かまいたちの夜完全版

そして奇態な事に、こうした全く不自然で、機械的で、退屈極まる、へなちょこの凡作という奴は
いわゆる傑作と称されているものと比べて、それほど懸隔がない。
筋の運びがいささか冗漫で、会話は少し精彩を欠き、登場人物を切り抜く厚紙は一回り薄く、
トリックもやや見え透いた気味はあるが、やはり同種類の本である事に変わりはないのだ。


レイモンド・チャンドラー(簡単な殺人方/創元推理文庫 事件屋家業に収録)
 


と、表題に書いたのは、けっして、このかまいたちの夜のタメではなく、ゲームシナリオ全般に対するものです。同種類の本を、エロゲーとか、サウンドノベルとか、ビジュアルノベルとか、デジタルピクチャーショーとかと置き換えてください。

さて、各方面で絶賛された、かまいたちの夜ですが、たしかに出来は良いのですが、ゲームと呼ぶための水準を、このかまいたちの夜ぐらいに求めている身としては、本当の意味での水準作と言えます。決して出来がよい訳ではなく、むしろ、シナリオ面では不備が目に付きますが、選択肢によって、物語が展開していくという、案件が満たされていると言う点に尽きます。

立ち返ってみれば、このかまいたちの夜が、絶賛されるという事は、いかに、無意味な選択肢のゲームが、ゲーム面して溢れかえっているか。と言う証左でもある訳で、いろいろな意味で、大絶賛されているのをみると、私は複雑な思いになる訳です。

シナリオ面は、後に回すとして、システム面では、どうにも文字の表示速度と、効果音のリンクを徹底したいらしく、表示速度が選べません。ルート分岐を探す段階になると、難度も読んで、展開すら知っている文章を、低速で読み続けるのは苦痛としか言いようが無く、ぶっちゃけて、著者は自信満々と思いますが、二度も読めば満腹になる表現技量で、私はルート調査の段階では、本を読みながら、R2ボタンを連打しておりました。この点は、かまいたち2でも解消されておらず、スキップはページ送り式で、選択肢ごと飛ばしてしまうと言う不出来さでしたねぇ。

シナリオ面ですが、推理小説として、事件の発端と動機、そしてトリックが一度に解決しないならば、それは二流以下と言わざるを得ず、ましてや、「動機は警察が調べるだろう」なんて言うのは、同人の推理小説以下と言えます。

この点に関しては、SFC版で、俊夫の自殺エンドが、ベストエンドと誤解されたため、これを完(事件解決、いわゆるグッドエンド)から終(いわゆるバッドエンド)に変更。完の方で、動機面が一切解決しない事になったが、最初のプレイで、ここに到達したら、もうプレイされないかも。と言う事を考慮して、そのままにしたそうですが。

これこそ、誤解も甚だしい。と言えるでしょう。推理もので、動機や発端、そしてトリックが解決されてこそ、完全なる真相究明。と皆が思っているからこそ、それらが全て証される、俊夫の自殺がベストエンドと皆思った訳です。それを、誤解と思った時点で、ダメ。と言えるでしょう。むしろ、誰も死なず、動機も究明するルートを作るべきだったのです。いや、作らなければならなかったのです。その点で、シナリオ的には、ダメと言わざるを得ないと思います。

あと、重箱の隅を突くようですが、推理のミスで、二階から紐に重りをつけて、頭をがつん。って言う推理ですが、数メートルの視界もない吹雪の中、二階から、ピンポイントでねらえるとは思えず、また、そんな猛吹雪の中、窓を開けて、ねらったならば、犯人雪まみれです。確実に、ぬれていて、服を着替えるかする必要があります。

また、時間差のトリックとなった場合でも、先に窓を壊していたならば、放置された遺体は雪に埋まっているはずで、駆けつけたときは、雪がかかっていたぐらいでしたから、窓が壊されたのは、ガラスが割れる音がしてすぐというのは、確定的です。美樹本が到着したとき、駐車場から歩いてくるだけで、雪が積もるほどですから。

