移動電話利用におけるメディア特性と対人関係
─大学生を対象とした調査事例より─

                              岡田 朋之(1、2.2、3、4.2)
                              松田 美佐(2.1、4.1、5)
                              羽渕 一代(2.3、4.3)

1 はじめに


 1990年代以降、急速な拡大を見せてきた携帯電話・PHS(あわせて以下移動電話と略)の加入数は1999年7月末に5千万加入を越え(携帯電話:44,807,000、PHS:5,710,000)、近い将来、一般加入電話の加入数を上回るであろうともいわれる。こうした状況は利用者の行動や対人関係のあり方に少なからぬ影響を与えるであろうことは想像に難くない。これらの移動電話を中心とした移動体メディアの利用と、コミュニケーションに関する調査研究も、以下の節でふれるとおりいくつか見られるようになってきた。筆者を含めた研究グループでも1995年以来、インタヴュー調査などをもとに、移動電話を中心とした移動体メディアを用いたコミュニケーションに関する研究を進めてきた(松田、1996;富田他、1997;松田他、1998など)。その中では、調査方法の性格上、サンプルの代表性等でおのずと制約を抱えていたものの、若者を中心とする利用者の傾向を明らかにしつつ、多機能化・高度化する移動体メディアと利用動向についてもいくつかの知見を導き出している。
 本稿ではまず、その成果の延長上で1999年5~6月におこなった関東と関西の大学生を対象とする質問紙調査をもとに、移動電話の利用実態を整理する。その中で、利用者達が通話以外のさまざまな機能やサービスを利用することを通じて、どのようにコミュニケーション行動を展開しつつ、対人関係を形成しているかについて考察をすすめ、これまでのわれわれの研究を中心に導かれた仮説を検証していく。

2 先行研究と作業仮説


2.1. 利用者の特性と利用度
 まず、移動電話の利用者と非利用者はどのように異なっているであろうか。
 コミュニケーション機器の普及には、収入が関連することがさまざまな研究で指摘されている。移動電話に関しても同様の傾向が報告されており(Leung and Wei,1999)、大学生を対象とした今回の調査では、毎月の小遣いの額と移動電話の利用/非利用が関連していることが予想される。また、性別による利用率の差については、普及初期において移動電話は仕事での利用が中心であったため、中高年の男性が利用が多かった影響が今なお残っているとの調査結果もあるものの(三上他,1999;野村総合研究所,1999)、特に若年層では所有の男女差が縮まっているという(仲島他,1999)。本調査の対象が大学生のみであることを考えると、男女による利用率には差がないものと予想される。
 ところで、Noble(1987)は固定電話の利用が社交性の高さと関連していることを報告している。それによれば、頻繁に出かけたり、家に人を招いたりする人は、そうでない人と比べて、電話をかけたりかかってきたりする回数が多いという。移動電話に関しても、仲島ら(1999)が大学生を対象におこなった調査によれば、「内向的で自宅と職場・学校の間を往復する生活パターンを守り、外出も人づきあいもあまり好まず、固定電話の利用回数も利用時間も少ない」というのが、移動電話非利用者の特徴である。大学生など若者の間では、移動電話は友達との私的な連絡手段として用いられている傾向があることから(松田他,1998;仲島他,1999)、対人関係の豊富さや社交性の高さと移動電話利用が関連していることが予想される。
 次に、男女の利用者での利用形態の違いについて検討したい。これまで移動電話利用の性差を実証的に調査したものは数少ないが(1)、固定電話利用で見られる性差から仮説を引き出すことが可能であると考える。NTTサービス開発本部(1991)によれば、大学生の男女での固定電話利用の違いとして発信回数・通話時間とも女性の方が多く、主な話し相手は男性が知人・友人・恋人であるのに対し、女性は知人・友人・自宅であるという。ここから、男性より女性の方がヘビーユーザーであることと、女性は友達だけでなく家族とも移動電話を利用する傾向があるといった仮説を立てることができる。

2.2. 文字通信機能と留守番電話機能
 文字によるショートメッセージ送受信や、各種情報サービスの提供、留守番電話サービス、発信者番号表示など、移動電話におけるベーシックな機能としての通話以外に、さまざまな機能やサービスの面で近年ますます多様化・高度化が進んでいる。こうした機能に関する利用状況を取り扱った研究は、松田ら(1998)のインタヴュー調査に基づくものほかには、辻(1999)の移動電話によるメールの送受信の頻度についての質問や、野村総合研究所(1999)に文字によるショートメッセージサービスの利用率と利用意向についての質問がある程度で、ほとんど皆無といってよい。松田ら(1998)の研究では、上記のような新しい機能を取り込んだ移動電話は「『非同期的』コミュニケーションを可能にすることで、メッセージの受け手の負荷を軽減し、比較的緊急度の低い目的でも気軽に利用できるようにな」り、また「着信した通話を受け手の側で自由に選別できるコミュニケーション形態」をもたらしているとされる。そこで、以下ではこれらの付加機能が実際に利用されるなかで、メディアを通じて対人関係を峻別していくような傾向が現れているかどうか、また、気軽な利用を促進することで、利用の位置づけも多様になっているかどうか、具体的な利用状況をふまえながら検証をおこなう。
(1)文字によるショートメッセージサービス
 文字によるメッセージサービスについては、ポケベルの利用経験を持つ利用者が、移動電話に持ち替えて利用している例が示されている(松田他、1998)。利用する相手は親しい友人が中心であり、直接電話がかけにくい状況──たとえば授業中など──で用いられているという(同)。さらに、雑誌『アクロス』で指摘されていたように(高野他、1998)、文字メッセージ機能は若い女性を中心として受け入れられたとされているが、そのあたりの実情を検証しておく必要がある(2)
(2)留守番電話の活用
 文字メッセージサービスの導入以前から提供されており、携帯電話の利用においてより一般化しているであろうと考えられるのが留守番電話機能である。本来留守番電話とは、外出中などで電話に出ることができない場合のために導入されたものだが、G・ガンパート(1987=1990)が述べているように、かかってきた相手を応答する前に知ることによって、応答すべき通話を選別し、自分からかけ直すという利用のしかたが可能である。電波が届かない場所にいたり、電源を切っているたりするときのためとして留守番電話機能が提供されてきた携帯電話などの場合にも、こうした利用がなされている可能性は十分考えられる。

