1,外へ出る


冬とは思えないほどの、まばゆい日差しが、ここが南半球である証拠。

俺など存在しないかのように、歩兵の群れが、わらわらと地下カーディナルへ流れ込んでいく。俺は走り出したい欲求を抑えて、ゆっくりと歩いた。ジェーンの決意を見れば、彼女が何をするかは、想像がつく。そのことを、歩兵にも、気高き我らが准将にも告げる気にはなれなかった。

俺の乗り込んだミデアが、ゆっくりと浮上し始めたとき、火山の噴火を思わせるような火柱が上がり、機体を制御するパイロットの悲鳴をしばらく聞き続けるハメになった。

予行演習までして身構えていたのだが、俺への審問会はついぞ開かれなかった。何となく、だが、あの作戦は、ジャミトフの一存で行われた作戦で、審問会を開くと、事が公になるから。と思い至るようになった。

証拠となるモノも無く、地下カーディナルも、跡形もない。俺は、実害無しと判断されたわけだ。実際、俺が事を起こしたところで、戦闘中の事故死が故意に引き起こされるだけだ。

「くわぁぁぁ、たまらんな、この日差しは」
湿度がない分、不快感は少ないが、砂の焼ける音が耳障りだ。アフリカ大陸の砂漠に逃げ込んだジオン地上部隊の掃討が今の任務だ。宇宙では、ソロモンへの攻撃が始まっている頃だろうか?。

「で、どうだい、調子は?」
「よくないです…交換パーツが来るまでダメですね」

砂地というモノは、腰部を始め、下半身の関節に取り分け負担をかけるようだ。動けないこともないが、無理に追い立てる必要もあるまい。時間の経過は、こちらに有利に働くはずだ。向こうは、補給のあてなど無いのだから。

「中尉、良いニュースと悪いニュースがあります。」
「どっちからでも良いよ」
「はい。良いニュースですが、砂漠用にホバー走行可能な新型機先行量産機が、配備されるそうです」
「ほう、ドムをようやく真似ることが出来たってワケか」
「ええ。悪い方ですが…そいつを積んだミデアが撃墜されたようです」
「新型はどうでも良いが…まさか…」
「はい、補給物資もいっしょに…」

デッキチェアに腰を下ろす。
「補給物資が来ないんじゃ、どうしようもねぇ。砂の海でバカンスとしゃれ込むか」

あっという間に、ぬるくなったビールの缶を握りつぶす。戦いたい。戦場での極限の時間だけが、俺の脳裏から、あの悪夢を払いのけることが出来る唯一の瞬間なのだ。抜けるように澄んだ青空、突き刺すような陽光、どんな中にも、アイリーンの悲しげな顔が浮かび上がる。

そしていつもそれは、大行進へとつながる。ローガー、カミカゼ、タコ、ラーナ、キース、アレード少佐。どうして、みんな俺を責める。俺が何をした。何もしなかったからか?。

それとも、俺だけがのうのうと生きているからか?。そちら側に行けば、許してくれるのか?。

そんな目で見ないでくれ。そうだ、みんなの言うとおりだ。そんなことする度胸もないよ。だから、俺は前線にいる。一発の銃弾が、俺を解放し、そちら側に連れていってくれる日を待ちながら。

END



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