1,勝ったら


人間では、あり得ない反応速度を見せたグロリアも、累積されたダメージに耐えかねて、動きを止めている。これが量産されたなら、確かに人間のパイロットなんて不要だ。生まれたときから、スーパーエースのパイロットが、好きなだけ生み出せるのだから。

だが、反応速度や操縦技術だけで、戦争は生き残れない。経験もさることながら、生に対する欲望、執着心が、勝敗を分ける。戦争の勝敗、それはただ生き残る事。

過去のないバイオドールに、執着はない。それが強みになる事もあるだろうが、弱みになる事もある。

アイリーンを助け出す。それが、今の俺の執着だ。

グロリアが、かろうじて立ち上がる。過去のないバイオドール。彼らは何を求めて、死力を尽くすのか。それを聞く事は永遠に出来ないだろう。グロリアへロックオン。

「だめっ、ヒューを。兄さんを殺さないでっ」

アイリーンの突き刺すような叫びに、一瞬、意識からグロリアを外してしまった。驚異の反応をみせる、バイオドールには、ほんの何分の一秒の隙で十分だろう。

意識をグロリアに向けたとき、すでにモニターは、グロリアのアップが、大写しになっていた。垂直に差し込まれたビームサーベルが、寸分の狂い無く、前席だけを貫くのだろう。

世界が光に包まれる。それが、天国の光なのか、地獄の業火なのか、収束されたビームの光なのか、俺には確かめようがない。



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