ストーリーテリングシステムでは、ダメージ表現ですら、細かい描写が推奨されます。そのため、随所になるべくワールドオブダークネスに相応しい描写を付けていきたいと思います。それを叩き台にして、よりよいモノを作って下さい。
さすがに各キャラクターの導入部までは無理ですけども。
申し訳ありませんが、オチがない投げっぱなしなシナリオでもあります。
ジェイコブの梯子
まずは、警吏(要するに、カマリリャの治安維持要員)としての地位にあることを、PCに説明して下さい。賤民の警察のように、なにかしらの権限がある訳ではありませんが、相手が抵抗してきた場合に、同族喰らいや、永遠の滅びを与えたとしても、「公子」は、それを罪に問うことはないでしょう。他の長老や宮廷雀がどう思うかは別と言うことです。
また、反カマリリャの氏族(ラソンブラやツィミーシィ)、独立氏族、ケイティフなどは、カマリリャから信頼を得るには、良い機会です。
フェイズ1:プロローグ
シーン1
思い思いの日々を送っているPCを、警吏(PCが警吏をやっているなら、公子)から、エリュシオンに呼び出されます。
「君たちが、この版図に迎え入れられて、どのくらいになるかな。そろそろ、一仕事して貰いたいと思ってね」
PCにノスフェラトゥが居る場合
「地下のドブネズミ…おっと失礼…地下の支配者たちも、騒がしい夜は好まないようでね。それとも、カマリリャに存在感を示したいのかは分からないが、黒手団のダンスパーティーが近々開催される。と伝えてきた。もちろん、我々もそのことは知っている。仮面夜会の掟も守れぬサバトだ。パーティーの噂など、すぐにも耳にはいる。地下の友人たちがもたらした情報とは、そのパーティーグッズの納入情報だ。詳しいことは、そこの友人に聞くと言い。そして君たちの役目は分かっているね」
ノスフェラトゥのPCには、確かに、明日の夜半、港の倉庫に、大量の(鉛弾を発射する)楽器や、爆発物が持ち込まれる。と言う情報を掴んでいます。つまり、発送元地で掴んだノスフェラトゥの情報が、到着地であるここのノスフェラトゥに伝えられた。と言う訳です。
また、ノスフェラトゥの父や、仲間から、荷物の売り手が、ラヴノスのアムロージという血族であると言うことを教えられます。商人として、有能すぎて、財布を握りしめて、耳を塞いでないと、身ぐるみ売り渡すハメになる。と評判です。
ノスフェラトゥが居ない場合
「地下のドブネズミども。あの臭い以外でも、存在感が出せるようだ。奴らの情報によれば、明日の夜半に、港湾倉庫に大量の楽器が持ち込まれるらしい。確認をとったが、どうにも間違いないようだ。楽器?、鉛弾を打ち出す、騒がしくて無粋な楽器だよ。ドブネズミの弁では、黒手団と言うことだが、その確証はない。可能性は高いがね。さぁ、お前たちの仕事はもう分かったろう。」
シーン2:
警吏もしくは公子から解放されたのは、午後10時。明日の夜半までは、PCに取って自由行動となります。
情報の裏を取る、ブラッドプールを補給する、下見に行く、などが、主立った行動でしょうか。荷物が街に入る前に、襲撃すると言うPCも居るかも知れませんが、分かっているのは、おおよその到着時間と場所だけです。輸送に使われている車のナンバーはおろか、そもそも何で運んでいるかも分かりません。待ちかまえるのが一番と言うことになります。
情報の確認
入手経路により、まちまちです。
賤民の有力者(警察、行政)から、情報屋(血族か賤民か、記者から浮浪者まで)、たんなる噂まで、その経路で質と目的が異なるでしょう。
コネ、協力者、導師といった判定となりますが、なにぶん、急な呼び出し(相手だって予定はある)となるので、判定値は少々高めで、難易度8。裏社会やハッキングなどの噂集めに近いモノは、随時ストーリーテラーが判断して下さい。
