1,ジーンの講義を受ける


「高度な思考と学習能力は認められたが、このサイズだし、なにより、人工知能に基礎を教え込もうにも、MS戦に関するデータそのものが連邦軍にはなかった。まぁ、対MS戦のデータなどジオンにもなかったろうね。だからこそ、RX78に簡易AIとも言うべき、教育型コンピューターが搭載されたわけだ。」

不意にジーンが顔をあげ、俺を見る。
「教育型コンピューターの成果はめざましかった。MSを見た事もない15歳の少年が、ジオンの正規パイロットを撃墜できるほどの補助ぶりを見せたのだから。戦況を維持するためにも、MSの早期展開が命題だった連邦軍は、ひとまず、パイロット補助コンピューター開発を第一義に据えたわけだ。」

不意に、腕に痛みが走る。アイリーンが、呆然とした顔で、俺の腕を握りつぶさんとばかりに締め上げている。抱き寄せるとアイリーンは震えていた。しかし、視線はジーンを捕らえたままだ。

ジーンは、俺たちを見て、失笑とも、羨望ともとれる笑みをこぼすと、再び、日記に目を落とす。
「パイロット補助コンピューターは、上手く行ったようだ。連邦軍は、戦線の維持どころか、巻き返しが出来ているからね。そして、一部の部隊には、生体脳を使用したバイオコンピューターが搭載された機体を配備し、AIの教育と学習、そしてデータ収集に利用された。」

不意に、DOROSYが静かに目を閉じるように、カメラアイを発光させた様な気がした。

「生体脳を使用することで、手間とコストは削減できたが、大きな欠陥があった。生体脳にデータを入れる事が出来ないと言う事だ。データを送り込んだとしても、人間が本を読むのと同じ事だ。理解できずに流れてしまう事も、知識として知っていても、それを利用できない。」

「本当に修得するためには、人間と同じく、経験し学習するしかない。と言う事か」
俺の問いに、ジーンは視線だけをよこすと、言葉を続けた。

「そう、その通り。AZALEAの完成で、人間は二つの成果を得た。一つは、何年もかけて育成したクローンの脳を、MSというサイボーグボディに移植する事。それが現代科学での無人MSの姿だった。もう一つは、脳科学の爆発的な躍進だ。なにしろ、生きた人間が使い放題だったからね…」

ジーンは、間をおくと、天井を見つめた。天井にもなにかモニターかランプがあるようで、プラネタリウムの様に光が瞬いている。

「この研究は、これで終わるはずだった。基礎科学が発展し、さらに高性能のコンピューターが誕生するまで、休眠するハズだった…だが、一人の男が状況を変えた。世界を変えるモノは、いつも空からやってくる。ミノフスキーも、コロニーも…」

1,ジーンの話しを聞く



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