ダンガンロンパ
パンドラはあわてて瓶のふたを閉めたため、希望だけを逃さなかった。以降、人間は絶望と病苦を伴侶として生きることになった。
・これはAVGにガンシューを持ち込んだのか、ガンシューにAVGを取り入れたのか
展開はリニアであり、特に調査パートでは手がかり(物証、証言ともに)の取りこぼしは出来ないようになっている。全ての手かがりを入手するまで移動できなかったり、手がかりの場所まで強制移動だったりと、調査も推理のうち。と思っている人間には、ひどくぬるく感じる。
学級裁判においても、慣性の付く照準、雑音の存在など、じっくりと推理したり相手の矛盾を突くことよりも、アクションの要素が強い。証拠を提示すれば即終わるような問題提起に関しても、逐一議論をしたり、ひらめきアナグラムという射的をやらされたり、解説キャラからの「おい、おまえが説明してやれ」とか「あなたももう分かっているでしょう」とか言って、無理矢理にシューティングの展開に持ち込んでいることからも、かなりアクション要素が強い。チャプターセレクトも、AVGパートの最初からと、裁判からの二箇所しか無く、また裁判の最高スコアも確認できるなど、リプレイ、物語の再読破よりも、単なるスコアアタックという色合いが強い。
特定の弾丸しか効かない敵を倒すために、AVGパートで、その弾を特定する情報集めるガンシュー。と言い換えることも可能だ。キャプテンラヴの論撃をよりシステマチックに、よりゲームとして高度にしたモノ。と言えるかも知れない。 キャプテンラヴの論撃は、完全なオマケであったが、ダンガンロンパにおいては、シューティングシーンこそがメイン。要は、リニアで退屈な眺め物にシューティングを取り入れてゲームに見せかけている、目くらまし戦法。
AVGのリプレイ要素は、物語の展開の幅、「あのとき違う行動をしていたら」だと思うのだが、ダンガンロンパは幅は全くないので、リプレイ要素は無い。シューティングシーンのスコアアタック要素のみ。そもそも、スコアアタックも、コインを得るためでしか無く、そのコインも、おまけ要素を購入するためだ。これは、AVGと呼んで良いモノなんだろうか。ガンシューの幕間劇がひどく豪華になったもの、ムービーではなく自由行動要素を持ったモノ。と言う方が、正しいと私は思う。AVGの体裁をしたガンシューないしストーリー性の高いガンシューと私は見なしている。 それは、親密度を上げてもスキル(Perk)が増えるだけで、なんの影響もない事からも伺える。AVGなら普通は展開と絡めるよなぁ。
物語的にも、やや卑怯な手段が取られており、現代物と思わせておいて、近未来ものであり、オーバーテクノロジーで固められている。作中においても「それをどうやったのかは問題じゃない」と開き直っているのも、少し…いや、かなりみっともない。出来るから出来るんだ。は、ミステリーではやっては行けないことだろう。
世界の破滅を知らない理由が「高校生活だけの記憶を消去した」と言うのは、強引すぎる。 ピンポイントで記憶の書き換えが出来るのなら、なんだって可能になってしまう。ミステリーとしては禁じ手だろう。そもそも記憶を消去されたのなら、思い浮かぶのは「高校生活の記憶」であるべきで、「自分からの呼びかけ」では無いはずだ。もしかすると、タイムパラドックスな展開を狙っていて、整合性が付かなくなってやめてしまったのだろうか。
矛楯要素もあちこちにあり、例えば多重人格でも「記憶は共有していないが、知識は共有している」と言うのは、あり得ない。本で得た知識というのは本の内容の記憶であり、経験から得た知識とは体験した記憶である。つまり、知識とは記憶であり、記憶が共有されなければ、知識の共有もない。
細かい矛楯は枚挙にいとま無く、ポンコツノートでAIが走るのかとか、空気濾過器が必要なレベルの外気なら、すでに全滅しているのではないか。とか、世界が絶望に浸っているのに、のんきにテレビ見ている奴が居るのかとか。 そもそも、記憶を奪われる直前まで生活していたにもかかわらず、埃の積もり具合(机や本棚に埃がたまっているのに、床にはない等)など、疑問が残る 。下層階ほど埃に言及し、上層階に行くにつれて、埃の堆積などは無視されていくのも妙だ。そもそも、崩壊した世界で、誰が食料を確保し、搬入しているのだろうか。 窓を塞ぐ鉄板にしても、処刑装置にしても疑問は尽きない。 野ざらしの鉄板はわりとすぐサビが浮くし、そもそも処刑装置はいつ誰が作って、どうやって搬入し設置したのか等々。バカゲーだったら突っ込まないが、謎解きミステリーの看板では触らずにいられない。
まぁ、タイムマシンや時空転移装置なんかと、ピンポイントで狙った記憶が消せる装置、どちらが卑怯かと思うかは、人それぞれだろうが、私は記憶の方が卑怯だと思う。 タイムマシンは、答案に答えを書く前に戻るだけと例えるなら、記憶の改竄は、問題そのものを作り替えてしまうと例える事が出来るだろう。
黒幕と翔のキャラが丸かぶりな事も問題がある。狂気にとりつかれた人の「わかりやすさ」を重視したのかも知れないが、あまり関心は出来ない。 黒幕のインパクトの無さは、翔の存在があるからで、出オチインパクト系の威力暴落ぶりが理解できるはず。
そもそも、生まれた時から絶望しているなら、自害という選択をせず、世界を絶望させるという野望を持っていることも矛楯する。そも野望とは願望であり、願望とは自身の欲求を満たすと言う希望であろう。 根幹設定に矛楯があるのだ。