コネ系の判定は、成功度の数に合わせて、質問を限定すると良いでしょう。成功度1なら質問は一つ。成功度2なら二つ。と言った具合。直接会うと、質問数が減るのは、直接会った場合には、色々と得られるモノが多いからです。技能や訓えによって、その情報の真偽も確かめられるでしょう。
演出の指針としては、
成功度1なら、電話で2、3分程度(相手も忙しくて切りたいと言う感情を隠さない)
成功度2なら、電話で数分(相手は速く切りたいが、恩義があるのでむげにできない)
成功度3なら、電話で10分、直接会えるが立ち話程度。電話なら質問3つ、会うなら2つ(車に女を待たせてある感じ)。
成功度4なら、電話で30分、会うならば、ホテルのバーまでは付き合ってくれる。
成功度5以上なら、電話は好きなだけ、会うなら、その気があれば朝まで一緒にいれる。
情報の内容は、多岐に渡るので、こちらで想定したものを提示します。
全体の概要としては、犯罪組織や末端のバイニンに、全く動きはなく、平穏すぎて気味が悪いと感じる人もいる。と言う具合でしょうか。港湾施設では、コンテナや木箱の搬入、搬出は日常なので、特に変わったことなど感じていません。
血族の情報源からは、やや、サバトの鼻息が荒くなってきている。と言うことが聞けますし、浮浪者など現場レベルだと、講和か倉庫の周りには、見たことの無いグループが、ちょろちょろしている。という事が聞けます。
血族の情報源から、成功度3以上の成功を納めた場合、サバトらしき連中が、郊外の廃教会に住む、ツィミーシィと頻繁に接触しているらしいとの情報が得られます。
このツィミーシィは、アレックスでNPCの項目参照のこと。現時点での接触は、失敗に終わるか、面会したとしても、上手く立ち回らないと、彼/彼女の機嫌を損なうことになります(サバトの連中が、細々やってくるので、苛立っている)。
面会に行った場合は、アレックスの従僕、アニス・ヴェーレという尼僧が応対し、彼女は表情のない顔で、「司祭さまは、巡礼の旅に出ておられます。また後日おいで下さい」を繰り返します。上手い口実を思いつかないと、この段階で蹴られるでしょう。
カマリリャからの情報では、ツィミーシィと言っても、中立を保っているようで、とくにマスカレードの掟を破る風でもないので、放置している。とのこと。
偽情報によるミスディレクション
ミスディレクション(誤りへの誘導)は、テーブルトークにおいては、いわば、時間伸ばしの手段ですので、時間に余裕がある、次回の伏線を張りたい。と言うときに使用して下さい。偽情報をもとに、シナリオ組めば、偽情報から、伏線へと進化する訳ですから。伏線は張っておいて損はない。と言うのは、そう言うことです。
偽情報:流浪の一味がこの街に来ようとしている。やつらは、サバトやカマリリャ、血族、賤民構わず、ただ街を破壊して去るだけの、破壊者だ。サバトもその対抗手段を講じているらしい。
偽情報:サバトの名を借りて、叛徒がなにか企んでるらしい。叛徒のリーダーは、長老の子だ。
シーン3
ブラッドプールの回復、下見もしくは張り込み。
ブラッドプールに関しては、賤民を襲うか、輸血パックを飲み干すかは、プレイヤーのスタイル次第です。
偵察
倉庫の周りは、特に不穏な動きはないように見えます。内部を伺うならば、潜入するのか、覗ける場所を捜すのかで変わります。
生身で潜入する場合、敏捷+保安で、難易度9(サバトも愚かではない)で、3成功が必要です。失敗した場合は、当然、発見されます。知覚+保安で、難易度7の判定で、自分がしたヘマに気が付けます。これにも失敗した場合、おそらくは捕らえられ、考えたくないような、サバトの拷問が待っていることでしょう。取り囲まれたとしても、逃げるチャンスがない訳ではありません。プレイヤーの口と腕を見せて貰いましょう。
また、潜入が失敗した場合、サバトの連中は場所を変えてしまいます。公子か警吏に散々罵られ、宮廷雀に嘲笑された後、汚名返上のための、史劇が必要でしょう。