2.3. 移動電話利用と対人関係
電話コミュニケーションについての社会学的考察としては、吉見俊哉らによる先駆的な業績がある。電話を媒介としたネットワーク空間においては、声の共同性の喪失や線型的な時間意識の溶解などが生じる。また、電話が家庭におけるコンフリクト要因となることや、個室へこもって固定電話を利用することが、逆に親密圏を生み出す作用なども指摘されている。しかし、吉見の議論は、今日の移動電話の普及を視野に入れてはいない。移動電話の普及は個室へ引きこもることなしに親密圏の形成を可能にするのではないか。こうしてみると通話する主体の移動が可能な移動電話は、固定電話の場合とは異なったかたちで距離の遠近法や線型的な時間の意識に影響を及ぼすことが考えられる。それらを考察するのに先立って、まず移動電話の対人関係的側面からの利用実態について検討する必要がある。
 2.1節で、移動電話の利用者は非利用者に比べて社交的であるという知見を紹介した。これに関連して、現代の若者は、パーソナルな対人関係において、メディアを媒介としたコミュニケーションよりも対面的コミュニケーションをより重視しているという仮説(以下、対面的コミュニケーション仮説)が立てられる。この仮説は、次のような若者観と対立する。すなわち、現代の若者は他人との深い接触を避ける傾向にあり、表層的な交際感覚を好むというものである。中島梓の『コミュニケーション不全症候群』(1991)がその代表例であるが、その立場を支持した社会観を提示する研究も多い(大平;1995 宮台;1997)。しかし、移動電話のようなメデイアは表層的なコミュニケーションを媒介する役割を担っているのではなく、移動電話とは異なるメディアを媒介としたコミュニケーションにも影響を与えている可能性は十分ありうる。このことを考えるなら、我々は、短絡的にメディアと「コミュニケーションをおそれる若者」の相関を容認することはできない。つまり、ある一定の局面の中で行われている特定メディアの使用状況のみを分析し、こういった相関を語ることはできないということである。換言するならば、川浦(1994)が指摘するようなフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション至上主義が「コミュニケーションをおそれる若者」観の下支えとなっているということが想像される。しかしながら、移動電話がそれ自体で完結するタイプの機器ではなく、他のメディアと相互補完的につながりをもち、人と人のコミュニケーションを促進している以上、コミュニケーション全般の中で移動電話の位置を我々は考察しなくてはならないだろう。こういった議論をふまえ、実態についての確認をおこないつつ、対面的コミュニケーション仮説を検証をする。
 次に、実際の移動電話の利用とと対人関係について分析する。これについては、松田ら(1998)によると、次のような可能性が見いだされている。それは、ほとんどの移動電話に付加されている発信者番号表示機能を利用し、着信を選別することで、個々人の対人関係選択における自由裁量の可能性を増大させる(以下、番通選択仮説)というものである。本来、発信者電話番号表示のサービスは、迷惑電話防止対策として導入がされたものであったが、かかってきた電話はとるまで誰からかかったのかわからない、というメディアとしての電話が持つ受け手に不利な性格を是正するものとしての期待ももたれていた(堀部編、1998)。それゆえ、こもサービスが対人関係の選択へ結びつく契機が可能性としては大いにありえたわけである(3)
 他者に対して「つきあい」を拒絶する際、コミュニケーションに媒体をはさんだ方が、はさまない場合に比べて容易である。たとえば、山田(1996)は結婚研究において、「結婚紹介産業の興隆が結婚難を助長する」ことを指摘している。結婚紹介業が媒介となって結婚したい人同士の出会いやコミュニケーションをはかることは、一見すると結婚率を上昇させるための良策のようである。ところが、この媒介によって結婚紹介業で結婚相手を探すことにした人は「もっといい人がいるかもしれないシンドローム」にかかるという。この原因は、次から次へと人を紹介されることと、直接つきあいを拒絶しなくてもよいことによるものだという。同様のことは番号表示サービスの利用者にもあてはまるのではないだろうか。「電話をとらなかったのは、私の意志ではなく、電話に気づかなかったからだ」という言いわけは、相手を傷つけることなく、自分の思い通りに対人関係を取捨選択する上で有益である。よってこの実態を把握するために、この発信者番号表示の機能の利用と対人関係・パーソナリティについて検証をおこなう。
 最後に、現代の若者の自己モニタリング状況を移動電話の使用に見いだすことができるという示唆を行いたい。
 ギデンズが指摘するように現代社会は再帰性の増大した社会である(Giddens,1992=1995)。近代化の成熟とともに個人主義が貫徹してゆくなかで、人々は自己の責任において人との関係を取り結び、自分自身を作り上げる。たとえ失敗したとしても、自分自身の選択の結果ゆえであると考えざるをえない。失敗の原因を自分以外の何かに転嫁することができない以上、人は絶えず、情報を求める努力を行い、帰属している集団の中における自分自身の位置を自分でモニターしながら生きていかなければならない。ここで、移動電話、自己をモニターするための格好の道具となる。なぜなら、移動電話は他の誰でもない「私」に他者が直接連絡してくる道具であるからだ。このメディアに記録される通話料金や通話回数、発信・受信履歴は、そのまま対人関係の履歴をあらわすことになる。そのことによって、自分自身が所属している集団の中で「適切にふるまっているか」、自分自身の行為・行動が集団のなかでどう評価されているのかということをよりリアルタイムに、そして、客観的に知るためのメディアとなりえてしまう。こういった状況において、移動電話が自己モニタリングにどのような役割を果たしているのかを考える上で、ここではその手がかりとなる分析結果を提示しておく。