ゆえに「君もまた希望を捨てきれていないから、世界を絶望させようとしているのだ」と論破したならば納得したのだが。諦めちゃダメだで説得して回るだけで終わるのは、ちょっと安い。そして、最後の説得でルール変更しているのもずるい。
推理モノとしては、と言うよりも、AVGとしては、昨今珍しいほどのリニアな展開で、ルート分岐も、ストーリー分岐もない。 一本道リニア紙芝居を誤魔化すための、学級裁判というガンシューと、処刑シーンのゴア度であり、インパクトだけの目くらましにすぎない。ゴアシーンも、へんなギャグ要素が入っていて、すべっていると私は感じる。それを黒幕の悪趣味さとして、意図的にやっているなら良いが、センスの良いブラックジョークと思っている感じを受けた。 ネタの端々にも、半端なオタクギャグが入っているのも、肌寒い。
2を発売するそうだが、おそらくあまり良いモノにはならないのではないか。目くらまし、インパクト勝負のモノは、二作目ではその威力が激減してしまう。処刑シーンをより悪趣味に、シューティングシーンをより難解に。とすれば、ますますもって、AVGではなく、ガンシューへ移行するだろうし。 「超高校級の絶望が、野望を持っている」時点で、設定に齟齬があるわけだし。
そもそも、世界が滅んだ理由も語られないとか、希望ヶ丘最悪の事件の全貌も語られないとか、その辺りを2で語るつもりなのかも知れない(超高校級の絶望が複数人であることと、最後にモノクマが起き上がることからも、続編を見越しているのは明白)が、そうした続編を見越した作りは褒められたシロモノではない。言うなれば、懸賞小説に応募する際に「これは第一部です。第二部はまたお届けします」といっているようなモノだ。エピソード形式で配信するならともかく、作品と呼ぶならば、きちんと完結させるべきだろう。
こうしてみると、閉じこめられ脱出ミステリーは、好まれるジャンルだが、マトモに作るのはひどく難解であることが伺える。パニックホラー的な脱出劇だと、アローンインザダークとか、ハーフライフとかあるのだが、ことミステリーというモノが含まれると、マトモなのは遺作とCUBEぐらいだろうか。まぁ、キューブも少々強引なところはあるのだが。遺作は、謎解き、ゲーム性、ストーリー性全てが高いところにあるのがすばらしい。遺作が謎解きを仕掛けるのも「お前たちは、俺をバカにするが、俺の仕掛けた謎が解けるのか?」と言う意図があり、相手をコケにしてから狩ると言う歪んだ欲望が見て取れる。さらに仲間は助けたいが、助けるとエロシーンが見れない。と言うエロゲであることを上手く利用しているのもすばらしい。
追記:逆転裁判をプレイしたところ、システムクローンと確信できました。特に裁判のシステムは、ほぼ同一。証拠品の代わりに、ダンガンを見つけるに変わったぐらい。A研部長の言う「革新的ゲームなど他社に任せておけばいい。成功したシステムを模倣すればいい」を実践しているようで。別段クローンは否定しません。クローンがオリジナルを凌駕するのも良くある話(Dotaとか、Dark Modとか)だし、より研ぎ澄ましたならば改良だし。ただまぁ、ほとんどのクローンは所詮クローンで、タダの模倣。そして劣化しているんですわな。
おまけ
これをしてたら、ミステリーとは呼べない三項目
1、完全な変装
2、完璧な催眠術
3、論理無視
1、完全な変装。ってのは、いわゆるルパン三世のような変装。ゴムっぽいマスクを被ったら、体格、身長 、性別を無視して変装でき、声も真似れる。そんな変装できたら、やりたい放題だ。
2、完璧な催眠術。これも出来たら、やりたい放題。見ず知らずの通行人に催眠術を掛けて目標を襲わせ、通り魔殺人にみせかけるなど、何でも出来る。また、催眠術で記憶を操作してしまえば、 無関係な人に自分を犯人と思いこませたり、目撃証言を偽造できる。
3、論理無視。は少し幅が広く、物理的に不可能。と言う物から、科学的に不可能と言う物もあるが、それよりは、「そんな運任せを計画と呼ぶなっ」という物。チャンドラーの言葉を借りるなら「ラジオでオペラの歌姫の音程が半オクターブ上がった瞬間に、シャンデリアが落ちてきて、被害者を殺す」とか言うモノ。立ち位置が微妙に違えば死亡はしない。そんな偶然の連鎖があるかボケェと言うこと。
科学的に不可の例としては、ブルーバックスの「ミステリーの毒を科学する」にあるのだが、山村ミサの「燃える花嫁」、室内にエタノールを充満させておいて、化繊であるウェディングドレスが吸い寄せたところで、喫煙しようとした花嫁に引火。と言う筋書きだが、引火するほどエタノールが充満していたら異臭騒ぎだし、そもそも、空調があるので充満させようがない。結婚式当日にウェディングドレスを着て、一服なんて普通はしないなどが、突っ込まれていた。私もそう思う。ミステリーは多いけどね「第二の被害者は、偶然犯行を見かけて、強請ってきた○○さん」とか。殺人犯を強請るって根性あるよな。
ちなみに、1と2を併せ持つのが、御神楽少女探偵団の午前0時の男(…十二時の男だったか?)。もはや、超能力戦争だかミュータント状態である。偶然という意味では、御神楽は3もやってた気がするなぁ…
初稿2012/08/11 改稿2012/08/15 追記2013/12/17
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