その他の潜入:たとえば、変身や隠惑、影術など、訓えを使用した場合は、そのアイディアに対して、ストーリーテラーが、適宜判断して下さい。潜入したところで、大した情報はない。と言うことを考えれば、面白いアイディアだったなら、躊躇無く採用しても大丈夫だとは思います。
成功した場合でも、残念ながら、大した情報はありません。安全確実に受け取るための防御措置であって、この倉庫はサバトの基地でもなんでもないのですから。潜入に成功しさえすれば、中の保安要員は、気を抜いているので、隠密で大失敗しない限り、発見されることはありません。
プレイヤーが欲しがる情報がどういうものかにもよりますが、警備人員配置や、ネズミやネコをグールにしているところを見せるとか、荷物の正確な到着時間。本来のメインアイテムである黒の書に関する情報というか、伏線を流す。と言った具合でしょうか。
「荷物が来るのは、明日の25時だろ。気張りすぎじゃねぇの」
「俺は、銃よりも、アレの方が破壊力があると思うね」
「は、冗談。あんなものは、マルカヴのヨタさ。真の血族なら、言葉でなく行動で示すもんさ」
と言う会話を聞かせると言った感じで。
覗くだけの場合は、一階からでは、積み上げられた荷物が邪魔で、よく見えません。倉庫の上の方にある天窓に行く必要がありそうです。空を飛びでもしない限り(変身があれば、コウモリになれるでしょう)、登攀が必要になります。ただし、判定は、敏捷+隠密で行います。
この登攀の成功度で、サバト側の感知チェックの難易度を変化させます。基準値、つまり、登攀が1成功度の場合は、難易度7で、判定します。登攀の難易度が2ならば、感知チェックは、難易度8にと言った具合です。
登攀に大失敗した場合は、自動的に感知されます。サバト側の能力は、知覚2+保安2の4です。
潜入しろ、視察にしろ、得られる情報は大差ありません。サバトかどうかは、確定できないが、血族が絡んでいること。倉庫の中は、キャットウォークと、積み上げられた荷物で、迷路のようだと言うこと。正面のシャッターから入れば、別ですが。
なお、中で留守番をしている血族に、見覚えはありません。
ただ単に、外から見張るだけならば、知覚判定をして、時折、外を見回る人間が、グールであると見抜けるかどうか。と言うところでしょう。
フェイズ2:強襲
従僕やグール、協力者に依頼していた事がない限り、昼間は、ただ眠りの時間ですので、夜を迎えます(一日たったので、ブラッドプール1を消費)。いつの時間から始めるかは、各ストーリーテラーと、いつ目覚めるかというプレイヤー次第です。
どの時間から、倉庫を見張るかで少々展開がずれ込みます。早くから張り込んだなら、サバトのパトロールに見つかる危険がありますし、かと言って、遅すぎても、取引が終わってしまいます。
どちらにしても、荷物の到着は、少々遅れて午前3時を回っています。夜明けは、4時半には始まる季節ですので、サバトの連中は、かなり焦って作業を始めます。
突入時期も、幅があります。トラックを運転してきたのは、真っ当な運送会社ではありませんが、その作業員も賤民です。搬入に気を取られている今ならば、完全な不意打ちを行えますが、マスカレードの掟を破る危険があります。先に賤民を片づける事もできますが、そうなるとなんの利点も得られません。
搬入作業中に、忍び込む。と言うのであれば、警報の類は無視できます。侵入者に気取られないように、音声警報は切ってあるため。裏口には、グールが二体、警備についています。
裏口から、メインシャッターまでは、すこしダンジョン的な事をしても面白いでしょう。その場合の敵は、グール化したネズミや、ネコなどを出すと良いでしょう。
PCたちが、荷下ろしの場所にたどり着くと同時に、シャッターが閉められ、トラックが去っていく音が聞こえます。
