4,なにもしない


「やめて、ジーンっ」
アイリーンは既にM6901の銃口をジーンに向けている。重い拳銃にふらつく様子もなく、教本に載せたいようなな綺麗な射撃姿勢。

「お前は、なぜ戻ってきた?。お前に、その覚悟があるのか?。」
ジーンは構わず、ゆっくりと銃を抜き、構える。ジーンもまた、絵に描いたような美しい姿勢で狙いを付ける。銃口は、俺だ。

「覚悟があるなら、答えろ、………」
アイリーンの名を呼ぼうとしたであろうジーンは、そのまま崩れ落ちた。

「私は…私は、アイリーン・ケストナーよ…」
崩れ落ちるアイリーンに、なぜか近寄る事が出来なかった。

「自分の道を決めたのなら、自信を持って生きなさい」
ハニーブロンドの長髪の女性の、涼やかな怒声。アイリーンは疑うことなく、その女性の胸に顔を沈める。所長室で、モニター越しに出会った所員。Gセクションチーフのジェーン・ラディウスその人だ。

「ジェーン・ラディウスGセクションチーフですね。自分は…」
「ええ、そうです。所長室では失礼しました、中尉。」

機先を制せられ、二の句が継げなくなる。まるで、恋人の実家に初めて来たような感覚だ。何とも言えない沈黙が、辺りに重くのしかかる。

「全て…終わりましたね」
ジェーンは、誰に言う出もなく呟く。それは、アイリーンに語っているようでもあり、俺に問いかけているようでもあり、自分自身に言い聞かせているようでもある。

「だが、分からない事だらけだ…話してくれますか?」
「知れば、あなたも同罪ですよ…あなたは、なにも知らない方が良い」

「一つだけ…聞かせてくれ。俺は、どうすればいい?」
「忘れて下さい。今日の全てを…」

そう言ったジェーンを、衝撃波が連れ去って行った。俺は、衝撃波で弾き飛ばされながら、90oマシンガンの射撃を終えたヒルダの存在を確認した。悔恨と地面に叩きつけられ、身動きできない俺に、ヒルダ1、ソーン・オーガンが近寄る。

「…ヒルダ1より、HQへ。作戦完了。予定外の生存者一名。アレード班ドロシィ2。現在確保中。負傷レベルB。当該者、処置については、そちらの判断を待つ」

「ソーンっ、きさまぁぁぁぁぁっ」
「私は、私の任務をこなしただけだ。君たちは、作戦のために訓練を積む。だが、私は、今日この日のために産まれてきたのだ。たった一度の晴れ舞台を、棒に振る事など出来ない。」

そう言うソーンの顔は、すこしも晴れてはいなかった。
「全ては、シナリオ通りだった。君だけが、シナリオに沿わなかった。いや、シナリオに沿わなかったのは、君を助けたアイリーン・ケストナーかも知れない。それとも、このシナリオそのものが……」

遠くを見つめるソーンの脇から、どこからか海兵隊がなだれ込んでくる。
「私は、今日のために作られた。このあとどうなるのだろうな…」

「俺が聞きたいね。このあと、俺がどうなるのかを…」


「これはこれは、ハイマン閣下。」
「そのままで良い。順調か、ムラサメ」

「はい、例のカーマインでの実戦データのおかげで飛躍的に…特に、クレイマンの記憶操作技術は、素晴らしく有用です。惜しむらくは、全てを語っていない事ですな」

「処分は、早計だったか…」
「要の部分を複数隠していたようで…記憶の転送が可能ならば、閣下は永遠の命をも得られましたでしょうに…」

「まぁよい。期日があるからこそ、執念があふれると言うものよ。ゼロの仕上がり、見せて貰おう。」
「プロトゼロ、始めろ」

1年後、ジェネラル・オーガニックのバイオドールが、極秘裏に採用が決定となる。倫理規定、国民の感情的反発、過去データとの断絶のため、名称は「強化人間」に変更された。

END



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