3 調査の概要


 調査は1999年5月28日から6月8日にかけて、関東と関西の2つずつ計4つの私立大学で講義に出席していた学生を対象におこなった。被調査者数は関東298名、関西292名の計590名。性別の構成比は男子35.6%、女子63.4%となっている。
 質問した主な項目は次の通りである。(1)移動電話、電子メール、ポケベルの利用経験。(2)移動電話の利用のきっかけ。(3)同じく利用頻度と月々の利用料金。(4)同じくかける場所。(5)留守番電話、発信者番号表示サービス、文字メッセージ通信などの各機能の利用状況。(6)移動電話利用開始以後の行動・意識等の変化(図1参照)。(7)「恋人の有無」、「友だち」「親友」の数および、「親友」と移動電話のかかわり。(8)メディア機器の使い方がわからない場合の対応。(9)連絡目的にあわせたメディアの選択状況。(10)家庭のメディア機器の操作能力(11)イノベーター度や社交性、対人関係の志向などをたずねる態度尺度。(12)デモグラフィック属性。
 これらのなかでは、紙幅の制約上次節の考察部分で取り上げることができなかったものもあるが、以下では前節の仮説に沿ったかたちで、調査結果とその分析をふまえて、それらの仮説の検証と考察をおこなう。

4 調査の結果と考察


4.1. 利用者の特性
4.1.1 利用者と非利用者
 移動電話利用者(全体の86.8%)は、非利用者(同13.0%)と比べると、毎月の小遣いが多く、親友がおり、友達の数が多く、恋人がいる傾向が見られる。また、以下の項目について肯定的に答える傾向がある「友だちが何か変わったものを持っているとすぐにほしくなる方だ」「同じものをいつまでも使っていると飽きてしまう方だ」「社交的な集まりにはよく出かける方だ」「自分はいつも恋人と過ごしたいタイプだ」(以上、T検定 p<0.1%)「知らない人と話すのは苦にならない」(T検定 p<1%)。性別では、男性より女性に移動電話利用者が多く(T検定 p<1%)、さらには「人と遊ぶより、機械いじりの方が好きだ」という項目に否定的に回答する傾向が見られた(T検定 p<0.5%)。
おおむね仮説通りの結果が得られたが、性別に関しては男性より女性に移動電話利用者が有意に多いとの従来の知見に反する結果が得られた。しかし、10代の男女では、利用率は男性が女性を上回っているものの、購入意向率を含めると女性が男性を上回るとの調査結果があることからすれば(野村総合研究所,1999)、今回の大学生を対象とした調査結果として納得がいく。
4.1.2 利用の男女差
 次に、移動電話利用者の性別による利用状況の違いについてであるが、利用のきっかけとして女性に多いのは「ポケベルだと不便なので」「待ち合わせに便利だから」(カイ自乗検定、p<0.1%)、「非常時や緊急時に役立つと思ったから」(カイ自乗検定、p<1%)と続く。一方、「外出が多く、家の電話ではつかまらないから」の項目に関しては、男性に多い傾向が見られた(カイ自乗検定、p<1%)。利用の場所としては、「自動車の中」や「飲食店」(カイ自乗検定、p<0.1%)、「自宅」(カイ自乗検定、p<1% )に男性が多く答える傾向が見られたのに対し、「駅、バス停」での利用は女性に多く見られた(カイ自乗検定、p<0.5%)。「携帯電話やPHSでの通話中に電波状態が悪いのをいいわけにして、途中で電話を切ることがありますか」という質問にに対しては、男性の経験が多い一方(T検定 p<5%)、移動電話の文字送受信機能を利用しているのは女性に多い傾向があった(T検定 p<0.1%)(表1参照)。さらには、移動電話を持ったことによる意識や行動の変化を尋ねる項目については、「常に持っていないと不安になる」(T検定 p<0.1%)「持つことで家族が安心するようになった」(T検定 p<0.5%)、「人との連絡やコミュニケーションの回数が増えた」(T検定p<1%)、で肯定的な回答が女性に多い一方、「夜間に外出することが増えた」は男性で多い傾向が見られた(T検定 p<0.1%)(図1参照)。
この結果から以下のような傾向を見いだすことができる。まず第一に、男性と比べると女性にとって移動電話は、友達との連絡手段であるだけでなく、非常時や緊急時に備えて購入されており、利用を通じて家族が安心するようになるなど、ある意味で「安心のためのメディア」として位置づけられていることがうかがえる。有意差は見られなかったものの、移動電話を持つことで「家に連絡を入れたり、家族とコミュニケーションを取ることが増えた」の項目でも、肯定的な答えは女性に多い傾向があり(図1参照)、女性は男性より友達だけでなく家族とのコミュニケーション手段として移動電話を利用する傾向が見られた。また、女性の携帯電話利用は文字利用が意識されていることがうかがえるが、この点については4.2節で詳しく検討する。
 では、男性にとってはというと、移動電話が自由な外出を可能にしている傾向を読み取れるが、一方では「自宅」での利用も女性と比べると多い。ただし、この「自宅」での利用は一人暮らしであるか否かが影響している可能性も考えられるため(移動電話利用者で男性のうち一人暮らしは24.6%、女性では12.2%:カイ自乗検定 p<1%)、一人暮らしの人をのぞいた男女での回答を検討したところ、それでも「自宅利用」は男性に多い傾向が見られた(男性47.7%、女性33.3%:カイ自乗検定、p<0.5%)(4)。このような結果から、女性と比べた場合に男性にとって移動電話は「自由な外出」を可能にするのはもちろん、家族と一緒に暮らしている場合でも自宅で利用するなど、より「個人専用の電話」として利用される傾向にあることが推測される。