見れば、長髪に無精ヒゲという男が、木箱から銃器を取りだし、なにやら説明しているようです。銃器は最新のモノです。ステアーでも、FAMASでも、L85でも、お好きなのを。
無精ヒゲの男は、PCたちを見つけると、ウィンクして、サバトの一人にふさげて狙いを付けます。ふざけているようにも見えますし、見方によっては、サバトの連中を箱に近づけないようにしているようにも見えます。
この状態から、戦闘をしかけたならば、完全な奇襲として扱います。しばらくしても、動かない場合、無精ヒゲの男が、PCたちを指さします。
サバトの血族は二人から三人程度(PCの人数で調整して下さい。PCが三人以下ならば、サバトの血族は一人の方がよいでしょう。残りはグールにした方がよいと思われます)
また、サバトの血族は、ラソンブラやツィミーシィではなく、反氏族にした方が良いでしょう。サバトの血族は、みな13世代です。快楽のために、同族喰らいする以外には、余り意味はありません。14世代のPCが居れば別ですが。
戦闘が終わると、荷物の裏から出てきた無精ヒゲの男は、やれやれと言った感じで
「あんたら、ちょっと遅すぎるんじゃねぇーの。もうちょっとで、傷物にされるとこだったぜ」
と、銃器を大切に箱に戻します。それと同時にシャッターが開いて、男たちが現れ、荷物をトラックに積み込み始めます。
「ああ、心配することはネェ。こいつらは、グールだ。コッチとしても、遅れたのは予定外でな。次の受取人は、いらついてるだろうな。っと、俺の名前はアムロージで通ってる。けちなペテン師さ。」
アムロージは、自分が故意に情報を漏洩したこと。この荷物は、次の受取人が決まっていること。などを臆面もなく、むしろ手柄のように喋ります。
「やっぱ、こんなのでも、未開封って言うと色がつくんだよ、だから、開いてるのは、見本用のこの一箱だけ。」と言いながら、手にしている銃を箱に戻します。
「もしかしたら、この一丁だけしか持ってないかも知れないけどな」と、文字通り、腹を抱えて、下品に笑い出します。
「あんたたちは、俺の売り上げに協力してくれたんだ、あんたたちはそうは思わないかも知れないが、俺に取っちゃ借りなんだ。結構義理堅いんだぜ、俺。」
そう言って、電話番号だけが書かれた名刺をくれます。
「何かあったら、電話してくれ。便利だよな、ケータイ。大丈夫、俺は、人の名前と顔、そして声を忘れたことは一度もねぇ。特にカモのはな」そう言ってまた、ケタケタと笑い出します。
「急がねぇと、夜が明けるぜ、じゃアな」
と荷台に乗り込み、アムロージは去っていきます。
フェイズ3
シーン1
アムロージが去ったあとに、一つの金属のアタッシュケースが目にとまります。中身は、丁寧に梱包された、革装丁の本と、手帳が一冊です。
オカルト、語学などの判定で、ヘブライ語っぽい文字であると分かります。放置するか、持ち替えるか、持ち替えるにしても、公子に提出するか、自分で調べるか等の選択肢があります。ともあれ、夜明けまで間が無い、と決断を迫りましょう。
持ち帰る場合
ともかく持ち帰る場合は、次の夜までお預けとなります。価値のあるなしにしろ、公子に報告するのかしないのか等、考えて貰いましょう。また、誰か一人がこっそりと持ち帰ることもあるでしょう。
誰も持ち帰らない場合
このシナリオは、ここで終わることになります。サバトの大規模襲撃を未然に防いだことを、公子か警吏に報告し、公子から少しだけの信頼と、宮廷雀たちから沢山の嫉妬と敵意を貰うことになります。
ストーリーテラーとしては、密かに見守っていたノスフェラトゥが、PCが去ったあとに持ち帰ったことにしても構いませんし、ここで切っても構いません。
シーン2
何もせずに、公子に献上する
結果報告のついでに、戦利品として献上すると、公子の眉がピクリと動きますが、さして興味もない風で、「書庫にでも放り込んでおけ」と側近に命じたあと、PCを労います。
