1、疑念がチェックしてあるならば


回り道はしない。
「ソーンが、ドールであると聞きました。我々の隊のは、誰なんですか?」

マーコス班とアレード班が、この作戦に標的として投入された理由。それは、二人が、ドールを預かっていたからに違いない。

「知って、どうする?」
予想だにしなかった、問いかけ。頭の中が白くなる。

「この作戦の真相を…」
バカか、俺は。そんな物を知ったところで、どうなる?。なにが出来る?。だが、エゴを満たす事は出来る。

「おまえが、導き出した結論は、おそらく正解だろう。確証が欲しいなら、俺が与えてやろう。マーコスから貰っているかもしれんがな」

「少佐…教えて下さい、少佐。この作戦には、命をかけるほどの価値があるのですか?。」

葛藤に耐えかねたように、ベティの頭部が四散する。
「くっ、敵機だ。さがれ、ドロシィ。」
「あなたは、生き延びて…」
ラーナの呟きとともに、扉が閉じていく。扉が閉じると同時に、アラームが鳴り響く。

>アセンブルコール確認。
>作戦終了手順に従い、集合地点へ

オートモードに切り替わったドロシィは、ゆっくりとコンピュータールームへ歩き出す。

「よう、遅かったな、ブライアン。今回は、俺の勝ちだな。」
今までに見た事がないほど、陽気に振る舞うソーンが、コンピュータールームで、待ちかまえていた。
「お前は、バイオドールを撃破したみたいだが、今回はコンピュータールーム占拠の方がポイントが高いんだ。悪く思うなよ、ブライアン」

「ブライアン?」
辺りを見回してみても、俺とソーン以外に軍人は見えない。

「なんだよ、そんなに人間のフリするのが、気に入ったのか?。俺なんか、喋るとボロが出ちまうから、ずっと無言だぜ。キツイったらありゃしねぇ。あん、どうした、ブライアン?。まさか、記憶のロックが、きつすぎたのか?」

なんだ?、何を言っている?。コイツは?

「それにしちゃあ、手の早さは、衰えてねぇな。ラーナの次は、そのお嬢さんか。お嬢さん、捨てられないように気をつけな。」

「お前は、なにを言っている?。イカレたバイオドールのたわごとなど…」
「お前だってそうだろうが、開発コード、ブライアン。シリアルナンバーまで言うか?」
「な・・・に・・・・」

「おいおい、マジかよ。クレイマンの技術も大したもんだな。処分は、速すぎたかもなぁ。」
「やっぱり、所長なのね。所長が、ヒューやジーンが反乱するように仕向けたのね」
アイリーンの悲鳴にも似た怒声。裏返った声が、その怒りの深さを際立たさせる。

「そう言う事だ。お嬢さん。所長が、ここのドールが、反乱を起こすように、記憶とちょいと、いじったのさ。ヤツは、神様みたいに運命を操作している気になってやがったよ。まぁ、あながち嘘じゃねぇけどな…オレのソーン・オーガンって名前と経歴も、ずっとそうだったのか、今回の作戦のために焼き入れられたのか、わからねぇからな」

「どういう意味だ、それは」

「分かりやすく言うとな。お前も、数時間前まで培養カプセルに居たかも知れネェってことだよ。まぁ、分からなくてもいい。お前がポンコツになったのなら、俺が優位に立つだけの話しだ。ライバルがいなくなるのは寂しいが、俺だって、お前に負けて処分されたくないからな。」

うそだ…オレは…オレには、家族の記憶が…生まれ故郷。両親、小学校、中学校、高校、士官学校、一般部隊、指揮判断の甘さで、部下を殺してしまった事。すべての記憶がある。なにも、矛盾はない。

「俺は、人間だ…ドールなんかじゃない…」
「悪いな、ブライアン。お前たちの処分が決まったよ。」

>ロックオンアラート
>HILDAへ、当機は、50054DOROSY友軍機です。ロック解除されたし


「奪われた俺と、与えられたお前、どっちが不幸かは分からんが…少なくとも、欲望が、原動力らしいぜ、人間ってやつはよ。俺は、奪われた記憶を取り戻すまで、死ぬわけにはいかねぇ。」
ソーンの沈んだ声を遮るように、澄んだ声がコクピットに響き渡る。

「バイオドールだって、人間よっ」
ドロシィ。いや、アイリーンが、ソーンの攻撃を回避する。
「誰かに、埋め込まれた記憶かも知れない。だけど、この想いは、この気持ちは、私自身の物」
アイリーンの目に迷いは、もうない。そうか、そうだな。

「理由はどうあれ、俺たちは、今、ここにいる。理由はそれだけで十分だ。なぁ、アイリーン」
「ええ。」

これまでの記憶が、作られた物かどうか、俺には分からない。一般部隊の頃、死なせてしまった俺の部下。彼らとの記憶も、誰かが描いたシナリオだったのだろうか?。だが、そんな事はどうでも良い。現実であれ、仮想であれ、彼らを失った事で感じた事は、紛れもない現実。

たとえ、作られた友情であっても、そこで得た喜びは現実。すり込まれた恋だとしても、その身を焦がす恋慕は、確かに俺の胸を締め付けた。それでいいじゃないか。

>HILDAのビーコンをエネミーリストへ移行
コンソールに映るヒルダのマーカーが、友軍を示す緑から、敵を示す赤に変わる。

「そうこなくっちゃな。こんな作戦での評価トライアルなんざ、ウンザリしてたんだ。直接対決としゃれ込もうぜ、ブライアン」

この作戦は仕組まれた物だった。だが、この戦いは、間違いなく俺たちの意志だ。

意志が想いとなり、想いの積み重ねが記憶となり、記憶の積み重ねが人生となるならば、俺たちは、間違いなく、人として生きている。生かされているのでもなく、操られているのでもない。自らの意志で、生きているのだ。

自らの意志で、戦う。自らの命運を、自らで握る。糸の切れたマリオネット同士の戦い。ピノキオになれるのは、1人だけだ。

「来いよ、機械人形。」
「覚悟しな、出来損ない。」



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