PS版に追加された、真理の探偵編は、容疑者が普通に表示されて、なんかすんごいチープに。いや、絵が悪いのではなくて、シルエットで通して欲しかったなと。香山とか小林、今日子のシルエットで流用できたはずだし。なんで、あそこだけ、普通の絵にしちゃったかなと。

と言うところで、我がのかまいたち2のレビューに即して、各編の感想を。

ミステリー編
上でも述べているけど、動機の解明されないミステリーは失敗作。被害者ゼロが、ベストエンド。と言う趣旨は分かるが、その修正方法も間違えている。
ぶっちゃけ、トリックも強引で、少年探偵団一歩手前レベル。ミステリーとしては、あまり出来はよろしくない。

犯人の特定が遅れると、ジェイソン風の物語になっていく。この方向性は、著者の好みだろう。2でも、似たようなコトしてたし。
あと、そうそう。タイトルとのリンクがほとんど無い。ってのもイカンかな。

スパイ編
邦人作家のコメディ風味というか、マンガチックなスパイアクションとしてみれば、かなりの良作。

暗号編
まぁ、ミニイベントとしては良作。

Oの喜劇
面白かったです。大笑いではなく、プッってなるタイプのわらい。まぁ、下ネタつーか、笑いとしては結構反則スレスレっちゃスレスレ。

不思議のペンション編
あー、えーと、エンドナンバー回収作業増やすの止めてください。

迷宮編
正味ゲームブック。ちょっと北だな、ちょっと北。残念だが14へ進め。がんばれ、ピップ。終わり方は結構、良い趣味。

チュンソフ党の野望
隠し方は、すんごいアイディアだわ。ゲーム機の特性を上手く使った隠し方。


正味の所、出来は悪くないものの良いとも言えない。ミステリー編の出来を考えると、我孫子氏はぶっちゃけて今ひとつと言わざるを得ず、監修にとどまった2の売り上げが一番良く、我孫子氏が復帰した3は、2の半分程度の売れ行きと言うのも、その証左たり得るかな?。

私には、登場人物の顔が見えそうで見えない感じが、とてももどかしく、また、今ひとつ。という証かなとも思っている訳です。あー、真理の探偵編で、容疑者の顔が出たとたん、安っぽく思ったのは、色々と書き切れてないのに、顔だけ出してるからかも知れませんねぇ。

とはいえ、2009年の現在ですら、小説の探偵や刑事がする事と言えば、「事故表を作ったり、窓の下の花壇を踏み荒らしたのが誰かを調べながら、あり得ないようなトリックを使い、骨董品の短剣で刺し殺した犯人を追いかけている訳で、推理作家としては上位ランカーなのかも知れません。チャンドラーが、簡単な殺人方で、推理小説の凡作ぶりを嘆いたのが1950年ですから、それから一向に進化していないとも言える訳で。

進化してないのは、読者なのか、書き手なのか。はたまた評論家なのか。その全部という気もしますが、さて。

ともあれ、ゲームのシナリオとしては上物と思いますが、小説だから、ゲームだから、映画だからと色眼鏡で見る事は絶対に許されません。また、古い作品だから、と言うのも、シナリオに関しては当てはまりません。ハードやシステム、グラフィック的なものならば、当時としてはよく頑張った。と言えますが、シナリオは、そうした外的要因に影響されません。良い物語は、何千年前のものでも良いですし、悪いものは今年のベストセラーと言われても、ダメなものはダメですから。

ま、往々にして、映画やゲーム、小説っていうのは、営業努力に依存するところが多く、表題にも掲げましたけど、傑作と凡作の境目が非常に曖昧で、コレは面白いモノ。と言う流れさえ、いや、風を少し起こせば、後は雪だるま式に売れてしまったりするのが流行というものの正体ですから。流行したベストセラーなど特に顕著で、ブームが去った後、それを読んだら、なぜこんなものを面白がったのか。と言う感覚に陥った人は少なくないでしょう。

特に日本人は、流行という風が吹き始めると、それに逆らうのは犯罪を犯すに等しいという感覚を持つ人が意外と多く居ますから尚のことです。それでも、サウンドノベルとか、ビジュアルノベルとかと言う流行(と言う模倣作)が吹き荒れた中で、かまいたちシリーズは、キチンとした作品だったと言えると思います。



戻る