公子に対して、知覚系の判定、知覚+共感による洞察に成功すれば、公子は、これ以上ないほどの興味と同時に、恐れも感じているようだと分かります。
そこからどうなるかは、また別の物語でしょう。
シーン3
他のメンバーの合意の上にしろ、独断にしろ、アタッシュケースを持ち帰ったなら、それをどうするか判断する必要があります。
知識+制作で難易度6の判定で、この本は13世紀前後に発行された本であることが分かります。状態は良く、素手でページをめくることもできます(状態が悪いと、専用のピンセットで、慎重にめくる必要があります)。
知識+語学で、難易度7の判定で1成功でも得られたならば、古いヘブライ語だと分かります。そこから読解するためには、少なくとも、知識+語学で、難易度8の判定で、少なくとも3成功は必要です。語学の専門がヘブライ語であれば、難易度が1つ下がります。
ともかく、読めたなら、タイトルは「ジェイコブの梯子」何巻かあるうちの一巻のようです。内容は、予言詩めいたモノで、意味の通らないことが書かれています。
手帳の方には、今日の24:00に、アレックスと書いてあり、丸く囲んであります。他は、アムロージとの打ち合わせついてばかりのようです。荷物の受け取り以降の予定は、これだけです。
シーン1で、アレックスについて何も知らなければ、改めて、血族のコネや導師による調査が必要となります。エリュシオンで、相手に悟られないように、情報を聞き出すには、機知+虚言/演技を難易度7で行う必要があります。大失敗したなら、見張りが付くことでしょうし、低い成功度ならば、相手はにやりと笑ってから、答えてくれるでしょう。
この場合でも、諦めて公子に献上する。アレックスのところへ持ち込む。自分で研究する。と言うパターンが上げられます。
シーン4
どうにかしてアレックスのことを突き止めたなら、会うこともできます。その時に名乗ったPCの立場で、アレックスの対応も微妙に変わります。
ともかくも、最初に応対に出るのは、アレックスの従僕、アニス・ヴェーレです。シスターの格好をした(名実ともにシスターなのですが)彼女は、表情のない顔で、「司祭さまは、巡礼の旅に出ておられます。また後日おいで下さい」を繰り返します。
「アレックスと約束がある」の類の言葉を言えば、アニスは、「血族の方ですか、どうぞ」と言って地下へ案内してくれます。
アレックスの容姿などは、NPCの項目参照のこと。アレックスは、研究の邪魔をされるのは確かに嫌いですが、溜め込んだ知識を誰かに披露したいとも思っていますので、礼節を忘れなければ、色々と教えてくれます。
「君たちは、どなたかな。見たところ、カマリリャのようだが…」
この時に、どういう立場を告げるかで、微妙に変化させます。おおよその分類で例を上げますので、随時判断して下さい。
警吏としてきたと言う場合
アレックスは、包み隠さず話しますが、余りいい顔はしません。サバトの連中がここを訪れてきた理由は。と問われると「サバトの連中が、何か鑑定して欲しい、解読して欲しいと言う書物を持ってくることになっていただけだ。現物を見たことがないので、私には、何も言えないよ。」
「それに、サバトでなく、君たちが来たと言うことは、くだんの物は、君たちの手にあるのではないかね?。」
この問いにどう答えたとしても、「その先は、公子と相談してからになさい。正式に私に調査を依頼すると決まったなら、またおいで下さい」とだけ答え、机の方に向き直ります。
公子に素直に相談するならば、公子は、この独断専行をこころよく思いません。この一件は、PCたちの手を離れる事になりますが、その気があれば、アレックスから情報を得ることができるでしょう。公子にも冷視され、アレックスにも足元を見られる形にはなりますが。得られる情報は、本を受け取ると以降と同じです。