4.1.3 ヘビーユーザーとその利用
さて、仮説のうち、男女間では移動電話利用の頻度の差は見られなかった。このため、まず、利用頻度が高いのはどのような人であるか検討し、続いて、利用頻度の高い人/低い人に特徴的な移動電話利用を探ることにした。
本調査においては利用頻度を尋ねる項目を3つ用意した。毎月の利用料金と、移動電話の発信回数、受信回数である。それらについて、いずれも回答者が均等にわかれるようにカテゴリー化したところ、毎月の利用料金については、5千円以下のライトユーザー、5千円を超え7500円以下のミドルユーザー、それを超える人のヘビーユーザーという三つのグループにわけることができた。移動電話の発信回数、受信回数については、1日5回以上、1日3〜4回、1日1〜2回、1日1回未満のグループにわけることができた(5)
 ヘビーユーザーの傾向としては、ライトユーザーに比較して利用料金から見た場合、小遣いが多く、「恋人がいる」(以上、LSD検定 p<0.1%)、「社交的な集まりにはよく出かける方だ」という人(同 p<0.1%)「自分は時間を守る方だ」については否定的に(同 p<0.5%)答える傾向が見られた。同じく、発信回数からみた場合、「恋人がいる」「社交的な集まりにはよく出かける方だ」(同 p<0.1%)「知らない人と話すのは苦にならない」「自分のことが好き」と答える傾向が見られた(以上、LSD検定p<0.5%)。受信回数からみた場合も、ほぼ同じであり、「社交的な集まりにはよく出かける方だ」(同 p<0.1%)、「恋人がいる」(同、p<1%)「知らない人と話すのは苦にならない」(同、p<5%)、友達の数が多い(同 p<5%)、「自分のことが好き」と答える傾向(同 p<0.5%)が見られた。
 いずれのヘビーユーザーにも共通するのは、恋人の存在と社交性の高さであり、移動電話が「社交的なメディア」として機能している傾向がうかがえる。
 続いて、利用頻度別の移動電話利用の特徴であるが、ライトユーザーに比較してヘビーユーザーの傾向は、利用料金で比較すると、移動電話利用のきっかけとして「外出が多く、家の電話ではつかまらないから」と答える傾向が高く(LSD検定 p<0.5%)、発信者番号表示の利用を尋ねた「一般的に、携帯電話やPHSにはかかってきた相手の電話番号が表示されます。その表示を見て、相手によっては電話に出ないことがありますか」(以下「番通を見て出ないことがある」と略)「発信者番号が表示されなかったり、誰からかわからない電話がかかってきたりした場合、電話に出ないことがありますか」(以下「番通非表示に出ないことがある」と略)の両項目でヘビーユーザーほど肯定的に答える傾向が見られた(同、前者はp<0.1%、後者はp<0.5%)。移動電話利用による、意識・行動の変化については、「夜間に外出することが増えた」「夜間・深夜に連絡を取ることが増えた」「常に持っていないと不安になる」「携帯電話やPHSを持っていない人に連絡を取ることが減った」「自分の人間関係について家族が知らないことが増えた」「自宅にある電話の利用が減った」(以上、同p<0.1%)、「ちょっとした用件で連絡を取りあうことが増えた」(同p<1%)の各項目での肯定的に答える傾向が見られた。
 発信回数でヘビーユーザーをライトユーザーと比較すると、同じく、利用のきっかけとして「外出が多く、家の電話ではつかまらないから」(同 p<5%)、利用場所として「学校」や「飲食店」が多く挙げられ(カイ自乗検定、p<0.5%)、番通利用のうち「番通を見て出ないことがある」と答える傾向も強い(LSD検定 p<0.5%)。意識・行動の変化については、「常に持っていないと不安になる」「ちょっとした用件で連絡を取りあうことが増えた」(同 p<0.1%)、「人との連絡やコミュニケーションの回数が増えた」(同 p<0.5%)と答える傾向があらわれた。
 同様に受信回数からヘビーユーザーをライトユーザーと比較した場合、利用場所として「飲食店」が多く挙げられ(カイ自乗検定、p<0.5%)、番通利用のうち「番通を見て出ないことがある」と答える傾向がある(LSD検定 p<0.5%)。また、かかってくることが多いためか、「携帯電話やPHSでの通話中に電波状態が悪いのをいいわけにして、途中で電話を切ることがありますか。」に対する肯定的な回答も多い(同、p<5%)。意識・行動の変化については、「常に持っていないと不安になる」「ちょっとした用件で連絡を取りあうことが増えた」(以上、同 p<0.1%)「夜間に外出することが増えた」「人との連絡やコミュニケーションの回数が増えた」(以上、同 p<0.5%)、「夜間・深夜に連絡を取ることが増えた」(同 p<1%)という傾向が出た。
 ヘビーユーザーに特徴的なのは、移動電話が連絡やコミュニケーションの回数を増加させていることである。「ちょっとした用件」での連絡を取りあい、「深夜や夜間」でも利用する。しかし、「移動電話で連絡さえとれればよい」というのではない。移動電話利用による「夜間の外出の増加」や「人と直接会うことの増加」は調査対象全体から見れば多くはないものの(肯定的な答えは前者で22.1%、後者で23.7%。図1参照)、ヘビーユーザーほど肯定的に答える傾向が見られたのは注目される。移動電話非利用者との連絡が減る傾向などからは、ヘビーユーザーほど移動電話を用いて、好きな時に好きな相手と連絡をとったり、会ったりする傾向があることもうかがえる。これは、番号通知により相手を確認し、出なかった経験がある人も多い傾向が見られる点などからも裏付けられることである。

