1,持っている


「くさ?」
耳慣れない言葉に思わず聞き返す。

「草ってのは、相手国の国民になった忍者の事さ。もちろん、裏切ったワケじゃない。相手の国で生活し、民衆の不満、動向、農作物の収穫具合なんかを逐一報告するのが任務さ。」
ジーンは、小馬鹿にするでもなく、己の知識を自慢するでもなく、ただ、俺の問いに答えた。その瞬時の返答は、コンピューターで検索をかけたような感覚が俺を襲う。

「すると…」
「ああ、ジェネラルオーガニックに、所長を通じて、かなりの情報や技術が流れているよ。君も、軍人と会談している映像を見ただろう。知ってるかい?、ダラス・マクダネルと、ジェネラルオーガニックは、近々、合併する。ダラスは元々、軍の出資で作られた会社だ。フォーロンバスさえ、何とかすれば独占できるって事さ。」

嘲笑しているような薄い笑みを浮かべて、ジーンが語る。

「…クレイマン所長を殺したのは、お前たちか?」
「できれば、そうしたかったけどね。クレイマンを処分したのは、ジェネラルオーガニックのドールだ。たしか…ソーン・オーガンだったかな…理由は簡単さ、不要になったんだろう。クレイマンの様な首振り人形は、放置するには危険だからね。保身のためなら、マスコミに売り込みさえするだろう」

「では、この作戦そのものが…茶番だったというのか…」
「この作戦…たしか、カーマインだったな。単体で見たならば、茶番そのものだろう。だが、ここに至るまで、軍の上層部は相当頭をひねったはずだ。フォーロンバス重工の技術を完成させた上で、合法的に奪い、そして実戦テストも兼ねている。遠大な計画さ。」

手を差し出すジーンの真意を測りかねていると、やれやれと言った表情で、ジーンは、ケストナー博士の日記を指さす。なぜか近寄る事にためらいを感じた俺は、日記を床に滑らせて、ジーンに渡した。

「この宇宙世紀に、紙に記録するというのは、ある意味最強のプロテクトだよ。さすがはケストナー博士だ。そうは思わないかい?」
ジーンは、なにが楽しいのか、ケタケタ笑いながら言葉を紡ぐ。

「いやいや失礼。あらゆるシステムを検索し、何十というウォールを抜けても、見つからなかったモノが、こんな形で記録されていたかと思うとね…さぁ、講義を始めようか。時間はあまり無いだろうがね」
ジーンは、日記を受け取ると、そのまま小脇に抱えた。

1,ジーンの話しを聞く



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