1、やはり、アイリーンを降ろす。


「ケストナー博士は・・・」
生きてはいまい。と言う言葉をようやく飲み込む。
「・・・きっと助けるよ。信じて・・・待っていて欲しい・・・」

ドロシィに命じて、後部シートを排出する。涙混じりのアイリーンの罵声を聞きながら、コクピットブロックを掴み、エレベーターの中へ放り込む。

>エレベーターロック完了。
>作戦終了まで、エレベーターの使用は禁止されている。
>現時点のでのエレベーターの使用は、敵前逃亡と見なされる。
>退避せよ


「エレベーターにいるのは、民間人だ。そうHQに伝え続けろ・・・」
ドロシィにそう命じて、エレベーターの現在地を知らせるランプが、ゆっくりと上に上がっていくのをただ、眺める。コレで良い。少なくとも、所員の救出という理由付けが出来た。

目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。一息だった気もするし、しばらく気を失っていたような気もする。時間の感覚が揺らぐほど、深い闇の中から、アラーム音が俺を引きずり出す。

>アセンブルコール
>作戦終了シグナル受信。
>シグナル発信元、70032HILDA


今すぐ、Cエレベーターに乗り込みたい気持ちを抑え、手順に従い、作戦を終了させる。俺を見るハイマン准将の苦々しい顔は今も目に焼き付いている。

報告もそっちのけで、Cエレベーターへ直行するが、ドロシィの後部ユニットだけが、忘れられたように放置されている。付近の守備兵に聞いて回るが、エレベーターから出てきた人物は居ないと言う。その後もアイリーンの消息を何とか掴もうとしたが、まったく手がかりは得られなかった。

この作戦の生存者は2名だけ、マーコス班のソーンと、アレード班の俺の二人。定員を大きく割った2班は、ともに解体され、新規編成を待つことになった。俺は、軍に嫌気がさし、軍を抜けた。俺は運が良かったと思う。星一号作戦が佳境であわただしく、その隙をついて除隊することが出来たのだから。軍に残っていれば、良くて最前線送り、悪ければ諜報部に爆弾でもプレゼントされていただろう。

今、俺は、カラバにいる。第二十三特務大隊と言う肩書きは、スペースノイドの多いカラバやエゥーゴでは、未だに敵視される。だがそれは、尊敬の裏返しでもある。ジオン兵にとってどれほど恐れられていたかという証だ。

唯一物思いにふけることが出来る巡航速度での移動に、水を差す機影。編隊から遅れ気味な機体がある。

「レイピア1より、レイピア3へ。レイピア11が遅れ気味だ、ケツを蹴り上げてくれ」
「レイピア3了解」
レイピア3の軍歴は、俺よりも長い。新人であるレイピア11のフォローを上手くやってくれるだろう。

「レイピア1より各機へ。そろそろ敵防空圏に入る。手順は分かっているな。」
無言だが、各員の自信が感じられる。心地よい静寂。
「レイピア3、二次攻撃の指揮を頼む。一次攻撃の自殺志願者は、突入だ、歓迎の花火に気をつけろ。」
「「了解」」
「行くぞっ、続けっ」

垂直降下に近い角度で地上へ向かう。降下と言うよりも、墜落という方が似合っているような気もする。垂直に近い角度では、対空ミサイルは反応出来ず、俺たちなど存在しないかのように通り過ぎていく。時折、せっかちなミサイルが、破裂する。近接信管か。だが、当たったとしても、破片で落ちるほどヤワな機体ではない。ただ、急ごしらえの爆装ラッチが、壊れないかだけが不安だ。

「うわっ、破片をモロに喰らっちまったッ。」
「レイピア1より、レイピア17へ。ダメージはどれぐらいだ?」
「・・・チェック。損害レベル測定値以下です。行けます」
「無理はするなよ」

頃合いを見て、ラッチから無誘導爆弾を切り離す。爆弾の雨、対空兵器の6割は沈黙するはずだ。通常の航空機なら、ここで機体を引き上げ、上空へ戻るのだが、我々は違う。操縦桿を引く変わりに、変形レバーを押し下げる。

「各機モード2へ移行、対空兵器を完全に黙らせろ」

ウェイブライダーから、モビルスーツへ。MSZ−006Aゼータプラスによる空挺任務が今日の仕事だ。まさか、陸軍の俺が、空を飛ぶ羽目になるとはな。宇宙(そら)へ上がった、伝説の英雄アムロ・レイのあとを継いだワケだが、アムロ・レイならば、もっと上手くやっているのだろう。部下の陰口と、上官の嫌みが脳裏を過ぎる。しったことかッ。

「こちらレイピア17。変形できないっ、助けてくれっ」
「レイピア17。落ち着いてスティックを引け。アポジモーターも全て使え」
反転時の制動制止を狙っているであろう、対空自走砲に、ビームガンを叩き込む。レイピア17は、爆風を避け、地面スレスレで、引き起こしに成功し、上昇していく。

「レイピア1より、ヴァイパー1へ。レイピア17の変形機構がイカレた、そっちの隊に混ぜてやってくれ。」
ヴァイパー隊は、高々度迎撃用MAギャプランUで編成されているがWRなら、足手まといにはならないだろう。
「ヴァイパー1より、レイピア1。無理だ。と言いたいが、WRならついてこれるだろう。了解した。」
「よろしく頼む。転校生のコールサインはレイピア17だ。いじめるなよ」
「ヴァイパー1。了解。子守は苦手だ。早めに向かえにくれよ。」

TMSの売りである変形機構は、同時に弱点でもある。変形パターンとしては、単純な部類に入るが、それでも複雑な動きをすることには間違いない。稼動ブロックに破片が挟まったり、装甲が湾曲すれば、変形不可能になるのは珍しくない。

確かにMSは高機動兵器だが、全ての弾を回避できるわけではない。一発も喰らわずに、戦争が出来るなら、装甲材なんて、研究されるわけがない。着地のために、逆噴射している俺の横を、一機のウェーブライダーが追い抜いていく。おいおい、またかよ。

「レイピア14!、変形しろッ」
ミサイルでも喰らったのか、急降下のGで気を失ったのか、変形することなく、対空ミサイルランチャーへ突撃する。機体は原型をかろうじて止めているが、パイロットが無事かどうかは分からない。くそっ、余計な手間を。

「どうせなら、もっと大物に当てやがれってんだ。レイピア9、レイピア14の生存確認をしろ。抜け作が生きていたら、そのまま戦線を離脱しろ。機体の修理費をキッチリ請求してやれ。」
「レイピア9了解」
「レイピア1より、各機へ。散開。二次攻撃まで時間がないぞ、対空兵器を一掃するんだ」

待っていろ、ジャミトフ・ハイマン。必ず、追いつめてやる。必ずだ。



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