闇の声


体験版をダウンロードしてみて、意外と楽しかったので購入。時期的に新品なんて無かったので、中古屋で購入したら、初回特典が入っているわ、ver1.1のバージョンアップ版だわで、ラッキーでした。ネットオークションよりも遙かに安く買えましたわ。

さて、まぁ、体験版で感じたとおり、ゲームシステムというか、コンセプトが楽しいゲームでした。ゲームの評価は、システムとシナリオの合計点だと思っているので、ノベルゲームのような、システムが汎用だと、シナリオが転けると、全壊してしまうのですね。システムが面白ければ、シナリオは並でも、結構、満足出来る。と気が付きました。

各種イベントの出来は、問題ないのですが、全体のストーリーという点では、かなり低い点を付けざるを得ません。なんの謎も解明されないし、プレイヤーは、館の主(闇の声の主?)なのでしょうけど、その存在も謎。と言うかなにも語られない。プレイヤーの立場が未設定も同然というのは…ちょっと。

まぁ、個々の登場人物の背景はそれなりに判明するし、七海の探し人が実は…と言うのもあるのでしょうが、それでもやはり酷評は避けられないでしょう。ストーリーと言う点においては、です。

痴態連鎖と言う組み合わせを捜す、ある種パズルゲームというか、そんな趣ですので、ストーリーなんて必要ない。と言えば、必要ないのですが。エンディングも弱いですし、港の住民が「やっぱり、帰ってこなかったか…」と捜索する気配も見せないとか、「またこの時期になったか…」と、港を出る観光客を見ている地元民とか、「脱出した連中が救急車で運ばれるとか」、もうひとオチあっても良かったんじゃないかなと。

信長の野望とかのごとく、全国制覇しました。っていうのと変わらない、全員堕落させましたってゲームではあるのだけど…終わらない淫靡な宴の物語であるなら、その余韻を臭わせて欲しいかなと。登場人物にとって、ネバーエンディングストーリーであっても、プレイヤー、ユーザーには終わりがあるのだから…と思うのですけどね。

初回特典のインタビューで、小夜子の正体に触れられているけど、それはちゃんとストーリーに組み込むべきでしょう?。こうした点から、ストーリーに関しては、酷評とさせていただきます。

個人的に、痴態とか堕落とか言うわりに、イベントでのプレイが普通かなぁ…とか思ったのは、私が堕落しているからでしょうかね。CGとかは別に不満無いです。

これで、ストーリーがきちんとしていたら、いや、きちんとしているのですが、威力に欠けるので、パンチのある物語をもっていたら、傑作となっていたでしょう。2に期待と言うところですかね…とは言え、2の方は、被験体の増加という、組み合わせの増加に心血注いだようで…信長の野望が、全国版になった感じかなと。

さて、サイクのホームページとか、初回特典のインタビューで「燃えない館モノが作りたかった」と言うコンセプトだったようですが、ではなぜ館は燃えるのか、考えてみましょう。

答えは、もう必要ないからです。舞台として、その役目を終えたからです。

ホラーモノで、館や城と言った閉鎖空間は、主人公の心を具現化したものです。そこに現れる怪物は、主人公自身の心であり、内部葛藤なんですね。その怪物を撃退したと言うことは、心、精神の成長であり、心の壁が無くなったのですから、屋敷はその存在意義を失い、消えなくてはなりません。

良くできたホラーのストーリーは、主人公やその仲間(探索・調査側)の葛藤やトラウマをちゃんと描き、それを克服することで、怪物や怪異を撃退できるようなストーリーになっています。近年のホラーは、ガジェットやSFXに頼り切りで、心理的な恐怖感を忘れている気がします。怖いというのは、心理的な事ですのに。

少し話がそれましたが、この冒険の舞台は、心理的葛藤との戦いの場。と言う解釈は、古くは英雄物語から続く伝統です。英雄が最後、死ななければならないのは、怪物、すなわち内部の葛藤をうち倒し、成長すると言うことですから、その世界から抜け出さなくてはなりません。少年から大人への成長物語として機能するからとされています。

要するに、燃える館というのは、葛藤を乗り越えて成長し、閉じこもる殻を捨てた。と言うことなのです。故に、燃えない館モノ。というのは、主人公は成長を拒否し、子供のままで居続けると言うことです。ピーターパンが、そうであるように。子供の姿のままで、フック船長という、内部葛藤との戦いを永遠に続ける哀れな存在です。

「こういう館って必ず燃えるのよね」とか「この手の館って必ず最後に燃えるのよね」言うセリフを入れて、茶化している(自虐している?)ゲームが多々ありますけれど、燃える館には、こんな意味があるのです。

まぁ「禁断の血族」とか「エイミーと呼ばないで」に、そんな意図があるとは思えませんけど…レビューじゃ無くなりましたね。ま、たまには文学論つーことで。



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