4.2. 文字メッセージ機能と留守番電話機能をめぐる状況
4.2.1 文字メッセージ機能
 まず文字メッセージの送受信機能の利用者であるが、移動電話利用者のうちで実に76.4%に達する。その中でポケベルの経験者は59.2%にのぼり、文字メッセージ利用者にはポケベル経験者が比較的多いのではないかという仮説を肯定する結果が出た(カイ自乗検定でp<0.5%)。ただし、文字メッセージ機能の利用者は女性が73.9%と圧倒的に多く、逆に非利用者は男性が59.3%と大半を占めている。同時に、ポケベル経験者の男女比でも男性22.1%に対して女性77.9%と、女性が圧倒的である(カイ自乗検定p<0.01%)。さらに男女それぞれのケースについて、ポケベルの利用経験で文字機能の利用の有無を比較すると、とくに有意差はなかった。このことから、女子が文字メッセージ利用の中心であると推測される。
 また、文字機能の利用者と非利用者を比較すると、移動電話を持つことによって生じた意識や行動の変化については利用者の方が、「持つ人との結びつきが強まった」(T検定、p<0.1%)「夜間・深夜に連絡を取ることが増えた」(同、p<0.5%)「人との連絡やコミュニケーションの回数が増えた」(同、p<0.1%)「ちょっとした用件で連絡をとることが増えた」(同、p<5%)と答える傾向が見られる。さらに、文字機能を使い始めたきっかけについて尋ねた項目を男女別に比較してみると、(表2)のようになった。「友達が利用しているから」「夜中でも利用できるから」「以前ポケベルを利用していたから」「相手を電話口に呼び出さなくてもいいから」といった項目をあげる回答が男性よりも女性に比較的多い傾向がある(カイ自乗検定でp<5%)。いずれも、親しい者どうしで、また深夜など従来使いにくかったような状況や、緊急度の低い用件で利用されているという説を裏付けるものだといえよう。
 さらに、文字機能を使いこなしていることを通じて、女性の利用者がメディアの利用のあり方を多様化させているという可能性が考えられたため、さまざまな目的について、「相手の自宅に電話をかける(自宅に直電)」、「相手の携帯電話・PHSに電話をかける(携帯に直電)」のほか、「携帯電話・PHSで文字メッセージを送る(携帯に文字)」「電子メールを送る」「Faxを送る」「手紙を書く」「直接会う」という7つの手段のうち、それぞれの目的についてひとつずつ選んでもらうという質問をおこなった。ほとんどのケースで「携帯電話に直電」を選んでいるが、そのなかでも女性の場合、目的によって複数の手段を使い分けていこうとする傾向が見られた(表3)。
4.2.2 留守番電話機能
 次は留守番電話機能について。留守番電話の機能を利用しているのは全移動電話利用者中64.6%だが、この集団を特徴づける分析結果はさほど得られなかった。ただ、「かかってきた相手を確認してかけ直す」というかたちの利用をしている者が留守番電話利用者中16.3%おり、そうした利用をしていない者にくらべて「人に対しての好き・嫌いが激しい方だ」(T検定、p<0.5%)、「社交的な集まりにはよく出かける方だ」(同、p<1%)、「自分と仲のよい人以外には何を思われても関係ないと重う」(同、p<1%)「自分は他人に好かれる方だ(同、p<5%)といった項目に肯定的な傾向が見られた。同時に、「電話番号をなるべく教えたくない人はいますか」という項目に、「そんな人はいない」と答える傾向がある(カイ自乗検定、p<5%)ことから、社交性は高いが、対人関係に対して選択的な志向性をうかがうことができる。
 また、「携帯電話・PHSを使いこなせていると思うか」という質問について、文字メッセージ、留守番電話それぞれの機能の利用の有無との関連を分析したところ、いずれも利用しているグループの方がメディアを使いこなせるという意識を抱いている傾向がうかがえた(文字:T検定 P<0.5%、留守電:同 p<5%)。このことから、利用者たちはそれぞれの機能を意識的に使いこなしていると考えられるだろう。