個人としてきたと言う場合
警吏という、名前だけとは言え、権力を前面に出さずに、接するならば、アレックスもまた、一人前の幼童としてPCを見ます。
「誰が持ってこようと、私には関係のないことだ。さあ、例の物を見せてくれないか。時間を無駄にしたくない。」
本を受け取ると、
アレックスは、自分の知っている知識を惜しげもなく疲労してくれます。その骨子は次の通り。
この本が黒の書と呼ばれる、ノドの外典・儀典の類であること。
ノドの書が、いわば黙示録であるであるならば、この黒の書は、福音書であること。
黒の書は、通説では全13巻で、ノドの地を流浪している間に、悟りを開きゴルゴンダへ至ったカインであるが、孤独に耐えかねて、子をなしたときに、再び呪われた。それが故に、カインは始祖にして、第一世代と解釈する。
この黒の書は、ゴルゴンダへの階梯が記された書物とも、ジハドの全貌が記された書とも言われている。
ほとんどの血族の間では、偽書扱いされており、マルカヴの戯言集とか、トレアドールの詩集とか、ラヴノスの遠大ないたずらとか言われている。
PCが持ち込んだこの本は、13世紀に当たりに出版された本であると言うこと。
本のタイトルは「ジェイコブの階梯」。ただし、著者が付けたタイトルではなく、便宜上、付けられた巻名らしい。また、この巻が、一巻なのか、13巻なのかも不明。
オカルト本にありがちな、隠喩や符丁に満ちており、また、文体そのものにも仕掛けがあるように、見える。マトモに研究するならば、相当の時間を食うだろう。
演出指針
「賤民の聖書にも、異本があることを知っているだろう。外典や儀典と呼ばれる物だ。この本は、我々血族にとって聖書。すなわち、ノドの書の、外典か儀典だ。俗に黒の書と呼ばれている物だ。」
「ノドの書が黙示録ならば、この本は福音書といったところか。賤民ならば、喜ぶであろう、福音を黒の書と呼ぶ当たりに、血族のセンスの良さを感じるとは思わないかね。」
「さて、装丁から見るに、出版は13世紀と言ったところか。なに、不安がることはない。今年出版された聖書を偽書だと断罪する事がないように、この本がいつ出版されたかは問題ではない。ただ、13という数字に、作為を感じなくもないがね」
「マルカヴの戯れ言。と言うのはあながちウソではないようだ。これほどに、符丁や暗喩、そして文体そのものにもトリックを仕掛けるのは、マルカヴ的としか言いようがない。」
自分調べる場合
高いオカルトと語学を持っていれば、自分で研究することも不可能ではありません。特に、トレメールやツィミーシィのPCならば、なおのこと適役です。得られる情報は、アレックスから得られる物と同じです。
知識+制作、知識+オカルト、知識+語学などで、随時判定して下さい。
内容に関しては、細かいこと考えていませんので、ストーリーテラーの都合の良いように設定して下さい。
次の物語への指針
どちらにしても、正確な内容、そして記述が信用に足るものかどうかなど、研究するためには、しばらく時間が必要です。そして、公子に報告するかどうか。と言うのも、一つの転回点となるでしょう。公子の性格にもよります。
このまま放置するも良し、残り12巻を巡る史劇としても良し、と言ったところでしょうか。
真書であると判断したならば、サバトの奪還作戦が始まる可能性もあります。ただの古書・奇書として、賤民が持っている場合もあるでしょう。この賤民が権力者(表か裏か問わず)ならば、それは骨が折れる仕事となるでしょう。
本のトリックとしては、映画「ナインスゲート」の様に、内容は全てダミーで、真のヒントは、挿絵にある。とするのも面白いでしょう。トリックのテーマとして、テトラモルフが良いネタになりそうです。
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