1,ジーンの遺体に覆いを掛ける。


ジーンの顔は安らかだ。妬ましいほどに、安らいだ顔。こうなる事を望んでいたかのようだ。そんなジーンに上着を掛けて覆い隠す。

「ありがとう…やはり、自分の死に顔は見たくないものね…」
「では、やはり…」

「ええ…ジーンは、私の遺伝子を元にしているわ。ヒューは…」
「彼から聞いたよ…」

「そう、自分同士で殺し合わなかったのは、せめてもの救い…かしら。」
答えも、言葉も見つからず、ただ立ちつくすしかなかった。ジェーンは、未だに泣きやまぬアイリーン…いや、イリスを抱きしめたまま、視線すら俺に向けようとしない。

「博士は、この子…理想の娘を手に入れてから、変わったわ。指折り数えていたジェネラルオーガニックとのトライアルに、反対し始めたのよ。あまりの変わり身に、失笑を買ったほど。私も呆れたわ」

ジェーン・ラディウスの視線が、冷たく鋭いものに変わる。
「今となっては、全ては謎だわ。この子が生まれたわけも、博士が何をしようとしていたのかも。」

濡れた砂が詰め込まれたように、この部屋の空気は重くなっていた。ジェーンが虚ろな視線のまま、呟く。
「すべて、終わりましたね」

その呟きには、諦めと、悔恨が織り込まれている。ジェーンは全てを語っていない。いや、俺が、全てを語るには相応しくないと判断したのだろうか?。その事を問いただすべく、一歩踏み出したところで、誰かに首根っこを捕まれ、まるで、つまみ食いが見つかったネコのように引きずられる。

強烈な衝撃波がジェーンを霧散させていく。向こうでは、ドロシィから放たれた光弾が、ヒルダのコクピットを貫いている。衝撃波の正体は、ヒルダ、つまりソーン・オーガンの放った90o砲弾だと、納得する。

その納得を持って、俺の意識は、闇のそこへ落ちていった。

1,目を覚ます



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