2,どうして良いか分からない。
イリスの事は嫌いじゃない。だが、彼女の気持ちに答えられるかは別問題だ。軍から彼女を守りきれるのか?。これからどうするのか。様々な事が、頭をよぎる。
「ありがとう…ごめんなさい…」
俺の困惑と、不安を見抜いたのか、イリスは、再びジェーンの元に戻る。親友の告白を見守っていた二人の女性は、突き刺すような視線で俺を見る。
待ってくれ。と言う言葉も出せないほど、俺は視線で萎縮している。ジェーンは、アゴで出口を示す。俺は、トボトボと歩くしかなかった。ドロシィに乗り込むイリスは、もう俺を見る事はなかった。
地上へ出た俺は、待ちかまえていた海兵隊員に取り押さえられる。
「なんだよ、任務は果たしたろうがっ」
海兵隊員は、取り合おうともしない。振り払おうとした俺の手が、海兵隊独特の特殊ゴーグルと一体化したマスクを弾き飛ばした。
「ソーン?、バカな。クローン体の作成は、フォーロンバスの…」
「やはり、そこまで知られたか。」
は虫類を思わせる冷徹な視線を持った男。ジャミトフ・ハイマン。133特務大隊のボス。何事かを腰巾着と相談すると、B級SF映画に出てくるような、特殊ゴーグルをかけたスキンヘッドの中佐が、その体躯にあった野太い声で、海兵隊に突入を命じる。
「この声は…」
ケストナー博士の残したデータディスクにあった、所長の通話相手。そうか、この事件の黒幕は、ジャミトフ・ハイマンか。
「良いように使ってくれたものだな。准将閣下」
「操縦技術だけでなく、なかなか頭も回るようだな。気に入ったぞ」
ジャミトフが、アゴで指示をすると同時に、俺を取り押さえていた、ソーンの分身が、なにかの薬品を俺に向かって吹き付ける。薬品によって、意識が落ちる寸前に、爆発と地響きを感じた。
ジャミトフと、バスクの驚いた顔。さいごに良いもの見せて貰ったよ、ドロシィ、ジェーン。君の気持ちを受け止められるほど、大きな器が無くてゴメンな、イリス。そして、最後の幕引きまでやらせて済まなかった…
「カーマイン1より、HQへ。ミラー展開率83%。そっちの状況はどうだ?」
「こちら、クァンゼCIC。いい加減に陸軍見たいな言い回しは止めろ。」
「悪かった、クァンゼ。ソロモンの動きは?」
「まったく、どこで憶えたんだか…今のところ、こちらに気づいた様子はない。囮の連中、特に第十三独立艦隊が、桁外れの戦績らしいぞ。」
「あの新人類部隊か。なら、俺たちは、ここで日焼けでもしてるか。」
「おいおい、400万枚のミラーで焼いたら、骨まで焦げちまうぞ」
「貴様ら、私語は慎めッ」
回線に割り込んできた、スキンヘッドに、特殊ゴーグルをつけた中佐の野太い声。
「了解であります。オム中佐」
「大尉、ミラー展開率87%に到達。」
「カーマイン1、了解。クァンゼ、聞いたとおりだ。」
「よし、ティアンムからのゴゥサインも出た。コントロール艦ダラスへ打電。ソーラーシステムの焦点をソロモンへ合わせろ。ドズルの目を醒ましてやれ。」
バスクの号令で、400万枚のミラーが、一斉に角度を微調整し、太陽光の熱で、ソロモンをローストする。
「コンペイトウを虫眼鏡で溶かしてるみたいだな」
「私語は止めろと言っている。オーガン大尉」
「へいへい」
「まったく…あのカーマイン作戦の生き残りを強化したとは言え。とんだお荷物を押しつけられたものだ」
バスクは独り言ちた。確かに、パイロット能力は高いが、人格に障害があるようだ。だが、上手く使いこなせば、ジャミトフ閣下も、さらに認めて下さる。
「俺は、ティアンムすら、け落とす。ジャマイカンなどに、負けていられるかよ…」
【END】
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