1、コクピットに乗り込む


アイリーンを後部シートに案内する。前の主だったローガーは、自分のシートに整備兵が座るのさえ嫌がるヤツだったが、アイツのことだ、美人が座るのならば許してくれるだろう。
「そこいらにあるもので、使えるモノは使って良いし、気に入らないモノは捨てて良いよ」
俺にはローガーの遺品は整理できそうにないから、丁度良い。そう思いながら、後ろを振り返らずに、言い放つ。女性に見られて困る写真は無かったはずだ、ラジオDJのジャクリーンのブロマイドはあったと思うが。顔の見えないラジオDJのブロマイドってのも変な話だ。

コクピットハッチが閉まると同時に、後ろから白い腕が伸びて来る。俺の首にかけられたのは、安物のチェーンに通された指輪のペンダント。
「これは、代々のお守りで、形見なんじゃ・・・」
「お守りが必要なのは、あなたの方。あなたに幸運を貸してあげる。ここから無事に出れたら、きっと返しに来て」
有無を言わさぬ迫力に押されて、提案を受け入れる。
「分かった、きっと返すよ。君がドコにいても、必ず返しに行く」

「あなたも・・・大変だったのね・・・」
アイリーンの腕が、俺の顔に巻き付いてくる。彼女も、分かったのだろう。本来そのシートに座るべき人間は、もうこの世にいないことを。同情ではなく、いたわりの気持ちが、心地よい温もりとなって、じんわりと伝わってくる。大切な人を亡くした穴に、互いの温もりが満ちていく。

さっきまで、俺が支えていたのに、今は俺が支えられている。泣けるなら泣きたかった。ローガーの為に泣きたかったが、それは何とか堪えることが出来た。

「人は分かり合えるのかも知れないな・・・」
「そうね」
アイリーンの相づちは、悲しさに満ちている。その理由は俺にも解る。ただ、分かり合うのに、強烈な悲しみを必要とするとは、人間はなんと愚かなのだろう。

「もう少しこのままでいさせて・・・」
背中越しに、小さく震えているのが分かる。アイリーンの手を優しく握る。小さく細いその手は、とても温かく頼もしい。この温もりの代償として釣り合うかどうかは分からないけれど、悪くないな。

持ち物に、アイリーンの指輪と記入すること。

1,行動を再開する



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