4.3. 移動電話利用と対人関係をめぐって
4.3.1. 対面的コミュニケーション仮説
「面と向かって話すより電話で話す方が好き」かどうかについて、全体の5割がやや対面志向であり、3割が対面志向であり、電話志向は1割にすぎない。全体としては対面的コミュニケーション志向が強いといえる。しかし、利用者が非利用者に比べて対面志向性が強いというわけではなく、電話好きが移動電話を利用している、という結論が得られている(T検定、p<5%)。また、利用者の意識としては、移動電話を利用したことで、人と会って話をすることが増えたという意識はないようである。「移動電話の利用者は非利用者に比べて対面的コミュニケーションが多い」という仮説は、志向性のデータと利用による意識のデータからは棄却される。ところが、使用料、電話を受ける回数、かける回数を得点化し総合的な使用度をつくり、ヘビーユーザーからライトユーザーまで3段階に分けて分析したところ、ヘビーユーザーとライトユーザーの間には、移動電話を利用したことで、人と会って話をすることが増えたかどうかという認識に差があった。この差は、ヘビーユーザーはライトユーザーに比べて対面的コミュニケーションをとることが多いというものであった(LSD検定、p<1%)。
 つまり、利用/非利用は対面的コミュニケーションが増加したと感じるかどうかと関連がないが、利用頻度はこれと関連がある。換言すると、移動電話をよく使用する人は、あまり使用しない人に比べて、人と会うことが多いといえる。このようにメディアの利用頻度が対面的コミュニケーションの増大の感覚と相関するということは、移動電話というメディアが、使用中に情報を交換している間にのみ影響を及ぼしているということではなく、使用にともなう個人の行動や対人コミュニケーションに影響を及ぼしているということを示している。先述のとおり、これは利用目的別メディア選択(表3)でみると多々ある目的のうち、悩み事を相談するときのみ、「直接会う」と男女ともに回答しているのに対し、他の目的においては「携帯電話」を選択する度合いが高いことからも推察される。  対面的コミュニケーションが重要視されていることは、この結果をみてもいえることであるが、このように移動電話がそれ以外の手段によるコミュニケーションと相関しているということは、メディアの利用の一部をとりだしてコミュニケーションの浅薄さを関連付けることへの反証になるだろう。
4.3.2 「番通選択」仮説
 番通による着信選別をおこなう利用者は、「よくある」「時々ある」「数回ある」をあわせると移動電話の利用者の57.5%を占める。それでは、発信者が不明な場合はどうであろうか。この場合、48.4%が着信を拒否した経験があると答えている。電波状態を理由に通話を拒絶する経験をもつユーザーの33.8%に比べて、これらは多いといえる(以上、T検定、p<0.1%)。この結果は、実際に通話してしまうと拒絶することが難しいが、会話が始まる前であれば、拒絶することがたやすいことを示している。
 番号通知サービスを利用して電話への対応を決めることがあるのは、ユーザーの約半数に達するようだが、ここでは利用者の傾向を検討してみる。まず、番通による着信選別の経験の有無、頻度にみる結論は以下のとおりである。(表4)番通による選別の経験がある人はない人に比べて利用回数(発信回数と受信回数の和)や小遣い、利用料金が多い(以上、T検定、p<0.1%)。さらに、先ほど使用した使用度で分析してみると、ヘビーユーザーになるほど番通による着信選別の経験が多いということがわかった(LSD検定 p<0.1%)。
 次にメディアに対する依存・信頼感について分析してみよう。着信選別の経験がある人はない人に比べて、移動電話を常に持っていないと不安であると感じている(T検定、p<0.1%)。ただし、LSD検定の結果、不所持の不安に関しては、番通による着信選別をしたことがないグループとよくあるグループには差がなく、経験のないグループと「時々ある」(p<5%>「数回ある」(p<0.5%)グループとに差があった。番通による選別の経験がある人はない人に比べて利用するようになったことでいつでも連絡がとれる安心感をもっており(T検定 p<5%)、移動電話を持つ人との結びつきが強くなったと感じている(同 p<0.5%)。また、持たない人への連絡が減ったと認識している(同 p<0.1%)。
