1,ジーンの遺体に覆いを掛ける。



ジーンの顔は安らかだ。妬ましいほどに、安らいだ顔。こうなる事を望んでいたかのようだ。そんなジーンに上着を掛けて覆い隠す。

「ありがとう…やはり、自分の死に顔は見たくないものね…」
「では、やはり…」

「ええ…ジーンは、私の遺伝子を元にしているわ。ヒューは…」
「彼から聞いたよ…」

「そう、自分同士で殺し合わなかったのは、せめてもの救い…かしら。」
答えも、言葉も見つからず、ただ立ちつくすしかなかった。ジェーンは、未だに泣きやまぬアイリーン…いや、イリスを抱きしめたまま、視線すら俺に向けようとしない。

「博士は、この子…理想の娘を手に入れてから、変わったわ。指折り数えていたジェネラルオーガニックとのトライアルに、反対し始めたのよ。あまりの変わり身に、失笑を買ったほど。私も呆れたわ」

ジェーン・ラディウスの視線が、冷たく鋭いものに変わる。

「今回の本当の首謀者は、ケストナー博士よ。所長が精神操作するのを知って、いえ、むしろ焚きつけたのかも知れない。だって、エフェクトNo205なんて、普通使わないわ。…どこからか、博士の作戦で、どこまで上手く行っていたのか分からないけど…AZALEAに、作戦を立てさせたのね。アイリーン…いえ、イリスが生き残るための作戦を…あちこちに、ヒントを隠して回ったのもケストナー博士よ。」

実験室のカード、所長室や私室でのデータ。全てはケストナー博士の演出だったのか…軍部の思惑、ジェネラルオーガニック社の思惑、ケストナー博士の思惑、バイオドールの思惑…

「思惑が入り乱れすぎてて、ワケが分からなくなってきたな…」
「私だって、混乱してるわ…他人の娘も、実験材料にしたような人が、自分の娘とると目の色を変えて…それだけでも困惑してるのに、政治まで入ってきて…」

「他人の娘とは、どういう意味だ?」
「クルスト博士の娘よ。彼女は元々、身体が弱くてね…完全に衛生管理されたコロニーと比べれば、地球なんて、細菌と病原体のプールみたいなものよ…すぐに病になり、治療法が無くなったとき、彼女の意識を保管する事になった」

「その状況を装置のテストに利用したというわけか」
「そう、意識の吸い出しだけでなく、書き込みにもね…完成した装置をすぐに試したかったのね…バイオコンピューター用の素体に移して、クルスト博士には失敗だったと報告した。すでに、EXAM搭載MSの開発のために、ここを離れていたクルスト博士には、どうしようもなかった。ってわけ。」

「その、クルストの娘は、どうなったんだ?」
「分からないけど…たぶん、バイオコンピューターになったと思うわ…パーツ用の素体に焼き込まれたのだから」

頭の皮が引っ張られるような痛み。イリスも、顔をあげ、視線を向ける。方向は同じだ。

1,イリスの視線の先を追う。



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