ |
森本 順子 〈北八ケ岳と乗鞍岳〉 |
雲海の果て山影の彼方にはひときわとがる槍ケ岳見ゆ |
コメツガの森の林床苔むしてその幼木のあまた育ちぬ |
シラビソと立枯れし木が幾筋も横縞をなす縞枯山は |
百年の周期をもってシラビソが世代交代縞枯現象 |
白き羽根残る雷鳥けんめいに鳴きヒヨコほどの子を集めおり |
ハイマツの茂り雪渓残る山に白きドームのコロナ観測所 |
■ 推奨問題作 (4月号から ) 編集部選 |
現実主義の可能性拡大をめざして |
気短かになりゆく夫よ残生など誰も知らないゆっくりいこう |
安西 廣子 |
中高に道路は舗装されてあり押す車椅子端へ寄りゆく |
〃 |
籠らずに明るく生きよと励まさる夫の居ぬ世に晴れる場あらず |
小倉 美沙子 |
睡眠中に無呼吸に過ぐる時あるを案じてくれる子もいて平穏 |
岡部 友康 |
十二日間ビルマで草と木の葉食いき病院の飯一粒も残さず |
坂本 登希夫 |
マラリアで落伍のわれの銃を持ち肩かしくれし種田逝けるとぞ |
〃 |
ウエーター丁重に椅子ひきくれてリッチな気分束の間ながら |
白杉 みすき |
年末に不治の病を告げて来て見舞い断りさよならを言う |
高間 宏治 |
高校入学即動員の戦時下に始まり六十余年の付き合いなりき |
〃 |
幕末のえじゃないかに似る維新の声あれよあれよ大阪があれよ |
竹中 青吉 |
理想的逝き方といえ主治医よ夫をもう少し生かして欲しかった |
鶴亀 佐知子 |
終の日まで端正なまま逝きし夫われには何を言いのこすなく |
〃 |