 これらからメディアに対する依存・信頼感が比較的高い人が番通による着信選別をしているということがわかる。ただし、このメディアを持ったことで束縛されていると感じている傾向も強い(同 p<5%)。
 行動や意識の変化に関してはどのような傾向があるだろうか。番通による着信選別の経験がある人はない人に比べて自分の人間関係について家族が知らないことが増えたと思っており(同 p<0.1%)、自身を親への隠し事が多いタイプであると感じている(同p<0.1%)。さらに、自宅にある電話の利用が減ったということも感じている(同 p<5%)。しかし、夜間に外出することが増えたかどうかなどに関しては着信選別をする人としない人の間には差がみられなかった。それゆえ、総じて番通による着信選別をおこなう人は家族との心理的距離を感じているといえる。
 次に、電話を道具として使いこなしているかどうかを検討してみたい。番通による着信選別の経験がある人はない人に比べて移動電話と自宅の電話を使いこなせていると感じており(T検定 p<5%)、「よくある」人は、「時々ある」「数回ある」人に比べて人と遊ぶより機械いじりのほうが好きな傾向がある(LSD検定 p<5%)。イノベーター度について、着信選別の経験が「時々ある」「数回ある」人は、「ない」人に比べて、「友達が変わったものをもっているとほしくなる」傾向がある(同 p<5%)。また、「数回ある」人は、「ない」人に比べて、「同じ物をずっと使っていると飽きやすい」と答える傾向がある(同 p<5%)。
 最後に、どのような対人関係に対する意識を持っているかについてみてみよう。番通による着信選別の経験が「よくある」人は、「数回ある」人「ない」人に比べて、「自分と仲のよい人以外に何を思われても関係ない」と思っている(同 p<5%)。番通による着信選別の経験が「よくある」人と「時々ある」人は、「数回ある」人や「ない」人に比べて、「人の好き嫌いが激しい」(同 p<5%)と自身を評価している。
 以上の結果を要約すると、番通による着信選別をおこなっている人は、移動電話に対する依存・信頼が高く、家族とのコミュニケーションにおいて、共有されるものが少なく、機械親和性・イノベーター度が高い。さらに、対人関係の意識としては着信選別をよりよくおこなっている層が、それ以外の層に比べて自身の親密性の範囲と他者への関心の度合いがはっきりしているということがわかった。
4.3.3. 自己モニタリング手段としての移動電話
 前節のように移動電話の使用を分析することから現代的な人間関係のあり方を映し出すことの可能性について論じておきたい。
 まず、友人の存在はコンピュータを取得するきっかけとなっているという知見(川浦、1994)が示すように新規メディア採用において重要であるが、同じことが移動電話にもあてはまる。移動電話を利用している人のうち54.4%が、持ったきっかけについて「友人が利用しているから」と回答している。また、移動電話を利用するようになって移動電話を「常に持っていないと不安になる」人が、「そう思う」、「まあそう思う」をあわせると65.7%になる。「いつでも連絡できるという安心感をもてるようになった」人は、「そう思う」、「まあそう思う」をあわせると86.3%になる。翻って、全体での傾向に目を移してみると、移動電話をかける相手としてあげる場合、同性の友達が最も多い(67.6%)ということがある。さらに詳細に現代の大学生の人間関係志向について分析すると、二つの相矛盾する傾向がみられた。一つは、人間関係を大事にしなければいけないという志向である。たとえば、「人間関係は財産だ」と思っている人が、「そう思う」、「まあそう思う」人をあわせると89.4%いる。二つ目としては、自分の生活が大事であり、人に煩わされたくないという志向である。「ひとりでいることは好きな方」かどうかたずねると、「そう思う」、「まあそう思う」をあわせて70%いる。加えて、また、「社会や他人のことより自分の生活がまず大事だ」と思う人も、「そう思う」「まあそう思う」をあわせると68.6%となった。
  4.3.2でみた番号通知サービスに関する利用状況の結果を考えあわせてみても、移動電話は、こういったパーソナリティをもつ人に対して格好のメディアである。すなわち、大切にしなければいけない人間に対しては、いつでも連絡可能な状態に自身をおいておき、どの程度大切な相手から連絡が来るかについて知ることが出来る。さらに、大事にしなくてもかまわない相手を直接話すことなく、拒絶することができるからである。

