1,目を覚ます


目覚めると病院のベッドだった。病院と分かったのは、看護婦がいたからだ。

ゆっくりと、あの時の事を思い返す。ジーンが、セリフを終えたとき、ヒルダが飛び込んできた。ドロシィは登録しておいたとおり、ヒルダの行動を予測し、攻撃した。

誤算だったのは、現有火器では、一撃で行動不能に追い込めなかった事だ。ドロシィの連射でも、ヒルダは、シールド、頭部と撃ち砕かれながらも、その目的を達した。ジーンとドロシィの消去を。

最初に、引っ張られたのは、おそらくアイリーンが俺を引っ張ったのだ。次ぎに、俺を押し飛ばしたのは、ヒルダが放った9pの砲弾が生んだ衝撃波だ。アイリーンが、いなければ、俺もジーンと同じく、肉片から霧散し、粒子となって世界と一つになっていただろう。

看護婦や医者に問いただしても、アイリーンのことは全く分からなかった。この病院には、運び込まれていないと言う。

諜報部や、査察部が動いたが、俺は負傷のショックで記憶が混乱していると装い続けた。肯定も否定も、立場を悪くするだけなのは、何となく感じ取れた。実際に、混乱し、記憶が飛んでいるところも少なくなかったわけだが。

結局のところ、軍に、そして特務大隊に残ることを選んだ。いや、選ばされた。特務部隊にいる限り、口外する事も、外部と接触する事も難しい。管理できると踏んだのだろう。

ただし、俺の所属は、アレード班ではなく、新設された遊撃部隊への配属となった。ペガサス級強襲揚陸艦四番艦バイコーン。バイ、つまり2本角は、一本角のユニコーンの対極。汚れ仕事をやる俺たちには、相応しい艦名だ。黒と真紅を基調としたカラーリングもまた、影の部隊である事を痛感させる。

「中尉、あんたの機体が届いたぜ。新型のGSだ、羨ましいな、まったく。」
RGM79GS、ジムコマンドとも呼ばれる機体。コマンドの名前の通り、後期生産型と言うよりは、高性能機と言った方がいい機体。コクピットに座ると、なぜかとても懐かしい感じがした。ほのかな温もりと安堵感さえ感じる。

「それからな、コイツのコールサイン。ひいては、あんたのコールサインなんだが、アイリスって言うらしい。これが書類だ」
「いや、イリス*1だよ」
「ん、そうか。コールサインだから、間違えないように、徹底しとかないとな…なんだよ、なに泣いてんだ中尉。そんなに新型が嬉しいのか?」

整備主任に指摘されて、初めて泣いている事に気がつく。整備主任は相当、気持ち悪かったようで、そそくさと離れていった。

「ただいま…いや、おかえり、というべきかな…」
計器の一つが、微笑むように、柔らかく点灯した。

END



*1スペルはともに「Iris」。アイリスでは、主に花の名前。イリスでは、ギリシアの虹の女神の名前。


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