1,目を覚ます
南米特有の強い日差しと、冬らしからぬ熱気がゆっくりと、闇を払っていく。最初に飛び込んできたのは、アイリーンの涙ぐんだ顔、そして高い火柱と爆発。基地が爆発しているのだと直感した。
「AZALEAが自爆したんだと思うわ…」
アイリーンが、遠い目をして言う。アイリーンにしてみれば、我が家に等しい施設だったはずだ。その感慨は推し量れる。軋む間接にむち打って、ようやく上体を起こすと、小柄なアイリーンが、ここまでよく俺を運べたものだと実感する。
「必死だったから…女は、いざとなったら強いのよ」
そう言って、はにかむアイリーン。そのぎこちない笑顔の裏には、私のことを怖がらないで。と言う嘆願が見える。アイリーンが嘆願するほど、俺の中に、疑惑が芽吹いているのが分かる。
俺でさえ、歯が立たなかったヒューを、アイリーンは半壊したドロシィで撃破し、銃とは無縁の生活のハズの彼女が、熟練兵士のような、射撃姿勢を見せた。
ヒューは、手加減したのかも知れない。射撃が趣味だったのかもしれない。
俺はどうすればいいのだろう。
衝撃波で、満足に動けない俺を、アイリーンは、献身的に介護する。アイリーンは、アイリーンで、献身的に勤めることで、俺の信頼を勝ち得たいのだろう。だが、俺にしてみれば、イリスの弱みにつけ込んでいる気がして、献身的にされれば、されるほど、追いつめられていく気がしている。
奇妙な関係が、長い間続いた。拒絶の意志を示すことも、受け入れる意志を示すことも、今の関係を壊してしまいそうで、何も言えなかった。
これからも、ずっとのこの何とも言えない関係のままで居るのだろうか?。
アイリーンは、俺からの言葉を待っている。別離でも、求愛でも、彼女は受け入れるだろう。俺もまた、アイリーンの言葉を待っている。俺も、どちらであれ、受け入れるだろう。
今の俺たちは、氷の張った湖のど真ん中で立ち往生しているようなものだ。上手く渡れるかも知れないし、氷が割れて、死ぬかも知れない。だが、俺たちには、どちらかに転ぶ、勇気すらない。ただ、ひたすら、待っている。
何を待っているのだろう。春が来て、氷を溶かす日か。それとも、吹雪の中で、まどろみつつ迎える死か。
なにが不味かったのだろう。なにが行けなかったのだろう。どこで間違えたのだろう。
「いってくるよ」
「いってらっしゃい」
昨日と同じ、挨拶。昨日と同じ今日。今日と同じ明日。時さえ止まった空間で、俺たちは、いったい何を待っているのだろうか?。
【END】
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