5 結論


 最後に、大学生の移動電話利用状況とそれがそれぞれの意識や行動、友人関係に及ぼす影響をまとめた上で、今後の検証が必要な仮説を3点、提起したい。まず、この調査から得られた知見は以下のようにまとめることができる。
 (1) 移動電話利用者はより社交性やイノベーター度が高く、毎月の小遣いが多い。性別では男性より女性に移動電話利用者が多い。
 (2) 移動電話は男性にはより「個人専用の連絡手段」として、女性にはより「安心のためのメディア」として利用される傾向がある。
 (3) ポケベルや移動電話の文字機能は男性より女性が頻繁に利用する傾向があり、かつ女性の方が状況に応じてメディアを使い分けをおこなう傾向がある。
 (4) ヘビーユーザーは、より社交性が高く、移動電話利用により「人と直接会うことが増えた」と感じている人が多い。また、移動電話を用いて「つきあう相手」をより選択する傾向がある。
 (5) 留守番電話を用いて相手の選別をおこなう人は、より社交性は高いものの、対人関係一般に関してより選択的である。また、「電話を使いこなしている」という意識もより高い。
 (6) 発信者番号表示を用いて通話相手の選別をおこなう人は、より移動電話に依存する傾向があり、機械親和性やイノベーター度が高い。対人関係一般はより選択的であり、家族に対しても心理的距離をより感る傾向にある。
 (7) 一般に、移動電話利用者にとって「人間関係は大切」であり、移動電話は友人との関係を保つ上で必需品と位置づけられているが、一方では他人に煩わされたくないという志向も高い。
 大学生の利用状況からみえてくる移動電話は、それが普及初期に与えられていた「外出先での緊急の連絡手段」ではなく、「いつどこにいても好きな相手とつながるためのメディア」となっていることだ。コミュニケーション・メディアは人と直接会う必要をなくすがために社交性の低い人が好み、さらには、その利用によって対面コミュニケーションは減少するという通説があるが、固定電話と同様、移動電話利用者はむしろより社交的である。また、移動電話は「気楽な用件」を生み出すことで、移動電話を通じたコミュニケーションを増加させるが(松田、1996)、ヘビーユーザーほど対面コミュニケーションも増加していると感じている。ここから仮定できるのは、社交的な人は移動電話を駆使することでより社交的になり、社交的でない人との格差が広がりつつある可能性だ。
 ヘビーユーザーの移動電話利用として特徴的なのは、ミドルユーザーやライトユーザーと比べて、留守番電話や発信者番号表示など移動電話の機能を用いて、通話相手を選択する傾向があることだ。これは、ヘビーユーザーほど移動電話というメディアに親和的であるだけでなく、社交的であるがゆえに広がる対人関係を常に選択する必要があるからではないだろうか。だとすると、留守番電話や発信者番号表示などの移動電話に附属する機能を利用した対人関係の選択は、大学生だけでなく他の年代についても、ヘビーユーザー、あるいは社交的な人ほどおこなっている可能性が考えられる。
 しかし、留守番電話や発信者番号表示などの移動電話に附属する機能の利用者から検討するならば、むしろ対人関係一般に関して選択的な志向をもつ人ほどこれらの機能を利用する傾向にあることがわかる。一般に大学生の間では友人関係は重視されているが、同様に他人から煩わされたくないという志向も高い。こういった相矛盾する志向を実現するために、留守番電話や発信者番号表示などの移動電話に附属する機能を利用して「いつ」「誰と」つきあうのかを「自分で」選択するのである。
 若者の間の友人関係に選択志向が見られることについては、浅野(1999)が1992-3年におこなった調査をもとに具体的に報告している。それによれば、選択的な友人関係とは「つき合いに応じて異なる顔を見せ、友人関係は広いが、その友人関係は重なり合っておらず、だからといって、常に相手と距離を取るのではなく、熱中して話をすることも多い」といったものであるという。その一方で、選択的な友人関係は若者のみに見られるのではないというデータもある。大谷(1995)が中国・四国地方の都市に住む20歳以上の男女を対象に1989年におこなった調査によれば、「たいていの場合同じ友人と行動をともにすることが多い」と「それぞれの場合に応じていろいろな友人とつきあう」のいずれかを選ぶ項目で、後者を選ぶ回答者の比率は地方小都市に比べると地方中核都市で有意に高かったという。つまり、若者に限らず、居住する地の都市規模が大きいほど、状況に応じてつきあう相手を選ぶ傾向があるというのである。
 以上の点を踏まえると、対人関係一般に関して選択的な志向をもつ人ほど、留守番電話や発信者番号表示などの移動電話に附属する機能を利用し、通話相手を選択するという傾向は、大学生に限らず他の年代、たとえば大都市居住者にもあてはまる可能性がある(松田、2000)。
 今回の調査では、移動電話利用率は86.8%であり、さらに非利用者のうちの半数(52.2%)が利用意向を持っていた。 1999年3月に15歳から59歳を対象としておこなわれた調査では移動電話の利用率は51.2%であり、11.1%が近い将来の購入を希望している(野村総合研究所,1999)など、今後、私たちの生活において移動電話の役割はますます大きくなることが予想される。今回の調査では大学生のみを対象としており、そこから得られた知見は今後さらに検証する必要がある。しかしながら、本稿は移動電話の利用状況だけでなく、それがもたらしつつある人間関係の変化について分析をおこなった点において、その意義はきわめて大きいといえよう。
(なお、本研究は財団法人電気通信普及財団の平成10年度助成研究「移動体通信の受容とパーソナル・ネットワークの変容」による研究成果の一部である。)

【注】
(1)例外として、Rakow and Navorrw(1993)は移動電話が女性にとっては「家事の拡大」につながっていることを報告しており興味深いが、この知見は既婚女性を対象としており、今回の調査にそのまま適用することはできない。
(2)辻(1999)によると移動電話を用いたメールのやりとりの頻度は男子よりも女子の方が多い傾向があるという。
(3)固定電話に番号表示サービスが導入されたのは19998年2月からであったのに対し、移動電話においてはもっと以前から展開されていた。その意味でも、番号表示サービスの今後の利用のあり方を示唆する点で、この分析の意義は小さくない。
(4)なお、一人暮らしの男女では「自宅」での利用に差は見られなかった。
(5)このような三つの尺度から利用頻度をとらえたのは、平均的な毎日の利用回数の方が月々の料金よりもばらつきがあり、正確な答えが得られにくい可能性があると考えられるが、毎月の料金においては自分で料金を払っていない人がいる(実際、0円との回答が17名いた)ためである。ちなみに、毎月の利用料金、移動電話の発信回数、受信回数それぞれは、有意な関連性が見られた(p<0.1%)。

[引用文献]

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